熱海土石流から2年 伊豆山地区40人の声
- 2023年07月12日
熱海市伊豆山地区で土石流が発生してから2年。今年9月には「警戒区域」が解除される見通しです。発災時、この地区に暮らしていた人たちに、現状や復興について聞きました。
今回、答えてくださったのは、避難中の人、すでに地区を離れる決断をした人、 地区に住み続けている人など40人です。
復興の進み具合について
砂防ダムの建設と、土石流の起点に残った不安定な盛り土の撤去が完了し、原則として立ち入りが禁止されている「警戒区域」は9月1日に解除される予定です。
しかし、戻ることができるのは、自宅の被害が比較的小さく、ライフラインの復旧が間に合う一部の世帯のみで、残りの世帯の帰還スケジュールは示されていません。
復興について尋ねると、40人中30人が「進んでいない」と答えました。
「警戒区域内の自宅に戻るめどが全く示されていない。 行政が今何をしているのかが分からない。」 (50代男性・自宅が被災し避難中)
「県や熱海市は河川や道路を拡幅しようとしているが、地権者との交渉がうまくいっていない。理由として行政への不信感もあるのではないか。」 (70代女性・自宅が被災し避難中)
「発災から2年が経ったが、見ている景色が変わらないし、市の計画も決まっていない。」(80代男性・自宅に被害なく地区に在住)
今も残る 心の傷
心への影響を今も強く感じている人が多くいます。
「また災害が起こるのではないかと思うと不安。」 (70代女性・自宅が警戒区域のため避難中)
「今でも土石流の夢を見ることがある。」(50代男性・自宅が被災し避難中)
「家のすぐ隣が崩れたが、今も崩れた跡を見ないようにしている。」(70代男性・自宅は被害なく地区に在住)
娘を亡くした70代女性は
「今も地獄。復興のことなんて考えられない。」
と話しました。
盛り土について
盛り土の責任問題の解決を望む声も多くありました。
「最近は詳しい話を聞かないが、盛り土の責任の追及をちゃんとやってほしい。」(40代男性・自宅が被災し転居)
「盛り土問題の決着をつけてほしい。同じことが起きてほしくない。」(30代男性・自宅は被害なく地区に在住)
復興のめどが立たず 地区を離れる人も
避難生活の長期化が、住民の今後についての決断に影響を及ぼしています。
「行政の方針が二転三転している。自宅に戻りたいが、いつ戻れるのかめどが示されず不安が大きくなってきている。」 (70代女性・自宅が警戒区域のため避難中)
「最初は早く戻りたいと思っていたが、復興に時間がかかりすぎて迷い始めた。」(60代男性・自宅が被災し避難中)
生まれ育った伊豆山地区を離れる決断をした人もいます。
「戻りたかったけど、高齢になるほど引っ越しがつらい。もう動きたくない、早く落ち着きたいという気持ちから、地区を離れて市外に住む決断をした。」 (70代女性・自宅が被災し転居)
「先祖代々の土地に戻りたいが、家を再建するお金はない。市内の避難先のアパートにそのまま住むことを決めた。」(40代男性・自宅が被災し転居)
地域のつながり
地元に残っている住民から多く聞かれたのは、地域のつながりが薄れていくことに対する不安の声でした。
「近所で仲良かった人たちが亡くなった。地区を離れていく人も多く、さびしい。」(80代女性・自宅は被害なく地区に在住)
「散歩していた道が警戒区域になり、ひきこもりがちな人が増えた。」(70代男性・自宅は被害なく地区に在住)
一方で、コミュニティをなんとか維持していきたいという声も。
「伊豆山の人は祭りが好き」と多くの人が話します。
「地区を離れても祭りなどの行事には参加し続けたい。」(40代男性・自宅が被災し転居)
「戻ってきた人がさびしくないように、地域の人がつながれるようなコミュニティをできるだけ維持していきたい。」(70代女性・自宅は被害なく地区に在住)
生活に欠かせない道路
また、特に地区に残っている人の多くが言及したのが、道路についてです。 被災地の中心部を通る「市道岸谷本線」は大きく被災し、今も警戒区域の中にあります。
「(伊豆山地区内の)岸谷地区と仲道地区と浜地区の往来がしづらくなった。」(70代女性・自宅は被害なく地区に在住)
「家の近くまで車が入れなくなり、高齢のため外出が困難になった。」(80代女性・自宅は被害なく地区に在住)
という声が多くあがりました。
岸谷本線の復旧予定について熱海市復興調整室に問い合わせたところ、「警戒区域の解除に合わせて、まずは現状復旧し、通行できるようにする」としています。ただ、市が計画した道路改修については、住民との合意形成が難航しており、不透明な状態です。
また、 被災地を横断する「国道135号線」と「市道伊豆山神社線」は、大雨のときには通行規制がかかります。
「大雨で道路が通行止めになり、熱海駅に行けなくなる」 (70代男性・自宅は被害なく地区に在住)
「大雨が降ると避難所である伊豆山小学校まで行くことができない。」(80代女性・自宅は被害なく地区に在住)
という声も。
熱海市都市整備室は、「国道135号」と「市道伊豆山神社線」の通行止めについて、「盛り土が撤去された現場の補強工事などが進んだ段階で、通行規制の運用を終了する予定」としています。
行政に対して
「支援金はもらえる人ともらえない人の明暗が分かれる。行政にはもらえない人のフォローも粘り強くやってほしい。」 (50代男性・自宅が被災し避難中)
「道路や河川の改修については、いきなり説明会でプランを説明するのではなく、もう少し丁寧な個別の聴取が必要だと思う。」(80代男性・自宅が警戒区域のため避難中)
今回のヒアリングでは、行政に対して
「もっと地元住民の話を聞いてほしい。」
「計画作成のプロセスや今後のスケジュールなどの情報を届けてほしい。」
といった声が多く聞かれました。
また、次のような意見も。
「人が大きく減ってしまったのは事実。これからの伊豆山をどうしていくのか考えないといけない。」 (50代男性・自宅が被災し避難中)
「現状復旧も大事だが、若い人を呼ぶような政策も必要ではないか。」(60代男性・自宅が被災し避難中)
2年がたち、さまざまな状況の中にいる住民の皆さんをどう支援するのか。
これからの伊豆山をどうしていくのか。
行政には、住民一人ひとりとコミュニケーションを取りながら丁寧に復興を進めていくことが求められています。