みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

「触られたわけじゃなくても あれは性暴力だった」 子どもの心に刻まれた傷

「5歳のときに受けた傷が、その後の人生に影響を及ぼして、結果として手足をなくすなんて、あのおじさんは思ってもみないと思います。でも、実際にそうなんです」

幼いときに見知らぬ大人から自慰行為を見せられる被害に遭った女性の言葉です。

30代のとき、みずから命を絶とうとして片手と片足を失いました。

直接触られたわけではなくても、大人から性の対象として見られる経験が子どもに及ぼす深刻な影響について知ってほしいと、“その後”の人生について話してくれました。

※この記事では実態を広く伝えるため、被害の詳細について触れています。フラッシュバック等 症状のある方はご留意ください。

【関連番組】NHKプラスで6/15(土) 夜10:49 まで見逃し配信👇

【関連番組】6/15(土)夜10:00放送 NHKプラスで配信👇

子どもへの性暴力 盗撮など非接触の被害も

NHKが2022年に行った“性暴力”実態調査アンケート。3万8千を超える回答があり、性暴力の被害に遭ったときの年齢は平均で15.1歳と、子どもへの性暴力が多い実態が明らかになりました。

挿入を伴う被害、体を触られる被害、言葉によるものなど、さまざまな被害があります。近年はスマートフォンや小型カメラの発達により、盗撮被害も増えています。

大手学習塾の講師が教え子を盗撮しグループチャットに投稿していた事件や、横浜市の小学校の教員が校内でのべ151人を盗撮した事件など、子どもをねらった性暴力は日常の身近なところに潜んでいます。

こうしたなか、「子どもへの性暴力は、どんな被害であっても大きな影響を及ぼすことがあると知ってほしい」と声を寄せてくれた人がいます。

5歳のときの被害 “汚れてしまった”

関西地方に暮らす54歳の藤崎葵さん(仮名)です。5歳のとき、家の近くのピアノ教室から1人で帰っていると、見知らぬ男性から声をかけられたといいます。

葵さん(仮名)
葵さん

「道にブロック塀があって、おじさんが1人立っていて話しかけられたんです。『おじさんね、おしっこするところからジュースが出せるんだよ。見ててね』って言われて、プラスチックのカップに出されたものを『飲んで』って言われて。親に外で飲み食いしてはいけないと言われていたから『ごめんなさい』って言って帰ったんですけど、すごい騒ぎになっちゃって」

夜、葵さんから話を聞いた父親は家を飛び出し加害者を捜しましたが、見つかりませんでした。母親は「あなたがちゃんと歩いていなかったから」と葵さんを叱ったといいます。

5歳だった葵さんは行為の意味が分かりませんでしたが、両親の反応を見て「いけないこと」と感じ、それ以上話すことはなく自分の心にしまいこみました。

5歳のときの葵さん

しかし数年後、小学校3年生のときに葵さんの世界は一変します。

同級生が拾って教室に持ってきたアダルト雑誌を目にして、5歳のときに男性から見せられた行為の意味を理解したのです。その瞬間、天と地がひっくり返るような衝撃を感じたといいます。

葵さん

「自分がそういう対象にされたって理解した瞬間のショックはいまだに受けとめきれていません。みんなが大人になってからやるべきことを私は5歳のときにやっちゃった。ほかの子はちゃんとしているけど、私はちゃんとしていないから、そういうことに消費される存在なんだって思って」

アダルト雑誌を見てキャーキャー声をあげる同級生たち。騒ぎに気付いた教師が「そんな汚いもの!」と言って雑誌を取り上げたといいます。

教師が言った「汚い」という言葉と、5歳のときに母親が言った「あなたがちゃんと歩いていなかったから」という言葉が、葵さんに重くのしかかりました。

自分は汚されてしまった。
ちゃんとしていなかった自分のせいだ。

その思いは、その後もずっと消えることはなかったといいます。

自分を卑下し対等な関係を築けない

誰と一緒にいても自分が劣っているように感じ、中学、高校と進学していくなかでも対等な人間関係を築くことができなかったという葵さん。自分の体が内側から腐っているように感じて体臭が気になり、1日に何度もお風呂に入ったり、香水に執着したりするようになったといいます。

今でも香水や香り付きの柔軟剤が手放せない

社会人になって男性から強引に性行為を迫られたときにも、拒絶することができなかったといいます。

葵さん

「どんなに頑張ってもほかの人と対等になれないんだっていう思いがどうしてもあって、例えば殴られそうになっても自分をかばえないんですよ。自分の身を守ることが、ものすごくおこがましく思えて、自分にはそんな価値ない、人の言いなりになって初めて認めてもらえるんだって思ってしまう」

男性から暴力を振るわれたり束縛されたりしても抵抗することができず、31歳のとき複数の被害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受けました。

