駆除される鳥獣を少しでも活用したい ジビエアカデミー開設
西垣光キャスター
2023年08月31日 (木)
おいしそうなシカ肉の赤身のステーキ。この料理の材料「ジビエ」が今回のテーマです。
ジビエについて、国の食品安全委員会は、「狩猟の対象となり、食用とする野生の鳥獣、またはその肉」と定義しています。
牛肉や豚肉、それに鶏肉に比べると、なかなか食卓でお目にかかれません。
そんなジビエを普及させようと、ことし5月、宇佐市に加工技術などを学ぶ施設、「ジビエアカデミー」が開設されました。
どんなことを学ぶのか、講習の様子に密着しました。
鳥獣被害との葛藤 駆除された鳥獣を少しでも活用したい
宇佐市に開設されたジビエアカデミーです。こちらでは、ジビエを実際に加工して、おいしく処理するための技術やポイントなどを学んだり、加工する様子を見学したりすることができます。
アカデミーでは、実技のほかに、ジビエの持つ栄養価なども学びます。
ジビエを専門に学べる施設は、ここが全国初と言われています。
アカデミーを設立した山末成司さんです。宇佐市内で食肉加工会社を営んでいます。
アカデミー設立の背景には、各地で相次ぐ農作物への鳥獣被害がありました。
県内でも去年、被害額が1億5000万円に上りました。
対策として地元の猟友会のメンバーなどが鳥獣を駆除しますが、そのほとんどは廃棄され、ジビエとして流通するのはごくわずかです。
山末さんは廃棄される鳥獣を、少しでも活用したいと考えていました。
(山末成司さん)
「ジビエが、殺されてただ捨てているだけの状況になっていた。それをなんとかしたいと思って、おいしいジビエを作るには、やっぱりこういう施設が必要だという思いで、立ち上げました」
アカデミーでは、駆除されたイノシシなどを引き取り、加工したり、教材として使ったりしています。
(猟師)
「ここに持ってきたら引き取ってくれるし、胸が痛まない」
県外から学びに来る人も ジビエならではの難しさ
アカデミーには、県内外からジビエに関心のある人が学びに訪れます。
群馬県から訪れた増田充宏さんです。群馬にジビエの処理施設を開設しようと、5日間の日程でノウハウを学びに来ました。
(増田充宏さん)
「せっかくいただいた命。最終的には、全部処理できればいいんじゃないかと思います」
解体技術の講習です。
増田さん自身も、半世紀近く牛や豚などの食肉加工に携わってきたベテランですが、これらを一から解体したことはほとんどありませんでした。
初めは手際よく処理していましたが、食用に飼育された牛などと違い、ジビエは個体差が大きく、処理するのが難しいと言われています。
さらに、皮をはいだり、関節を外したりするなど、普段行わない作業もやらなければなりません。
(増田充宏さん)
「牛も豚も飼育されているものですから、ある一定の範囲に収まっているんですね。ところが、ジビエは自然のものですから、個体差がまるっきり違います。目から鱗じゃないけど、こうやればいいのかという感じでやらせてもらいました」
一人でも多くの「ジビエ伝道師」を
イノシシなど、鳥獣の命を無駄にしないとともに、ジビエのおいしさを多くの人に知ってほしい。
山末さんは、この施設から一人でも多く「ジビエの伝道師」が巣立っていくことを願っています。
(山末成司さん)
「牛、豚、鶏に次ぐ、第4の肉として、みなさんのご家庭の食卓に並べられるように頑張りたいと思っています」
地元の農家の方も、被害を受けるのは嫌だけど、駆除されたイノシシなどを見ると、つらい気持ちになるそうです。
私もジビエが運ばれてくる様子を見た時は、何とも言えない気持ちになりました。
ジビエアカデミーには、地元の高校生なども見学に訪れていました。
今後、このアカデミーで学んだ人たちが各地でジビエの普及を担っていくかもしれません。