シナ海で対潜水艦訓練」
と発表 海上自衛隊

海上自衛隊は、中国が軍事拠点化を進める南シナ海で、潜水艦や護衛艦を派遣して、海中を航行する潜水艦の動きをとらえるための訓練を行ったと発表しました。南シナ海でこうした訓練を行うのは異例のことで、海洋進出を強める中国をけん制する狙いがあると見られます。

南シナ海で「対潜水艦」の訓練を行ったのは海上自衛隊の潜水艦「くろしお」と護衛艦「かが」など4隻です。

海上自衛隊によりますと、訓練は、南シナ海からインド洋にかけて2か月間の長期航行に出ている護衛艦に潜水艦が合流して、今月13日に南シナ海の公海=公の海で行われたということです。

内容は、海中に潜って航行する潜水艦「くろしお」を相手に見立てて、動きを探知して気づかれないように追尾するというもので、海上自衛隊が公開した写真では、護衛艦を飛び立ったヘリコプターが潜水艦を探知するための「ソナー」と呼ばれる音波を収集する装置を海中に投入している様子がわかります。

「対潜水艦」の運用は海上自衛隊で最も重要な任務の1つで、これまで主に日本周辺の海域で訓練が行われてきましたが、今回のように南シナ海まで南下して訓練を行うことや、それを発表するのは、異例のことです。

南シナ海の島々では中国が軍事拠点化を進めていて、今回の訓練には海洋進出を強める中国をけん制する狙いがあると見られますが、安全保障環境の変化を理由に自衛隊の活動範囲が広がっています。

海自 活動範囲・役割 広がる

相手の潜水艦の動きを捉える「対潜水艦」の運用は、海上自衛隊で最も重要な任務の1つとなっています。

その任務は、海中の潜水艦が発する微弱な音波や磁気を、艦艇やヘリコプター、それに航空機が持つ専用の装置を使って探知し、部隊を展開するというものです。

かつての東西冷戦期には旧ソビエトの潜水艦を対象に、アメリカ軍と連携しながら主に日本周辺の北側の海域や太平洋で訓練を行ってきました。

一方、近年は、2004年11月に中国の原子力潜水艦が沖縄の石垣島沖で領海侵犯したり、ことし1月には尖閣諸島沖で領海のすぐ外側の接続水域を潜水艦が航行したりするなど中国の海洋進出が進んでいて、海上自衛隊は東シナ海での「対潜水艦」の訓練を進めています。

今回はさらに南下して南シナ海での訓練となりましたが、南シナ海の島々では中国が軍事拠点の構築を進める一方で、これを警戒するアメリカ軍が島の周辺に海軍の艦艇を派遣する「航行の自由」作戦を行うなど緊張が高まっています。

今回の訓練は、海洋進出を強める中国の動きを背景として自衛隊の活動範囲や役割が広がっていることを示しています。

中国「地域の平和と安定損なうな」

中国外務省の耿爽報道官は17日の記者会見で「南シナ海の情勢は安定に向かっており、中国とASEANの国々が適切に対応している」と主張したうえで、「域外の国には、この地域の国々が対話によって問題を平和的に解決しようとする努力を尊重し、地域の平和と安定を損なわないよう求める」と述べ、日本が南シナ海の問題に関与を強めることをけん制しました。

専門家「戦略的な情報発信」

今回の訓練の意味について、海上自衛隊の元海将で金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は「通常なら潜水艦の動きは一切秘密にするもので、隠密性そのものに意味があるが、今回はあえて発表していて、ここが大きなポイントになる。これは戦略的な情報発信で、日本として構えがあることを見せて1つの抑止力にしようとしている」と指摘しています。

また南シナ海で訓練したことについては「はっきり言うと今回は中国へのメッセージということになるが、中国と戦争をしようとは誰も思っていないし、中国側も思っていない。ただ、中国の海洋進出に対してはアメリカやイギリスなどが関与し出しており、そうした中で日本政府としても外交や経済に加えて自衛隊の活動も視野に入れて対応したということだと思う」と述べました。

そのうえで今後の対応については「緊張を高めるためにやっているわけではないが、自衛隊の活動も含め日本政府全体としての取り組みがバランスが取れているかどうか、国民やメディアが厳しくチェックしていくことが大事だ」と指摘しました。