のるかそるか、党の戦略

低い党で0.4%。野党の支持率のことだ。
NHKの11月の世論調査では、安倍内閣を「支持する」と答えた人は46%、「支持しない」と答えた人は37%。
一方、野党の支持率は、一番高い立憲民主党で6.2%。次いで共産党が2.9%、国民民主党が1.5%、日本維新の会は0.4%だ。野党は、安倍内閣に対する批判の受け皿になっていない現状がうかがえる。

ただ、野党は手をこまねいているわけではない。

いま、有権者の心をつかむため、新たな戦略を模索している。今回、野党担当の記者たちが、それに迫った。
(政治部野党クラブ 山枡慧、鈴木壮一郎、喜久山顕悟、清水阿喜子)

「批判ばかり」じゃないぞ 立憲民主党

「野党は『対案がない』『いつも批判ばかりだ』と言われる」
野党第1党の立憲民主党で、政策立案を担当する山内康一氏は、こう嘆いた。

先の通常国会では、財務省による決裁文書の改ざんや自衛隊の日報の問題など、立法府による行政監視機能の重要性が改めて問われた。

立憲民主党は、実は対案を出しているのだ。

政府・与党を厳しく追及する一方、去年の結党以降、40本余りの法案を国会に提出した。

「働き方改革」の対案や「ギャンブル依存症対策」の法案、「公文書管理」に関する法案などだ。しかし国会の動きは、与野党の対立が特に注目されることもあって、山内氏は、党の政策提言が有権者に十分に伝わっていないと感じている。

「草の根」とはこういうこと

山内氏は、今月、党が立ち上げた「政策コミュニケーション局」のトップに就任した。

政策コミュニケーション。聞き慣れない言葉だが、草の根の政策情報を積極的に「受信」するとともに、政策についての情報をわかりやすく「発信」し、市民参加の「熟議の政治」を実現することだという。
「学者やNPOなど、いろんなところに政策のアイデアは転がっているが、分かりやすい言葉に翻訳し、議員立法や選挙公約に加工・編集しなければ、伝わらない」

立憲民主党は、少人数の集会やSNSも駆使して、有権者の声を吸い上げる「ボトムアップの政策提言」にこだわっていくという。

「参議院選挙に向けて、全国、北から南まで、タウンミーティングの開催を企画している。ボトムアップと言うが、口先だけでなく、全国を歩いて、意見をちゃんと反映していきたい。有権者に『意見を聞いてくれる』という感覚を持ってもらうことも大事だ」

「『野党は批判ばかり』というが、そんなことはない。専門家の意見も聞いて、客観的なデータも踏まえ、政策提案していく。政策をきちんと示していくことが、『批判しかしていない』という批判に対する答えだ」

全国各地で開催を予定しているタウンミーティングなどを通じて、党が掲げる「草の根からの政治」を、より幅広い有権者に実感してもらえるかどうかが、課題となりそうだ。

「手段は選ばない」 国民民主党

「半数以上が党を認識していない」
国民民主党が、民間の調査会社に委託して行ったマーケット調査の結果だ。

ことし5月の結党後、党勢の低迷から抜け出せないでいる国民民主党。
どうしたら有権者の支持を広げることができるか、対策を探ろうと、ひそかに数千人を対象にした調査を行ったのだ。

広報の責任者を務める城井崇氏は、その事実に衝撃を受けた。
「『そもそも知られていない』という、政党としては、なかなかに厳しい状況を自覚する機会になった。来年の参議院選挙は、生きるか、死ぬかだ。手段を選ばず、やっていかなければならない」

いま国民民主党の党本部5階では、大規模な改装が行われている。

最新の撮影機材をそろえて、テレビ局のスタジオさながらに、おしゃれな雑貨やインテリアも配置した自前の撮影スタジオを作るためだ。

政党に「スタジオ」作った!

