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さかなクンも修行した三保の水族館 NHK静岡 田中アナが解説!

特集 三保の水族館②
  • 2023年03月30日

施設の老朽化などで2023年3月をもって有料での入館を終了する「三保の水族館」(東海大学海洋科学博物館)。今後は無料ですが、規模を縮小した形で予約制の水族館となります。
でもこの水族館、実は知る人ぞ知る「全国の水族館を支える水族館」で、あのさかなクンも“飼育修行”をしているんです。
この水族館をよ~く知るアナウンサーが解説します。

改めましてこんにちは。NHKアナウンサーの田中洋行です。
東京ほか、各地の放送局に勤務して、ニュースを読んだり、取材やリポートをしたりしてきました。
中でも得意とするのは海や魚、自然に関する企画取材です。
実は私も、この「三保の水族館」で学んだ1人なんです。

メガマウスと泳ぐ私

この20年、様々な海を取材し「サンゴの海」「海藻の林」「流氷の下」時には「水族館の水槽の中」に潜ってリポートをしてきました。去年(2022年)静岡放送局に赴任し、さっそく静岡の海をテーマに取材を開始しています。

海の取材のバックボーンとなっているのは、学生時代に学んだ海や自然に関する知識や経験です。

日本の水族館を支える水族館

この水族館が他の水族館と決定的に違うのが「日本の水族館を支える水族館」だということです。何のことかわからない人も多いと思います。

ポイントは現在、日本で唯一の“大学付属の水族館”ということです。

ここでは50年以上にわたって、学生が大学教授などの研究者から海の生き物の基礎を学び、それを飼育に反映できる環境がありました。20年以上前になりますが、私の所属していた研究室でも、トラフグの飼育やハゼ、カニの飼育でこの水族館にお世話になり、共同で研究していました。

学生時代 生き物がフグ毒をどう利用しているのか研究していました

全国の水族館で働く
「三保の水族館」卒業生

大学で海洋生物を学び、この水族館で飼育を学んで「学芸員」の資格を取得した学生は全国の水族館に就職。水族館だけでなく、全国に100以上あるとされる水の生き物の飼育施設や、関連施設で働いていて、業界では日本で最も多くの水族館職員を輩出した大学として知られています。

現在水族館で展示されているパネル展「海洋科学博物館の歴史」では、現在館長を務めている卒業生からのコメントを見ることができます。少しご紹介します。

公益財団法人ふくしま海洋科学館 
アクアマリンふくしま 古川健館長
水族館に勤め38年が経ちます。東海大の水族館で卒研をしていたのは、ずいぶん昔のことになってしまいました。しかし、就職後、水族館の卒研生だったというだけで多くの先輩に親しみを持ってご指導をいただけた、私の人生を支えてきてくれた実家のような感覚の場所です。今後もこれまで同様、水族館業界に人材を輩出していただけることを期待し、祈っております。

国営沖縄記念公園(海洋博公園)
沖縄美ら海水族館 戸田実館長
大学卒業後約50年間、沖縄美ら海水族館で水生生物の飼育・展示、調査研究を行なってきました。世界初となる長期飼育・展示成功に寄与したこともあります。それらを果たせた要因の一つに、東海大学海洋科学博物館で習い見聞きした、飼育技術と水生生物の未知に対する調査・研究姿勢を参考にして、実践してきた事もあると考えています。

劇場型アクアリウム「アトア」 
中山寛美館長(神戸市)
大学生になってから「水族館で働きたい」と思った私にとって、水族館で働くことの原点は東海大学海洋科学博物館の学芸員のみなさんの姿です。特別な出来事だけでなく、日常業務を間近で拝見しながら指導を受けられたことが一番の財産だと思っています。

北海道から沖縄まで、10数館。さまざまなコンセプトを持つ館長のコメントを読むと、改めて今ある全国の水族館の基礎が「三保の水族館」にあることを実感させられます。

卒業生ではありませんが、みなさんの良く知る「さかなクン」もここで飼育修行をしているんですよ。
そういう意味では「水族館を支える水族館」の枠を超え、「サカナ界を支える水族館」と言えるのかもしれませんね(笑)。

