「だがる」枝野の行く道

「私がポスト安倍だ」
そういい放つ男がいる。
枝野幸男、54歳。立憲民主党の代表だ。
結党からわずか20日間で野党第一党に躍り出た政党は、今月で結党1年となった。しかし政治状況は変わらぬ「1強多弱」。それでも彼は、旧民進党勢力の再結集をかたくなに拒否する。
次の政治決戦は、来年の参議院選挙。どのような戦略を描いているのか。
(野党クラブ「枝野番」 山枡慧)

ポスト安倍宣言

「野党第1党として、政権の選択肢となり、遠からず政権を担いたい。『ポスト安倍』という話が出ているが、野党第1党の党首である私が『ポスト安倍』だ」

先月、結党後、初めて開かれた立憲民主党の党大会。
枝野氏がこう宣言すると、1500人が集まった会場は、高揚感に包まれた。

しかし405議席の自民党に対し、立憲民主党は74議席(10月17日現在)。

議席の差を考えると大言壮語とも思える「ポスト安倍宣言」だが、野党第1党を率いる枝野氏の矜持と責任感を感じ取った瞬間でもあった。

「安倍政権を早く倒すんですよ。それしかないんですよ、われわれの仕事は。安倍政権は30年後、50年後に『日本の社会と経済を混乱させた』と歴史に断罪されると確信している。だから早く倒すのが、同時代人の責任なんだ」

退かぬ、媚びぬ、でも省みる

枝野氏は、民主党政権で官房長官や経済産業大臣、党の幹事長などを歴任。
世論の大きな期待を受けて政権交代を果たした民主党政権が、3年余りの間に支持を失っていく過程もつぶさに見ることにもなった。
外交・安全保障では、当時の鳩山政権が「最低でも県外」と主張したアメリカ軍普天間基地の移設問題で迷走し、政権担当能力を問われる事態となった。

枝野氏は、その失敗を決して忘れることはない。
代表就任後、初めての外国出張として、アメリカを選んだのもその表れだ。

「民主党政権での対応を踏まえ、『辺野古移設』への対案はあるのか」
滞在中、ワシントンで行われた記者会見で出た質問に対し、枝野氏は次のように答えた。

「当時は提案が唐突、一方的で、非常に短い時間で、期限を切って解決しようとしたことに問題があった。時間をかけてコミュニケーションをとり、日本とアメリカの双方が納得できる解決策を見いだしたい」

ワシントンで、枝野氏は、日米同盟を重視する姿勢を強調。
同時に、アメリカ軍普天間基地の移設計画は、県民の理解が得られず、安定的な日米同盟の発展の阻害要因になるとして、辺野古への移設を見直すべきだという考えも示した。

「政党外交は特に政権を取った時のためにやっておかなければならない。先月の訪米は、アメリカに対する発信であると同時に、日本の国民の皆さんに『日米同盟を基軸にした外交の基本姿勢は変えません』ということを明確にし、『安心して下さい』ということを発信したつもりだ」

受け皿には…

先の通常国会では、森友学園や加計学園の問題、財務省の決裁文書の改ざんなど、安倍政権を揺るがす問題が相次いだ。

立憲民主党は、野党側の追及の先頭に立ち、対決姿勢を鮮明に打ち出した。

しかし党内からは「政権の不祥事があれだけ相次いだのに、閣僚1人も辞任に追い込めなかった」という声も聞かれる。

今月のNHK世論調査で、立憲民主党の支持率は6.1%。
野党では最も高い支持率だが、ことし3月をピークに下落傾向となっている。

一方、「特に支持している政党はない」が40%を超えるなど、立憲民主党も含め、野党側が政権に対する批判の「受け皿」になり得ていないことは明白だ。

それでも、くみしない

「合従連衡にはくみしない」
枝野氏は、分裂した旧民進党勢力の結集をかたくなに拒んでいる。
政策や理念が異なる議員が集まった「寄り合い所帯」で、「決められない政治」と言われた民主党政権の失敗は繰り返さないという強い信念がかいま見える。

「枝野は、偏屈だ」
「ちょっと党の支持率が高いからと、枝野は勘違いしているのではないか」

野党を取材していると、そうした愚痴がよく聞かれるが、枝野氏は微動だにしない。
かつてのように数を増やしていくのではなく、明確に掲げた理念や政策をぶれずに訴え続け、支持を広げていくことこそが、政権交代への道だと考えているからだ。

