気動向指数「悪化」
消費税率はどうする?

内閣府が発表したことし3月の「景気動向指数」が2か月ぶりに低下し、景気の基調判断が、後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されました。中国経済の減速で企業の生産が落ち込むなどしたためで、「悪化」となるのは6年2か月ぶりです。

内閣府が発表したことし3月の「景気動向指数」によりますと、景気の現状を示す「一致指数」は、平成27年を100として99.6と、前の月を0.9ポイント下回りました。

指数の低下は2か月ぶりで、米中の貿易摩擦などを背景にした中国経済の減速で、自動車や半導体製造装置などの生産が減少したことが主な要因です。

これを受けて指数の動きから機械的に導かれる景気の基調判断は、後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されました。

「悪化」となるのは、平成25年1月以来、6年2か月ぶりです。

一方、政府は景気について公式な見解を示す先月の月例経済報告で、緩やかな回復が続いているという判断を維持しています。

ただ、景気動向指数の基調判断が「悪化」になったことで、ことし10月の消費税率引き上げを控える中、今月下旬にも取りまとめる最新の報告で、どのような景気認識を示すのか注目されます。

「景気動向指数」と「月例経済報告」

景気動向指数
「景気動向指数」は、生産や雇用などさまざまな経済指標を組み合わせて、国内の景気が上向いているか、それとも下向きなのか景気の方向や転換点をつかむための統計です。

内閣府が、毎月、発表していて指数の動きから景気の「基調判断」も合わせて公表しています。

基調判断は、指数の動きから機械的に導き出され、「改善」、「足踏み」、上方、あるいは下方への「局面変化」、「悪化」、「下げ止まり」の5段階に分かれます。

基調判断は、2016年10月から去年8月まで、1年11月連続で景気拡大の可能性が高いことを示す「改善」でした。

しかし、中国経済の減速などを背景に9月から12月は「足踏み」となり、ことしの1月と2月は景気が後退局面に入った可能性を示す「下方への局面変化」となりました。

そして今回、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正されました。

景気の回復や後退の時期は、正式には内閣府の有識者による研究会が十分な統計データがそろった段階で1年から1年半後に判定します。

ただ、過去に判断が「悪化」となった2008年6月から2009年4月まで、2012年10月から2013年1月までを見てみますと、事後の研究会で少なくとも一部の期間は「景気後退」と認定されています。

仮に、ことし1月以前に国内の景気が後退局面に入っていたと判定されれば、政府が「可能性が高まった」としている平成24年12月からの戦後最長の景気回復は、“幻”となる可能性もあります。

月例経済報告
一方、政府の公式な景気判断となるのが「月例経済報告」です。

「月例経済報告」は、安倍総理大臣や菅官房長官、それに経済関係の閣僚や日銀の黒田総裁らが出席する「関係閣僚会議」で取りまとめれます。

会議には、消費や雇用、それに企業の生産といった国内の経済指標だけでなく、海外経済のデータなども盛り込んだ資料が内閣府から提出されます。

会議では、さまざまなデータをもとに経済を取り巻く国内外の状況を踏まえた総合的な判断として、政府の公式な景気認識が取りまとめられます。

このため、機械的に基調判断が導き出される「景気動向指数」と政府が総合的な判断として示す「月例経済報告」で、景気判断が食い違うケースが出てきます。

政府は先月の月例経済報告で景気全体は緩やかに回復しているという判断を維持しましたが、景気動向指数の基調判断が「悪化」になったことで、今月下旬にも取りまとめる最新の報告でどのような景気認識を示すかが焦点となります。

日本経済は正念場へ

政府は「月例経済報告」で、国内の景気回復は続いているという判断を維持しています。

しかし、貿易摩擦をめぐる米中の攻防激化などで、先行きに不透明さが増す中、戦後最長の景気回復を続けているとされる日本経済は、正念場を迎えることになります。

今の景気回復は、平成24年12月から始まりました。

デフレ脱却を目指した「アベノミクス」と呼ばれる経済政策のスタートとほぼ時を同じくしています。

政府は、先月の月例経済報告でも「景気は緩やかに回復している」という判断を維持し、今の景気回復の期間は戦後最長となった可能性が高いという見方を変えていません。

しかし、ことしに入って日本にとって最大の貿易相手国、中国の経済の減速で、中国向けの輸出が落ち込むようになりました。

ことし3月の日本から中国への輸出は、金属加工機械や液晶部品などを中心に去年の同じ月より9.4%減りました。

さらに懸念されているのが、激化する一方のアメリカと中国との貿易摩擦です。

アメリカは、今月10日、中国からの2000億ドルの輸入品に対する関税を25%に引き上げ、関税を上乗せしていないおよそ3000億ドル分の輸入品についても新たに上乗せする手続きを始めています。

