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駆除される鳥獣を少しでも活用したい ジビエアカデミー開設

おいしそうなシカ肉の赤身のステーキ。この料理の材料「ジビエ」が今回のテーマです。ジビエについて、国の食品安全委員会は、「狩猟の対象となり、食用とする野生の鳥獣、またはその肉」と定義しています。牛肉や豚肉、それに鶏肉に比べると、なかなか食卓でお目にかかれません。そんなジビエを普及させようと、ことし5月、宇佐市に加工技術などを学ぶ施設、「ジビエアカデミー」が開設されました。どんなことを学ぶのか、講習の様子に密着しました。 鳥獣被害との葛藤 駆除された鳥獣を少しでも活用したい 宇佐市に開設されたジビエアカデミーです。こちらでは、ジビエを実際に加工して、おいしく処理するための技術やポイントなどを学んだり、加工する様子を見学したりすることができます。 アカデミーでは、実技のほかに、ジビエの持つ栄養価なども学びます。ジビエを専門に学べる施設は、ここが全国初と言われています。 アカデミーを設立した山末成司さんです。宇佐市内で食肉加工会社を営んでいます。アカデミー設立の背景には、各地で相次ぐ農作物への鳥獣被害がありました。県内でも去年、被害額が1億5000万円に上りました。 対策として地元の猟友会のメンバーなどが鳥獣を駆除しますが、そのほとんどは廃棄され、ジビエとして流通するのはごくわずかです。山末さんは廃棄される鳥獣を、少しでも活用したいと考えていました。(山末成司さん)「ジビエが、殺されてただ捨てているだけの状況になっていた。それをなんとかしたいと思って、おいしいジビエを作るには、やっぱりこういう施設が必要だという思いで、立ち上げました」 アカデミーでは、駆除されたイノシシなどを引き取り、加工したり、教材として使ったりしています。(猟師)「ここに持ってきたら引き取ってくれるし、胸が痛まない」 県外から学びに来る人も ジビエならではの難しさアカデミーには、県内外からジビエに関心のある人が学びに訪れます。 群馬県から訪れた増田充宏さんです。群馬にジビエの処理施設を開設しようと、5日間の日程でノウハウを学びに来ました。 (増田充宏さん)「せっかくいただいた命。最終的には、全部処理できればいいんじゃないかと思います」 解体技術の講習です。 増田さん自身も、半世紀近く牛や豚などの食肉加工に携わってきたベテランですが、これらを一から解体したことはほとんどありませんでした。初めは手際よく処理していましたが、食用に飼育された牛などと違い、ジビエは個体差が大きく、処理するのが難しいと言われています。さらに、皮をはいだり、関節を外したりするなど、普段行わない作業もやらなければなりません。 (増田充宏さん)「牛も豚も飼育されているものですから、ある一定の範囲に収まっているんですね。ところが、ジビエは自然のものですから、個体差がまるっきり違います。目から鱗じゃないけど、こうやればいいのかという感じでやらせてもらいました」 一人でも多くの「ジビエ伝道師」をイノシシなど、鳥獣の命を無駄にしないとともに、ジビエのおいしさを多くの人に知ってほしい。山末さんは、この施設から一人でも多く「ジビエの伝道師」が巣立っていくことを願っています。 (山末成司さん)「牛、豚、鶏に次ぐ、第4の肉として、みなさんのご家庭の食卓に並べられるように頑張りたいと思っています」 地元の農家の方も、被害を受けるのは嫌だけど、駆除されたイノシシなどを見ると、つらい気持ちになるそうです。私もジビエが運ばれてくる様子を見た時は、何とも言えない気持ちになりました。ジビエアカデミーには、地元の高校生なども見学に訪れていました。今後、このアカデミーで学んだ人たちが各地でジビエの普及を担っていくかもしれません。

執筆者 西垣光キャスター
2023年08月31日 (木)

温泉がヒラメを救う

東京・新橋の日本料理店で、最近、看板メニューとなっているのが、ヒラメのお刺身。このヒラメ、大分の養殖場が出荷したものです。出荷量日本一を誇る大分の養殖ヒラメですが、厳しい一面もあります。 (養殖業者)「お金をかけても半数近くが死んでしまって、経営的にもつらい部分があった」 そんな中、ヒラメの養殖現場を改善しようというものが出てきました。キーワードは、大分が誇る「温泉」です。温泉が養殖ヒラメをどのように救おうとしているのか、取材しました。 温泉から、傷口の腫れなどに効く藻の一種を発見! 温泉の湧出量日本一を誇る別府市にある、研究施設です。この施設の会長、濱田茂さんです。化粧品会社を経営する濱田さんは、以前から温泉の効能に注目していました。 (濱田茂さん)「昔から温泉は体にいいねとか、そういう話がいっぱいあるんですけど、何かがいるんじゃないかということでずっと研究してきています」 濱田さんは研究を進める中で、あるものに注目します。 それは、温泉の中に入っている、体長3ミクロンの藻の一種です。80℃の強酸性の源泉の中にしました。厳しい条件の中で生息するその生命力に注目して、研究を進めたところ、傷口の腫れや化のうを抑える効果があることが分かりました。 92番目に見つけたことから、「RG92」と命名。特許を取得して、アトピー性皮膚炎の人も使える化粧品などを開発しました。さらに、広島大学や順天堂大学などと共同で研究を進めたところ、体内へのウイルスの侵入を抑える効果があることもわかりました。 温泉がヒラメ養殖を救うこのRG92の効果に意外な人が注目しました。それはヒラメの養殖業者です。 佐伯市でヒラメの養殖場を経営する木野雄貴さんです。ヒラメは免疫力が弱く、病気にかかりやすいため、体内にウイルスが侵入すると高い確率で死んでしまいます。このため、稚魚から出荷にたどり着くのは、全体の6割ほどです。育ちにくい上、エサ代や電気代の高騰もあり、最盛期には佐伯市内に250あった養殖業者は、16にまで減っています。 (木野雄貴さん)「お金をかけても半数近くが死んでしまい、悪循環でエサ代も上がる、最悪な状態でした」 そんな中、知人を通して濱田さんの研究のことを知ります。いちるの望みを託す思いで、RG92をエサに使いたいと相談したのです。2人は去年3月から実験を始めました。 RG92を混ぜたエサと、そうでないエサをヒラメに与えて、その違いを調べました。すると、RG92を与えたヒラメは、実験開始から4か月っても、まったく病気にかかりませんでした。さらに予想していなかった効果もありました。通常のエサに比べて、食いつきが良かったのです。8か月後、RG92を与えたヒラメは、そうでないヒラメに比べて、平均で300グラム以上重くなったのです。 (木野雄貴さん)「まんべんなくエサを食べて、太りもいい。大きさだけじゃなく、厚みもつく。最終的に味はどうか心配したが、それがまさに相乗効果」  プロの料理人も認めるうま味!木野さんが養殖したヒラメは、プロの料理人の間でも注目を集め始めています。 東京・新橋にある日本料理店です。天然のヒラメに引けを取らないほど、うまみが強く、しかも年間を通して味が安定していると言います。 (日本料理店 料理人)「脂の乗りはやっぱりいいですよね。淡泊すぎずにちょうどおいしい状態になっているのがすごいなあと思います」 (和田アナウンサー)「とっても濃厚で、クリーミーです。すごく歯ごたえがしっかりしていて、弾力があります。本当にうまみがぎゅっと詰まっています」  (日本料理店 料理人)「僕がすごく信頼を置いているのは、養殖場の中でお魚が死なない、健康的なヒラメだということなんです。クオリティも高いので、ぜひおすすめしたいヒラメです」 大分が誇る温泉が、出荷量日本一の養殖ヒラメを助けようという取り組み。大分ならではのコラボレーションが、新たな可能性を広げようとしています。 (木野雄貴さん)「おんせん県の大分県で日本一の生産量を誇るヒラメ。この2つをくっつければ、強いブランドになると思ったんですよね」 (濱田茂さん)「今まで化粧品という分野で研究してきたんですけど、それがこうして魚とかのお役に立って、よりこの研究を加速させて、多くの人に貢献できるように、ますます頑張らないといけないなと思っています」  ヒラメ以外にも広がる可能性ヒラメ以外にも、シマアジやタイ、トラフグやチョウザメの養殖現場でも、RG92を使った実験が行われています。また、スリランカでは、エビの養殖でも使われているそうです。このほか、畜産の分野でも、RG92を混ぜたエサも使う取り組みが行われています。大分の温泉が、食の分野でもその効果を見せようとしています。引き続き、大分の温泉効果について、様々な角度から取材を続けたいと思います。

執筆者 和田弥月アナウンサー
2023年08月31日 (木)

【目指せ 女子相撲日本一】教えて松鳳山!

