辺野古沖 地盤改良工事 国が代執行 異例の事態 沖縄県は上告

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先になっている名護市辺野古沖の地盤の改良工事をめぐり、国は12月28日、沖縄県にかわって工事を承認する代執行を行いました。
地方自治法に基づく代執行は初めてとなる異例の事態で、防衛省は1月中旬に工事に着手する方向で準備を進めています。

普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖の地盤の改良工事をめぐり、裁判所は沖縄県に対し今月25日までに工事を承認するよう命じましたが、県は承認しませんでした。

地方自治法では県が判決の期限までに承認しない場合、国が代わりに承認する代執行ができるとしていて、国土交通省は28日午前10時ごろ沖縄防衛局に承認書を交付し、工事を承認しました。

地方自治法に基づく代執行は初めてで異例の事態です。

斉藤国土交通大臣は「沖縄県知事は判決に従わず、期限とされた25日までに承認しませんでした。このため国土交通大臣は、沖縄県知事に代わって、本日付けで沖縄防衛局からの埋立変更承認申請を承認いたしました」とのコメントを発表しました。

一方、沖縄県の玉城知事は27日「多くの沖縄県民の民意という真の公益を顧みなかった」と述べ、判決を不服として最高裁判所に上告しました。

ただ、県側が勝訴するまで代執行を止める効力は無く、防衛省は1月中旬に軟弱地盤のある大浦湾側で工事に着手する方向で準備を進めています。

玉城知事「国による代執行は沖縄だけの問題ではない」

国が、沖縄県にかわって工事を承認する代執行を行ったことについて、玉城知事は28日午前、報道各社に対して、「『代執行』に踏み入るという問題はかねてから申し上げているように沖縄県だけの問題ではない。全国の地方自治体が国の代執行などについてどのような問題点があるかを明らかにして政府に対して何を求めていくか、問題点をわれわれは総点検していかなければならない節目に来ていると改めて申し上げたい」と述べました。

木原防衛相「普天間基地の全面返還に向けた1つの節目」

木原防衛大臣は、防衛省で記者団に対し、「普天間基地の全面返還に向けた1つの節目だ。問題の原点は『世界で最も危険』と言われる普天間基地の危険性を1日も早く除去することであり、固定化は絶対に避けなければいけない。防衛省としては、辺野古移設が唯一の解決策であるという方針に基づき、地元の皆さまに丁寧な説明を行いながら、自然環境や住民の生活環境にも十分に配慮しつつ移設工事を着実に進めていく」と述べました。

その上で今回の代執行で可能となる工事の着手の時期について「具体的な予定については、気象状況などを踏まえる必要があり、現時点では決まっていない」と述べました。

米軍キャンプシュワブのゲート前で抗議の声

沖縄県名護市辺野古にある、アメリカ軍キャンプシュワブの工事車両が出はいりするゲートの前では、28日午前9時ごろから移設に反対する地元の人などおよそ50人が座り込み「代執行、大浦湾埋立許すな」や「代執行、不条理に抗う」などと書かれたプラカードを持って抗議の声をあげていました。

およそ20分後、警察官が座り込む人たちを抱えるなどしてゲートの脇に移動させると、砂利を積んだダンプカーなどが次々と中に入っていきました。

キャンプシュワブ ゲート前 広島から訪れていた男子高校生は

移設に反対する人たちが抗議活動を続けている沖縄県名護市辺野古にある、アメリカ軍キャンプシュワブのゲートの前に広島県から平和学習のため訪れていた男子高校生は「沖縄戦を学ぶ中で命の大切さを実感しています。県外の人たちは沖縄で起きていることに対して関心が薄いので、沖縄の人ではない自分たちが伝える活動をしないといけないと感じています。沖縄について学んでいなかったら『代執行』のニュースが流れていても聞き逃していたと思うので、県外の人たちも自覚を持って沖縄や政治に関心持ってほしいと思います」と話していました。