中国の輸出産業への打撃が懸念されることに加え、アメリカでも、輸入品の値上がりで、消費が冷え込むおそれが指摘されています。

また、ヨーロッパでもイギリスのEU離脱をめぐる混乱が続いているうえ、ドイツの経済も減速していることなどから、IMF=国際通貨基金は、世界経済に関する最新の報告でことしの世界経済の成長率の見通しをプラス3.3%と、3か月前と比べて0.2ポイント下方修正しました。

こうした中、今月20日に発表される日本のことし1月から3月までのGDP=国内総生産の伸び率は、民間の調査会社の予測でプラスとマイナスの見方が分かれる形となっています。

さらに国内では、ことし10月には消費税率の10%への引き上げが予定されています。

前回、5年前に消費税率を8%まで引き上げた際には、自動車や住宅の販売が大きく落ち込み、景気が冷え込みました。

このため、政府は今回の増税にあたって、キャッシュレス決済に対するポイント還元制度など2兆円を超える景気対策のほか、税制面でも住宅や新車の購入に対する減税措置の拡充などの措置を取ることにしています。

ただ、増税による消費の冷え込みを懸念する声は根強く、世界経済の減速懸念が高まる中、日本経済は、今後、正念場を迎えることになります。

専門家「まだら模様 微妙な局面」

景気動向指数の基調判断が「悪化」となったことについて、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「景気がよいか悪いかで言えば、間違いなく悪くなっているが、後退局面に入ったとまでは言い切れない微妙な局面だ。中国の景気悪化に伴い、輸出が減少する一方、国内需要は比較的底堅く特に雇用情勢は非常によいのでまだら模様になっている」と分析しています。

そのうえで、先行きについては「中国政府の景気対策の効果が少しずつ現れてきているが、米中の貿易戦争は中国政府の政策だけでは好転しないので、リスクが拭い去れないという状況が当分続く。日本から中国向けの輸出はかなり落ちているので、中国景気がよくならないと、日本の景気も持ち直しには向かわないだろう」と指摘しました。

また、斎藤室長は、ことし10月に予定されている消費税率の引き上げについて「増税は間違いなく景気にマイナスになるので、実力が弱っているところに増税という形になれば、日本の景気が厳しくなるのは間違いないと思う」と話しています。

財政制度等審議会 榊原会長「日本経済は堅調」

景気動向指数が「悪化」に下方修正されたことについて、財政制度等審議会の榊原会長は大阪市で開いた記者会見で「米中貿易摩擦の影響で中国経済に減速がみられ、一部の業種の生産活動に弱さが出ているが、雇用や所得環境はずっと改善しており、企業の収益も基本的に堅調だ。日本経済の内需を支えるファンダメンタルズは引き続きしっかりしている」と述べました。

そのうえで、ことし10月の消費税率の引き上げについて、榊原会長は「社会保障の安定財源を確保するために、まさに必須の要件であり、予定どおり、計画どおり上げることが必要だ。リーマンショック級の出来事が起こらないかぎりという前提になっているが、今はそのような状況ではない」と述べました。

エネルギー分野にも影響のおそれ

今後の景気の見通しについて、石油元売り最大手のJXTGホールディングスの杉森務社長は「米中で関税のかけ合い合戦が続けば、世界的な貿易の縮小や経済の冷え込みは避けられなくなる。エネルギー分野についても遅れて影響が出てくるおそれがある」と述べました。

麻生財務相「消費税率引き上げは予定通りに」

これに関連して、麻生副総理兼財務大臣は閣議のあとの記者会見で、ことし10月の消費税率の引き上げに与える影響について「今の段階で、リーマンショック級の大きな話になるととらえている訳ではない」と述べ、予定どおり消費税率を引き上げる考えを改めて示しました。

