新たな総合経済対策 標準的世帯 総額4万5000円の負担軽減に

物価高や円安に対応するため、政府は、家庭や企業の電気料金の負担緩和策などを盛り込んだ財政支出の総額が39兆円程度となる新たな総合経済対策を決定しました。裏付けとなる今年度の補正予算案は一般会計の総額で29兆1000億円程度となります。

政府は、10月28日夕方、臨時閣議を開き、物価高や円安などに対応するための新たな総合経済対策を決定しました。

それによりますと、電気料金の負担を緩和するため、電力の使用量に応じて各家庭に請求される料金を来年1月から1キロワットアワー当たり7円補助し、およそ2割抑制するとしています。

また、都市ガスの料金負担も軽減し、家庭や企業に対して1立方メートル当たり30円支援するとしています。

さらにガソリンなどの燃料価格の上昇を抑えるため、石油元売り各社に支給している補助金についても、年末となっている期限を延長し来年度の前半まで補助額を調整しながら継続します。

このほか、子どもに関わる分野では、育児用品の購入などの負担を軽減するため、妊娠や出産に際して合わせて10万円相当の経済的支援を行うとしています。

一方、新型コロナや物価高に対応するために現在運用している予備費とは別に、国際情勢の変化や災害の発生によって経済的な対応が必要な場合に備える、新たな予備費を設けるとしています。

新たな総合経済対策の財政支出の規模は、国と地方の歳出や財政投融資を合わせた総額が39兆円程度となります。

また、民間の資金なども合わせた「事業規模」は、71兆6000億円程度を見込んでいます。

政府は、経済対策の裏付けとなる一般会計の総額で29兆1000億円程度となる今年度の補正予算案を来月にも編成したうえで、今の臨時国会で成立を目指す方針です。

標準的世帯 総額4万5000円の負担軽減に

内閣府の試算では、経済対策に盛り込まれた電気・ガス料金やガソリン価格などの負担軽減策によって、消費者物価の上昇率を1.2%程度抑えられるとしています。

先月の全国の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、前の年と比べて3%上昇していて、なかでもエネルギーや食料品など生活必需品の上昇が目立っていました。

こうした中、今回の経済対策によって標準的な世帯では総額で4万5000円の負担軽減につながるとしています。

また、経済対策の効果としてGDP=国内総生産を実質で4.6%程度押し上げると試算しています。

【詳しく】電気料金 標準世帯で月額2800円軽減

来年の春以降、値上げの可能性がある電気料金については、家計や企業の負担を軽減するため、思い切った対策を講じたとしています。

具体的には、来年1月から1キロワットアワー当たり家庭向けは7円、企業向けは3.5円を補助し、家庭向けの電気料金についてはおよそ2割抑制します。

政府は、毎月の電力使用量が400キロワットアワーの標準的な世帯の場合、料金プランにかかわらず2800円軽減されるとしています。

支援の期間について政府は、脱炭素の流れに逆行しないよう、来年9月には補助額を縮小するとしています。

さらに毎月の請求書に直接反映するような形にしたいとしていて、具体的な方法について電力会社と調整することにしています。

【詳しく】都市ガス 標準世帯で月額900円軽減

一方、都市ガスについては、家庭や、年間契約量が少ない企業に対して1立方メートル当たり30円の支援を行います。

政府は、毎月の使用量が30立方メートルの標準的な世帯の場合、月額900円軽減されるとしています。

さらにガソリンなどの燃料価格を抑制するため石油元売り各社に支給している補助金は、年内が期限となっていましたが来年9月まで補助額を調整しながら継続することにしています。

