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【第3回】発災時 データで命は守れるか ~電力データ編~

2022/10/18

7.発災時リアルタイムデータ利活用 促進のためにできることは

 

関本(東京大学):つづいては、「発災時リアルタイムデータ利活用促進に向けた意見交換」ということで、特に本検討会の取りまとめを行うにあたっての、方針の意見交換ということに移りたいと思います。

 

捧(NHK):第1回、第2回の議論を踏まえまして、「開催目的」でありますとか、「発災前・発災時にどういったリアルタイムデータ利活用の可能性があるか」「データ活用のプラットフォームについて」「データ提供開始のトリガーはいつなのか」「個人情報の活用の可能性と課題」を簡単にまとめました。

 発災前・発災時でいえば、「人流メッシュデータ×浸水想定で、早期の避難呼びかけに繋がるのではないか」。「人流ヒートマップデータが、どこに避難しているかの判断に役立てないか」、「車両通行実績から浸水エリアの推測」「車両通行実績から渋滞具合がわかることで救助・救難に最適なルート選択が取れる」。課題としては、「時間あたりにある程度の車両数が通っていないと現実を反映しきれていないのではないか」、「発災からの経過時間によって必要なデータが異なるのではないか」という点。

 プラットフォームについては、データ形式の一元化が必要だったり、それをどこがするのか。運営費、体制構築の検討の必要がある。

トリガーについては、基準についてコンセンサスを得る必要がある。

 個人情報については「生かすとできることがある」中で、オプトイン(事前許可)なのか、どういった形がいいのか。趣旨としては、発災前・発災時の様々なリアルタイムデータを生かすことで「こういったことができる」、「こういった課題がある」という中で、社会機運を高めて、利活用の促進ができればというところですが、内容や方法に関して、ご意見をいただければと思っております。

 

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関本(東京大学):意見の発信の仕方、ウェブで公開するにしても他にもいろいろ、情報を発信した方がいいんじゃないかなど、何かご意見ありますでしょうか。

 

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畑山(京都大学):新しい試みなどは、災害系の学会等に紹介していくことが重要と感じます。これまでできなかったことができるようになる話は、学術界から出ていかないと、なかなか信用が得られないと思います。それと共に、もう一つはやはり現場からですよね。例えば全国知事会だとか、市町村会などで紹介させていただいて、多くの意思決定される方に、「こんな技術がある」とか、あるいは「検討されている」ということを認識していただくということがまず必要なんではないかと思います。

 

畑山(京都大学):あとは、災害関係の情報をたくさん扱われている民間企業さんが、ホームページなどでコラムを書かれたり技術紹介をされているので、危機管理等を担当されている方はそういったサイトの最新情報はよくチェックされていると思いますので、そういうところでも発信していただくと、届いて欲しいところに情報が届くイメージはあります。

 

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朝倉(レスキューナウ):我々のような民間企業が情報発信の一助になるのであれば、是非積極的にやっていきたい。情報発信を活動の柱の1つにしていますので、広く伝えることに貢献できればと思います。

 

 

8.人流データは メディア発信で認知拡大

 

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柴山(Agoop):コロナ禍でAgoopは各メディアに人流データを活用いただきました。NHK、民放各局、地方放送局での活用実績をきっかけに様々な自治体からも交通政策、観光政策の人流データ活用のためにお声がけいただきました。よってメディアでの発信がやっぱり重要だと思います。

 我々は人流データを2010年頃から手がけていますが、実際により具体的に活用されたのはコロナ禍だと思っています。各自治体さんに対する人流データの認知も、メディアでの波及、「こういうことができるんだよ」って伝えることはすごく重要だったと思います。学会、専門家の方々に認知していただくのも重要ですが、一般の方々も含め災害時の避難所の支援にも人流データが活用できるという認識も必要です。よってメディアが主体で情報活用して発信するのは良いことだと思います。

 

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関本(東京大学): NHKで、「災害が起きたらちゃんと放送するよ、だから各所からいろいろデータ貸してね」とか、もちろん多少費用は負担するとか、あるいは先生方も手伝っていただけるとか。NHKがそういうスタンスをとるだけでもみなさんモチベーションが上がる可能性があるし、そこから始まって民放の方もそういうことを頑張るようになるとか。テレビ放送で、定常的に災害時、データを放送に使うことを真面目に考えるというのも、本筋かもしれませんね。

 

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柴山(Agoop):コロナ禍でAgoopの人流データをオープン環境のフォルダに入れて「自由に使ってください」と問い合わせのあったマスコミに回答したら新聞や民放各局が普通に使うようになったという流れがありました。そういう流れになると、データに対する認知度も高まり、研究者や大学の先生方が様々な研究する上で予算が必要なので、幅広く研究で活用されるにも認知度が高まることで多少は理解されやすくなったと考えていますね。

 