そのうえで、追加の経済対策の必要性を問われたのに対し、麻生副総理は「現時点で考えている訳ではない」と述べました。

また、米中の貿易摩擦が日本経済に与える影響について、麻生副総理は「直ちにどのような事態に発展していくのか、なかなか想像だけではものが言えない。『引き続き、経済情勢などをよく見ないといけない』としか、今の段階では言いようがない」と述べました。

世耕経産相「日本経済全体みれば雇用など改善」

世耕経済産業大臣は、14日の閣議のあとの記者会見で「中国経済の減速の影響から日本の輸出や鉱工業生産に弱さがみられるが、日本経済全体をみれば雇用や所得環境の改善が続いていて、企業の設備投資も底堅く推移する見込みだ」と述べ、内需を支える基礎的条件はしっかりしているという見方を示しました。

その上で「経済の好循環をしっかりまわしていくために第二次補正予算や今年度予算の着実な執行が重要だ」と述べました。

また、世耕大臣は、米中貿易摩擦をめぐってアメリカのトランプ政権が中国からのほぼすべての輸入品の関税を引き上げる手続きに入ったことについて「日本企業はグローバルで複雑なサプライチェーンを構築しており、影響を単純に把握することは難しい。企業や日本経済への影響も含め米中の協議の動向を注視したい」と述べました。

茂木経済再生相「基礎的条件はしっかりしている」

茂木大臣は、景気動向指数の基調判断が「悪化」となったことについて「わが国の経済は、中国経済の減速などから輸出の伸びが鈍化し、一部の業種の生産活動や関連する出荷に弱さが続いている」と指摘しました。

その一方で、茂木大臣は「設備投資や消費などの内需については、数字のうえでもしっかりしていると考えている。さらに、雇用所得環境の改善や高水準の企業収益など内需を支える基礎的条件はしっかりしている」と述べました。

また、茂木大臣は、米中貿易摩擦が一層激しさを増していることについて「追加関税の拡大は、当該国だけでなく、世界経済全体にとっても決して望ましくないので、米中間の協議の進展を期待している。今後の貿易協議の動向を注視していく」と述べました。

根本厚労相「方針変わりない 消費税は貴重な社会保障の財源」

根本厚生労働大臣は、閣議のあと記者団に対し、「リーマンショック級の出来事が起こらない限り、ことし10月に引き上げる方針に変わりはないと認識している」と述べました。

そのうえで、根本大臣は「幼児教育と保育の無償化など、消費税率の引き上げを財源として実施する社会保障の施策について、しっかり準備していくことが重要だ。消費税は貴重な社会保障の財源だ」と述べ、消費税率の引き上げによる増収分を活用して行う施策の準備を着実に進める考えを示しました。

自民 二階氏「十分見極めて賢い判断を」

自民党の二階幹事長は記者会見で、10月に予定される消費税率の引き上げについて「よほどのことがないかぎり変更はない」と述べました。

一方で「党内で十分見極めて賢い判断をしてもらいたい」と述べ、景気の動向は、今後も見極める必要があるという認識を示しました。

また、補正予算案の編成について「まだ、政府から十分説明を聞いていない。慎重にやっていきたい」と述べ、必要に応じて検討する考えを示しました。

一方、野党内からも、安倍総理大臣が夏の参議院選挙にあわせた「衆参同日選挙」に踏み切るのではないかという見方が出ていることについて「相手の手にのるようなことはやらないほうがいいと思うが、状況を見て判断していく」と述べました。

自民 加藤氏「安倍政権は経済第一 必要なら対策を」

自民党の加藤総務会長は記者会見で、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことについて、「米中の貿易摩擦などで日本の輸出産業などに影響が出ているが、所得や雇用の面では堅調さが続いている」と指摘しました。

そのうえで、「リーマンショック級のことが起こらないかぎり、消費税率を引き上げるスタンスに変わりはない」と強調しました。

一方で、加藤氏は「引き続き懸念やリスクはあるので、経済の動向はしっかり注視していく。安倍政権は経済が第一なので、必要があれば対策を取っていくのは当然だ」と述べ、必要な場合は追加の経済対策を検討する考えを示しました。

