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完成!藤枝と家康のゆかりを紹介するアニメ

知られざる”地域の宝”田中城 【取材:NHK静岡 後藤康之アナウンサー】
  • 2023年03月03日

NHKの大河ドラマ「どうする家康」の放送に合わせて、藤枝市が、徳川家康と市内にあった「田中城」とのかかわりを描いたアニメを制作し、郷土博物館で上映をはじめたらしい。
ある日、そんな情報をキャッチした、アニメ大好きアナウンサー“やすにゃん”こと、私・後藤康之。
・・・これはじっとしていられない!どんな作品なのか、さっそく見に行ってきました!

(心の声・野沢雅子さんの声で再生)
「オラ、なんだかすっげぇワクワクしてきたぞ!!」

「田中城」…家康をめぐる“あの”有名なエピソードが残る場所だった!

さっそく、藤枝市郷土博物館に電話でアポを取り、見せていただく約束をしたものの、私の頭の中にはひとつの大きな「クエスチョンマーク」がついていました。

…そもそも「田中城」って、どんな城なんだっけ?日本史で習った記憶はないし…。

そこで、博物館に残る資料や学芸員の方の話、「藤枝市史」などをもとにまとめてみると、家康をめぐるエピソードが多く残っている城であることが分かりました。

史跡 田中城下屋敷

田中城は戦国時代、いまの藤枝市中央部にありました。
築城当初、今川家が治めていたころは「徳一色城(とくいっしきじょう)」と呼ばれていましたが、武田信玄の駿河侵攻によって武田方の城となり「田中城」と名付けられました。

その後、徳川家康が浜松城を拠点にしていた30代のころ、東へと勢力を伸ばす中で足かけ7年にわたって田中城を攻め、最終的に攻略します。
家康が江戸幕府を開き駿府城に隠居したあと、タカ狩りをするために何度も訪れたという記録が残されているほか、亡くなる3か月前にタイの天ぷらを食べて激しい腹痛に襲われたという逸話が残るのも、実はこの田中城です。

田中城は江戸時代には田中藩主の居城となったのち、明治のはじめに廃城となりました。
かつて城があった場所は現在、大部分が住宅地となっていますが、堀や土塁の一部がいまも残されているほか、江戸時代の田中藩主の下屋敷だった場所に本丸の櫓(やぐら)などゆかりのある建物が移築され、整備されています。

…私も初めて知りました。
かの有名な「タイの天ぷら」のエピソードは、田中城での出来事だったのです…!

空から見ると「町が丸い!」

さらに調べていくと、実はこの田中城、歴史ファンの間では「知る人ぞ知る存在」であることも分かりました。
その理由は、かつて城があった地域を空から見るとよく分かります。

住宅や畑が放射状に広がっているのが分かりますか?
(画像提供:藤枝市)

なんと、円形の城郭の跡をいまも見ることができるのです!

いまも残る田中城三の堀。緩やかに弧を描いています。
(画像提供:藤枝市)

この上空からの姿が亀の甲羅のように見えることから、田中城は別名「亀城(きじょう)」とも呼ばれました。
現在もこうした円形の城郭が残っているところは全国的にもめずらしいといいます。

“藤枝と家康のかかわり”を描いたオリジナルアニメが完成!

ところが、こうした田中城の歴史は、地元・藤枝市民にもあまり知られていません。
そこで藤枝市は、大河ドラマ「どうする家康」の放送に合わせて、家康と田中城のかかわりについて描いたオリジナルアニメを制作し、ことし1月から藤枝市郷土博物館で上映をはじめました。

10分間のアニメでは、田中城をめぐる緊迫した攻防の中、多くの家臣を失った家康が悲嘆にくれた様子や、晩年、家康が田中城の周辺でタカ狩りに興じたエピソードなどが史実にもとづき、分かりやすく描かれています。

劇画調のイラストで、家康をはじめとする人物ひとりひとりの迫力ある表情、色鮮やかな風景が描かれ、アニメーションとして動きます。
物語にグイグイ引き込まれ、そのクオリティの高さに驚きました。

田中城に攻め入る徳川家康
(画像提供:藤枝市郷土博物館)
タカ狩りをする晩年の家康
(画像提供:藤枝市郷土博物館)

アニメ制作者が苦労と思いを語る!

2月、アニメの完成を記念して、藤枝市郷土博物館で上映会とトークショーが開かれました。

登壇したのは、原画を担当した、静岡県御前崎市出身のイラストレーター・永井秀樹さんと、脚本とアニメーション制作を担当した、地元・藤枝市出身の絵本作家・ふくながじゅんぺいさんです。

イラストレーターの永井秀樹さん。
武将や剣豪など「歴史もの」のイラストを多く手がけ、
NHKの番組「英雄たちの選択」でも挿絵を担当。
絵本作家のふくながじゅんぺいさん。
2017年のデビュー作「うわのそらいおん」で
静岡書店大賞を受賞。

藤枝市郷土博物館の監修を受けながら、完成までおよそ1年をかけたアニメ。
2人は、制作の裏話や苦労について語りました。

永井さん

「本格的なアニメに携わるのは今回が初めてでした。ふくながさんから脚本と絵コンテをいただいて、それを絵にしていったんです。作っている最中はパソコンの小さい画面で作業していたのですが、こうして完成したものを大画面で見るとすごく迫力がありましたし、チームとなって一緒に仕事をするという、ふだんはできない経験ができて楽しかったです。」