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畑山(京都大学):既にある程度やっている人はやっている情報活用というのが、災害やコロナみたいに、非常に大きな国民の関心事になった時に、急に「バズる」っていうのがあると思います。僕がいつも思っているのは、技術はしっかり作っておきつつ、機を見て、やっぱり「売り時」ってあるんだろうなと。ただ、売り時は、「ちゃんと準備していないと売れない」んですよ。そういう意味では、一般の方の認知はもちろん必要ですが、やっぱり使ってもらう人のところに、まず第1例目をドカンとでかくやってくれそうなところを増やしておくというのが、もう一歩必要かなという感じはします。

 

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柴山(Agoop):各自治体さんが、まず実証実験とか、避難訓練で使ってみるっていうのも一つの手かと思っています。結果も専門家の方々が入って、自治体さんも入って、とりあえず防災訓練できちっと使ってみましょうと。

 

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関本(東京大学):コロナ禍より前の時期は、2012年、2013年ごろが、割とビッグデータの始まりの時期で、それはやっぱり東日本大震災の方が先にあって、でその時に使い始めたというのがありました。しばらく研究でもだいぶ出てきて、そういう素地があって、今回のコロナの場合はそういう助走期間もあって普及したかな、というのが確かにあると思います。少し助走できるような環境をみなさんで、関心、熱意を持ってらっしゃるこういう集まりの皆さんの中でうまくやっていけるといいかなと思いますね。もう一段、進化する必要があるんだろうと思います。

 国に対してどういうアクション取るかとか、そういうこともあるかもしれませんがいかがでしょうか。

 

 

9.「発災時 データがどう生きるか」 知見共有と積極的検証が不可欠

 

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臼田(防災科学技術研究所): 今回この検討会でいろいろと新しい取り組みや、知らなかったデータや、いろんなことが発見されて、これだけの人がそれを共有できたということがすごく重要だったと思います。そこで、この検討会のとりまとめをさらにたくさんの人に知ってもらえるようにすることがとても大事だと思います。

 そうなった時に、先ほどの電力データの話もそうですが、「限られた範囲でしか提供ができない」とか、「要請がないと動けない」とか、いろいろな制約がある中、それでも「リアルタイムデータをもっと広く使ってほしい」という思いもあります。制約と理想への思いの両極端がある中、こういうデータを持っている方々がすごく悩まれているような気がします。今は、「オープンデータ」と、「公的な災害対応に限定した目的なら提供できるデータ」という2つの振れ方があって、その真ん中あたりがないのですよね。でも実はこの真ん中がすごく重要で、そこで新しい技術が生まれたり、新しい方法論が生まれたり、今までできなかった制約を乗り越える策が生まれたりすると思います。このまさに真ん中のゾーン、アカデミックや民間で新しい技術にチャレンジするような方々がトライアンドエラーができるような、そういう枠組みが必要ではないでしょうか。これがあるとデータを持っている側も、例えば一時的に、「データをトライアンドエラーのために限定して提供できる」という選択ができるのではないでしょうか。このように、提供したい側が提供しやすいような枠組みが作られるとすごくいいのではないかと思いました。先ほどの電力の話でも、事例を積み上げる、実績を積み上げる、という話がありましたが、事例・実績を積み上げようにも制約の中ではなかなか積み上がらないので、「いったん制約を外した試行領域」という枠組みの中で、事例・実績を積み上げることが、その後に繋げられる1つの方策ではないかと思います。そんな視点もこの検討会からとりまとめとして出せると、この議論がさらに継続していく気がします。

 

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関本(東京大学):国家プロジェクトとして特区として、「データを使う実験を本格的にやる」「場所を決めてやる」とか、「過去に大規模な災害があったエリアは全部対象にしてやってみる」とか、いろんなことがおっしゃるようにできると思うし、多少国家プロジェクトとして予算がつくといいなという感じが我々としてもしますね。

 

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畑山(京都大学):僕も臼田さんと同じ考えです。意見を取りまとめた資料の中で、プラットフォームの話がありました。その辺りの話かと思います。各所全体がリアルタイムにデータを利活用できるプラットフォームはもちろんあった方がいいとは思いますが、その前に、それこそ検証用プラットフォームみたいなものが作れないか。関本先生が言われるように特区、っていうのもいいですし、場所を特区に定めても、そこに災害がこなきゃほぼ知見がたまらないっていうこともあって、それだったら例えば令和元年東日本台風のときとか、あるいは房総半島台風の時のデータというのを全部集めてどっかのプラットフォームに載せますと。過去のデータなので今からなんとかできるって話はないけれども、「このタイミングでこれが起きた」っていう情報がしっかり記載されたデータがあるならですね、それを使って、言ってみればタイムラインを動かしながら、いろんなことを検証していくことができるんじゃないかと。

その場合、学の人間としてはデータが欲しくて、「それをやるとこういうことができる」っていう提案ができるので、最終的に自治体さんにご提供できるようなサービスなり情報なりを想像できたり検証できたりするんじゃないか。まずそういうプラットフォームができると、我々としては非常に嬉しいしこういうことがあったからこそこういうことができると。もし、データが使えるような災害が起きたときに、「そこでやっていた知見をそのまま持っていけばいいでしょ」っていう話も出てくると思うので、その辺はひとつの突破口なんじゃないかなと僕は思います。