また、夏の参議院選挙に合わせた衆参同日選挙については、「消費税の話が必ずしもすぐ連動するわけではない。安倍総理大臣が最終的に判断することだ」と述べました。

自民 萩生田氏「直ちに延期や凍結 思っていない」

自民党の萩生田幹事長代行は記者会見で、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことについて「消費税率の引き上げはすでに意思決定しており、直ちに延期や凍結の判断の基準になるとは思っていない」と指摘しました。

また、補正予算案の編成について「現時点で補正予算で景気対策という考えは持っていない」と述べました。

一方で、萩生田氏は「一つ一つの指標を軽んじることなく、原因などを精査しなければならない。リーマンショック級の事態につながっていくのか、きちんと見極めていきたい」と述べ、今後も景気の動向を見極める必要があるという認識を示しました。

そのうえで「もし、仮に増税を延期する事態が起これば衆参同日選挙かどうかは分からないが、国民の了解を求める何らかのアクションは必要だと思う」と述べました。

公明 山口氏「直ちに影響するものではない」

公明党の山口代表は記者団に対し、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことについて「直ちに消費税率引き上げの予定に影響を与えるものとは考えていない」と述べました。

また、追加の経済対策として補正予算案を編成する必要性について「今のところ、そのような認識は持っていない」と述べました。

そのうえで、山口氏は「政府が月例経済報告でどのような認識を示すかが重要だ。経済の堅調な傾向を持続できるよう、あらゆる対応をしていくべきだ」と指摘し、今月下旬の月例経済報告で示される政府の景気認識を注視する考えを示しました。

一方、夏の参議院選挙に合わせた衆参同日選挙については「G20大阪サミットという大きな国際会議がある。足元のしっかりした内閣で世界の首脳をお迎えしたい」と述べ、改めて否定的な姿勢を示しました。

野党「政府の認識ただす必要ある」

景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことを受けて、野党側の国会対策委員長らが会談し、政府の認識をただす必要があるとして、予算委員会の集中審議を早期に開催するよう求めていくことを確認しました。

立憲民主党など野党5党派の国会対策委員長らが会談し、内閣府が発表した景気動向指数で景気の基調判断が「悪化」に下方修正されたことなどを受けて、今後の対応を協議しました。

この中で、立憲民主党の辻元国会対策委員長は「今の経済状況がどうなのか、消費税増税ができるのか、国民生活が一体どうなっているのか、予算委員会を開いて国民の前で各党が議論を積み重ねるのが国会議員の責務だ」と述べました。

そして、会談では、政府の認識をただす必要があるとして、衆参両院の予算委員会と衆議院財務金融委員会の集中審議を早期に開催するよう求めていくことを確認しました。

立民 逢坂氏「消費増税は凍結を」

立憲民主党の逢坂政務調査会長は記者団に対し「政府が『毎月勤労統計調査』の実質賃金の伸び率を明確に示さないまま、ずるずると時間が過ぎた。そういう中で、景気のさまざまな指標で、悪いものが次々と出てきており、秋の消費増税は凍結するべきだ」と述べました。

共産 小池氏「非常事態だ」

共産党の小池書記局長は、記者会見で「消費税を8%に増税したあとですら『景気動向指数』は、悪化はしなかったわけで非常事態だ。政府は『景気は緩やかに回復してきている』としているが、アベノミクスの破綻が客観的な事実で示された。こういう中で、消費税の増税を10月に強行するのは愚の骨頂だ。政府は、何が何でも、日本の景気を悪化させようと固く決意をしているのではないか」と述べました。

自民 森山国対委員長 予算委での集中審議開催に応じず

自民党の森山国会対策委員長は記者会見で、景気動向指数の基調判断が「悪化」に下方修正されたことについて「景気は浮き沈みがあるのが常で、一喜一憂せず、しっかり数字を見ていくことが大事だ」と指摘しました。

そのうえで、10月に消費税率を引き上げる方針に変わりはないと強調しました。

また、追加の経済対策として今年度の補正予算案を編成することに、現時点では否定的な考えを示しました。

一方、森山氏は、夏の参議院選挙に合わせた衆参同日選挙について「今のところ、そういう可能性はないと思う」と述べました。

さらに、野党側が求めている予算委員会の集中審議の開催については、ほかの常任委員会で議論すべきだとして応じない考えを示しました。