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静岡発祥の「横断バッグ」で子供の交通安全を!

  • 2023年05月11日

5月11日から「春の全国交通安全運動」がはじまりました。

静岡県の多くの小学生は、車に注意を促す「横断中」の文字と「横断歩道」の標識がプリントされた、色鮮やかな手提げ袋を持って通学していることをご存じですか?

「横断バッグ」と呼ばれるこのかばん。調べてみると、昭和38年、静岡市にある企業の社長が子どもの交通事故防止を願って考案したものだと分かりました。

誕生からことしで60年。県内を中心に広く愛され続ける「静岡発祥」のアイデア商品にこめられた、子どもの健やかな成長への思いを取材しました。
(取材:NHK静岡 後藤康之アナウンサー)

静岡では当たり前⁉子どもが毎日持ち歩く「横断バッグ」

この「横断バッグ」。静岡市内の小学校に通う私の息子も毎日使っています。
去年の4月に転勤して、静岡市内の小学校に入学したときに学校で配られた、ナイロン製の手提げ袋です。
登校するときには水筒や体操服などを入れ、図工の時間に作ったものや配られたプリントなどを入れて持って帰ってきます。

息子が使っている「横断バッグ」

それにしても、これが本当に静岡発祥なのか。
考えてみるとたしかに、過去に住んでいたどの地域でも、小学生がこの「横断バッグ」を持っているのを見た記憶はありません。

調べてみた結果、日本で唯一製造しているという会社が、静岡市駿河区にありました。

静岡市駿河区にある会社が手がけています

中に入ると、色も大きさもさまざまな「横断バッグ」がずらり。
会社の3代目社長の杉山妙子さんと、娘の司さんが 横断バッグ誕生のいきさつを話してくれました。

3代目社長の杉山妙子さん(左)と娘の司さん

横断バッグ誕生物語・・・きっかけは父の「親心」!

自動車の普及にともなって「交通戦争」とも呼ばれるほど交通死亡事故の増加が社会問題となった1960年代、妙子さんの父で初代社長の宮原敏夫さんが事故防止対策のひとつとして考案したものなのだそうです。

横断バッグを考案した宮原敏夫さん(画像提供:杉山司さん)
杉山妙子さん

私が子どものころ、いまの静岡市葵区にある新通小学校に通っていたんですけれど、学校に行くには本通という大きな道を渡らなければならなかった。でも、そのころは信号機がまだ設置されていなかったんですよ。

後藤康之アナ

車の増加に道路のインフラが追い付いていなかった時代ですよね。
危ない大通りをどうやって渡っていたんですか?

杉山妙子さん

横断歩道の両側にある筒の中に10本ほど横断用の黄色い小旗が入っていて、渡るときはそれを持って歩いていたんです。
でも、登下校時は子供の流れが一方通行なので、先に渡る子は持つことができてもあとから来た多くの子どもは持つことができない。
それを見て「これは危ない」と感じた父が「手提げバッグが旗の役目を果たせばいいのではないか」と思いついて作ってみたのがそもそものきっかけです。

後藤康之アナ

その「アイデア商品」がどうやって静岡県内に広がっていったんですか?

杉山司さん

はじめのうちは近所の保護者の間で評判になり、学校の前に行って手売りするなど地道に販売をしていたんですが、数年後、県内各地の学校生活協同組合で取り扱ってくれるようになったことで県内全域に広まったと聞いています。

静岡ローカルからじわりじわりと全国区へ!

「横断バッグ」は、妙子さんや司さん、県内各地にいる25人ほどの内職の方々がひとつひとつ作っています。

会社の一角にあるミシンで縫製作業をする司さん

いまでは県内各地域の「明るい社会づくり運動協議会」や全国の交通安全協会、自動車学校や和菓子製造会社などといったさまざまな団体から「新1年生に寄贈するため、まとまった数を購入したい」と注文が入ることが多くなり、年間およそ4万個ほどの「横断バッグ」が出荷されています。

杉山司さん

ほかにも県内の文具店や土産物店、高速道路のサービスエリア、東京の雑貨店などでも販売しているので、県外でも見かけることが少しずつ増えているかもしれませんね。子どものころに「横断バッグ」を使っていた人が懐かしさで買ってくださったり、「デザインがレトロでかわいい」と手に取ってくださったりしているみたいです。
一度、フラッと入ったカフェで隣に座っていた方が横断バッグを持っていたことがあって。「それ、私が作っているんです!」って声をかけようかなと思ったんですけど、やめました。(笑)

60年変わらない「交通安全」への願い

子どもたちの安全を願い続けて60年。もっと幅広い世代に使ってもらおうと「横断バッグ」のデザインを活かした関連商品も手掛けています。

地元の警察署と協力して作ったのは、反射材を縫い付けたショルダーバッグ。ご年配の方が夜道を歩く際に目立つよう作られました。

グレーのラインが反射材。肩ひもにも反射材がついています

手のひらサイズの通学バッグに入っているのはホイッスル。危険な目にあったときに助けを呼んだり、災害時に自分の居場所を教えたりするために使えるグッズです。

横断バッグの持ち手に取り付けることもできます

最後に、2人に、子どもたちの交通安全に対する思いを聞きました。

杉山妙子さん

いま思えば父(初代社長)も「よく考えついたな」と。遊び心と一歩先を読む力があったんでしょうね。
ひとつのアイデア商品がここまで長い間、多くの方に使っていただけていることは本当にありがたいことだと感じています。
やっぱりすべてのお子さんたちに、安全に大きく育ってほしい。そのためにも、何年も持ち続けていただけるよう、これからも丈夫な横断バッグを作り続けたいと思っています。

杉山司さん

交通安全は子どもだけじゃなくて大人も守るもの。横断バッグを通じて、大勢の方が交通安全に何らかの形で興味を持ってくださっていることが嬉しいですね。
車が空を飛ぶような時代になれば交通事故がない世の中になるかもしれませんが、注文をいただいているということは、現時点ではこの横断バッグに需要がある、ということ。これからも時代に合わせながら、いろいろな交通安全の取り組みに貢献していきたいです。

  • 後藤康之

    静岡放送局 アナウンサー

    後藤康之

    声優志望からアナウンサーに。かつてMCを担当していたアニメ関連のラジオ番組でリスナーから「やすにゃん」と呼ばれていた。

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