現在は1リットル当たり35円を上限に補助していますが、今後、25円程度に引き下げるなど、原油価格の動向を見ながら段階的に縮小していく方針です。

政府としては、これらの対策によって、来年1月から9月にかけて標準的な世帯で4万5000円の負担軽減につながるとしています。

【詳しく】妊娠や出産で10万円相当の支援

また、コロナ禍で出生数が減少し、少子化が危機的な状況にあるとして、妊婦や子育て世代に対する支援を充実させる対策も盛り込まれています。

具体的には育児用品の購入や産前・産後のケア、子どもの一時預かり、それに家事支援サービスなどを利用する際の負担を軽減するため、来年から、妊娠や出産をした際に合わせて10万円相当の経済的な支援を行うということです。

ことし4月以降に生まれた新生児が対象で、所得制限は設けず、自治体にクーポンを発行するか、現金を支給するかなどを判断してもらうということです。

来年度の予算編成で継続的に支援を行うために必要な財源の確保について検討するとしています。

また、従来の「出産育児一時金」についても、来年度の当初予算で42万円から大幅の増額を図るとしています。

このほか、来年4月にはこども家庭庁を創設し、子ども政策を体系的に取りまとめて進めるなど、妊娠から出産、子育てまで一貫した支援の充実を図るとしています。

【詳しく】若い世代の省エネ住宅購入 100万円補助

今回の経済対策では、資材価格の上昇と住宅分野での脱炭素への取り組みを両立するため、若い世代が省エネ住宅を購入する際の支援制度が盛り込まれました。

対象となるのは、18歳未満の子どもがいる子育て世帯か、夫婦のいずれかが39歳以下の世帯です。

具体的には、再生可能エネルギーなどを活用して家庭の消費エネルギーを実質ゼロ以下にする「ZEH」と呼ばれる住宅や、これと同じ水準の省エネ性能をもつ「長期優良住宅」などを購入した場合、1戸当たり100万円を補助します。

また、省エネ性能を高めるリフォームへの支援も実施され、子育て世帯や若者世帯の場合、1戸当たり45万円を上限に、それに該当しない世帯にも30万円を上限に費用の一部を補助します。

【詳しく】成長支援や賃上げ対策は

日本経済の成長に向け、企業の賃上げを促すとともに成長分野への投資を拡大するための施策も盛り込まれています。

経済対策では、物価上昇を上回る継続的な賃上げを実現するため、事業の再構築や生産性の向上に取り組む中小企業などを対象に賃上げへの支援を大幅に拡充するとしています。

具体的には成長分野への事業の転換を後押しする「事業再構築補助金」について、一定以上の賃金の引き上げに取り組む事業者に対し、補助率を上げたり、上限額を増やしたりするということです。

また、半導体や蓄電池などのサプライチェーンの強じん化をはかるために国内の拠点に投資して安定的な供給体制を整備するとしています。

さらに円安を追い風にした輸出の拡大にも取り組むとしていて新たに輸出に取り組む中小企業に専門家を派遣し、商品開発や海外での販売促進、ECサイトを活用した販路拡大などを支援します。

このほか革新的なビジネスで成長を目指すスタートアップ企業の数を5年で10倍に増やすため、起業を志す若手人材を5年間に1000人規模でアメリカのシリコンバレーや東海岸へ派遣するほか、起業家を育成する海外拠点の創設も目指します。

【詳しく】「インバウンド需要」を喚起するための対策も

今回の経済対策では、円安を逆手にとって地域の稼ぐ力を回復させるために、外国人観光客の需要、いわゆる「インバウンド需要」を喚起するための対策が盛り込まれました。

政府は、訪日外国人の消費額を年間5兆円を超える水準にすることを目標にしていて、国土交通省は、集中的に取り組みを進めることにしています。

具体的には▼各地に専門家を派遣するなどして地域の観光振興の計画作りを支援するほか、▼老朽化した宿泊施設の改修や、地域の景観を損ねている廃屋の撤去などにかかる費用を助成することにしています。