治療に専念するため仕事を辞めて通院していた35歳のある日、葵さんは病院で目を覚ましました。

みずから電車に飛び込んでしまっていたのです。その瞬間の記憶はすっぽりと抜け落ち、左手と右足を失っていました。

誰も同じ目に遭ってほしくない

リハビリをして義足で歩けるようになった葵さん

葵さんは複数の被害を受けた経験がありますが、すべての根底にあるのは5歳のときの被害だと感じているといいます。体を直接触られたわけでなくても、子どもが大人から性の対象として消費されることが、その子の人生にどんな影響を及ぼすのか、多くの人に知ってほしいと訴えました。

葵さん

「50年近くたった今でも忘れないです。そのときの空気、景色、おじさんの顔つきとか服装、いまだに鮮明に思い出せます。小さい子の柔らかい心はすごく傷つきやすい。その傷は消えないんです。5歳のときに受けた傷が、その後の人生に影響を及ぼして、結果として手足をなくすなんて、あのおじさんは思ってもみないと思います。でも、実際にそうなんです。同じような目に誰も遭ってほしくない」

取材を通して

葵さんは数年前から「まるで姉妹のよう」という関係の友人とふたりで暮らしています。友人も体に障害があるため、それぞれができることをして支え合って生活しているのです。しかし、そんな関係になれた友人にさえ、「そこにあるものを取って」というちょっとした頼みごとがうまくできないと話していました。

自分の希望を伝える、嫌なことは嫌と言う、そんなことができなくなってしまうほど葵さんの自尊心は傷つけられているのです。人格がつくられる最中の子どもへの性暴力の深刻さを感じました。

直接体に触れていなくても、相手の同意なく性的な行為をすることはすべて性暴力です。さらに、子どもは同意を判断する能力をつける発達途上にあり、拒絶したり逃げたりすることが難しいため、子どもに性的な欲望を向けた行為をすること自体がすべて性暴力です。1件でも減らすため、取材を続けていきます。

記事へのご感想は「この記事にコメントする」からお寄せください。こちらのページ内で公開させていただくことがあります。

取材班にだけ伝えたい思いがある方は、どうぞ下記よりお寄せください。

この記事の執筆者

「性暴力を考える」取材班 ディレクター
村山 世奈

みんなのコメント(3件)

体験談
つめきり
30代 女性
2024年6月9日
新世紀の放送を見ました。フラッシュバックに注意と前置きがあり、それを納得したうえで見ましたが、自分でも忘れていた性被害を思いだし、動悸が止まらなくなりました。
私の場合は小学生の時、留守番中に家を訪ねてきた業者に、具合が悪いから触ってほしい、と性的な部分を数分間触らせられたことです。
あとで親に話し、通報もしましたがしばらく留守番や異性が怖くてたまらなかったことを思い出しました。
他にも登下校中の付きまといや痴漢もありますが、こんなに自分の心が蝕まれているとは思いませんでした。
今の子供達が被害に遭わないよう、未来の犯罪者にならないような教育、また子供を守る法律を社会全体で進めていってほしいと思います。
感想
かに
40代 男性
2024年6月5日
私が小中学生の頃もそうだったんだけど、性暴力とは何かについて知る機会が得られなかったこと、性犯罪の被害に対する理解が進んでいなかったことが大きく影響しているのではないかなと感じています。
藤崎さんの話を読んでいて、子供が大人の性の対象にされることによる被害だけでなく、性暴力の被害に対する理解が進んでいなかったことによる偏見からいじめに遭う場合もあったかもしれないと感じましたし、成人向け雑誌についての部分は、それ自体が不健全とか不浄なものなのかではなく、教師の側が問題点を具体的に伝えていれば、児童生徒の側でどこに問題があるのかを理解できていれば、少しは対応が変わったのかな…、と考えさせられるところがあります。
提言
さくら
50代 女性
2024年5月25日
十代で性被害に遭い、二十代以降も何十人もの痴漢に遭いました。
性暴力被害者にとっては、性被害に遭うことはクマやテロや通り魔に遭うことと同じです。
NHKのアンケート調査で、性被害に遭って恋愛や結婚、子供を持つことなどが考えられなくなった人が多かったですが、性暴力を放置することは少子化も助長することだと思います。
世間では日本は治安が良くて安全だと言われています。
でも女性や子供など弱者にとっては、犯罪被害が非常に多い、治安が悪い国です。
そのギャップが被害者を苦しめます。
犯罪被害が無いことにされ、トラウマ治療が必要な人が、治療を受けることができず放置されています。
犯罪は現に存在するのです。
加害者にとって安全な国ではなく、弱者にとって安全な、真に平和な国になるよう、全国民が意識変革してほしいです。
併せて、一刻も早く幼児期からの包括的性教育を導入すべきだと思います。

【関連番組】NHKプラスで6/15(土) 夜10:49 まで見逃し配信👇