【第3回】発災時 データで命は守れるか ~電力データ編~
溝上(熊本学園大学):言語データでもあるTwitterとかSNS でのデータというのがここのところ嘘も含めて多くの情報が集まっています。一方で、我々が組織的に、インフラを伴って集めたりするデータとの関わりをどのように突き合わせるかが課題かなと感じます。そういうことをちゃんとやって、「どういうふうに今後使えるのか・使えないのか」「それらのデータをどのように管理するのか」なども、どこかで話をしなければならないと思いました。
それと、ベンチマークデータですね。ある災害時の事後に観測したデータなどを集めて1つのデータベースにし、それを使って何が起こっていたかを検証したり、開発した避難シミュレーションモデルが果たして適用可能であったのかどうかなども検証してみることができるベンチマークデータセットをどこかに置いてもらうと、非常にありがたいと思います。やはり、いくらリアルタイムのデータがあったとしても、信頼性はまだまだ十分ではないので、ある程度予測をしながら、例えば避難誘導をしたりすることが必要になってくると、その間には必ず数理モデルとかシミュレーションモデルが関わってくるわけで、その中にある種々の未知パラメーターは当初はわからないわけです。ところが1度そういうベンチマークのデータセットがあれば、チューニングができます。そうすることによって実際に災害が起こった時に、その場所に適応してみたら、うまく制御とか、避難誘導できる可能性が高まるはずです。そのようなベンチマークデータを設置・揃えていただくといいなと思っています。AI関係の学会の中ではそういうベンチマークデータがあって、「あなたの作ったAI っていうのはどこまで信頼性や有用性があるのかをチェックしなきゃいけない」ようになっています。これからは様々な分野で、このような適合性や信頼性の検証をもう少し厳密にやっていく必要があるということを考えると、このようなベンチマークデータセットを揃えていただけると、次の世代の研究者たちに非常に役に立つんじゃないかと思っています。有用なデータを集める民間の方だけでなく、「どういうシステムを取ろうか」ということを考えている自治体の方たちにも役に立つんじゃないかなと思いました。
関本(東京大学):大変重要な示唆かと思います。確かに情報系の論文ではベースラインメソッドとの比較とか、そのためのベースラインとなるデータとかが、かなり共有されていたり、論文としても共有されているケースが結構あるので。避難・レスキューの仕方とかを、もう少し客観的に、効率性を競うというような点が、日本だけでなく海外もそうだと思いますが、まだ欠けているかもしれません。
畑山(京都大学):土木計画学研究委員会の中に、災害データサイエンス研究小委員会を最近作りましたが、そこでプラットフォームを運営して、ベンチマーク的なことをできるようにしようという検討、この5月くらいから始めています。次の秋大会でスペシャルセッションをやろうと思っています。AIで検証するような研究も増えてきているので、やっぱり情報系でやっているようなやり方も少しずつ入れていかないと、社会の安全にはなかなか繋がらないかなあと思っています。
ただやっぱり土木系だけでやるのは厳しいところもあって、この辺なんか、情報と土木の接続点みたいな形で捉える必要もあるんじゃないかなと思っていて、少し検討しながらやっていかなければと思っていたところでした。
我々やっぱり学だけでやれる話は限定されているので、やっぱりある程度民間の方々とか、あるいは利用される行政の方々あたりからご意見をいただけるとですね、盛り上がっていくのかなと思います。
柴山(Agoop):教師データがすごく重要ですね。過去、数年間の季節変動・時間変動・曜日変動というもので平均値をとって、エリアごとに分析しないと、これが有事で発生したデータ異常なのか、平常時での季節変動で起きている事象なのか、時間変動で起きている事象なのか特定できない。AIの開発時に教師データを整備化して、適切に提供しないと適切なアルゴリズムのA Iが開発できないので本当に重要だと思っています。過去数年分の教師データを民間企業が学術機関に提供して、その中でAI 開発をする。そういうスキームが絶対必要ですね。正直言って、企業だけで開発すると技術者のリソース的にも限界があります。
畑山(京都大学):おっしゃる通りだと思います。僕ら、災害の教師データがすごく少なくてすごく困っていると。何もないときのデータは集められるんですが、それと対比させて、「これが災害」「災害じゃない」っていうのを分けるだけでも、災害のデータが少なくって、いかにそれを増やすかばっかりを考えています。もうちょっと皆さん、データをあっちこっちでお持ちじゃないのかなと思っていて、でも多分拠り所がないので、ぜひ情報交換をさせていただければ。
柴山(Agoop):情報交換させてください。災害は滅多に起こらないのですが花火大会とか大きなイベントがあると異常値が出ます。それと災害をいかに連携させていくか、災害時のデータは少ないけれども、そういうデータでどんどん工夫してやっていく。それは一緒にやれると思っています。
畑山(京都大学):わかります。我々も昔、災害の避難の話で、マラソン大会を調査しに行ったことがありますので。よく似た密になる状態みたいなのは、イベントごとにあったりするので、それの特徴をうまく捕まえて、「災害を模す」、みたいな話に持っていけると、教師データを増やせるんじゃないかなというのは思うところですね。
