うなぎ 日本とアメリカ 歴史の接点に! 下田のかば焼きを取材
- 2023年07月17日
『アメリカ人が初めてうなぎのかば焼きを食べたのは静岡県の下田かもしれない』。
うなぎ取材班にそんな情報が寄せられました。 下田とアメリカの接点は、1854年日米和親条約が締結され、北海道の函館とともに下田が開港されてからのこと。2年後の8月にタウンゼンド・ハリスが下田にやってきて、日本で初めてアメリカの領事が置かれました。ハリスはここで初代アメリカ駐日総領事となります。
一方、うなぎ視点で見ると、幕末、うなぎのかば焼きは今と変わらない形になり、当時江戸には200軒を超える高級なうなぎ屋があったそう。
天然の良港として、多くの船が出入りして栄えた下田。かば焼きの文化があってもおかしくありません。本当にアメリカ人は下田でかば焼きを食べたのでしょうか?
田中洋行アナウンサーが調査に向かいました!
開国の歴史今も色濃く 下田の町
伊豆半島南部の下田市。街中を歩くと今も開国の歴史を感じます。こちらはアメリカの艦船が航海に必要な食料や水、薪炭を供給した「欠乏所」の跡です。アメリカは当時さかんに捕鯨を行っており、日本の開国を迫った理由の1つは、クジラの多く生息する日本近海に補給基地が必要だったからです。
それにしても船舶に必要なものを「欠乏」というのがおもしろいですね。欠乏した船員たちを想像するとまったく気の毒ですが……。
下田開国博物館にうなぎを訪ね
開国当時、下田の人たちはアメリカ人とどんな交流をしたのでしょうか?そして、アメリカ人は本当にうなぎを食べたのでしょうか?日本の開国に関わる資料を2000点以上収蔵するという下田開国博物館を訪れました。
タウンゼンド・ハリスは
うなぎを食べたのか?
初代アメリカ総領事、タウンゼンド・ハリスのコーナーがありました。この時代、中国ではイギリスとフランスとの戦争に敗れ、不平等な条約が押し付けられていました。当時、日本は諸外国への警戒感もあったでしょうし、ハリスもまた自由貿易を求め緊張感を持って日本にやってきていたに違いありません。
日本側がハリス一行をもてなしたお膳が復元されていました。
うなぎのかば焼き発見!
内容を見てみると……。
ありました!
うなぎのかば焼きと、長芋、しょうがが1つの皿に盛りつけられています。
焼いたうなぎに、しょうゆとみりんをベースにしたタレを付けて焼いたかば焼き。当時のかば焼きは、すでに作り方は今と大きく変わらなかったそうです。うなぎは露店の庶民の味として広まった食べ物ですが、この頃の江戸には高級な店も200店以上ありました。
ハリスが食べたというこのお膳、一体どんな席で供されたものなのでしょうか?
歴史的な“うなぎ資料”?!
展示のレプリカを作るにあたって参考にした資料があるとのことで、下田市の歴史をつづる、市史編さん室を訪ねました。
下田市史編さん室の高橋廣明さんが出してくれたのは、大きく「日記」と書かれた古い資料。下田町の「問屋会所日記」です。ここに日本側がハリスを迎えた時の様子が克明に記されています。
当時の下田の問屋がまとめた記録です。問屋と言っても今の問屋とは異なり、奉行所の下役として、仕事関係の記録を多く記載しています。当時の人々がどんな社会で暮らしていたのかを知るには貴重な資料です。
資料によると、宴席が設けられたのは、1856年8月25日。ハリスが下田に入港して4日後のことで、はじめて上陸が許可された時のものだったようです。
ペリーの来日から2年。まだアメリカ人が自由に上陸して行動することはできない時代です。この2年の間にアメリカ人がうなぎを食べていなければハリス一行が初めてうなぎを食べたアメリカ人になりそうです。
ハリスの宴席の詳細が
日記には宴席の席順や献立が記載されていました。
床の間に向かって上座に「ハルリス(ハリス)」の文字。ホスト側には下田奉行の「岡田様」の文字。
そして、献立にはしっかり「うなぎ蒲焼」の文字が!
ハリスは後に「日本滞在記」の中でこのときの宴席について、料理は立派で、見た目もきれいだったこと、そして料理にとてもよい印象を受けたことを記録しています。
ハリスの日本の第一印象がこの宴席だったと思うと、うなぎも日米親善に一役買っていたのかもしれませんね。日米親“膳”ですね(笑)。
南伊豆にはいまも多くのうなぎ屋が
下田市を流れる稲生沢川をはじめ、自然豊かな南伊豆では、「もじり」と呼ばれる竹で編んで作られた仕掛けでうなぎを取る伝統的な漁が行われてきました。ハリスのうなぎもそのように取られたと考えられています。
現在も下田や南伊豆にはおいしいと評判のうなぎ屋が多く、観光客のみならず、地元の人にも愛されています。
取材の最後にこの地のうなぎを味わうことにしました。
顔を近づけると、焼いたウナギと甘いタレの香りが!おいしい香りに期待が高まります。
パリッとした焼き目のこうばしさに深みがあり、柔らかい肉のうまみとともに口の中に広がります。
タレの甘みもすばらしく、うなぎの味を引き立てています。
こんなうなぎを食べたら誰しも上機嫌になりますよね。
ハリスもその一人だったのでしょうか?
日米親“膳”にうなぎあり
ハリスはその後、「日米修好通商条約」を締結します。ハリスは開国間もない日本に対して様々な情報を提供するなど協力的で、また日本側もそんなハリスを信頼して、ハリスの帰国の意思を知ると、アメリカ政府にハリス留任の要請も出しています。
今回下田のうなぎを追ってみて、日本とアメリカの友好の出発点に確かに伊豆のうなぎのかば焼きがあり、ハリスがそのお膳に好感をもった史実を確認することができました。
アメリカ人が初めて食べたうなぎかどうかは今後さらに検証が必要かもしれませんが、国境を越えた人間関係を円滑にしたのは本当にうなぎだったのかも知れませんね。つるつるのうなぎだけに。
うなぎ屋代表 高野俊明さん(南伊豆町)
漫画家の故はらたいらさん行きつけのうなぎ屋として、NHKのサラメシでも紹介されたお店。うなぎをさらにおいしく提供にはどうすればよいか研究しています。
「下田や南伊豆には歴史的においしいうなぎ屋があることを多くの人に知ってほしいです」。(高野さん)
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