「相撲」というと男子のイメージが強いかもしれませんが、実は大分県は、女子の相撲が盛んです。 女子の大会は基本的に体重別で行われ、これまでに大分県から、全国大会で優勝する選手のほか、世界大会で表彰台に上がる選手も出ています。 夏休み、全国大会での優勝を目指す小中学生に、今回、強力な講師をお招きました。 宇佐産業科学高校出身で、大相撲の元小結・松鳳山の松谷裕也(まつたに・ゆうや)さんです。 松谷さんのアドバイスで、子どもたちがどう変わったのか、見ていきましょう。   男子と一緒に稽古する女子 小学1年生から中学3年生まで、男女16人が稽古する別府実相寺相撲クラブです。 このうち、女の子は5人で、稽古は男の子と一緒に行います。 女子選手たちは、自分の体だけで戦う相撲に魅力を感じています。 (左 中学2年生 黒岩由莉香さん) 「自分が勝っても負けても、そこで負けたとしたら、自分がどんなところが悪かったのか、そういうところを考えて、自分で改善していくところがおもしろいです」 (右 小学3年生 安本奈未さん) 「得意技は下手投げです。(下手投げが決まったときはどう?)監督に『それで行け』って言われる」   このクラブを立ち上げて30年になる末宗公明(すえむね・きみあき)監督(73)です。 これまで、全国大会で優勝を成し遂げた女子選手を4人育ててきました。 女子選手が活躍する理由についてこう考えています。 (末宗公明監督) 「女子だからって気を緩めることもありませんし、男子と同じメニューで、すべてやります。小学生の間は、むしろ女子の方が体幹が強い場合があるんですね。だから、男子に勝てるということが、一番相撲にはまっていく要素かもわからないですね」   特別講師・松鳳山、別府に現る! 夏休み、相撲に打ち込む子どもたちにもっと強くなってもらうため、今回、この方に来てもらいました。 大相撲の元小結・松鳳山の松谷裕也さんです。 松鳳山は、激しい突っ張りと、相手の懐に入る相撲で、金星5個、三賞4回を獲得。38歳まで関取として活躍した人気力士でした。 現役時代の黄金の締め込み姿で指導する松谷さん。 まずは相撲の基本「すり足」を、自ら見本を見せて教えました。 (松谷裕也さん) 「ただ足をすって前に出ればいいものではない。自分の目の前に対戦相手をイメージして、その相手をおっつけて押す、脇を締めて押す。こうやってイメージしながらすり足をやることが大事。バスケットボールを持つようなイメージで手を構えると、自然と下から手が出てくる」 さらに得意の突っ張りも伝授しました。 「後ろに回すイメージで。前に突くより、腕を引くことが大事。じゃないと、次の手が出てこない」 わかりやすいことばで指導し、子どもたちも熱心に取り組んでいました。   隙のない相撲を! 全国大会優勝を目指す小学5年生  ことし6月の全国大会で優勝した、小学5年生の黒岩香莉奈(くろいわ・かりな)さんです。 中学2年生の姉、由莉香(ゆりか)さんと、小学1年生の弟・香之介(こうのすけ)くんとともに相撲に励み、力をつけてきました。 まわしを引いてからのうまさが最大の持ち味です。 (黒岩香莉奈さん) 「自分の技が決まったら気持ちいいし、相手を押し出したらうれしい」 ことし10月に行われる全国大会でも優勝を目指す中で、松谷さんに自分の相撲を見てもらいました。 しかし、2学年上の中学生との稽古では、懐に入られて、寄り切られてしまいました。 松谷さんが気になったのは、香莉奈さんの右手の使い方でした。 まわしを引いて力を発揮する香莉奈さんですが、苦しくなると、深い位置のまわしを引いてしまいます。こうなると、相手に深く差されてしまうため、脇が空いて攻めにくくなります。 (松谷裕也さん) 「差されちゃダメ。深い上手では、絶対に相手に力も伝わらないし、どんどん苦しくなるでしょ。まわしを取ったら、そのまま懐に入るか、そこで我慢しないと。相手の腕をおっつければ、相手は苦しくなって腕を抜いてくれる。そうすれば、中に入れて次が攻めやすくなる。地道に、地道に、コツコツとやっていこう」 松谷さんのアドバイスを受けて、稽古を再開した香莉奈さん。 今度は右手をうまく使って、浅い位置のまわしを引きました。松谷さんのアドバイス通り、そこから相手の懐に入ることができました。 最後は得意の投げも駆使して勝ちました。 (黒岩香莉奈さん) 「教えてもらえて楽しかった。手の使い方が大事。全国大会に向けて、普段の練習でも使いたいです。全国大会で1位になりたいです」 (松谷裕也さん) 「中に入った後は、切り返しや技も上手だったので、もっと体の使い方がうまくなれば、もっと勝てるようになるんじゃないかと思います。女子も世界大会があるので、そういうところを目指して、がんばってほしいですね」   今回、男子選手も指導していただきましたが、これまで稽古場であまり勝てなかった小学4年生の選手が、松谷さんのアドバイスを受けて相撲が変わり、稽古場で連勝するシーンがありました。 松谷さんの指導力もさることながら、子どもたちの吸収力にも驚かされました。 これをきっかけに、大分の子どもたちに、もっともっと相撲が好きになってもらえたら、うれしいです。

執筆者 戸部眞輔アナウンサー
2023年08月30日 (水)

大分からコーヒーの魅力を伝える

落ち着きたいとき、仕事が一段落したとき。そんなときに口にすることが多いコーヒー。一口にコーヒーと言っても、コーヒー豆は世界各地で栽培されていて、その特徴も様々です。去年5月、大分市に世界各地のコーヒー豆を扱う専門店がオープンしました。コーヒー好きが高じて、アフリカの産地まで行ったことがあるという店主。その店主に、コーヒーの魅力について聞きました。  ルワンダで見たコーヒー生産者の厳しい現実世界各地のコーヒー豆を扱う専門店の店主、椎原渉さんです。 (椎原渉さん)「今は、ブラジル、コロンビア、パプアニューギニア、インドネシア、エチオピア、ベトナム、ルワンダなど、常時10種類のコーヒー豆を置いています」コーヒーを語ると止まらなくなる椎原さんですが、大学時代は、コーヒーをほとんど飲まなかったと言います。コーヒー器具を取り扱う会社に就職してから、その魅力に取りつかれたそうです。 (椎原渉さん)「いろいろな国から麻袋が送られてきて、中に色々なものが混ざっていたりするんですよ。それを見て、『どんなところで作っているのかな』って思ったのがきっかけで産地に行ってみたいと思いました」2019年にはJICA海外協力隊でアフリカのルワンダに赴いた椎原さん。しかし、そこで目にしたのは厳しい現実でした。資金不足からコーヒーの木の植え替えができないなど、ルワンダのコーヒー栽培が恵まれていない環境で行われていたことを知りました。椎原さんは、こうした状況を変えたいと奔走したそうです。 (椎原渉さん)「個人農家の豆をひとつの加工処理場に持っていくと、全部まとめて処理されてしまうので、品質がそこで上がらないという問題がありました。いろいろな農家のところに行って、収穫するときは『この完熟した豆をちゃんと採りましょう』と、ワークショップを開いたり、ハンドブックで普及したり、そういう活動をしていました」   大分から、コーヒーの産地の現状や魅力を伝えるルワンダのコーヒー生産技術向上を図ろうとしていた矢先、新型コロナで帰国を余儀なくされます。それでも、大分から、産地や生産者の現状を伝えたいという思いが、開店の原動力となりました。椎原さんが強く思いを寄せるルワンダ産のコーヒーを私もいただきました。 (川又)「いい香りです。あ、酸味が強いですね。こんなに酸味をダイレクトに感じるコーヒーは、初めてかもしれないです。後味も、すっきりしていますね、どことなく甘みも感じます」店は午前10時に開店。30分もすると、お客さんでいっぱいに。椎原さんは、接客にもこだわりがあるそうです。 (椎原渉さん)「豆を買ってくれたお客様に、コーヒーのいれ方のレクチャーも含めて話して、あとは、こういういれ方がいいですよ、というアドバイスをしながらやっています」単に飲んでもらうだけでなく、コーヒーに込められた物語も説明する接客に、お客さんの中にはコーヒーとの向き合い方が変わったという人もいました。「自分で粉入れてお湯で溶かしてみたいなのが普通ですけど、こうやってレクチャーしていただけると、飲み方に対して、新しい自分の扉を開いたような感じがします」お客さんとのコーヒー談義に花を咲かせる椎原さん。伝道師としてこれからもコーヒーの魅力を大分から伝えたいと言います。 (椎原渉さん)「コーヒーって知っているけど、どうやって作られているか知らないし、これだけコーヒーをすごく飲むじゃないですか。その中で、やっぱり作っている人のことを知ってもらいたいという気持ちです」 伝道師直伝!おいしいコーヒーのいれ方椎原さんによりますと、コーヒーをおいしくいれるコツがあるそうです。「コーヒー豆1に対して、お湯が15の比率がいい」ということです。 例えば、コーヒー豆10gだとお湯150gです。ハンドドリップに慣れていない人でも、豆と水を量るだけで味が安定するそうです。 さらに、同じ豆でもお湯の注ぎ方で味が変わるそうです。はじめにお湯を多めに入れると酸味が強くなり、少なめに、切るように入れると苦みが強くなるそうです。今回、ルワンダ産のコーヒーをいただきましたが、今まで経験したことのない味わいで驚きました。これを機にいろいろな産地のコーヒーを味わい、新しい扉を開いていきたいです。

執筆者 川又優キャスター
2023年08月02日 (水)

AIで生産効率化 大分のピーマン

旬を迎えたピーマン。夏から秋にかけて生産され、大分県は生産量西日本一なんです。県内各地で栽培されていますが、大分市では、AI=人工知能などを使った栽培に取り組む農園があるんです。   大分市の南東部、宮尾でピーマンを栽培している甲斐竜太郎さんです。専用のハウス140棟で栽培しています。  (甲斐さん) 「ことしは、例年より多くピーマンの実がなっています。今栽培している品種は、ピーマン独特の苦味が抑えられているというのと、緑色が濃いのが特徴です。子どもでも食べやすく、生でも食べられます」   生で食べられるというピーマン。その場で採れたてをいただきました。 「苦くなくて甘みがある。ピーマン大好きだから、何個でも食べられそうです!」  生産農家直伝!おいしいピーマンの見分け方 長年ピーマンの栽培をしてきた甲斐さんに、おいしいピーマンの見分け方を聞きました。ポイントは花の形にあるそうです。 (甲斐さん) 「ピーマンの花は、花びらが5枚のものがありますが、6枚のものもあります。この花びらの数によって、へたの形が5角形か、6角形に変わるんです」   (甲斐さん)「これまでの経験から、ピーマンは、へたの形が5角形よりも6角形を選ぶと、おいしいと思います」 西日本一の生産量 最新技術で効率化する農家も 西日本一の生産量を誇る大分県では、昭和40年代からピーマンが栽培され、その後、生産量を増やしてきました。そして今では、大分市を はじめ、豊後大野市や臼杵市など県内各地で栽培されていて、昨年度の出荷量は約4500トンにのぼりました。 甲斐さんは効率的に栽培するため、ある工夫をしています。その1つがAIの活用です。 土の中には専用のセンサーが埋まっています。そのセンサーから得た土壌の水分量や、日差しの量などをスマートフォンで管理して、自分の畑に最も適した水分量をAIが計算し、自動的に調節してくれるという仕組みです。AIの導入で水や肥料の量を考える手間が省け、1日の作業時間が30分短くなったそうです。  (甲斐さん) 「AIを使うことによって、これまで、経験や勘に頼っていた作業が全部デジタル化することができました。AIがすべて判断してくれるので、細かな管理ができています」   もう1つは、虫よけ用のLEDライトです。上の画像で赤く光っているのが、そのライトです。ピーマンの敵である害虫は、赤い光を見ると緑色を識別しにくくなるため、近づいてこなくなるそうなんです。これによって農薬の量を 減らすことにつながり、散布する手間も省けました。  (甲斐さん) 「農薬が減らせるので消費者の方にも減農薬で、私たちも農薬を散布する手間が省けるので双方にメリットがある技術だと思っています」 初期費用はかかるものの、最新技術を取り入れたことで、売り上げは2割増えたということです。 (甲斐さん) 「AIやLEDなど最新の技術を活かして、経験や勘に頼らない農業を目指して、新規参入しやすい環境を作っていきたい」

