療従事者に無償でホテル
提供するプロジェクト

自分が新型コロナウイルスの感染源になってしまうのではないかと不安を抱えて、自宅に戻るのをためらう医師や看護師などに、ホテルの部屋を無償で提供しようというプロジェクトが都内で動きだしています。

このプロジェクトは、企業再生を支援する会社を経営する黒越誠治さんが(44)先月から始めました。

プロジェクトは医師や看護師など医療従事者500人が30日間、無償で宿泊できるホテルを全国に確保するというものです。

その資金は、インターネット上で寄付を募るクラウドファンディングで集めるということで、およそ7500万円を目標にしています。

きっかけは、黒越さんが友人の医師から「車中泊をしている医師がいる」という話を聞いたことでした。

黒越さんは「全く想像していなかったので驚きました。最前線で働く人たちが寝る場所に困る状況に陥るのはおかしい話で、なんとかしたいと思いました」と話しています。

先月25日の時点で60万円の寄付が集まったため、大阪のホテルで申し込みの受け付けを始めたところ、6日間で100人ほどの医療従事者から希望がありました。

その職種は、医師や看護師だけではなく、検査技師や事務スタッフなどさまざまだったということです。

これまでに集まった寄付は15日の時点で760万円にのぼり、黒越さんは都内に1棟、大阪市で3棟のホテルと提携したということです。

このうち、東京のホテルでは、これまでに合わせて28人から希望が寄せられていて、15日から一部の人に部屋の提供を始めました。

部屋には、替えのシーツやトイレットペーパーが用意され、自分で取り替えができるようになっています。

これ以外にも全国各地の7つのホテルから協力したいという申し出が寄せられているということで、黒越さんはこれからも寄付を募って支援を続けていきたいとしています。

黒越さんは「患者の数が減ってきても支援を求めている医療従事者は多い。医療崩壊を起こさないように医療従事者への支援は続けなければならず、今後もできるだけ気をつかわず、疲れを癒やす場所を提供していきたい」と話しています。

都内は病床がひっ迫 医療従事者の支援が課題

緊急事態宣言が39の県で解除される一方、解除されなかった都内の医療現場では、今月に入っても病床がひっ迫する状況が続いています。

東京都では今月11日時点で、確保できている病床数に対して入院患者や入院などが必要な人の数が8割を超えています。

こうした中、入院患者の治療や外来患者の診察などにあたる医療従事者の中には、自分が感染してしまうと一緒に暮らす家族やほかの患者に感染を広げてしまうのではないかと不安を抱えている人が少なくありません。

このため自宅には戻らず、車の中で寝泊まりする人もいて、宿泊場所を求める医療従事者をどう支援するかが課題になっています。

看護師「院内にウイルス持ち込むのが心配」

首都圏の病院のICU=集中治療室で働いている50代の看護師は、自分自身が病院の外で新型コロナウイルスに感染して院内にウイルスを持ち込んでしまうのではないかと心配しています。

日常的に事故や病気で重症となった患者と接していて、こうした患者が感染すると命に関わるリスクが高まると考えているからです。

看護師は「患者さんは免疫力も落ちていますし、自分が気を抜いて感染させてしまったら命取りになるかもしれません。自分が原因で院内感染を起こしてはならないという責任感もある」と話しています。

このため、自宅ではなるべく夫と向き合うのをやめ、横並びになって会話をしているほか、毎日40分ほどかかる通勤中の電車の中でもつり革に捕まらないようにするなど感染しないよう細心の注意を払っています。

しかし、先月、夫の職場で新型コロナウイルスの感染が疑われる人が出て、自分も濃厚接触者になるのではないかと不安になったといいます。

そのため、もしも病院の近くにホテルなどの宿泊できる場所があれば、一時的に家族と離れて暮らすことも考えています。

看護師は「感染するかもしれないという不安を抱えながら通勤していたので、通勤することや家で家族と顔を合わせることも苦痛です。家族といるほうがリラックスできる部分もありますが、今は感染を広げないほうを優先させなければと思います」と話していました。

女性医師「家族にうつすのが不安」

関西地方にある病院の内科に勤務する40代の女性医師は、新型コロナウイルスに感染して入院している患者の治療や、発熱して訪れた外来患者の診察にあたっています。

医師が同居している70代の父親には心臓病などの持病があり、もしも自分が病院で感染してしまうと、両親にうつしてしまうのではないかと心配しています。

病院では感染予防を徹底しているほか、自宅に戻ったあともマスクをし続け、大きな声で話さないようにするなど、感染予防を心がけていますが、常に緊張していると言います。

医師は「家に帰るとどうしても無防備になってしまう時があり知らない間に感染させてしまうのではないかととても不安です。家族が重症化して取り返しがつかなくなることや、家族の周りや地域で感染が広がってしまうことも心配です。その一方で、知らないうちにストレスがかかっていて、どこまで緊張感を保てるのかわかりません」と話しています。

医師は13日、医療従事者に無償でホテルを提供するプロジェクトの紹介でホテルに入り、今後1か月ほど宿泊する予定だということです。

医師は「家族のことを心配しないでいられる場所を作ってもらえることはありがたいです。正直なところ、もっと早くこうした場所がほしかったですが、今後も患者が減らない状況が続くようなら、宿泊場所を必要とする人は増えてくると思います」と話していました。