「永田町の中の『くっついた、離れた』という、いわゆる『永田町ワイドショー』を見せれば見せるほど、有権者は離れる。特に無党派層が離れる。若干、党の支持率が下がった要因があるとすれば、『永田町ワイドショー』に巻き込まれているという誤解を生じさせた可能性がある。より明確に『われわれは、くみしない』と強く発信していきたい」

「1人区」一本化は楽観

次の政治決戦となる来年の参議院選挙にどのように臨んでいくのか。

「野党全体の目標として、改選議席の過半数の獲得は実現可能だと思っている。去年の衆議院選挙でも、比例代表では、自民・公明両党の票よりも、野党側のほうが多かった。その実態を反映するような選挙結果を作りたい」

参議院選挙で全体の帰すうを左右すると言われているのが全国で32ある定員が1人のいわゆる「1人区」の勝敗だ。野党側にとっては、与党への批判票を分散させないためにも、候補者を1人に絞れるのかどうかがカギを握る。

「1人区は、『与野党候補の一騎打ち』の構図にするのが当たり前だと思っている。『一番、支持したい候補者に投票したい一方、最悪を避ける投票をしたい』という有権者のニーズに応えるということだ。
実は1人区の1本化は全く心配していない。
1人区の課題は、1本化ではなく、よい候補者を発掘できるかどうかだ」

1人区の一本化をめぐって、枝野氏は、意外なほど強気で、楽観的だった。

だが断る

ただ枝野氏は、1人区の一本化に向けた政党どうしの協議は拒否している。

「それぞれの党のさまざまな主張や事情があるので、政党間で交渉したら、うまくいかない。政党間で話をするのではなく、各政党と、候補者の1本化を求める有権者とのコミュニケーションで物事を進めていくべきだ」

2年前の参議院選挙では、すべての1人区で、当時の民進党、共産党、社民党、生活の党の野党4党が候補者を一本化し、11勝21敗。2議席に終わった5年前の参議院選挙の議席を大幅に上回った。

当時、民進党幹事長を務めていた枝野氏は、今後、安全保障関連法の廃止を訴える市民団体「市民連合」などの求めに応じ、候補者を一本化させる道筋を描く。

これに対し、すでに1人区の半数あまりで候補者を擁立している共産党は、「相互推薦・相互支援」を目指し、政党間で協議を始めるよう主張している。

今後の調整は、枝野氏が楽観するように進むのかどうか、見通せてはいない。

定員が複数の「複数区」の調整も簡単ではなさそうだ。
茨城、静岡、広島の2人区で、現職を抱える国民民主党は、野党側の候補者を現職に一本化するよう求めている。

が、枝野氏は、独自候補を擁立する姿勢を崩していない。

「現職なんだから、自力で勝つことを目指すのが政党としての責任だ。正直言って、迷惑している。自前で現職の1議席を獲得した上で、『ほかの野党で、もう1議席取るので頑張って下さい』と言うのが、現職を抱える政党の役割ではないか」

先の通常国会では、国会対応で野党側の足並みが一致しない場面もあった。
参議院選挙で野党側の議席を伸ばすため、枝野氏のリーダーシップを期待する声も出ている。

「野党第1党としての役割は果たさなければいけないが、あくまでもそれは『1人区』に限定される話だ。『1人区』以外は、それぞれの思惑が違うのだから、別々に戦うべきだ。それぞれの党が持ち味を生かし、最大限、議席を取る結果として、野党で改選過半数に達するかどうかだ」

とは言っても、水面下では、各党と話し合う必要も出てくるのではないか。そう問うと、次のように一蹴された。

「変なことをやっちゃいけない」

「筋を通す」という挑戦

「つらくても、筋を通す」
枝野氏が全国各地で行われる講演などで、何度も繰り返すセリフだ。
「草の根からの民主主義」を掲げ、数がモノをいう「永田町政治」とは距離を置きながら、「1強多弱」の政治状況に風穴をあけることはできるのか。

一方で、安倍政権と対峙するため、野党第1党を率いる立場として、野党連携の実現に期待が寄せられているのも事実だ。

来年の政治決戦を見据えた枝野氏の挑戦は続く。

政治部記者
山枡 慧
平成21年入局。青森局を経て政治部に。現在、野党担当。趣味はフットサル。