執筆者 早川愛(キャスター)
2023年06月21日 (水)

"漬物"にささげる大学生の青春

料理を引き立てる名脇役の”漬物”。大分県内の20歳の大学生が作った漬物が、国内コンテストで審査委員特別賞を受賞しました。漬物に青春をささげる、その思いに迫りました。  20歳の漬物が、国内コンテスト審査委員特別賞! 色鮮やかなにんじん、そしてみかん…。名付けて「パリポリくろちゃん」。この漬物が脚光を浴びたのはことし春のことでした。4月の漬物グランプリ2023で、別府市の大学生の漬物が、学生の部で審査委員特別賞を受賞しました。どんなこの漬物を作ったのか?訪ねてみることにしました。漬物にみかん!? まろやかな「パリポリくろちゃん」 大分市出身で別府大学発酵食品学科2年の永野衣祝(ながの・いのり)さんです。漬物をつくり始めたきっかけを聞いてみると…。 (永野衣祝さん)「実習の時にキムチを作ったんですけど、その時に調味液を作って、数グラムの差で味が全然変わるっていうのがおもしろくて」そして、試行錯誤を重ねて誕生したのが「パリポリくろちゃん」でした。そのお味はといいますと・・・。 (西垣)「あっさりしてます。酸味がとてもまろやかで、 漬物特有のツンとくる酸味ではなくて、ほんとにまろやかでおいしいです」パリポリくろちゃんの「パリポリ」は、大根やキュウリなどの食感の音、「くろちゃん」は海藻のくろめを表現しています。そして私が一番気になったのが“みかん”です。甘さと酸味のバランスをとるためだそうで、これが絶妙なんです。  大分の魅力を伝えるために 食材はすべて大分県産 素材選びにもこだわったという永野さん。買い出しについて行ってみることにしました。永野さんが購入する素材は、野菜だけではなく、かぼす果汁やしいたけパウダーなどすべて大分県産。こうした食材をもとに、「多くの世代の人に親しんでもらえる漬物」を目指したといいます。 (永野衣祝さん)「浅漬けなんで、さっぱりしたさわやかな後味にしたかったんですけど、お酢を使うとお酢が苦手な人というのも中にはいらっしゃるので、酸っぱいだけでなく、その中にまろやかさも入れたくて工夫をしてみました」 永野さんが大分の食材にこだわったのは理由がありました。大学で出会った県外出身の友人たちが大分のことを知らず、「大分の魅力をもっと知ってほしい」という思いを強くしたためです。「パリポリくろちゃん」を友人たちにも試食してもらいました。大分の魅力は伝わったのでしょうか。 (福岡県出身の友人)「くろめとか聞いたことなかったので、食べてみて、めちゃ相性良いなと思いました」(宮崎県出身の友人)「ご当地のものを食べて、本当においしいと思った」 漬物にささげる青春 日に日に強くなっていく漬物への探究心。ことしの春休みも、友人たちが旅行などで学生生活をおう歌する中、永野さんは漬物づくりに打ち込みました。こうした熱意が漬物グランプリでの快挙につながり、学内でもビッグニュースとなりました。担当の大坪素秋教授は、パリポリくろちゃんが評価されたのは、味や彩りはもちろん、地域の食材をふんだんに使ったところだと分析しています。(大坪素秋教授)「私が思うに、パリポリくろちゃんのくろめですね。大分の特産で、なかなか、ほかの県の人たちは知らないと思うので、そういった大分の地域性が入っている作品だということで、評価されたんじゃないかと思います」  漬物に青春をささげる大学生。夢は膨らむばかりです。 (永野衣祝さん)「今回この漬物グランプリで自分のオリジナルのお漬物を始めて作ったんですけど、初めて商品開発がおもしろいなって感じたので、将来は商品開発ができる企業に入りたいなと思っています」永野さんと話をしていると、漬物会社のプロの職人にアドバイスをもらいにいくなど、漬物づくりにいかに本気で取り組んでいるのかがひしひしと伝わってきます。気になるパリポリくろちゃんの作り方ですが、残念ながら、今後の商品開発を見据え、 秘密ということです。その永野さん、漬物以外にも今、注目している食材があるそうなんです。それはいま、国際的にも注目が集まっている昆虫食です。研究熱心な永野さんなら、またびっくりするような昆虫食を生み出すかもしれません。忙しい学生生活だと思いますが、これからも 応援したいと思います。

執筆者 西垣光(キャスター)
2023年06月16日 (金)

トリニータVSヴェルスパ 白熱必至の大分ダービーの行方は

【9年ぶりの「大分ダービー」いよいよ】大分のサッカーファンにとって、待ちに待った日が来ます。サッカー日本一を決める天皇杯2回戦があす、6月7日、レゾナックドーム大分(大分市)で行われます。対戦するのは大分トリニータとヴェルスパ大分。実に9年ぶりとなる「大分ダービー」が実現するのです。実は両チーム、天皇杯で過去2回対戦し、いずれもトリニータが勝っています。▼2014年 大分トリニータ 2-1 ヴェルスパ大分▼2013年 大分トリニータ 2-0 HOYO大分(現ヴェルスパ大分)9年ぶりに公式戦でぶつかる勝負の行方は?!両チームを愛してやまない私、アナウンサーの西岡遼が解説します!【ヴェルスパがジャイアントキリング!?】今回で3度目となる「大分ダービー」。これまでの対戦の中で、いちばんきっ抗した試合になる可能性があると思います。といいますのも、ヴェルスパは、前回の対戦以降、選手層の厚みが増すなど、Jリーグのチーム相手にしっかりと戦える力を備えてきたからです。それは結果にもはっきりと現れています。3年前にはアマチュアリーグの最高峰、JFLで優勝。おととしの天皇杯では、レノファ山口とモンテディオ山形というJ2のチームを相次いで破り、4回戦まで進出。去年は、J3のクラブライセンスも交付され、Jリーグ入りも見えてきました。選手の意気込みも並々ならぬものがあります。過去2回の「大分ダービー」にフル出場している、チーム在籍最長11年目のゴールキーパー、姫野昂志選手は、「トリニータはあの時は『憧れ』だった。そこから『目標』に変わり、今こそ『追いつく時』が来た」と話します。そのヴェルスパで注目なのが、フォワードの半田航也選手です。半田選手は、J2のブラウブリッツ秋田から今季、期限付きで移籍。現在、チーム最多得点を挙げる活躍で、J3昇格を目指すチームにとって欠かせない存在となっています。また、チーム在籍10年目、姫野選手と同じく、9年前の大分ダービーを知るフォワードの中村真人選手にも注目です。 【好調のトリニータ 不安要素も】対する大分トリニータも今季は好調です。リーグ戦19節を終えて2位。J1復帰を果たすため、攻撃的なプレースタイルで勝ち点をつみあげてきました。そのトリニータ、実は不安要素もあるのです。先月以降、主力選手のケガが相次いでいるほか、日程もハードです。今月4日にリーグ戦と戦い、3日後に「大分ダービー」、その4日後にリーグ戦が控えています。下平隆宏監督も、「ヴェルスパは上のチームを食ってやろうという雰囲気で来ると思う。非常にプレッシャーがかかると思っている」と話しています。今回、若手主体のメンバーで試合に臨むというトリニータ。注目は18歳のミッドフィールダー、佐藤丈晟選手です。おととしと去年、高校生で天皇杯に出場し、去年は得点も挙げました。佐藤選手は、「活躍するチャンスの大会だと思っている。ドリブルで持ち運ぶ技術や、利き足の左足の精度を武器に、どんどん点に絡んでいきたい」と意気込んでいます。ほかにも、U20日本代表のフォワード、屋敷優成選手、大卒ルーキーの攻撃的なディフェンダー、松尾勇佑選手、ユース出身の18歳のミッドフィールダー、保田堅心選手にも注目です。  【攻撃的スタイル同士で勝つのは…】練習試合では何度が対戦している両チーム。トリニータの下平監督はヴェルスパの印象について、「攻撃的でプレスをかけるところが、自分たちと似たスタイルだ」と話しています。同じプレースタイルのチームがぶつかる今回の「大分ダービー」。どちらがより多くボールを保持し、主導権を握ることができるかが、試合の流れを大きく左右することになりそうです。天皇杯準優勝の経験があるトリニータか。それとも3度目の正直で悲願の「大分ダービー」初勝利を狙うヴェルスパか。NHK大分では、試合当日の「ぶんドキ」(18:10~)で、試合開始直前の会場から中継で最新情報をお伝えします!また、NHK大分の公式Twitterでは、試合経過を動画付きで随時投稿!どこよりも早くお伝えします。こちらも是非チェックしてください!      

執筆者 西岡遼アナウンサー
2023年06月06日 (火)

宇佐市出身・雷親方 初めて育てた新十両

宇佐市出身で、大相撲の元小結・垣添が師匠を務める雷部屋から、初めて新十両力士が誕生しました。ウクライナ出身の獅司(26)です。5月31日に行われた名古屋場所の番付編成会議で十両に昇進することが決まり、雷親方にとって、ことし2月に部屋を継承してから、わずか3か月での関取誕生です。 (雷親方)「ほっとしました。自分の新十両がかかった場所と同じくらい、今場所は緊張しました。まさか2月に部屋を継承してから、きょうこの場に獅司と2人でいるのが信じられません」 雷親方が徹底させた”体作り” 持ち前の圧力に磨きががかる獅司はウクライナ南部のザポリージャ州出身。相撲の世界選手権の重量級で3位に入った実績があり、3年前に入間川部屋に入門しました。身長1メートル92センチ、体重174キロの恵まれた体格を生かした相撲で、番付を上げてきました。 ことし2月に部屋を継承した雷親方は、獅司に”体作り”を徹底させてきました。 獅司は、しこやすり足、ぶつかり稽古などを重点的に行い、強じんな下半身を作ってきました。また、ことし2月に取材した日には、たまごかけごはんをどんぶりで2杯食べるなど、”食べる稽古”にも積極的に取り組んできました。 その結果、体重は、雷親方が部屋を継承した2月から15キロも増え、持ち前の圧力に磨きがかかりました。ことし5月の夏場所では、西幕下2枚目で6勝1敗の好成績を収め、新十両の座をつかみました。 (獅司関)「雷部屋になってから15キロ太りました。力が出ます」 (雷親方)「15キロ太るのは生半可なことではない。食事も自分で工夫して食べて、体を大きくして、稽古も自分から一生懸命頑張るようになった」  ふるさとウクライナに住む家族への思い獅司は、今もウクライナに住んでいるという両親に毎日電話していて、新十両昇進も報告したということです。 (獅司関)「みんな、うれしいと喜んでいました。ウクライナは大変。もっとがんばります。関取になって、ママとパパを助けます」 (雷親方)「体幹を強くして、腕も脚も強くなれば、もっともっと上で相撲がとれる力士だと思っている。初心を忘れずに、今からがスタートラインだと思って、心変わらず、一生懸命稽古をしてほしいと思います」 新十両として臨む名古屋場所は、7月9日に愛知県体育館で初日を迎えます。名古屋場所での目標についてはこう話しました。 (獅司関)「名古屋場所、15日、がんばります。とりあえず、勝ち越せたらうれしいです」 ”垣添”譲りの真面目さと一生懸命さ日本語を勉強中の獅司ですが、この日の会見では、記者の質問に、ひとつひとつ誠実に答えていました。雷親方も「真面目な性格」と評する獅司。そうした姿は、決して大きくない体でこつこつと努力を重ね、めいっぱい幕内の土俵で暴れまわった現役時代の垣添の姿とも重なります。 名古屋場所、獅司の相撲に、ぜひご注目ください!

