5億円誤支給「やっぱり返して」困惑する保育園

「お金返して」から、「返還なしも可能か検討します」へ。
けれど「やっぱり返してください」。
東京・葛飾区で起きた、5億円を超える巨額の誤支給。
揺れる区の対応に、保育園は振り回されている。
(小原茉佑子)

全国で相次ぐ誤支給等

全国で自治体による誤支給などが相次いでいる。
最近明らかになった主なものは次のとおり。

山口県阿武町では、受け取った人が一時返金を拒み事件になった。
葛飾区の誤支給は、阿武町や仙台市と比べても飛び抜けて巨額の誤支給だ。

 

5億誤支給は「シンプル」な計算ミス

支給ミスは、保育士の人数などに応じて葛飾区内の私立の認可保育園に支給される補助金で起きた。
ミスの原因はシンプルなものだった。
職員がパソコンのソフトで計算式の算定設定を誤り、対象人数を最大で2倍にしてしまった。作業は職員1人が行い、ほかの職員によるチェックもなかったため、平成30年度から4年間ミスは続いた。

誤支給を受けたのは72の保育園、その総額は約5億1000万円にのぼる。
園によって誤支給額は異なり、最も多い園では4000万円を超え、1000万円を超える園も16か所あった。

「返さなくていい」保育園に責任はない

自治体による誤支給が起きた場合、通常、自治体側は返還を求める。
葛飾区も当初はその方針だった。
しかし、区はその方針を変えた。

6月17日、青木克徳区長は、記者団に返還を求めない理由を説明した。

「保育園に責任はなく、返還の問題については、結果として保育サービスが充実したのであれば、返還を求めないことはやむを得ないと思っている」

保育園「返還だと運営が成り立たない」

実はいま、保育園をめぐる環境は以前と大きく変わっている。子どもが減る一方で、保育施設は増え続けているのだ。

誤支給を受けた園長の1人は厳しい運営状況を訴えている。

「4年分の積算分を返せとなると当然、保育園の運営・経営は成り立たない」

また定員割れしているという別の園の園長からも悲痛な声を聞いた。

「少子化とわかっているにもかかわらず、受け皿だけがどんどん増えている。この2年で2割ほど園児が減った。去年から貯金を取り崩している状況です」

「やっぱり返して」

保育園側から「返還は難しい」といった声が出ていたことなどから、区が示した、条件つきで「返還を求めない方向で調整検討を進める」とする方針。
しかし、その方針通りにはならなかった。

8月31日、葛飾区はさらに方針を転換。
法律的な問題点などを確認した結果、返還を求めないことはできないことがわかり、返還を求める方針を区議会に示した。

区長「申し訳ありません、5億円返してください」

青木区長は9月1日の園長会で方針を転換したことを謝罪し、各園からの返還方法については今後個別に相談していく考えを説明した。

(青木区長)
「保育園に負担がかからないようにしたいという思いから対応を検討していたが結果として返還を求める判断となった。誠に申し訳ございませんでした」

園長会のあと葛飾区私立保育園連盟の鈴木康之会長は、返金に複雑な考えをにじませた。

「税金なので返すのは当然だとは思っているが、二転三転したところもあるので感情的な部分では納得しづらいところもある。いかに園への影響を小さくしていくかどれくらいかけて返していくかなどの細かい部分を区と話し合っていきたい」

どうやって返すのか…

保育園は保護者が安心して子どもを預けることができる場所として、地域にあり続けることが必要な施設だ。
子どもが減って運営が厳しくなる園もある中で、どうやって総額5億円ものお金を園が返還していくのか。区側は返済期間や、分割など返済方法について、個別に相談していくことにしている。
子どもたちにしわ寄せがいかないようにしながら、返金が実現できるのか。
返還額はもっとも多い園で4000万円を超えていて、区との交渉がどのようにまとまるかは見通せない。

首都圏局記者
小原 茉佑子
2022年入局。北海道出身。葛飾といえば寅さん。「男はつらいよ」は、これから観ます。