ガイドラインから読み解く!脳卒中 治療と予防の最新トレンド

更新日

脳卒中脳梗塞脳出血心房細動言葉が出ないめまいがする吐き気脳・神経

心臓が原因で引き起こす脳卒中についての予防と治療が強化

脳卒中は、主に脳の血管が詰まってしまう脳梗塞と脳の血管が破れる脳出血の2種類あります。このうち脳梗塞は、動脈硬化で血管が狭くなったり、血管が老化したりすることが主な原因で起こります。それに加え、約2割が心臓が原因で発症するのです。

通常、心臓は規則正しく動いていますが、加齢などにより、そのリズムが乱れる不整脈を起こすことがあります。その中でも心房で起こったものを「心房細動」といいます。心房細動が起こると、血液が流れにくくなり、心臓の内部で血の塊・血栓ができやすくなります。こうしてできた血栓が血流に乗って脳まで流れ、脳の血管に詰まると、脳梗塞が起こります。心房細動が原因で起こる脳梗塞は、心臓にもともとの原因があることから、「心原性脳塞栓症」と呼ばれます。血栓は、時にゴルフボール大ほどまで大きくなることもあり、心原性脳塞栓症を発症すると、7~8人に一人は命を落としてしまいます。患者数も多く、現在、日本では100万人を超える心房細動の患者さんがいると推定されており、社会の高齢化により患者さんはさらに増えると予想されます。

このため新しいガイドラインでは、心房細動が原因で起こる脳卒中について、予防と治療が従来よりもさらに重視されています。

記事『〝ノックアウト型脳梗塞〟「心原性脳塞栓症」の原因と症状、予防について』

心臓の内部で血栓ができているのをうつした画像

血栓をできにくくする薬で脳卒中を予防

脳卒中の予防のためには、血液を固まりにくくして血栓ができないようにする働きのある「抗凝固薬」をのむことが推奨されています。
これまでのガイドラインでは、抗凝固薬を予防のために服用すべきなのは、「75歳以上」だったり、「心不全や高血圧、糖尿病がある」など、脳卒中のリスクが高い場合に限っていました。しかし、新しいガイドラインでは、「心房細動が長く続いている人」や、「心筋症や腎機能障害などのある人」へも対象が広がりました。最近登場した抗凝固薬は、従来のものに比べ副作用も少なく、脳卒中の発症を6割程度抑えられるとされています。

予防のための手術も選択肢に

抗凝固薬は血栓をできにくくする効果が高い反面、副作用として脳出血を起こしやすくなってしまいます。このため、高血圧で血管が破れるリスクが高い患者さんなどは、抗凝固薬の使用が難しいこともあります。そのような場合に検討されるのが手術です。

心臓には特に血栓のできやすい場所があります。それが、左心房の壁にある左心耳と呼ばれる袋状の組織です。心房細動による血栓のほとんどは左心耳内で発生するといわれています。何らかの原因で血栓が心臓の外に流れ出すと、脳梗塞につながります。

左心耳の場所

そこで、手術では左心耳を切除したり、塞いだりします。左心耳は、虫垂と同じように、切除しても体の機能に影響はありません。ガイドラインでは、患者さんの体の負担を減らすため、左心耳の切除手術をほかの理由で心臓を手術するときに合わせて行うことが推奨されています。しかし、そもそも手術の機会がないという患者さんもいます。

このような場合には、患者さんの負担が少ないカテーテルを使った「左心耳閉鎖術」が行われるようになってきました。

日常生活に関係の深い気になる血圧・たばこ新基準

ガイドラインの改訂の中でも、私たちの生活に関係の深い項目をご紹介します。
一つは、血圧コントロールに関することです。高血圧は、脳卒中を引き起こす最大の危険因子です。特に脳出血の死亡リスクは、正常血圧の人に比べて140/90mmHg以上の人で3.5倍、160/100mmHg以上の人で6倍になるという報告もあります。このため、新しいガイドラインでは、高血圧の治療目標値がより厳しく設定されました。75歳未満の人は、診察室で計測した血圧は130/80mmHg未満、家庭で計測した血圧は125/75mmHg未満を維持することを目標にしましょう。

記事『厳しくなった高血圧の降圧目標 診断基準と血圧の正常値とは』

喫煙も脳卒中のリスクを高めることが知られています。電子たばこにも紙巻きたばこと同様の有害物質が含まれており、紙巻きタバコに比べて脳卒中のリスクを減らす十分な科学的根拠はありません。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年2月 号に掲載されています。

きょうの健康テキスト
テキストのご案内
※品切れの際はご容赦ください。
購入をご希望の方は書店かNHK出版お客様注文センター
0570-000-321 まで
くわしくはこちら

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    脳卒中 治療と予防の最新トレンド「ガイドライン改訂!ポイントは」