普天間基地近くに暮らす40代女性「強制的は納得いかない」

沖縄県宜野湾市のアメリカ軍普天間基地の近くに暮らす40代の女性は「毎日のように軍用機がうるさく飛んできていて、大変迷惑ですが新しい基地が造られ飛行機などが飛んで名護市の人に迷惑をかけるのは心苦しいです。基地があれば精神的に苦痛が続くと思うし、そうであれば自分としては移設はせず、国にいろいろ対処してもらえれば今のままでいいんじゃないかなと思う面もあります。無理矢理、強制的にやるのは納得いかないです」と話していました。

1月中旬工事着手へ 埋め立て計画の大部分で工事可能に

防衛省は、これまで改良工事が必要ない区域で埋め立てを進めてきましたが、今回の代執行により、軟弱地盤のある大浦湾側も含めて、埋め立てを計画している大部分で工事ができるようになります。

1月中旬に大浦湾側での工事に着手する方向で準備を進めていて、資機材の搬入などを行った上で、護岸の建設に必要な作業を始める予定です。

一方、沖縄県の玉城知事が対話を求めていることについて、政府は「さまざまな機会を通じて丁寧に説明を行っていく」としていますが、政府関係者の1人は「すでに司法の判断が示されており、粛々と工事を進めていくことに変わりはない」と話していて、対話による解決の糸口を見いだすのは難しい状況です。

改良工事は、軟弱地盤を強化するため、66ヘクタールの海域でおよそ7万1000本の杭を海底に打ち込むもので、埋め立ても含めてすべての工事や手続きが終わり、移設が可能になるまでには12年ほどかかるとしています。

このため、その間に普天間基地の危険性をいかに軽減するかも政府にとっては重要な課題となります。

普天間基地

地方自治法に基づく代執行とは 国の最終的な手段

今回、国が行ったのは地方自治法に基づく代執行で、空き家の撤去などで行われる行政代執行とは根拠となる法律が異なります。

地方自治法では本来、国がするべき事務を都道府県がかわりに行う「法定受託事務」について、執行を怠ったり法令の規定に違反したりした場合に、ほかの方法による是正が困難であり、放置すると公益を害することが明らかであるときに大臣が代執行に向けた手続きを行うことが出来るとしています。

2000年に施行された改正地方自治法で定められ、この法律を根拠に代執行が行われるのは今回が初めてです。

国にとって最終的な手段と言える方法で手続きを進めることは極めて異例です。

普天間基地の辺野古移設問題の経緯

【普天間基地と移設工事】
沖縄県宜野湾市にあるアメリカ軍普天間基地。
市街地のほぼ中央にあるこの基地の移設先となったのが、同じ県内の名護市辺野古沖でした。

移設計画では、辺野古沖の海を埋め立て、長さ1800メートルの滑走路をV字型に2本建設する方針で、国は5年前、アメリカ軍キャンプシュワブの南側、辺野古側の区域で土砂の投入を始めました。

【県民投票で「反対」多数】
移設反対を掲げた玉城氏が知事に当選し、翌年には埋め立ての賛否を問う県民投票で「反対」が多数となりましたが、国は移設に向けた工事を続けました。

【軟弱地盤あることが発覚】
一方、キャンプシュワブの北側、大浦湾側の区域には軟弱地盤があることが発覚。
国は、2020年4月、改良工事が必要になったとして設計変更を県に申請します。
しかし、移設に反対する県は翌年これを「不承認」とし、埋め立て区域全体の7割ほどの面積を占める大浦湾側では工事が進みませんでした。

【県が最高裁で敗訴代執行訴訟へ】
こうした中、軟弱地盤の改良工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかが争われた裁判で、ことし9月、沖縄県の敗訴が確定。
県は工事を承認する義務を負うことになりましたが、応じなかったことなどから、国は10月、県に代わって承認する「代執行」に向けて裁判を起こしました。

【代執行訴訟で国勝訴 県は上告】
今月20日、裁判所は国の訴えを認め、沖縄県に対し今月25日までに工事を承認するよう命じる判決を言い渡しました。
一方、県は27日判決を不服として最高裁判所に上告しました。
玉城知事は「代執行は沖縄県の自主性及び自立性を侵害し、地方自治を否定する先例となりかねず決してあってはならない」と述べ、国に対し、問題解決に向けて対話に応じるよう求めています。