誰が架けたか“勝手橋”管理者不明の橋 全国約1万か所 危険性も

全国に9697か所。
各地の川に架けられた管理者がはっきりしない橋の数です。
許可を得ずに勝手に架けられた“勝手橋”。
木製の簡易なものから、コンクリート製の頑丈な橋までその種類も様々。
買い物や通学にと、地元の人たちの生活に欠かせないものもある一方で、浸水被害や事故が実際に起きていて、安全性を不安視する声も聞かれます。
この“勝手橋”の実態に迫りました。
(光成壮、松原圭佑)

生活に欠かせない“みんなの橋”

紫式部ゆかりの寺として知られる大津市の石山寺。
そこから700メートルほど離れた住宅地にその橋はありました。

多羅川に架かる長さおよそ10メートルのコンクリート製の橋。
幅は人が1人通れるほどしかありませんが、落下を防ぐための金属の欄干もあります。
近くのスーパーと川の反対側にある住宅地を最短距離で結んでいます。
取材した日も、スーパーの客や、散歩をする人、近くの小学校の児童たちが頻繁に通っていました。

近所の人に話を聞いてみると…

「買い物行くのに使います。ここは“みんなの橋”という感じで、大きくはないのでちょっと1人が通ったら、こっちで待っといてみたいな」

「マーケット行ったり、お散歩したりしているときは、この橋を渡るのが1番便利ですね。ここの近所の人はみんな使ってらっしゃると思いますけどね」

地元の人たちの生活には欠かせない橋のようでした。

誰が? いつ? 詳しい事情が分からない

しかし、川を管理する滋賀県によりますと、この橋は正式な許可を受けた記録が残っておらず、誰がいつ架けたか分からない“勝手橋”だというのです。

橋の名前もありません。

管理者も明確ではなく、補修などの維持管理も長期間されていないとみられます。
一見、頑丈そうに見えますが、欄干やネジがさび付いていました。

この橋はいつごろ架けられたのでしょうか。
長年、この地域に住んでいる人たちに聞いてみました。

「40年前にここへ来た時からもうありました」

「40年ほど前に川が広くなった時に橋を架けたみたい。その時の書類が無いみたいで、当時の自治会長や知っている人は亡くなっているからよく分からない」

架けられてから40年ほど経っているという情報は得られたものの、いつ、誰が設置したものかは、やはり分かりませんでした。

全国に約1万か所 管理者不明の橋

こうした、管理者がはっきりしない橋は全国に9697か所あることが国土交通省の調査で明らかになりました。

国土交通省や各自治体によりますと、最も多いのが滋賀県で2138か所、次いで、兵庫県が1767か所、三重県が1079か所となっています。
滋賀県では、県が管理する河川に架かる橋の、実に4分の1にあたるということです。

調査中や「ゼロ」としている自治体もあり、実際はさらに多くあるとみられます。
国土交通省の調査でも、58の自治体に調査を依頼しましたが、返答があったのは31自治体でした。
国や自治体は、管理者不明の橋があることは安全上問題だとして、把握に務めていますが、全容把握は難しいようです。

安全性に課題 浸水被害や事故も

こうした橋の中には、点検や補修などの維持管理がされずに放置されている所もあり、安全性にも課題が残ります。

静岡県松崎町によりますと、ことし8月14日の台風8号による豪雨で、太田川に架かる“勝手橋”に流木やゴミが引っかかって水をせき止めたため川の水があふれて、周囲の旅館や住宅の浸水被害の一因になったということです。

さらにこの下流にも別の“勝手橋”が2本あり、このとき1本は残りましたが、もう1本は流出しました。

これらの橋は幅が1メートルほどの簡易な木製の橋で、台風のあと、残った橋は地域の人たちによって撤去されたということです。

一方、滋賀県では、2013年に草津市の“勝手橋”で橋の路面のすき間に自転車の前輪が挟まるという事故もありました。
現在、この橋は草津市が管理していて、転落を防ぐ柵が設置されたほか、舗装が施されてすき間もなくなったということです。

“勝手橋”に潜む危険。橋梁工学が専門の近畿大学の米田昌弘名誉教授は「安全性のお墨付きを得ていない」と指摘します。

(近畿大学 米田昌弘名誉教授)
「一見頑丈そうな橋でも、架けられてから40年、50年経った橋が本当に大丈夫なのか。誰も保証しておらず、橋の強度には疑問が残る」

管理者を探せ!

滋賀県は“勝手橋”の管理者の特定を進めています。

しかし、大津市の橋のようにどう調べても確かなことが分からない橋も多くあります。
その場合どうするのか。

県は、利用実態を踏まえて、地元の自治体と管理の仕方について協議し、危険な橋は撤去する対応をとっています。

草津市を流れる前川に架かる“勝手橋”を調べた結果、1960年代から70年代ごろの市の事業で架けられたとみられることが分かり、県と市が協議して、市が管理することになりました。
管理者が決まれば、もう“勝手橋”ではなくなり、市が責任を持って管理することになったのです。

残された課題 “管理橋を増やすのは現実的でない”

ただ、こうした滋賀県の対策にも課題があります。
自治体が管理者となり、点検や補修を行っていく場合、その費用として税金を充てることになります。
全国的な人口減少で税収も減ることが見込まれる中、管理する橋を増やすのは現実的ではありません。

滋賀県では対応する橋の数が多く、県の担当者は対応が十分追いついていないと言います。

(滋賀県河川・港湾室 担当者)
「問題としては管理者不明の橋が非常に数が多いということでありまして、正直言うと、確かに追いついていないと周りから認識されることはあるかもしれない。関係機関と調整しながらより良い解決方法を見つけたいと考えています」

橋梁工学の専門家は優先順位をつけて対策をとることが必要だと指摘しています。

(近畿大学 米田昌弘名誉教授)
「お金や人材のことを考えると、管理する橋を取捨選択せざるをえない。本当に必要な橋でないものは、住民にお願いして撤去させてもらう。話し合って、住民と自治体の相互理解を形成していくことが大事だ」

“勝手橋”の中には、住民たちの生活に欠かせなくなっているものもありますが、安全性やもし崩れた場合のことを考えると不安が残ります。
必要かどうかをしっかり考えたうえで、残す場合はどう管理し、安全性を担保していくのか、議論を進めていくことが必要だと取材を通して感じました。

大津局記者
光成 壮
2017年入局。初任地の盛岡局では東日本大震災からの復興や課題を取材。現在は滋賀県の経済の話題や災害・防災を中心に取材。
ネットワーク報道部記者
松原 圭佑
2011年入局。富山局、大阪局、京都局を経て現所属。これまで大学や医療分野を中心に取材。3人の子育てに奮闘中。