執筆者 戸部眞輔
2023年06月02日 (金)

【トリニータvsロアッソ 見どころざっくり解説】

今週13日(土)は九州ダービー。J2第15節 大分トリニータvsロアッソ熊本です。トリニータにとってロアッソ熊本は、去年のJ1参入プレーオフ1回戦でJ1復帰の道を断たれ、悔しい思いをした相手。そのときの雪辱を果たす戦いです。 NHKでは大分県と熊本県の皆さんに午後2時50分から中継でお伝えします。実況を担当する、私、西岡遼が試合の見どころを紹介します!これを見ると、試合観戦がさらに楽しめるかも。  【前線からのプレスで攻撃的に! 大分トリニータ】今シーズン、好調を維持する大分トリニータ。3連敗したこともありましたが、ここまで14試合を終えて9勝1分4敗とし2位につけています。チームを率いるのは2シーズン目の下平隆宏監督。昨シーズン同様、高いボール保持率で試合を優位に進める攻撃的なサッカーです。その中でも特徴的なのが以下の2点です。・前線から果敢にプレスをかけて、高い位置でボールを奪うこと。・攻守の素早い切り替え。ボールを奪われたらすぐ奪い返す、そして、奪ったらすぐに攻撃に切り替える。いずれも選手には豊富な運動量が求められますが、目まぐるしい試合展開は、見ていてとても面白いサッカーだと思います。  【スタイル不変のロアッソ熊本】一方のロアッソ熊本。昨シーズンは、あと一歩で、こちらも悲願の「J1昇格」というところまでいきました。今シーズンはここまで5勝5分4敗で11位ですが、このところ連勝中と調子は上向きです。昨シーズンの中心選手の多くが他のクラブへ移籍しましたが、チームを率いて4シーズン目の大木武監督のスタイルは今シーズンも変わりません。大木監督のサッカーは徹底的にボールをつなぎます。そして素早いパス回しで相手を崩すほか、ドリブルで中央突破を狙います。 【トリニータ、勝利のポイント】 ともに好調なチーム同士の対戦。トリニータが勝つためのポイントになりそうなのは、①    サイド攻撃とセットプレーでの得点②    前線からのプレスで相手に自由を与えないこと もちろん中央攻撃もありますが、得点としてはサイド攻撃と、DFの安藤智哉選手(1m90cm)や同じくDFのペレイラ選手(1m84cm)といった高さを生かしたセットプレーや、MFの高畑奎汰選手の精度の高いフリーキックからのゴールが多くなっています。サイドにボールが入ったときやセットプレーは、目を離せません!  また、多くの選手から聞かれるのが「相手にプレッシャーをかけて、ペースを乱す」ということです。そのためには、今シーズンのトリニータが掲げる「前線からのプレス」が重要になってくると言えます。特に1トップのFW、伊佐耕平選手は、最前線で相手選手を追いかけ、連動したトリニータのプレスのスイッチを入れる大事な役目を担います。ボールを持った相手を懸命に追う伊佐選手の動きにも注目です!   下平隆宏監督は試合2日前の取材で「去年のプレーオフの時に比べると、今季開幕から継続している“前線からのプレス”と“攻撃の組み立て“は質が上がっている」と手ごたえ十分でした。また、前節の金沢戦は勝ったものの、失点が3だったことを重く受け止めていて、守備の徹底をもう一度意識づけして熊本戦に臨むとのことです。   解説は、片野坂知宏さん(大分トリニータ前監督)と、巻誠一郎さん(元日本代表FW、ロアッソ熊本で5年間プレー)という豪華な2人です。キックオフは午後3時。両チームの意地がぶつかり合う”九州ダービー”、是非ご覧ください。

執筆者 西岡遼
2023年05月11日 (木)

甘くてシャキシャキ 杵築のスナップエンドウ

県内では、杵築市を中心に生産されているスナップエンドウ。さやごと食べられる手軽さと甘さが人気です。杵築市では平成14年から生産が始まり、生産量を増やしてきました。 旬の時期に生産者のもとを訪ねて、おいしい食べ方を教わってきました。   関西や福岡で人気! シャキシャキして甘い、スナップエンドウ。県内一の産地・杵築市では、年間およそ120トンを生産しています。   生産を始めて7年目の大村哲弥さんです。合わせて20aの農業用ハウスでスナップエンドウを栽培しています。杵築のスナップエンドウの魅力とは? (大村哲弥さん) 「ハウス栽培が多い杵築では、実の太りもけっこう大きいので、おいしい豆ができていると思います。ことしは、非常にいい出来になっていると思います」 品質の高さが人気を集め、全体のおよそ9割を関西や福岡など県外に出荷しています。その人気の秘密は、収穫作業にありました。 スナップエンドウは傷がつきやすいため、ひとつひとつ丁寧に収穫していきます。期間中、多い年ではおよそ70万本収穫し、出荷に向けた作業を夫婦で手分けして行っています。 (大村哲弥さん) 「妻もけんしょう炎になったり、けっこう大変な目に遭わせていますけど、手をかければかけた分、いいものができるので、それを収穫した時はうれしいです」   燃料費高騰で、ハウスみかんからスナップエンドウへ 大村さんのこの農業用ハウス、かつては、みかんを栽培していました。杵築市では、昔からハウスみかんの生産がさかんで、県内一の生産量を誇ります。しかし、燃料費高騰で収益が圧迫され、21年前から、寒さに強いスナップエンドウに切り替える農家が出てきました。大村さんは6年前、自動車関連の仕事を辞めて、両親のみかん用のハウスを引き継ぎ、スナップエンドウ栽培を始めました。大村さんによりますと、栽培にかかる燃料費は、みかんと比べて6分の1以下で済むということです。 (大村哲弥さん) 「自分が生まれ育った近所にも空きハウスがあったので、そういうのを見ると寂しくなってしまう。スナップエンドウは冬場の作物ですが、あまり油を焚かない作物なので、誰か参入する人でもいたら、できるだけ紹介して、スナップエンドウなどで空きハウスをなくしていきたいなと思います」   生産農家のおすすめ!スナップエンドウの調理法 大村さんおすすめの食べ方がこちらです。 白だしあえと、ベーコン巻きです。まず白だしあえの作り方です。 最初に塩ゆでします。ゆで時間は2分。それ以上ゆでると、しんなりしすぎてしまいます。それを焦げ目がつくくらいに炒めて、薄めた白だしにつけるだけです。 かつおぶしをかけると、さらにおいしくなります。スナップエンドウの甘さとだしのうまみが調和したおいしさが、口の中に広がります。 続いては、ベーコン巻きです。塩ゆでしたスナップエンドウにベーコンを巻いて、塩こしょうで焼くだけです。こちらも簡単に調理できます。まずベーコンとスナップエンドウのシャキシャキの食感から始まり、そこからスナップエンドウの甘さがやってくる、2段階でおいしい料理です。 (大村哲弥さん) 「スナップエンドウは、どんな料理を作っても合うと思うので、新たな料理を色々作ってもらって、楽しんでもらえたらいいかなと思います」

執筆者 戸部眞輔
2023年05月08日 (月)

参院補選 厳重警備の8日間

  与野党一騎打ちの激戦区として全国から注目を集めた参議院大分選挙区の補欠選挙。選挙期間中、与野党の幹部たちが応援のため続々と大分に入る中、岸田総理大臣が遊説先の和歌山市で爆発物が投げ込まれる事件が発生。その後、投票日までの8日間、警察は厳重な警備態勢で警戒にあたり、演説会場は独特の緊張感に包まれました。取材した記者が見た、もうひとつの選挙戦リポートです。  激しい選挙戦の中で…今月6日に告示された参議院大分選挙区の補欠選挙では、与野党の幹部たちが相次いで大分に応援に入り、熱を帯びた選挙戦が繰り広げられました。そうした中、今月15日。和歌山市で選挙の応援演説に訪れていた岸田総理大臣の近くに爆発物が投げ込まれる事件が発生しました。事件に両陣営だけでなく、警察関係者の間にも衝撃が走りました。というのも、翌日には岸田総理大臣が選挙の応援で大分入りする予定だったのです。安倍元総理大臣が銃撃され亡くなった事件からおよそ9か月。民主主義の根幹といえる選挙戦のさなかに、再び暴力が行使された事態にこの日、ある捜査関係者は緊張した表情でこう話しました。 「もう2度と事件を起こさせてはいけない。警備態勢を強化して臨む」  岸田総理大臣来県 展開された厳重警備 和歌山での事件の翌日、岸田総理大臣は予定どおり大分に入り、最初にJR別府駅前で演説を行いました。警備態勢は襲撃する側に手の内を明かすことになってしまうため、明らかになるものではありません。しかし私が見た範囲では別府駅周辺では100人以上の警察官が警戒の目を光らせていたと思います。リュックサックを背負いながら取材にあたろうとしていたところ、合わせて3回、職務質問と手荷物検査を受けました。現場では聴衆ひとりひとりに徹底したチェックが行われていました。警察官の表情からも緊張感がうかがえました。   別府駅前での演説を終え、岸田総理大臣が次に向かったのは佐伯市の青果市場でした。現場近くの建物の屋上にはカメラを設置した上で、双眼鏡で警戒をする警察官の姿がありました。 ここでも徹底して行われたのが職務質問と手荷物検査。また、陣営が独自に検査を済ませた人の胸付近に丸い黄色のシールが貼ったほか、ペットボトルの持ち込みも禁止しました。  そして、岸田総理大臣が最後に演説したのが大分市中心部の商店街でした。商店街の会場には地面が見えないほど聴衆が集まっていました。するとふだんではありえない光景が…。よく見ると飲食店が入る建物の2階で警察官が警戒している様子が確認できました。後日、取材するとフロアを貸し切って、全体が見える場所から警戒にあたっていたそうです。この日、岸田総理大臣が午後6時すぎの飛行機で大分空港から離れるまで一度も緊張感が途切れることなく警戒の取材が続きました。 和歌山の事件を受けて、岸田総理大臣だけではなく与野党の幹部たちが訪れる演説会場では、厳重な警戒態勢が展開されました。立憲民主党の泉代表が佐伯市の商業施設で演説した際も、人が近づかないよう周囲はポールで仕切りが設けられ、演説者の前には防弾パネル、後ろには選挙カーを止めて背後を守りました。岸田総理大臣は投票日の前日も再び大分に入りましたが、厳重な警備のもと、何事もなく、もうひとつの選挙戦は幕を閉じました。   1年もたたないうちに、選挙という舞台で総理大臣経験者と現職の総理大臣が相次いで襲われた事態。投票日翌日、ある捜査関係者はこう話しました。「選挙の応援に駆けつける政治家、そして候補者、関係者、さらに有権者が政治に触れる、選挙の候補者を知ろうという現場の安全をいかにして守っていくか。我々、警察組織の大きな課題だ」