世界初のアクリル大水槽 
大水槽時代を切り開いた

半世紀以上前の水族館とあって、令和の時代になると、全体的に昭和レトロな雰囲気を感じる「三保の水族館」。
中でも特に貴重な水槽が、「海洋水槽」と名付けられた大水槽です。

沖縄の「美ら海水族館」や大阪の「海遊館」などに比べると、今となってはやや控えめに感じる「大水槽」ですが、実はこの水槽こそ、その後、世界の主流となるアクリルガラスを用いた世界初の大水槽なんです。

H形鋼とアクリルを組み合わせた水槽

使われているのは厚さおよそ16センチメートルのアクリルガラスと無骨な鉄の柱。
大きさは縦横10メートル、高さ6メートル。鉄の柱は鉄橋や建築に使われるH形鋼と呼ばれるもので、アクリルガラスと組み合わせて八角形を作っています。

水の容積はおよそ600立方メートル。体長2mを超えるシロワニを始め、現在、およそ50種類1000匹以上の魚たちを展示しています。
1970年に開館した当時、来館者はまるで水の世界に入ったような雰囲気に、感嘆の声をあげていたそうです。

大水槽は大きな水の塊を様々な方向から観察できるようにデザインされています。

スロープを上がると水槽の上層を、階段を下りるとトンネルの窓から水槽内を見上げることができます。
見る場所によって「サンゴ礁」「海藻」「砂底」「岩礁」の4つの景観に分けて観察できるようになっており、このような展示手法は現在も多くの水族館に取り入れられています。

完成当時、斬新なアクリルガラス水槽は世界の水族館からも多くの視察がありました。そして「三保の水族館」のオープン10年後には世界中にアクリルガラスの大水槽ができるようになるのです。

昭和レトロを感じる字体 令和現在の展示です

世界初のアクリル巨大水槽、そして展示のアイデア。50年以上前の水槽からは、時代を切り開いた文化的な価値すら感じます。

アメリカ モントレーベイ水族館の水槽を見てみると

1997年頃のモントレーベイ水族館と当時の私(笑)

こちらは三保の水族館のあとに開館したアメリカ・カリフォルニア州にあるモントレーベイ水族館です。私も学生時代に2度訪れています。
当時、バイトをしてお金を貯めては趣味と実益を兼ねて、アメリカ各地の水族館をめぐっていました。

アメリカ西海岸の生態に重要な役割を果たしている巨大海藻「ジャイアントケルプ」。その展示水槽です。

ジャイアントケルプの展示水槽

H形鋼の柱と、アクリルガラスを組み合わせた巨大水槽。三保の水族館そっくりですよね。

1983年にオープンしたモントレーベイ水族館は、駿河湾と同じように目の前に深海を抱え、連携する研究機関が潜水艇などを用いて生物の探査・研究にあたったり、その研究成果を水族館で発表したりしています。
世界の水族館は生き物の不思議を伝えるだけでなく、研究機関であり、工夫を凝らした展示で環境保護でも力強いメッセージを発信しています。

残念ながら日本には専任の研究部門を設け、専任の研究者が配属されている水族館はほとんどありません。
そんな中で、大学の研究機関としての性質も兼ねていた「三保の水族館」は、生物などの研究成果を学会に発表して、展示にフィードバックするなどしてきました。その知見は三保の水族館だけでなく、全国の水族館の飼育展示に応用されています。

世界初のマグロの水槽展示や、ディズニー映画「ニモ」でおなじみのクマノミの世界初の繁殖などは生物の研究のベースがあって可能となったものなんです。

「人材の育成」「飼育研究」機関としての水族館は「全国の水族館を支える水族館」として今も独自の研究を続けています。施設の老朽化の問題はありますが、大学付属の水族館はこのような点で、これからも社会的な役目を果たそうとしているんです。

特集 「三保の水族館」第3回では、これからの時代の水族館に求められることについて、世界の水族館について詳しい専門家に伺います。

レトロな水族館建物のデザインも注目されています
(建築家 山田守の建築事務所によるデザイン)
  • 田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    東海大学海洋学部で海を学び、NHKアナウンサーに。人と海との関係は奥深く、魅力だけでなく環境問題なども多くの人に伝えたいと取材しています。

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