こうした支援で地域の魅力を高め、観光客に長期滞在してもらうことで、消費の拡大につなげるねらいです。

また、大阪・関西万博が開かれる2025年に向けて、▼姫路城の天守閣の限定公開など、「特別な体験」を提供できる催しや、▼スノーリゾートなど日本の自然に触れられる観光地について情報発信を強化するなどして、訪日を積極的に促すことにしています。

【詳しく】穀物や肥料などの国産化を推進する方針

また、食料安全保障の強化に向けて、海外に依存している穀物や肥料などの国産化を推進する方針を打ち出しています。

稲作からの転換を促して小麦や大豆などの生産を拡大するほか、安定供給に向けて倉庫などの施設整備への支援も行うことにしています。

また、原料の多くを輸入している肥料については、農家や肥料メーカーと連携し、下水の汚泥や家畜のふんの活用を進めるほか、施設整備のための支援制度も設けます。

このほか家畜などの餌となる飼料の国産化も推進し、供給や利用の拡大をはかるとしています。

一方、円安を逆手にとって農林水産物や食品の輸出拡大にも取り組むことにしています。

2025年に輸出額を2兆円にするという政府目標の早期達成に向けて、専門人材を派遣し産地を支援するほか、衛生管理の技術が整った食肉処理施設を整備し、牛肉の輸出などを強化することにしています。

岸田首相「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」

新たな総合経済対策の決定を受けて、岸田総理大臣は、記者会見し、今回の対策は、GDP=国内総生産を4.6%押し上げるとともに、電気料金などの抑制で、来年にかけて、消費者物価を1.2%以上引き下げることにつながると意義を強調しました。

この中で、岸田総理大臣は「今回の対策は『物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策』だ。国民の暮らし、雇用、事業を守るとともに、未来に向けて、経済を強くしていく」と述べました。

さらに「物価高への総合的対応とともに 最優先すべきは、物価上昇にあわせた賃上げであり、来年の春闘が『成長と分配の好循環』に入れるかどうかの天王山だ」と述べ、賃上げの実現に向け、経団連や連合を巻き込んだガイドライン作りに取り組む意向を示しました。

そして、今回の対策とりまとめについて「政治主導の大局観を発揮することを重視した。電気料金の激変緩和措置の大枠は、与党党首で決め、詳細を役所に詰めさせた。現時点で見通しがたい世界規模の経済下振れリスクに備え、トップダウンで万全の対応を図ることにした」と述べました。

問われる財政規律

今回の経済対策で財源の裏付けとなる補正予算案の一般会計は29兆1000億円程度と異例の規模に膨らみました。

政府は当初、25兆円程度とする案で調整していましたが、自民党内から増額を求める要望が相次ぎ、4兆円上積みされました。

内訳を見ると、ガソリンなどの価格抑制策に加え、電気やガス料金の負担を緩和する支援制度に巨額の費用が投入される計画です。

さらに、国際情勢の変化や災害の発生に備えるための新たな予備費の創設なども盛り込まれていて、国会の議決を必要としない政府の「自由な財布」が増えることになります。

こうした補正予算案の財源の大半は、「国の借金」である赤字国債でまかなうことになります。

国債や借入金などをあわせた国の借金はことし6月末時点で1255兆円となっていて、さらなる財政の悪化は避けられません。

イギリスでは先月、中央銀行が金融引き締めを強化するなかトラス前政権が大型減税を柱とする経済対策を発表し、その財源を国債の追加発行でまかなう方針を示しました。

金融市場は財政悪化への懸念に加え、金融引き締めを強化する中央銀行との政策スタンスの違いを疑問視し、イギリスの国債や通貨ポンドは急落、その後、トラス前政権は政策を撤回し、退陣に追い込まれる事態となりました。

日本は、日銀が大規模な金融緩和策を続けて、市場から大量の国債を買い入れ、長期金利の上昇を抑えています。

このためイギリスのように国債価格が急落するような事態は今のところ生じていませんが、財政状況がさらに悪化するなか、中長期的に財政規律をいかに確保していくかがよりいっそう問われることになります。