生活保護費引き下げ 取り消す判決 横浜地裁 官房長官「内容を精査」

生活保護の支給額が2013年から段階的に引き下げられ、憲法で保障された最低限度の生活に満たない状況を強いられているとして、神奈川県内の受給者が国や自治体を訴えた裁判で、横浜地方裁判所は、支給額の引き下げを取り消す判決を言い渡しました。
同様の裁判で取り消しを認めたのは4件目です。

生活保護の支給額について国は、当時の物価の下落などを反映する形で2013年から2015年にかけて最大で10%引き下げました。

これについて神奈川県内の受給者46人は、「憲法で保障された健康で文化的な最低限度の生活に満たない生活状況を強いられた」などとして、自治体が決定した支給額の引き下げの取り消しと、国に1人当たり1万円の賠償を求めていました。

10月19日の判決で、横浜地方裁判所の岡田伸太裁判長は、国が行った引き下げの判断について、「判断は専門家による会議での議論を経ていなかった。また、引き下げに際して用いた物価指数は、生活保護受給世帯の支出が少ないテレビやパソコンの価格下落の影響を大きく受けたもので、合理的関連性を欠いている」と指摘しました。

そのうえで、「改定の影響は、受給世帯のおよそ96%と広くに及び、減額の幅も大きいことから、結果も重大だ。引き下げの判断は違法なものだ」として、生活保護費の支給額を引き下げた自治体の決定を取り消しました。

一方、国に賠償を求める訴えは退けました。

同様の裁判は全国29の裁判所で起こされていて、支給額の引き下げを取り消した判決は大阪、熊本、東京地裁に続いて4件目です。

原告「受給者の生活実態を知ってもらうにはこれから」

判決のあと、横浜地方裁判所の前では、原告側の弁護士2人が「勝訴」「保護費引下げの違法性認める」と書かれた紙を掲げました。
裁判所の前に集まった支援者たちは、拍手をしていました。

原告と弁護団は、横浜市で記者会見しました。

原告の代表で、視覚に障害があるという横浜市西区の加賀敏司さん(58)は「提訴からの7年間、『生活保護は甘えだ』とか、『なんで働かないんだ』などといった非難にもこらえてきました。勝訴はうれしく思いますが、生活保護受給者の生活実態をもっと知ってもらうにはこれからだという気持ちです」と話しました。

また、別の50代の原告の男性は、「一生懸命、生活費を削りながら生活してきているが、電気代や食料品の値上げなどで限界が来ている。控訴されても頑張って戦いたい」と話しました。

弁護団長を務める井上啓弁護士は「生活保護受給者の消費実態などの事実に基づき、生活保護支給額の減額の幅が大きいことも問題だとするなど丁寧な判決でよかった。この判決から全国の裁判に影響を及ぼしていければと思う」と話しました。

支給額引き下げ集団訴訟 全国で30件 東京地裁判決では

原告の弁護団によりますと、2013年以降の生活保護の支給額の引き下げをめぐる集団訴訟は全国29の裁判所で30件起こされ、19日の横浜地方裁判所を含め13件の判決が言い渡されています。

このうち9件の裁判では原告の訴えが退けられ、生活保護の支給額の引き下げについて、厚生労働大臣の判断が裁量の範囲を逸脱したとはいえないなどとされました。

一方、大阪、熊本、東京と今回の横浜を合わせた4か所の地裁の裁判では、支給額の引き下げが違法と判断されました。

このうち、ことし6月に出された東京地裁の判決では、国が行った生活保護の支給額の基準の引き下げについて、平成20年を起点に物価の変動を考慮したことは合理的根拠に基づくものとはいえず、一般世帯と比べて受給者の支出が3割未満と低いテレビなどの品目を考慮に含めることは受給者の消費構造と大きなかい離があるなどと指摘しました。

そのうえで、「国の判断は統計などの客観的な数値との合理性を欠き、専門的な知見との整合性もないもので、厚生労働大臣の裁量権の逸脱や乱用として生活保護法に違反し、違法だ」と結論づけ、原告に対する支給額の引き下げを取り消しました。

一方で、憲法に違反するかどうかの判断は示さず、慰謝料の支払いは認めませんでした。

官房長官「関係省庁で判決内容の詳細を精査」

松野官房長官は午後の記者会見で、「今後、関係省庁で判決内容の詳細を精査し、被告である自治体とも協議したうえ、今後の対応を検討することになる。政府としては、今後とも自治体との連携を図りつつ、生活保護行政の適正な実施に努めていきたい」と述べました。