執筆者 中野 克哉記者
2023年04月29日 (土)

背番号10の覚悟

                                                   今シーズン開幕ダッシュに成功したトリニータ。開幕10試合にすべてスタメン出場し、攻守ともにチームをけん引しているのが背番号10・野村直輝選手です。ここまでの戦いぶりや見えてきた課題、そして初めてメディアで話したというトリニータへの思いを語ってくれました。    不安一掃の開幕ダッシュ去年はJ1昇格につながるプレーオフに進出するも1回戦で敗退したトリニータ。チームの主力選手もライバルチームに相次いで移籍しました。在籍4年目のエース、野村選手でさえも今シーズンの開幕前は不安だったそうですがチームは開幕戦、徳島ヴォルティスに勝利してから快進撃を続け、上位をキープしています。 (野村選手)今シーズンは、いろんな選手が入れ替わったところから始まって、どういうチームになっていくのかなと不安な部分がすごく大きかったんですが、思ったよりも結果も出てますし、選手のプレーの質の部分だけじゃない大切さを改めて感じている10試合です」  好調の要因はコミュニケーション今シーズンは選手同士が試合中に意識的にコミュニケーションを行っていることが、チームの好調につながっていると野村選手は強調します。  (野村選手)監督はじめ、スタッフの皆さんがある程度選手に戦術であったり、ピッチの中での変化を委ねてくれる。ある程度余白を残してやらせてくれている分、自分たちで相手を見てどうやらなきゃいけないかというコミュニケーションを多くとっています。僕は決めつけられるっていうのはあまり好ましくなくて、やらされた仕事じゃなくて一緒に作っていくというか、自分たちから動いて作ったゴールであったりみんなで守れたりだとかの方が自分たちも気持ちいい。監督たちとよりいいコミュニケーションが取れていい循環が生まれています。それと勝ち負けだけじゃなくて、そこまでのプロセスだったり、どういった思いで試合に臨まなきゃいけないかとか、そういった組織にどんどんなっていっている手ごたえもあります。そこが今の大分のストロングポイントかなと思います  完敗から見えた課題 それでも… 一方、課題も見えてきたといいます。野村選手が印象に残っているという4月16日の町田戦。注目の頂上決戦は、試合前から警戒していたというセットプレーで先制を許し、その後、自陣でのパスミスが続くなど上手く試合を組み立てることができませんでした。結果は1対3の完敗。しかし、その負けも野村選手はリーグ戦前半で修正点を明確にできて良かったと前向きに捉えています。  (野村選手)ことし取り組んできているハイプレスだとかうまく回避された試合で自分たちの弱さというか、穴みたいなところを突いていかれた感じがして。お互い疲労度がある中でのゲームの運び方とセットプレーの重要性を改めて感じさせられる試合でした。たまに相手も分析してきて、僕らの足を止めるようなボールの回し方だったり、ポジショニングを取ってくる。対策されても『へっちゃらだよ』っていうぐらいのものを見せられれば、このままいいペースで勝ち点を積み上げていけるかなと思います  ファン・サポーターへの思い 長いシーズンを戦い抜く上でやはりかかせないのがファン・サポーターの存在。どんなときもチームを後押ししてくれる人へ、感謝の気持ちを忘れません。 (野村選手)ことしは特に一緒に戦っているっていう感じがするんですよ。ずっと鼓舞するような応援をしてくれて、ピッチの中に仲間が増えるような感覚があって。あとはラスト10分ですかね、自分のコールがかかるとちょっと走れたりするんですよ。より多くの方に声出して手をたたいて応援してもらえたら僕らもパワーになりますね。  副キャプテンとして自分に何ができるか そして、出場メンバーが代わっても戦力が落ちないチーム力が大切だという野村選手。副キャプテンとして、いかにチームを成長させていくか考える日々です。 (野村選手)できるだけみんなの思いを繋げる存在でありたいなとずっと思っていて。やっぱり結果が一番最初にきてしまう世界ですけど、そこだけじゃなくてできるだけ思いの部分をみんな共有しながら若い選手からベテランの選手、スタッフ、サポーターの皆さんとできるだけ思いを大切にするクラブや組織でありたいです。そういった思いの部分を大切にしてプレーする選手はどんどん増えてきていますね インタビューをしたこの日、野村選手が真剣なまなざしで話したのがチームへの思いでした。公開練習や試合後の取材でも、必ず口にするのがチームメイトのこと。いったいなぜなのか。厳しいプロの世界で生き残るために自分の成長のみにフォーカスする選手がいる中で、野村選手は一人ひとりの選手と思いを共有して「個」ではなく「チーム」として成長していくことが、J1昇格へのカギだと考えているからです。 (野村選手)プロの世界に入ってみると意外とイメージと違うことが多かったんです。自分のために、自分が生き残るためにやるっていう姿勢のところに学生の頃とのギャップを感じて、ちょっと寂しい組織だな、寂しい世界なのかなって思ったときもあったりしました。今、僕はチームで歳も上の方で自分のことだけやっておけばいいんですけど、それだけじゃ本当の自分が満足しないというか。選ばれた18人だけじゃなくて、チームみんなの力があってトリニータが動いているっていうのも理解したうえでメンバー外の選手とかも一生懸命やっている選手は自分の目に残るんですよね。自分も出られないときは悔しかったから筋トレとかいろんなことをするんですけど、そういった選手の思いも大事にしたいし、僕のエネルギーにもなる。もし、けがとかでメンバーが代わったりした時に、そういった選手が活躍すると思うし、チームの調子が悪いときに助けになったり、今までそういうことを見てきたこともあったんですよね 野村選手の「仲間一人ひとりの思いを大切にしたい」という言葉の裏にはこういった強い思いが込められていたのです。   必ずJ1昇格を果たす…今シーズン並々ならぬ決意で戦い抜く覚悟です。 (野村選手)ぶっちゃけた話、ことし自分をうまく表現できなかったらもう(トリニータに)いるべきじゃないなって思っていて。そういう覚悟でやっているので。選手としてもそうですけど野村直輝としてチームにどう貢献できるか。ピッチ上だけじゃないところでも何か残したい気持ちがあります。何もできないまま出ていくのも男としてどうかなというのもあったりして、難しいところではあるんですけどこの世界。それでも、ことしはそういったことを含めた1年にしたいと思っています。そして、『ことし1年間この組織でサッカーしてよかった。仕事してよかった』ってできるだけ多くの選手やスタッフ、サポーター、トリニータに関わるすべての人たちが1人でも多く『ことし携わってよかった』って思ってもらえるようなシーズンにしたいっていうのが僕の夢であり目標というか、昇格したときに泣くじゃないですけど、そういうのをイメージしていますね      

執筆者 川又 優キャスター
2023年04月28日 (金)