柴山(Agoop):Twitterもよく使いますね。SNSはかなり必要ですね。自己検証でもけっこう、エビデンスとして使えます。
村上(損害保険ジャパン):これ問題なのは、先ほど「人命に関わる」っていう話をされていたんですけれども、やっぱりSNSのような真贋わからないもの。リアルタイムに見ようとすると、そこを確認するっていう時間が取れないので、弊社では浸水域を早期に判定して、配置する人員を決めるのに使っているんですね。で、「もし分析を間違えてしまってもお客様の命だとかそういうものに関わらないもの」にしかさすがに使えないっていうのは、正直あるなとは思います。
柴山(Agoop):おっしゃる通りです。
村上(損害保険ジャパン):「何も情報がないまま動くよりは、あったほうがマシ」っていうくらいの情報の信頼かなと思いますね。
柴山(Agoop):実は人流データに変化があった時に、そのエビデンス取りにTwitterを使っています。Twitterの情報だけを信用するのではなくて、むしろ人流データでの人出の増加を「日和見山というところに避難しています」というTwitter上の情報で確認しています。Twitterの情報をベースに判断するのではなく人流データをベースにして、そのエビデンスを取るためにTwitterを確認する使い方です。
畑山(京都大学):いろんなデータを組み合わせて、初めて信頼性の高いデータが作れるんじゃないかと思っていて。一つ一つ分析するのも重要なんですが、「組み合わせをいかにうまく作るか」というところも研究課題だと思っているので。「いろんなデータが集まるプラットフォームが欲しい」って言ったのは、「そこに情報が集まれば、その間を取り持つ何かを考える人が出てくる」、まあ我々も考えたいんですけど、そういうところからまた新しい価値を見出したいっていうのはあります。
捧(NHK):ありがとうございます。今日いただいたお話も含めて、一度まとめてですね、皆様にまた共有させていただいて、また個別でご意見もいただきつつ、第4回の検討会を迎えられればと思いました。
関本(東京大学):今日の議論を取りまとめて、また次回に向けての準備をしていければと思います。
捧(NHK):発言がまだいただけていない方で、ご意見があればぜひ、よろしくお願い致します。
鈴木(ドコモ・インサイトマーケティング):プラットフォーム化するときに絶対大事だなと思っているのは、データの活用方法ですよね。どなたが活用するかにもよりますが、発災時だとすると、ある程度その活用方法だとか、読み解き方っていうのも、標準化するなり誰でもわかるような形にしておくことが大事だろうと。「いろいろ集めても利活用できない」というのは事例としてあったりもするので。意味のあるデータをうまい形で組み合わせたりとか、そういうことが大事なんだろうなと思って聞いていました。
小山(熊本市消防局):消防としては、発災前となると結局、広報とか警戒とか、そういう業務になりまして、発災後は人命救助にかかるという形になります。いろんなデータも気象状況等は気象庁で把握されていて、全国に配置したさまざまな気象レーダーから衛星を通じてですね、24時間体制で、観測と、監視とかを行っておられます。そして気象データをホームページに公開して、有事の時はテレビとかラジオとかあと携帯、パソコン、いろんな手段を使ってですね、防災気象情報を送られていると。でもやはり、消防としましては、地域防災計画等の見直し等も行っています。そしてやはり自助・共助が必要になってくるのではないかと。洪水でハザードマップを活用し、水害の危機を予想とか、認知するとか、工夫と努力を行うとかもありますし、自主避難の状況に合わせた安全確保の行動をとる。あとは地域内で住民参加の水防訓練及び要救助者の安否確認及び避難支援体制の強化を図るとか、事前に避難所の運営の訓練を実施して、消防団、福祉団体、ボランティア等との連携を図るとか、まあいろんな面で、自助・共助が大切になってきます。阪神淡路大震災以降にこの言葉ができたんですけど、自分の命は自分で守る、そういう意味でも、今のデータの利活用、SNS等でこういうデータを見ることができれば、やはり自分の命は自分で守るという、大きなアイテムにつながってくるのではないかと私は思います。
渕田(球磨川ラフティング協会):私どもは民間で、ちょっとした救助の協力とか、そういうことしかできないんですが、この発災時のリアルタイムデータ、令和2年7月豪雨時にですね、あったらかなり役立てられたんじゃないかなと思いますので、こういうデータも、私共もどうにか見られる方法を考えていただければ、水害時、発災時の役に立つのではないかと思います。
森田(ITS Japan):意見を取りまとめた資料について、前段の方に、「リアルタイムデータを使ったら、こういう課題が解決できるんじゃないか」という視点や解決が必要な問題点が書かれているとよりいいのではないかと思いました。原案のままだと、ニーズよりもシーズ起点に見えてしまうのではないかとちょっと感じました。
それと、デジタル庁が作っている重点計画の中で、防災プラットフォームの構築というのが2025年度くらいに予定されていたと思いますが、そのプラットフォームというのは、システム的なプラットフォームだけではなくて、こういう検討会に集まった人も含めたようなものもさしているのではないかと思います。こう考えると、この検討会はまさにそのための1つの良い集まり方をしているんじゃないかなというふうに思っています。