ふくながさん

「10分間のアニメにするために、コマ数だけでも百数十コマ。膨大な量のイラストを同じ熱量で描いていくのは永井さんも大変だったと思います。でも出来上がったものを見ると、家康と田中城とのエピソードとともに家康の人柄もそれとなく分かるように作ることができて、我ながらいい作品になったなと思っています。」

永井さん

「馬に乗った武将をアニメーションにするためには、馬だけでも13カット描かなければならなかったし、人物と馬とを分けて描き、人物も槍と頭と胴体を分けて描かないといけない。ふだんは1枚のイラストで勝負しているので初めての経験で…。これがけっこう大変でしたね。」

ふくながさん

「エンドロールで夕焼けを背景に馬を走らせているんですけど、実は四本足の動物を動かすのがめちゃくちゃ難しかったです。アニメーター(絵に動きをつける人)が頑張ってくれました。何気ない映像にも熱がこもっていますので注目していただきたいです。」

夕焼けをバックに馬が走るエンドロール
(画像提供:藤枝市郷土博物館)

魂を込めたのは“史実とエンターテインメントのバランス”

10分間のアニメで、どのようにして藤枝の歴史を分かりやすく描くか。
ふくながさんたちがスポットを当てたのは、およそ7年にわたる家康の田中城攻めの中で失った家臣のひとりで、近隣の地侍の出である紅林吉治(くればやし・よしはる)でした。

(画像提供:藤枝市郷土博物館)

紅林は徳川方の家臣として三方ヶ原の戦いなどで武功をあげたとされていますが、武将として大成する前に32歳で命を落としました。
わずかに残されている記録の中には、家康が晩年、田中城を訪れるたびに「ここは吉治が討ち死にした場所だ」と言い、武勇が人一倍優れていたことを褒めたたえたことが記されています。

(画像提供:藤枝市郷土博物館)
ふくながさん

「“藤枝にある田中城”というものを知らない方…藤枝出身の私もあまり知らなかったんですけれども…そういう方に興味を持ってもらう入り口として、まずこのアニメーションを見てほしいと思ったんです。僕たちは教材を作っているわけではないので、エンタメも盛り込みつつ、歴史も間違いではないというラインをめちゃくちゃこだわって作りました。」

永井さん

「藤枝の歴史を描くアニメということで、紅林は“第2の主人公”のような存在ですから、クリエーターとしていろいろ考えて工夫しました。実際に本人は“(鎧は)黒を着ていたよ”と言われても、黒にすると画面映えしなくなっちゃうので、あえて赤にして主人公を引き立たせる。兜の前立ても大きく目立つように描く。そんな風にして、人物が魅力的に見えるようにしたんですよね。」

ふくながさん

「紅林が亡くなるとき、雨の中、家康がその体を抱きかかえて悲しむ、というシーンを作ったんですけど、家康が本当に紅林を抱きかかえたか、討ち死にした当日の天気が雨だったかといったところは(記録がないので)創作しました。皆さんからの反応が気になっていたんですけれども、そういった部分も受け入れてご覧いただけたみたいで、正直ほっとしました。」

息絶えた紅林吉治を抱きかかえて悲しむ家康
(画像提供:藤枝市郷土博物館)

地元の歴史を誇りに思うきっかけに

トークショー終了後、あらためて永井さんとふくながさんに、今回のアニメを通じて感じてほしいことを聞きました。

(永井さん)
「藤枝にこういった歴史があり、文化が今にいたるまで根付いている。せっかくこの藤枝に住んでいるなら、知らないともったいないと思います。このアニメをきっかけに、地域のいろいろな歴史、そしていま私たちが住んでいる日本の歴史に関心を持つきっかけになればありがたいですね。」
「その意味で、この作品が社会貢献のひとつになれば嬉しいですし、自分自身、今後もこういった作品づくりに関わっていきたいと思います。」

(ふくながさん)
「アニメの制作を通じで、私自身、知らないことだらけだった“ふるさと・藤枝の歴史”を知る喜びを感じることができました。このアニメを見ていただければ、藤枝のことがもっと好きになるし、誇りにも思えると思います。ぜひ、藤枝の子どもたちに見てほしいと思います。」
「今回は田中城と家康のかかわりを取り上げましたけれども、これをたとえば武田方を主人公にして作ると全く違うストーリーになると思います。そういうことを考えるとワクワクしますし、また次の作品を作ってみたいなと思います。」

…作品への思いとともに、今後に向けた創作意欲まで語ってくださった2人。
予定はまだ何も決まっていませんが、アニメ好きのひとりとして、次回作に期待したいと思います!

アニメ「徳川家康と田中城」は、藤枝市郷土博物館で見ることができます。(※月曜休館)

皆さんも、お住まいの地域の歴史にあらためて目を向けてみてはいかがでしょうか??

  • 後藤康之

    静岡放送局 アナウンサー

    後藤康之

    声優志望からアナウンサーに。かつてMCを担当していたアニメ関連のラジオ番組でリスナーから「やすにゃん」と呼ばれていた。天ぷらはレンコンが好き。

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