 

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関本(東京大学):過去の災害のデータをきちっと蓄積しておくっていう。

 

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畑山(京都大学):そうですね、全データは揃えられなかったけど、「もしあのときに、人流も、電気も、浸水のリアルタイムシミュレーションもみんな揃っていたとしたら」っていうのをプラットフォームに載せておいて、それらを有効に活用したら一体何ができたのかっていうことを、検討する人を集めると。それは学でも民間でも構わないですが、いろんな人がそこで、過去の災害ではあるけれど、リアルなデータを使って検証することで、非常にうまくいきそうなやつと、まだまだ研究開発が必要なやつとか、あるいは情報がまだ足りないやつとかっていうのがもっと見えてくるんじゃないかなっていう気がするんですよ。

 

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関本(東京大学):なるほどなるほど。確かにそうですね。そういう意味では検討会の前半、第1回あたりでNHKさん、事務局の方からけっこういろんなデータの分析とか重ね合わせた状況、分析した状況とか、資料のインプットなんかもありましたし、第2回で話題提供いただいたG空間情報センターさんからも、今、NHKさんからデータを借りて、試験的にウェブGISに載せてみたりとかはやっていらっしゃると思うので、今回の熊本の水害を事例にやりつつも、それ以外の災害にも同じようにしてみていって、分析していただける方々を増やしていくというのはいいかもしれないですね。

 

 

10.今後 発災時にリアルタイムでデータ検証試みを

 

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臼田(防災科学技術研究所):過去のデータだけではなくて、まさに今、リアルタイムのデータも使えるとすごくいいと思っています。ここはあくまで試行・検証の場なので、すぐそのまま実利用にはならないし、それは避けてほしいというものであれば確実に避けるというルールを定めれば良いと思います。リアルタイムで試行・検証することができると、ものすごくリアルかつスピーディに対応できますので、是非そうしていきたい。もし、リアルタイムの試行・検証の中でいいものが生まれたらすぐ実利用に切り替えるということが、データ提供側の観点としてOKということであれば、ものすごく効果的だと思っています。是非そんな方向に持っていけると、まさにリアルタイムデータの利活用にさらに効果的に繋げられるのではないかなと思います。

 

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畑山(京都大学):僕も、臼田さんの話には全面的に賛成なんですが、ちょっとそこはいきなりはハードルが高いんじゃないかなっていう気もしていて。その、もし手前だとすると、例えば9月1日と決めておいて、実時間、災害起きた実時間に基づいて、すでに公開されたデータではありますけれども、例えば30分に1回更新されていくような。リアルタイムに過去のデータが発信されていくようなイベントを行って、みんながそのデータを受信しながら対応策を、自分で考えた対応策を実践していって、それを自治体の人に見てもらう。みたいなイベントとかがあるといいんじゃないかなと。新しいタイプのハッカソンのような気がするんですよ。ハッカソンってデータを与えて、みなさん新しい価値を作るっていうのが多いと思うんですが、リアルタイムで、その場で、自分達の能力でできる価値をどんどん出していくと。違いはですね、災害時の特性として、「タイミングがずれるともうダメだ」というやつもあってですね。このタイミングでこのデータをもらえたらいいんだけど、もっと早くくれたらな、みたいな評価がつくと思うんですよ。これ、今の一般のハッカソンにあんまりない評価なんですけど、そんなところまで評価できるようなイベントをバーンとやったりすると、行政の人が見ればですね、「これは使える」とか、「あれは面白そうやからもっと頑張ってもらえるように組もう」とか。そんなこともできるようになるんじゃないかなという感じはします。

 

関本(東京大学):レスキューハッカソンみたいな感じですかね。確かに面白いですね、それは。ぜひできればと思います。

 

目 次

1.電力データ 発災時リアルタイム活用の模索始まる     

2.電力データで どう命を守れるか     

3.「発災前」から 電力データは使えるか

4.電力データの自治体提供 その方法は 

5.電力データでリアルタイム浸水はわかるか

6.期待される 電力データの民間・研究活用

7.発災時リアルタイムデータ利活用 促進のためにできることは 

8.人流データメディア発信で認知拡大

9.「発災時 データがどう生きるか」 知見共有積極的検証が不可欠

10.今後 発災時にリアルタイムでデータ検証試みを

11.業界データの集約が 命を救うカギ  

12.国と民間 相互協力のもとで検証を

13.平時からのデータ活用で 経済にもプラスに

14.データ提供側のメリットも不可欠

15.実現のために 収益化の具体的議論

16.発災時データ検証・研究のベース支援  

17.SNS情報はどう生かせる?

18.求められる 「データの標準化」

19.発災時データが 自助・共助の大きな手助けに

20.発災時データ利活用 リスクの洗い出し

21.「検証して終わり」にしてはならない

22.電力データ利活用 今後への期待

 

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↑第1回検討会の議論はコチラから

 

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↑洪水予測システムに関する議論はコチラから

 

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↑第2回検討会の議論はコチラから

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