津波浸水想定エリアの保育施設 見えた課題

この春、新しく保育園や幼稚園に通うお子さんも多いと思います。通い先が、もし津波の浸水が予想される地域だったら…そう考えたことはありますか。 「避難のときに十分な人手があるのか」「浸水の深さを正しく認識できているのか」大分県内で浸水想定区域にある保育園などを取材すると、いくつもの課題があることが分かりました。 取材で見えてきた、不安を抱える現場の声とその背景にある課題。あなたの地域にある保育施設も、周囲の手助けを必要としているかもしれません。 浸水エリアにはどのぐらいの子どもが? 独自に取材 今回、NHK大分放送局では「津波から子どもたちの命を守れるのか」をテーマに取材を始めました。まず行ったのは、県が公表している津波の浸水想定区域にどれだけの保育園や幼稚園などがあるのかを独自に調べることです。 (画像:浸水想定エリア内の保育施設を赤いピンで表示) 調べた結果、浸水想定エリアには少なくとも96の保育施設があり、6000人余りの子どもが通うことが明らかに。また、施設のおよそ6割が大分市に集中していることも分かりました。 保育施設にアンケート 約半数が“避難に不安”  これらの施設に対して、ことし1月から2月にかけてアンケートを行い、85%にあたる82施設から回答を得ました。  この中で「津波が到達するまでに子どもたち全員が安全に避難できるか」を聞いたところ、「できる」が43施設(52%)と半数以上を占めた一方で、「不安がある」も37施設(45%)にのぼりました。 「困難」や「不可能」も合わせると39施設(48%)。実に半数近くです。 ただ、回答した施設のほぼすべてが、津波の避難計画や避難マニュアルを「作成している」と回答。さらに避難訓練を「毎年行っている」と答えていました。(アンケートの詳しい結果は、この記事の最後に掲載) 東日本大震災以降、津波に対しては各地で対策が進められてきました。にもかかわらず、なぜ保育現場の不安が拭いきれないのでしょうか。  「不安がいっぱい」大分市の保育園では… 不安を抱えている施設の1つを取材すると、その理由が見えてきました。取材したのは0歳から5歳まで100人余りの子どもが通う、大分市の「じょうとうこども園」です。このこども園は津波で4メートル以上浸水する想定で、浸水区域の外にあるおよそ1キロ先の中学校を避難場所にしています。毎年行っている避難訓練では30分以内で到着できていると言います。 (画像:じょうとうこども園の周辺の地図と、避難先の城東中学校までの避難ルート) しかし、現場の保育士は次のように訴えます。 「実際に津波が来たら、園までどのぐらいの時間で到達するのか分からない。それまでにスムーズに避難できるのか、子どもたち全員を果たして避難先まで連れて行くことができるのかどうかと聞かれると、不安要素がいっぱいです」(主幹保育教諭・長久寺真美さん) 不安の大部分を占めるのは「実際の避難にどれだけ時間がかかるのか」ということです。 訓練の様子を再現してもらうと、幼い子どもたちの避難は大人のようにはいかず、大変であることがよく分かりました。まず避難を始める前に、まだ歩けない0歳や1歳の子どもは保育士が靴をはかせた後、1人ずつ抱き上げて避難用のカートに乗せます。 カートは2人ひと組で押しますが、1台で運べるのは子ども4人から5人まで。重さに加え、安全を考えると走って押すことはできません。カートに乗せきれない子どもは、だっこやおんぶで運びます。自分で歩ける子も、もし途中で疲れてきたら、抱えて避難しなくてはいけません。 保育士が運ぶのは子どもたち自身だけではありません。紙おむつや着替え、お尻ふきなどを詰め込んだバッグも背負って避難します。 こうした困難に加え、「実際には訓練どおりにはいかない」という問題もあります。訓練の日は28人の職員がほぼ全員出勤し、準備をした上で臨んでいますが、取材したこの日に出勤していたのは20人。もし不意に“本番”が来たときに、100人の子どもたちを訓練と同じようにスムーズに避難させることができるのか…。確信を持てないと言うのが現場の本音でした。 「子どもたちを、そのときにいる人数の職員できちんと避難させることができるのか。災害がもし本当に起きたときを考えると、心配がついて回るというのが実際のところです」(主幹保育教諭・長久寺真美さん) どこに逃げれば… 近くの高いビルに避難できないケースも 取材では、東日本震災を教訓に進められてきた避難対策が十分に機能していない、そんな現実も見えてきました。 「津波避難ビル」の活用の難しさです。 「津波避難ビル」は、避難が間に合わない場合に備え、一定の高さや頑丈さがあるマンションなどを指定するものです。県内でも指定が進められていて、じょうとうこども園から300メートル余りのところにも津波避難ビルがあります。 ここに逃げ込めれば、避難の時間は大幅に短縮できるはずですが…。 「大きいマンションなどは玄関がオートロックになっているので、避難するのはなかなか難しいです。また、子どもたちが集まるとマンションに住む人たちのご迷惑になると思うので、ふだんから訓練を行うというのもできないと思っています」(主幹保育教諭・長久寺真美さん) 津波避難ビルへの避難をためらう施設は多く、アンケートで「避難先にしている」と回答した施設は8か所にとどまりました。 さらに、より深刻な課題を訴える声も見受けられました。「避難の依頼をしたが、住民しか使えないと言われた」「アパートの管理会社から断られ、これまでしていた避難訓練を取りやめた」 近くにあっても逃げ込めず、より遠い避難場所に向かわざるを得ないという施設が相次いでいたのです。 浸水の深さ 正しく伝わっていない実態も明らかに アンケートから見えた課題はこれだけにとどまりません。「施設は津波で何メートル浸水する想定か」と尋ねたところ、33%にあたる27施設が県が公表している浸水想定より低く回答しました。 県の浸水想定が最大5メートルに対して、「2メートルの浸水想定」と認識し、「施設の2階に避難する」と回答したケースもありました。避難対策の前提となる情報が正しく認識されていない状況だったのです。 なぜ、浸水の深さを低く認識している施設が多数あるのか。取材を進めると、その理由が「ハザードマップの表示のしかた」にあることが分かってきました。 (画像:左側が県の浸水想定、右側が大分市の津波のハザードマップ)※取材時のもの 画像の左半分、赤やピンクで塗られている大分市中心部の地図は、県の浸水想定です。こちらはJR大分駅付近まで浸水を示す色が塗られています。一方で、緑や青で塗られている大分市の津波のハザードマップでは、浸水想定エリアが県の想定より狭く、駅の近くは白のままです。  この違いが生じた背景には、異なる複数の地震で津波が想定されていることがあります。 県はそれら複数の想定を総合した「最大の浸水想定」を掲載。大分市のハザードマップは、最大の想定ではない「南海トラフの巨大地震による浸水想定」です。より高い津波が想定される「別府湾を震源とする地震」は、最終的な到達ラインが赤い線で書かれているのみだったのです。 県の浸水想定より浸水想定の深さを低く認識していた施設の8割近い21施設は大分市内にありました。こうした施設に取材したところ、「ハザードマップの色分けをもとに浸水の深さを確認した」と返答があり、別府湾地震の浸水想定を示す赤い線については「初めて知った」と話し、そもそも認識していませんでした。 どう解決していく? キーワードは「地域と一緒に」 これだけ多くの課題を抱えて、津波から子どもたちの命を守り切れるのか。 子どもの防災に詳しい専門家は「非常に深刻な問題がある」と強く警鐘を鳴らします。 「まず、浸水想定を誤解しているということは、日頃の避難訓練の想定とは違うレベルの津波が来るおそれがあるわけで、結果的に子どもの命を守れないことになりかねない。行政がハザードマップの読み方をレクチャーするなど、事態をいち早く解決してほしい」(危機管理アドバイザー・国崎信江さん) 不安の解消や、津波避難ビルの活用については、「地域と一緒に解決する」ことが不可欠だと指摘します。 「不安を抱えている保育施設がこれだけ多い現状を、そのまま見過ごしてしまってはいけない。施設の職員だけでは手が足りないのが保育の現場の実情なので、幼い子どもを避難させる大変さを地域の人たちに理解してもらい、行政や地域の皆さんと一緒になって、1つ1つ課題を解消していただきたい」 取材を終えて 保育園などではふだん、どういうふうに避難訓練をしているのか。今回、取材で実際に見せていただくことで、多くの子どもたちを避難させることは想像以上に大変だと感じました。 そのうえで、東日本大震災の発生から12年の間、津波対策を進めてきたものの、自信を持って「子どもたちの命を守れる」と言えない施設が多くある実情が、アンケートに現れたのだと思います。  津波からの避難は、避難にかかる時間をいかに短くできるかが鍵になります。しかし、施設側の努力だけでは限界があり、地域全体で支えることが重要です。 「 誰かに助けを求めたい、でもどうすればいいか分からない」そんな保育施設の人たちを取り残さないためにも、行政が園と地域をつなぐ役割を果たすなどの支援が必要だと強く感じました。   アンケートの詳しい結果はこちら 対象施設:大分市、別府市、佐伯市などにある幼稚園や保育園、こども園など 計96か所 回答数:82か所(回答率 85.4%) ▼質問:大分県が公表している津波浸水想定で、施設は何メートル浸水する想定ですか 「0.3m未満」:3施設(3.7%) 「0.3m~1m」:13施設(15.9%) 「1m~2m」:17施設(20.7%) 「2m~3m」:22施設(26.8%) 「3m~4m」:5施設(6.1%) 「4m~5m」:10施設(12.2%) 「5m~10m」:1施設(1.2%) 「10m以上」:1施設(1.2%) 「わからない」:7施設(8.5%) 回答なし:3施設(3.7%)   ▼質問:津波のおそれがある場合の避難先はどこですか 「自治体が指定している避難場所」:38施設(46.3%) 「自治体が指定している津波避難ビル」:8施設(9.8%) 「独自に決めた避難場所やビル」:23施設(28.0%) 「施設の高層階や屋上」:11施設(13.4%) 「その他」:2施設(2.4%) 「決めていない」:0施設(0.0%)   ▼質問:津波の到達が予想される時間内に、子どもたち全員が安全に避難できますか 「安全に避難できる」:43施設(52.4%) 「安全に避難できるか不安がある」:37施設(45.1%) 「安全に避難することは困難」:1施設(1.2%) 「安全に避難することは不可能」:1施設(1.2%)   ▼質問:津波を想定した避難訓練を行っていますか 「毎年、複数回行っている」:59施設(72.0%) 「毎年、1回程度行っている」:22施設(26.8%) 「過去に行ったことがある」:0施設 「行ったことはない」:1施設(1.2%)   ▼質問:津波についての避難計画や避難マニュアルを作成していますか 「作成している」:79施設(96.3%) 「作成途中・具体的に作成する予定がある」:2施設(2.4%) 「作成していない」:1施設(1.2%)

執筆者 津波避難プロジェクト 取材班
2023年04月04日 (火)

