末までに平和条約を」
プーチン大統領提案の意図は

ロシアのプーチン大統領が安倍総理大臣に対して、年末までに、いかなる前提条件もつけずに平和条約を締結しようと提案したことを受けて、ロシア政府は日本の外交当局との間で早速協議を始めたい意向を示しました。

プーチン大統領は12日、ロシア極東のウラジオストクで開かれている国際会議の全体会合で、安倍総理大臣が平和条約締結に向けた協力を呼びかけたところ、いかなる前提条件もつけずに、年末までに平和条約を締結しようと提案しました。

そのうえで「この平和条約をもとに、友人として、係争中の問題について話し合いを続けよう」と述べ、困難な北方領土交渉をあとに回して、まずは平和条約を早期に締結したい考えを明らかにしたものとみられます。

この発言を受けてロシア大統領府のペスコフ報道官は「会合の中で思いついた、まさに新しい発想だ」と述べたほか、モルグロフ外務次官は「この提案も含めて日本と協議を進めていく。われわれは用意ができている」と述べ、日本の外交当局との間で早速協議を始めたい意向を示しました。

プーチン大統領の提案をめぐっては、ロシア国内でメディアが速報で伝えるなど高い関心を集めていますが、日ロ関係に詳しいロシアの専門家は「日本の立場に明らかに反している」と述べ、その実現に懐疑的な見方を示しています。

専門家「明らかに日本の立場に反している」

日本とロシアの2国間関係に詳しいモスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は、プーチン大統領の提案について「ロシアの立場では、平和条約締結のために領土問題の解決は必ずしも必要ではない。両国の平和条約をめぐる考え方は大きく違っている。プーチン大統領の提案はロシアの従来の立場となんら矛盾するものではない」と指摘しました。

そのうえでストレリツォフ教授は、今回、提案を行った背景として「平和条約締結についてロシアがあまりにも受け身で何もしていないのではという批判をかわすために打って出たということだ」と述べ、日本との関係を重視している姿勢を日本の国民にも示し、停滞している日ロ交渉を前進させたいという意図があると分析しました。

ストレリツォフ教授は今後、この提案をめぐって両政府の間で対話が始まるという見通しを示したものの、「提案はあきらかに日本の立場に反している。楽観的には考えられない」と述べ、この提案をもとに交渉が進展することには懐疑的な見方を示しました。

副首相「大統領の提案はわかりやすく明確」

国際会議の閉幕にあたって記者会見したトルトネフ副首相は「プーチン大統領の提案はとてもわかりやすく明確だ。まず友人になってから歩みを進めようというものだ。誰が誰に、何をあげるべきといった駆け引きではない」と述べて、日本側に提案を検討するよう促しました。

そして、日ロ両国が北方領土で実現をめざしている共同経済活動に触れて「われわれはもっと早く島の開発を進められる。日本の仲間が活動を始めるのを待っている」と述べました。

首相「政府の方針に変わりはない」

安倍総理大臣は、帰国後、公明党の山口代表と会談し、「プーチン大統領の平和条約締結に対する意欲の表れだと捉えている」と指摘しました。

そのうえで、「政府の方針としては、北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという基本に変わりはない」と述べました。

一方、山口氏は、先に中国を訪れた際、唐家セン(「王へん」に「旋」)元外相から、来月下旬の日中平和友好条約発効40周年を記念するレセプションに合わせた安倍総理大臣の中国訪問と、来年の習近平国家主席の日本訪問に向けて、準備を進めていると伝えられたことを報告しました。安倍総理大臣も、「そのつもりだ」と応じ、相互訪問の実現に重ねて意欲を示しました。

官房長官「わが国の立場はロシア側も承知」

菅官房長官は13日午前の記者会見で、「常日頃からロシアとの間では意思疎通を図ってきており、具体的なやり取りについて発言は控えたい。プーチン大統領の今回の発言は、平和条約を締結して日ロ関係の発展を加速したいとの強い気持ちの表れではなかったかなと思う」と述べました。

そのうえで菅官房長官は、記者団が「プーチン大統領の提案は、北方領土問題の棚上げにつながると受け止めているか」と質問したのに対し、「わが国としては、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが基本的な立場であり、こうしたわが国の立場はロシア側も承知していると思っている」と述べました。

外相「文句を言う筋合いのものではない」

河野外務大臣は、訪問先のベトナムで記者団に対し、「『平和条約を結ぼう』というのだから、別に文句を言う筋合いのものではない。プーチン大統領も、ロシアの経済を発展させるためには日本の協力が必要で、平和条約を結ぶ必要があるという強い思いがあるのだろう」と述べました。

そのうえで、「日本側としては、何ら変わらずに議論は続けていきたい。北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を結び、日ロの交流をさらに深めるというところは互いに一致しているのだから、粛々とやっていきたい」と述べました。

公明 山口氏「大統領発言 政府は意図の検討を」

公明党の山口代表は「プーチン大統領の発言の意図を政府は今後よく検討しなければならない。政府は、『北方領土の帰属の問題を明らかにして平和条約を締結する』というこれまでの基本方針は、きちんと踏まえて対応していると認識している」と述べました。

立民 長妻氏「発言の位置づけ首相に問いたい」

立憲民主党の長妻代表代行は、記者団に対し、「プーチン大統領の発言がどこまで外交的な戦略に基づいて行われたのか、分析が必要だ。予算委員会や外務委員会などの閉会中審査で、集中して審議し、プーチン大統領の発言がどういう位置づけだったのか、安倍総理大臣に問うていかないといけない」と述べました。

国民 玉木氏「ちゃぶ台返し これまでの交渉は一体…」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し、「まさに、ちゃぶ台返しで、ロシア側に厳重に抗議したい。プーチン大統領から、領土問題の棚上げを言われたわけで、『これまでの直接対話や交渉は一体、何だったのか』と疑わざるをえない。反論もせず、薄ら笑いを浮かべていた安倍総理大臣の在り方は、外交上の大きな失態だ」と述べました。

共産 志位氏「首相が反論しないのは大失態」

産党の志位委員長は、記者会見で、「平和条約を結ぶということは、国境線が確定され、日本政府が行ってきた領土の要求を放棄することになる。プーチン大統領に目の前で言われ、安倍総理大臣が反論も異論も言わないのは、外交的大失態で、『屈辱外交』であり、『国辱外交だ』と言っても言い過ぎではない」と述べました。