その名も、「国民スタジオ(仮称)」

今回、秘密のベールに包まれたそのスタジオを写真に収めようとしたが…

う~ん、入口までしか接近できなかった。

国民民主党では、玉木代表が「永田町のユーチューバーになりたい!」と宣言し、動画での発信を精力的に続けている。代表の発信に頼るだけでなく、ほかの国会議員も、政策や国会審議の状況を分かりやすく解説した動画の配信をインターネットで始める予定だ。

「来年の参議院選挙までに結果が出なければ、わが党は分解するというくらいの危機感を強く持って、取り組んでいく」

「つくろう、新しい答え。」をキャッチフレーズに掲げた国民民主党。

提案型の党運営を目指しながら、まずは党の認知度を上げられるのかどうかが、喫緊の課題だ。

「イメージ」変えたい 共産党

結党から、ことしで96年を迎えた共産党。

去年の衆議院選挙で、議席を21から12に減らした。党員の数は減少し、高齢化も進み、支持をどう広げるか課題は多い。

日曜日の昼下がり、東京都内の公園で開かれたイベント。

ステージでピアノを演奏する男性。あれ、どこかで見たような…

なんと、志位委員長。実は趣味がピアノ演奏なんだとか。

「あまり政治に関わってこなかった幅広い層に共産党を知ってもらうため、インターネット上のつながりを目的に『サポーター制度』を始めたが、実際のリアルなつながりとしてやろうということで『サポーターまつり』を開催した」
共産党の書記局長を務める小池晃氏は、「サポーターまつり」を開催した意義をこう強調した。

志位委員長、ピアノ披露のわけは

「『本当に共産党のイメージが変わった』など、好意的な受け止めが非常に多かった。若者など、あまり党のイベントや演説会に来ることがなかった人が、かなり来てくれたし、志位委員長のピアノ演奏も、すごくアピールになったのかなと思う」

小池氏は、いわゆる「無党派層」から支持を獲得することに今、最も力を入れている。
委員長のピアノ演奏の披露といった、どちらかといえばこれまで控えてきたことを行い、親しみやすさを演出したのもそうした背景がある。

来年の参議院選挙に向けて、どのような戦略を描いているのか。
「アメリカ軍基地や消費税の問題など、共産党でしかできないことをしっかりと訴え、そうした党のイメージを持ってもらうために、分かりやすく伝えられるかが、課題だ」

老舗政党として、党が訴える政策により理解を得ていくためにも、有権者に身近な存在であることを伝えることができるのかがカギを握りそうだ。

「ゆ党」じゃないから! 日本維新の会

「自民党に取り込まれている『ゆ党』」

日本維新の会が行った有識者との意見交換では、厳しい意見が指摘された。
「ゆ党」とは、「野党(や)」と「与党(よ)」の間で、「立ち位置がはっきりしない」ことを揶揄(やゆ)した指摘だ。

日本維新の会で幹事長を務める馬場伸幸氏は、野党の立場で、「是々非々」の路線を掲げる難しさを次のように語った。

「野党が国会でなんぼ質問しても、政策が実現することはほぼない。逆に、すごくいい提案であれば、与党にまねされる。野党がスキャンダルを追及して暴れ倒すというのは、PRするひとつの手段ではあるが、うちは絶対にやらない」

プロジェクト“X”

そこで、党が打ち出したのが「支持率X(テン)プロジェクト」

3年後に支持率をローマ数字のⅩ=10%に引き上げようというプロジェクトだ。

党のホームページに「政策目安箱」を設け、有権者の意見を政策に反映させることや、業界団体や労働組合の支援を受けない、しがらみのない党であることを強調し、大胆な規制緩和などを打ち出していく考えだ。

しかし日本維新の会の今月の支持率は0.4%。馬場氏に10%の支持率は、達成できるか聞いた。

「一番、声を上げていないのが、不合理、不条理を感じながら真面目に働いているサラリーマンやね。ひたすら我慢して、家族のため、自分のために仕事をしている。そこの声をもっとくみ取れたら、『そや、そや!』という話になると思う」

かつて、第3極として、その動向に注目が集まったが、再び大きな期待を集める存在となり得るのかが、今後の課題となりそうだ。

結末は、すぐそこに

来年は、統一地方選挙と参議院選挙が行われる12年に1度の政治決戦の年だ。

野党各党は、政策や党の特色を効果的に有権者に届け、支持につなげていきたいとして、苦悩しながらも、それぞれの取り組みを続けている。

取り組みが、結果につながるのか。答えが出るのは、そう遠い先のことではない。

政治部記者
山枡 慧
平成21年入局。青森局を経て政治部に。現在、野党担当。趣味はフットサル。
政治部記者
鈴木 壮一郎
平成20年入局。津局、神戸局を経て政治部。現在、野党クラブ担当。神奈川県平塚市出身、湘南ベルマーレのファン。
政治部記者
喜久山 顕悟
平成16年入局。大阪放送局、福島放送局、政治部、大阪放送局を経て再び政治部。野党担当。
政治部記者
清水 阿喜子
平成23年入局。札幌局、北見局を経て政治部へ。現在、野党クラブ担当。