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生まれる前の東海豪雨  語り継ごう未来のために

  • 2023年09月22日

東海地方でおよそ7万棟が浸水し、10人が亡くなった東海豪雨から、ことしで23年。
中でも被害が大きかったのは、新川の堤防が決壊した旧西枇杷島町、現在の愛知県清須市です。
当時、母親のおなかの中にいた大学生が、生まれる前の豪雨の記憶を伝えようと活動しています。

紙芝居で被害伝える大学生

「朝、起きて、窓の外を見た私の目には、信じられない世界が広がっていました。
 いったい何が起きたのか、さっぱり分かりませんでした。
 町が、車が、家が、全部、泥水の中に浮いているように見えました」

9月、清須市の小学校で行われた東海豪雨の被害を伝える紙芝居の上演。
語りかけるのは、辻透弥さん、22歳です。

中学2年生の時、地元のボランティアグループに誘われて、この紙芝居の制作に携わり、
被災者から体験を詳しく聞きました。

辻 透弥さん
「自分が生まれ育ったころは、水害のあとはまったくなかったので、このようなことがあって、とても驚きました」

両親の店に押し寄せた濁流

辻さんの母親の由美さんも、東海豪雨の被災者の1人でした。
当時、夫とともに旧西枇杷島町の自宅兼店舗で飲食店を経営。
近くの「新川」が決壊し、濁流が押し寄せ、大きな被害を受けました。

辻 由美さん
「どーっと、流れるプールのように、だーって。水が来始めてからは、どんどん膝下、膝上、1時間2時間の間に一気に。店のもの、椅子、机、本棚、冷蔵庫、食材が、全部ひっくり返っていた。自然の力をなめてはいけない。自然の怖さを、透弥には知っておいてほしい」

当時、由美さんのおなかの中には、辻さんがいました。
体調がすぐれない中で、復旧作業に追われた話を聞きました。

辻 透弥さん
「水害という災害は、改めて恐ろしいものだと分かりました。身の危険がありながらも、店の方も復興して、自分のこともやってくれた親には感謝しかない」

”災害の記憶伝える”  私の役割

東海豪雨の被害の現実と備えることの大切さを伝えたい。
辻さんは、今回の紙芝居の上演でナレーションを担当しました。
先輩たちからアドバイスを受けながら、練習を重ねました。

そして本番。
240人の小学生たちに、伝えます。

「忘れない、東海豪雨、語りつごう未来のために」

「食べ物は、1日にパン1つ、お水は家族にコップ一杯」
「汚れた物は、1つ1つ洗い、壊れたところは、1つ1つ直し、使えなくなった物は手放すしかない、これが現実なのです」

辻さんは最後に、東海豪雨を語り継ぐ、みずからの決意とともに、語りかけました。

「忘れたいぐらいつらい、災害の記憶。忘れてしまっていいのでしょうか?
 この町に起こった出来事を、決して忘れない。
 そしてこの災害を未来へ伝えていくことが、この町に生まれ育った私たちの役割です」

小学生
「清須市という小さなまちでも、とても大変な被害を受けたことは信じられなくて、とても怖く感じました。防災グッズとかも確認して、みんなと安全に避難したいと思いました」

小学生
「紙芝居を見て、東海豪雨がまたいっそう大変だったことが分かりました。知らない人に何か伝えていきたい」

辻 透弥さん
「この東海豪雨の紙芝居というものを通して、災害というものをいろいろ知っていって、そこから防災などが自分の身を守るための行動に役立ててくれたらいいなと。地域のため、子どもたちのため、そして町の将来のために、これからも頑張っていこうと思います」

編集後記

2000年9月12日の朝、名古屋局に勤務していた私(記者)は、新川の堤防が決壊して濁流が押し寄せた旧西枇杷島町(今の清須市)に取材に入りました。

ボートを使って避難所の小学校につくと、体育館や校舎の1階も水につかり、避難した人たちは校舎の2階より上に避難していました。多くの人が食料を持たずに避難していましたが、学校の防災倉庫には食べ物はほとんどありませんでした。まさに、今回の紙芝居が伝えていた内容です。
役場に行くと、1階が完全に水につかり、電気も電話も寸断され、行政としての機能を失っていました。町長が「想定外の水害」と話していたことが、強く印象に残っています。
その「想定外の水害」は、東海豪雨以降、毎年のように全国各地で発生。いまや「当たり前」のようになってきています。
「想定外の水害は必ずくる」と考えて備えること。その大切さを、東海豪雨の取材経験を通して、私自身も伝えていきたいと考えています。

  • 松岡康子

    NHK名古屋放送局記者

    松岡康子

    静岡局、豊橋支局、名古屋局、科学文化部、生活情報部を経て、2013年から再び名古屋局。 
    主に医療分野や介護分野の取材を担当。 
    愛知県小牧市出身。2人の息子の母。

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