"激ムズ"!!高崎山自然動物園のサル博士検定

アナウンサーの飯尾夏帆です。大分に来て4年。ずっと取材したかった場所がありました。それは、野生のサルを餌付けしている全国でも珍しい動物園、「高崎山自然動物園」。小学生の時、家族旅行で訪れて以来、大好きな場所です。    ※小学3年生の飯尾。当時はサルがちょっぴり怖くてソーシャルディスタンス… (1)幻の激ムズ検定、復活!その「高崎山自然動物園」は、今月(2023年3月)で開園70周年。それを前に、今年1月、幻の検定が復活しました。その名も、「高崎山サル博士(はかせ)検定」。試験は「筆記試験」と「実地試験」があります。「筆記試験」は、1問2点、計40問で80点。「実地試験」は、1問10点で、計2問。合計100点満点です。 90点以上取ることが出来れば「高崎山サル博士(はかせ)」に認定されるんです。かつて2006年から3回実施されたものの、これまで「博士」になった人はいません。なぜかというと・・・それは難しすぎるから!  (2)博士を出したい!初の“受験対策講座”が開かれたそこで、今回初めて、受験対策の事前講義が開かれました。まずは、筆記試験対策。2時間ほどかけて、高崎山の歴史やニホンザルの特徴を学びました。続いては、実地試験対策。実地試験は、制限時間20分で、指定されたサルを2頭探すというもの。なんと、1000頭近くいるサルを見分けなければならないのです。無謀…だと思いますよね?そこで開かれたのが、「サルの見分け方講座」です。  教えてくれたのは、試験官の下村忠俊(しもむら・ただとし)さん。下村さんは、一目見ただけでサルを見分けられる“敏腕ガイド”です。(下村さん)「あのサルは『オオムギ』って言います。5番目にえらいサル。このサルには入れ墨が入っています。鼻の上と、下にもありますね。」 黄色い丸の中、黒や青色をしているところが、個体を識別するために入れられた「入れ墨」。入っている場所や色が1頭1頭違うんです。こうした見分けるポイントを教わりましたが、そうはいっても、1000頭近くいる中から2頭を探し当てるのは至難の業。どうしてこれほど難しい問題を出すのか?そこには、サルをじっくり見てほしいという下村さんの思いがありました。(下村さん)「高崎山はニホンザルしかいない。でも本当は顔が違うし個性がある。1頭1頭の個性を見てもらいたいので、識別を1番のポイントに持ってきている。」 (3)全国からサルマニアが集結!高崎山サル博士の称号を狙うべく、全国各地から35人の“猛者”が集結しました。さあ、ここからは、個性豊かな受験者たちをご紹介します。 まずは、福岡県から参加した、西竹さんご一家。父の伸一さんが大分に赴任していた5年間に家族で何度も高崎山に通ったそう。高崎山は家族にとって大切な場所になっています。 (父・西竹伸一さん)「娘と2人で来たり、家族で来たり。高崎山に行く時は前の日から楽しみです。」(母・西竹幸呼さん)「1番のコミュニケーションをとる時間」 (娘・西竹栞さん)「3人で話すことはあんまり無いので、そういう面でいったらいいのかな。」 受験勉強は、家族ワンチーム。事前講義で教わったことを、互いにクイズで出し合いました。  ②  仲良しだけどライバル?!隅田さんご夫妻家族での参加はほかにも。 熊本から参加した、隅田翔太さんと亜紀さんご夫妻です。高崎山が好きすぎて、大分で転職できないか本気で考えているほどの高崎山ファン。共通の趣味が「高崎山」。子どもの手が離れた今は、もっぱら2人で高崎山デートしているそう。熊本から高崎山へのドライブは、ナビなしでも運転できるようになったといいます。ただ、夫の翔太さん。事前講義の際のインタビューでは、こんなことを話していました。(夫・翔太さん)「ライバルです。一緒には勉強しない。」(妻・亜紀さん)「私がたくさん質問するのが嫌なのかも?別々に勉強します。」 といいつつ…受験勉強の途中経過を取材すると、2人で勉強する写真が送られてきました。受験期間中に迎えた亜紀さんの誕生日にも、2人で高崎山デートしたそうですよ。ライバルだけど、やっぱり仲良し。夫婦愛でサル検定に臨みます。  ③  カメラ片手に全国行脚“撮りサル”の喜熨斗さん他にもアツい思いを持った人がいます。 事前講義の2日前。カメラを片手にサルを見つめる男性。神奈川県在住の喜熨斗健弘(きのし・たけひろ)さんです。事前講義の日は仕事があり、自習するために別の日にやってきました。喜熨斗さんは、休みの度に全国各地にサルを見に行き写真を撮る、ニホンザル愛好家。コロナ禍でステイホームが続き、人との関わりが薄れる中でたどりついたのがサルの動画だったといいます。 (喜熨斗さん)「自分の中で、猿と言う字を書いて猿分(えんぶん)補給。次の日からの仕事の活力になる。とにかく癒しをもらっています。」  ④  推しサル“マルオ”のために移住 袖澤さん最後は、こちらの女性。おやおや?バッグにサルの写真…? バッグとスマホケースに印刷されているのは、高崎山でも人気のサル『マルオ』。(マルオは穏やかな性格で、観光客とツーショットが撮れると話題のサルなんですよ! 皆さんもツーショットの撮影に挑戦してみてくださいね!)これ、自作なんだそうです。袖澤こずえさんは、コロナ禍であまり高崎山に来られなくなったことを機に、なんと横浜に家族を置いて、大分に移住したという根っからのマルオの大ファンです。  ⑤  高崎山愛を試したい!飯尾も挑戦実は私も・・・・本気でサル博士検定に挑戦しました! 仕事終わりに、大学受験以来の猛勉強。事前講義で習った内容をノートにまとめ、赤い下敷きで、赤字で書いたキーワードを隠しながら受験対策しました。 (4)いよいよ検定本番!そして迎えた1月14日。大学入学共通テストが行われた日、高崎山でも検定試験が行われました。 まずは、筆記試験。高崎山の歴史や、ニホンザルの特徴などの4択問題、40問が出されました。例えば、こんな問題です!皆さん、考えてみてください! 【問】メスザル『サヤカ』が、息子『ゲンキ』を生んだ年齢と日付は? 【選択肢】①10歳の時、6月9日に産みました ②11歳の時、6月10日③12歳の時、6月11日 ④13歳の時、6月12日 さあ、どれでしょう?  …どうです?なかなかの難問ですよね。ちなみに正解は④。私はこの問題間違えました…。 90分間、こうした筆記問題を解き終えた後は、サルを見分ける「実地試験」です。この日姿を現したB群・約700頭の中から、指定された2頭を探します。制限時間は、なんと20分しかありません!さらに、一度でも間違うと点は与えられないというシビアな試験です。  私が探すのはこの2頭。オスの「ハジメ」と、メスの「フウケイ」というサルです。 検定に向けて、週1回は高崎山に通い、ひたすらサルの名前を覚えた私。B群のNo.1からNo.12までは見分けられるようになっていました。「ハジメ」も覚えたうちの1頭。高崎山1のおじいちゃんで、足取りがゆっくりなんです。そして、実地試験開始からわずか1分!ハジメと思わしきサルを発見。 これだと思ったサルをスマホなどで撮影しなければならないのですが… (飯尾)「全然止まってくれない。きゃー!ごめんなさい!怒られちゃった!」写真を撮るために、サルと目を合わせてしまい、飛びかかられてしまいました。高崎山のサルは普段はおとなしく、子どもでも安心して楽しめるのですが、目を合わせるのは要注意です!検定に夢中になりすぎて、サルに申し訳ないことをしてしまいました…。 そうこうしているうちに20分経過。「ハジメ」と「フウケイ」だと思った写真を撮りました。 撮影した写真は、試験官の下村さんに判定してもらいます。(飯尾)「まずハジメなんですけれど、どうでしょうか?」(下村さん)「正解です。」(飯尾)「本当ですか?やった~!でも次が自信ないんですけど、フウケイはどうでしょう…?」(下村さん)「残念です。飯尾さんが撮影したのはハキというサルですね」 私は、実地試験、2問中1問正解しました。10点獲得です。  (5)結果発表?初の博士は出たのか?!検定の結果は、後日、郵送で送られてきました。90点以上が「高崎山サル博士」80点以上が「高崎山サル修士」70点以上が「高崎山サル学士」60点以上が「高崎山サル研究生」です。 さきほど紹介したみなさんの結果は、こうなりました。 高崎山が家族の団らんの場になっている、西竹さんご一家。父・伸一さんは70点で「学士」、母・幸呼さんは60点で「研究生」でした。検定を通して、高崎山への愛が深まったといいます。(母・幸呼さん)「こんなにサルの勉強したのも、こんなにサルの顔を真剣に見たのも初めてでした。 これまでは夫に連れてこられていたけど、次からは私からみんなを誘いたくなるかも。」(父・伸一さん)「来るときはもちろん家族で。今回検定に来られなかった息子と合わせて4人で行きたい。」 高崎山デートを重ねる隅田さんご夫妻。夫・翔太さんは68点で「研究生」、妻・亜紀さんは72点で「学士」でした。 全国のサルを撮影している喜熨斗さんは、74点で「学士」。検定後に電話でお話を伺うと、「今度珍しいサルを見るために海外旅行に行く」との報告が。この検定を通して、サル愛がさらに深まったといいます。 高崎山でも人気のサル『マルオ』が好きすぎて大分に移住した袖澤さん。なんとサルの見分けは2問とも正解。合計82点で「修士」に認定されました!  (袖澤さん)「今まではマルオしか追いかけていなかったのが、色んな子が分かるようになって面白かったですし、高崎山の歴史もそうですし、勉強すれば面白いかもと。また楽しいことを見つけたなと思いました。」 そして、前人未到の博士は…今回…なんと…出ました!!!!!別府市在住の50代男性で、数年前にふらっと高崎山に立ち寄ったことをきっかけにその魅力にはまり、それ以来、週2~3回通い続けている常連さんです。初の”博士”は「一生かけて高崎山の全部のサルの名前を覚えたい」と話していました。  博士が出たことについて、試験問題を作成したガイドの下村さんに話を聞きました。(下村さん)「初めて博士が誕生したことに祝福したい気持ちと、手に届きそうで届かない称号であってほしかったという気持ちの両方があります。それでも30人以上の受験があった中での1人ですので、本当に努力されたのだと思います。祝福の気持ちでいっぱいです。」  3月26日(日)に行われる70周年記念式典で「高崎山サル博士」の表彰が行われる予定です。小学生の頃に訪れた大好きな「高崎山自然動物園」。検定期間中何度も訪れる中で、1頭1頭の表情やしぐさの違いが分かるようになりました。「いつもストーブの前にいるなあ」とか、「きょうも毛並みがきれいだなあ」とか…1頭1頭に愛着が湧いてきて、高崎山のディープな魅力にはまってしまいました。大分を離れても、ずっと見守っていたいです。

執筆者 飯尾 夏帆アナウンサー
2023年03月24日 (金)