それから、我々もいつも検討している中で、「データ提供者のメリットがないよね」というところが非常に課題になっています。特に、「災害だから無料でデータを出せばいいじゃないか」みたいな議論というのはちょっと暴論かなというふうに思います。データの値付けって非常に難しいとは思うんですが、対価に対して、どういうところでうまくみんなでカバーし合うのかというところは議論が必要かなと感じています。
石毛(ITS Japan):やはり「官民連携でやっていく」っていうことが重要だと思います。それから平常時からもきちんと使えるということですね。必要な情報が必要な人に、必要なタイミングで使えるということがやっぱり重要なんじゃないかなと改めて思いました。
安藤(熊本大学):予測モデルを構築するにあたって、モデルを構築する方に力を入れてしまうと、なかなかテストデータだけで満足してしまったり、作って終わりになってしまう部分が結構多くあって。で、検証データの話があったと思うんですが、実際の災害を使って検証データとともに、インプットデータとかも整理をされているとかなり使いやすくなるんじゃないかなというのは感じました。おそらく色々あるデータベースの中からインプットデータを整理するだけでもかなり時間と手間がかかってしまって、なかなかそこに手が回らないという実情も正直あるので、それが検証データと一緒に整理されていると、より広い分野で使ってもらえるんじゃないかと感じた次第です。
田村(送配電網協議会):後半の議論をお伺いいたしまして、データの提供の観点においては、様々なケースにおいて本当に「できたらいいな」と思いつつ、まだそこまで電力データの関係は議論がこれからであることを感じたところでございます。まさに、電力データはようやく提供できるようになったところですので、しっかりと業界内含めて議論させていただき、今後につながるようにしっかり取り組んでいきたいと思いました。一方、コストの話が出ましたが、提供するシステムの構築においてはコストがかかっているところもあります。そこの点も1つ、重要な点だと感じたところです。引き続きどうぞよろしくお願いします。
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(チャットでのご質問)
水野(TomTom):スマートメーターはどちらのメーカーのものでしょうか。もうすでにデータ通信の仕組みやライブラリーがあるように思います。それを活用し、日本用に応用していくことで早くシステムが構築できるのではないかと思いました。
田村(送配電網協議会):スマートメーターからのデータ提供の流れは、①スマートメーターのデータを一般送配電事業者10社ごとに収集、蓄積 ②一般送配電事業者10社に蓄積したデータをデータ提供用の10社集約システムにて蓄積し提供 となります。①につきましては、10社において仕組みを構築済みであり、②が今回の開発範囲となり、①の知見を活用し構築予定です(①の仕組みにおいて海外の知見などは取り込まれていると聞いています。)。なお、リアルタイム提供を2025年としているのは、2023年9月のスモールスタートにおける検証期間も一定程度見込んでいるためです。
水野(TomTom):クラウドベースのデータでしょうか。
田村(送配電網協議会):クラウドベースで検討を行っております。
朝倉(レスキューナウ):電力データ活用について。「災害時」とされている点について、どの程度の災害規模を対象とされていますでしょうか?また、終了の時期はどういった時を想定されていらっしゃいますでしょうか?
田村(送配電網協議会):災害規模、および終了時期は特段規定されていない認識です。人命に被害が及ぶことが想定されることが前提と認識しております。
朝倉(レスキューナウ):民間での利用をご検討いただける可能性はありますでしょうか?
田村(送配電網協議会):現在のエネ庁からの通達においては、国、自治体が対象の認識です。一方、現在の民間利用は、「平時のデータ活用」と整理されており、認定協会を介してのデータ提供の範囲に該当すると認識しています(費用は受益者負担)。なお、エネ庁としましても、審議会での議論を踏まえ、事例を積み上げて民間利用拡大を図っていきたい旨を伺っています。
<持続可能な電力システム構築小委員会(第10回)「平時の電力データ活用について」2021年4月23日 抜粋>
「2.更なる電力データ活用」
前頁のような電力データ活用に加え、社会課題解決や新たな付加価値の創出に向けて、様々な分野での電力データ活用が期待されているため、2020年6月の法改正において、平時の更なる電力データ活用のための制度を措置(2022年4月施行)。
これらについては、必ずしも電気事業として行われるものではない。また、こうしたサービス受益者は、これらの個別のサービスの提供を受ける者であり、必ずしも全ての電気の需要家が、これらの個別のサービスの提供を受けるわけではない。
このため、こうした更なる電力データ活用のために必要となる費用は、これらのサービス提供者及び受益者が負担することが適当と考えられる。
なお、これらの電力データ提供に当たっては、前頁に示した災害復旧等における電力データ活用のためのシステムも、支障の無い範囲内で、最大限活用し、効率的な電力データ提供が期待される。
また、これらのデータ提供によって、一般送配電事業者に費用を上回る収益が生じた場合には、託送料金を通じて広く需要家に還元されることが適当。
7.発災時リアルタイムデータ利活用 促進のためにできることは
9.「発災時 データがどう生きるか」 知見共有と積極的検証が不可欠
15.実現のために 収益化の具体的議論も
↑第2回検討会の議論はコチラから