自分らしく生きる トランスジェンダー・倉堀翔さんの思い

                                                                                  「嘘をつかずに生きていれば、こんなにも素晴らしい人生を歩むことができますということを、私の人生が証明している」去年(2022年)1年間の中で、私が最も心を打たれた言葉です。お話を伺ったのは、倉堀翔(くらほり・しょう)さん(35[)。大分市出身のクラリネット奏者です。別府アルゲリッチ音楽祭若手演奏家コンサートなど、県内各地でコンサートの依頼が相次ぐ、いま注目の若手演奏家です。倉堀さんは、「出生時に割り当てられた性別」と、「性自認(自分の性別をどう認識しているか)」が異なる“トランスジェンダー”。出生時に割り当てられた性別は、男性。11年前から 女性として生きています。ただ、そう決めるまでにはさまざまな困難がありました。自分らしく生きる倉堀さんに、その思いを聞きました。 (1) 自分の“性”に違和感を覚えた少年時代   倉堀さんが自分の性に違和感を覚えはじめたのは、保育園のとき。男の子用の青色の上着を着せられるたびに、泣いていたといいます。 成長するに従い男女の区別をしっかりつけられるようになると、違和感は、自分が女性だという意識にはっきりと形を変えました。 (倉堀さん)制服(学ラン)に関してはどうしても許せないというか、私は男じゃないっていう芽生えがそこで出てきました。(飯尾)同級生からからかわれり、嫌なことを言われたりした経験はありましたか?(倉堀さん)あります。いっぱい。オカマは日常茶飯事。ショックだったのは、友達の親御さんから、「お前はそんなやつと仲いいのか、家に来ることも許されない」とか、「遊びに来るな」みたいな。生きているだけで批判されるんですよ。普通に生きているだけだと思っていることが、周りと違うことで、批判されて面白がられて…。 (2) クラリネットと恩師との運命の出会い 「音楽は平等」そうした辛さを忘れようと打ち込んだのが、クラリネットでした。そのクラリネットは、人生を変える出会いを連れてきてくれました。 山本勝彦(やまもと・かつひこ)さん。倉堀さんが通っていた大分雄城台高校で吹奏楽を教えていました。バイオリン奏者としても活動していた山本先生の指導は、音楽に対して一切妥協のないものでした。 (倉堀さん)「音楽をする芸術家は絶対に差別はしてはならないし、音はみんな平等です」と。楽器の奏者として成長するのではなくて人として成長してくださいっていうのを、直接言われたわけじゃないけどそこを私は感じ取れたんですよね。  指導を受け始めてから半年が経ったある日。倉堀さんは山本先生に「文化祭で演奏に合わせてダンスを披露してほしい」と声をかけられました。 文化祭の様子 (水色の服を着ているのが倉堀さん、白いタキシードが山本先生)  倉堀さんは、200人ほどの生徒が見守る中、その大役をやり遂げました。その時に山本先生にかけられた言葉が忘れられないと言います。 (倉堀さん)「君はキャラクターが素晴らしい。個性に満ち溢れているから人を幸せにできる」と言われて。普通の人だったら「恥ずかしい」「嫌です」となったと思うんですけど、私はすごく嬉しくて、私を1人の人としてちゃんと個性を認めてくれて、見てくれているんだということが分かる場面だったんですよね。 個性を認めてくれた山本先生。しかし、その別れは突然でした。倉堀さんが2年生の冬、病気でこの世を去ったのです。 (倉堀さん)私も、誰からも尊敬されて慕われて一緒に音楽ができる先生になれたらなっていう夢も与えてくれた。過ごした年数は1年ちょっとしかないんですけど、一生大切になるようなことを教わったなと思います。  (3) 憧れの教師の道へ その時、偽りの自分に気づく                  山本先生の背中を追って、音楽教師の道に進んだ倉堀さん。現在は演奏家としての活動の傍ら、大分高校で音楽の授業を担当。県内各地でクラリネットのレッスンも行っています。 取材にうかがった日、休み時間中にもかかわらず、生徒たちが倉堀さんのもとに集まってきました。生徒たちに、倉堀さんはどんな先生なのか聞きました。  女子生徒「めっちゃ面白い、めっちゃ優しい、何しても怒られない(笑)」 男子生徒「いつも明るくて、みんなに音楽の授業を楽しんでもらおうという感じがすごくするいい先生だなと思います」   新人教師時代の倉堀さん 今でこそ、ありのままの自分を出して教壇に立っている倉堀さんですが、教師として生徒に教え始めた頃は違いました。男性の服を着ながらも「自分は女性なんだ」という思いが、言葉や仕草などに現れていたのです。その姿を見た生徒から心ない言葉を浴びせられ、夢だった教師を1年余りで辞める決断に至りました。 (倉堀さん)「話し方が気持ち悪い」とか、「もうちょっと男っぽく喋ろっちゃ」と。「男なん?女なん?」という生徒の純粋な質問に対して、自信を持って女ですと答えることができない自分がいたんですよね。 しかし、生徒の言葉の中から気付かされたこともあったと言います。 (倉堀さん)そうか、と思ったんですよね。私、いま嘘ついて生きているんだって。嘘をついている人に、信頼して私の授業受けてねと言っても説得力がないじゃないですか。そのとき、自分らしく生きる決心をした。女性として生きようって。 (4) ありのままの自分で生きる 持っていた男性用の服を全て捨て、女性用の服を人生で初めて購入。メイク道具も揃え、女性としての人生をスタートさせました。今は「メイク道具集め」が趣味だという倉堀さんに、自分にとってメイクとはどんなものなのか聞きました。 (倉堀さん)(メイクを)しない日はないと思います。それが私。結局は自己満足でしょうけど、自己満足が生きる勇気をくれたり気力になったりするんだったら、自己満足でもよくない?と思う。  山本先生から与えられた夢を諦めたくないと6年前、再び教職に復帰。 おととし(2021)、クラリネットの全国コンクールで、教え子を2位に導きました。そうした活躍を恩師の山本先生に見てほしかったと感じています。倉堀さんに、「もし今先生に会えたら、どんな言葉を伝えたいですか?」とお聞きすると、涙を流しながら、こう答えてくれました。 (倉堀さん)どんなに願っても、今の自分の成長した姿を見せられないのが本当に寂しい。見てほしかったなとすごく思うんですよね。やっぱりクラリネットを聞いてほしいし。「あなたが育ててくれた私みたいな生徒以上の生徒を育てます」というのが、今の私の夢になっている。出会えていなかったら、多分、今の私はいないんだろうなと思います。 (飯尾)本当に素晴らしい出会いですね。 (倉堀さん)本当にそうですね。クラリネットにも感謝しかないし、(山本)勝彦先生にも感謝しかないです。 取材にあたって、山本先生の妻・律子さんにもお話をうかがいました。倉堀さんについて、こう話してくれました。(山本律子さん)倉堀君、いまは「翔ちゃん」と呼んでいますが、夫が大変可愛がっていた生徒の1人でした。心優しい子で、私とは今も交流があります。夫も今の活躍を誇らしく思っていると思いますよ。 (5) 誰もが自分らしく生きられる社会へ 自分らしく生きる道を歩みはじめて。倉堀さんは今、新たな活動を始めています。それは、教育現場などで自分の経験を話す活動です。 (倉堀さん)私はトランスジェンダーです。生まれたときは男の子でした。しかし、自分の性でとても悩み、苦しみました。今、私は自信を持って言います。私は、女性です。 これは、去年(2022)の12月上旬、国東中学校の生徒と保護者に向けて行った講演会での言葉です。大勢の人の前で「私は女性です」と言い切る倉堀さんに勇気づけられる人が多いと感じました。私もその1人です。  制服の見直しなど学校現場でも多様性が重視される中、自身の経験を伝えてほしいと、倉堀さんのもとには大分県内各地の学校から講演の依頼が相次いでいます。  この日、講演を聞いた中学生は、倉堀さんの言葉をどのように受け止めたのでしょうか。  (中3 男子生徒)どんな人でも過ごしやすい社会にしていけるように、日々そういうことを考えて過ごしていきたいと思いました。 (中3 女子生徒)1人1人やっぱり人間は違って、1人1人それぞれの人間だから、私たちが勝手に決めた普通というものを取り除いて、みんなで違いを認め合っていけたらと私は思いました。 倉堀さんの言葉は、子ども達にしっかりと届いていました。 インタビューの最後に、倉堀さんにこれからの夢を聞きました。 (飯尾)約10年前に女性として生きることを決めました。次の10年はどういう10年にしたいですか?」(倉堀さん)私みたいに希望を持って夢を追いかけられるような、差別がなくなる世の中にしていきたい。こうありたいとか、こういう自分でありたいとかいう自由は誰にも邪魔をされてはいけないと思うんですよね。自分はこうありたいというものを自由に選択して、自分らしく生きていってほしいということを伝えていけたらなと思います。 去年(2022年)12月だけでも5回、講演に立った倉堀さん。今後も依頼があればこうした活動を続けたいと言います。次の10年に向けて、倉堀さんの挑戦は続きます。

執筆者 飯尾 夏帆アナウンサー
2023年03月24日 (金)

センバツへ!一回り大きくなった大分商業

3年ぶり7回目のセンバツ出場となる大分商業。春夏通じて22回目の甲子園は、県内最多です。センバツに向けて、持ち味の守備力に加えて打撃力向上に努めるチームを取材しました。  堅い守備でつかみ取ったセンバツ出場 大分商業の伝統は堅い守備。WBC日本代表の源田壮亮選手もこのグラウンドで鍛えられました。その伝統はことしのチームも継承しています。秋の公式戦の失点は、1試合平均1.5点。しまった試合運びでセンバツ出場をつかみました。 守りの中心は2人の投手 先発をつとめるエースの児玉迅(こだま・じん)投手は、ストレート130キロ台中盤ですが、バッターの手元で伸び、切れ味で勝負します。この冬は、主に下半身を鍛え、終盤でも球威が落ちない体づくりに取り組みました。 児玉投手「まっすぐには自信があります。球速以上のものを出してバッターをつまらせて打ち取るのが強みだと思います。練習してきた分、 自信はありますし、甲子園という舞台に向けてしっかり仕上げていきたいと思います」 ピンチの時にチームを救うのが、飯田凜琥(いいだ・りく)投手。秋は出場6試合全てリリーフで登板。防御率は0.96でした。決め球は、バットの芯を外す鋭いスライダー。 さらにこの冬、スライダーとは反対方向に曲がる変化球など、新しい球種を習得し、バッターに狙い球を絞らせません。 飯田投手「甲子園でもピンチでマウンドに上がることがあると思います。抑えてしまえば流れを全部こっちに持ってくることが出来るので、負けん気で強気のピッチングをしていきたいです」  勝利のカギは打撃力向上 一方の攻撃。ランナーが出るとバントや進塁打でチャンスを広げて点を奪うのが大分商業の野球です。秋の公式戦はホームラン0と長打力こそありませんが、8試合で76本のヒットを打っています。 去年8月に就任した那賀誠監督は、打撃力のさらなる向上が甲子園で勝ち上がるポイントと考えています。 那賀監督「非力だったんです。九州大会の他の出場チームは力強くて、 打線全体としては格段に体格も太さという面で劣っていたんです。 九州大会を終えて、選手たちももっとしっかり体を作ろうという意識は高くなったと思います」  ウエイトトレーニング強化! そこで、この冬はウエイトトレーニングに力を入れてきました。器具も新調し、週2日程度、90分。打撃や守備の練習を削って筋力アップに時間を割きました。さらに、月1回は県外の専門トレーナーから指導を受け、トレーニングの質を高めました。   こうした成果を特に感じているのが、4番の羽田野颯未(はだの・かざみ)選手です。 羽田野選手「秋の時は160㎏ぐらいのバーベルを担いでスクワットをするのが限界だったんですけど、   今では200㎏担いだ状態でスクワット出来るようになりました。   以前はズボンがOサイズだったんですけど、太ももが大きくなって、XOサイズにあがりました」  トレーニングの結果、打球のスピードと飛距離が大きく伸びました。他の選手も体重が平均5~6キロ増え、強い打球が打てるように。攻撃のバリエーションを増やした大分商業。持ち前のつなぐ野球を進化させ、甲子園に臨みます。  いざセンバツへ 大道主将「要所で一発も出せる力もついてきました。   小技と一発のバッティングを絡めながら1点ずつ重ねていきたいと思います。   守備から流れを作って攻撃につなげていく自分たちの野球ができたらしっかり勝てると思います」

執筆者 西岡遼アナウンサー
2023年03月17日 (金)