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科学・文化

湯の町が"わいた" 60年ぶりに希少巻き貝発見!

別府と言えば! そう!温泉!!ことし、その別府で温泉と深く関わりのある貝がおよそ60年ぶりに発見されました。その名も「オンセンゴマツボ」。大きさ4ミリほどの小さな貝に別府が沸きました。                       (写真提供:NPO法人北九州・魚部) 【オンセンゴマツボとは】「オンセン」の名を冠するこの生き物。ミズゴマツボ科の巻貝で大分県の固有種とされています。大きさは4ミリほどと非常に小さく、名前からも分かるとおり35度から45度の温泉水が流れる水路などに生息しています。環境省のレッドデータブックでは、絶滅のおそれが高い「絶滅危惧Ⅰ類」に指定。1962年(昭和37年)に、こちらも温泉地として有名な九重町(宝泉寺)で初めて生息を確認され、その後、由布市の湯布院や別府市でも確認されています。しかし別府市では宅地開発の影響で生息地となる畑などが消え、1967年(昭和42年)以降、姿を消したとされていました。 ところがことし6月。北九州市のNPO法人などが行った調査で、別府市亀川にある住宅街の側溝でその姿が確認されたのです。発見したNPO法人北九州・魚部(ぎょぶ)の井上大輔さんは、発見した当時をこう振り返ります。 (NPO法人北九州・魚部 井上大輔理事長)「オンセンゴマツボの存在はインターネットなどで知っていましたが、見つけた際はまさかと思って頭が真っ白になりました。生息地の環境の変化で姿を消したとされていたものの、ひっそりと生き延びる環境を見つけ命をつないでいたのだと思います。別府は温泉と人だけでなく、温泉と生き物が深く結びついている場所で大変興味深く感じました」 【生息調査に同行】「実際にオンセンゴマツボを見てみたい!!」語呂合わせで“いい風呂の日”である11月26日。大分県の許可を得て生息調査が行われました。井上理事長にお願いし、私も調査に同行しました。借りた胴長を着て、いざ出陣!! 井上さんの後ろをついて行きます。この日、調査したのはJR亀川駅すぐそばの住宅街。ことし6月、オンセンゴマツボが発見された場所です。                                                        別府八湯の1つにも数えられる亀川温泉や、観光名所「べっぷ地獄めぐり」の血の池地獄が近いこの場所は温泉を引いている家も多く、住宅街の側溝のいたるところから湯気が立ち上っています。 さっそく側溝のふたを開けて温度を測ってみると。38.1度。手を水に浸すとぬるいかな、と感じるくらいでした。井上さんによると、別府のオンセンゴマツボはこうした温かい水が流れる側溝に生息していると言います。オンセンゴマツボが壁面にへばりついていないか、手や網で泥をすくいながら観察します。   泥をすくって真剣な表情で確認する井上さん 高校時代、生物研究部に所属していた私。そのころの血がさわぎ、取材を忘れて一緒に探してしまいました。調査開始からおよそ1時間。住宅のすぐ側にある側溝でその姿を捉えました。                                                            泥の中から見つけたのは小石と間違えてしまいそうなほど小さな黒い巻き貝。                                                                 指に乗せてみると、その小ささが一層際立ちます。 指先の黒い点みたいなものがオンセンゴマツボ。 【地元の人も知らなかった】調査をしていると、亀川に住んで50年あまりという地元の70代の女性が声をかけてきました。                                                     「先日、ニュースで見て初めてオンセンゴマツボの存在を知ったの。長い間、亀川に住んでいるけれども、身近に貴重な貝が住んでいるとは思わなかった」私が取材したニュースを見てくれていたんだ・・・少し嬉しくなりました。                                                             女性によると地元でも「オンセンゴマツボ」の存在を知っていた人は多くはないと言います。 「オンセンゴマツボを通して、地元の人も気づいていない別府の魅力について知ってもらいたい」。井上さんたちは今後、県内各地で調査を行って生息状況を把握し、詳しい生態について調べることにしているほか、オンセンゴマツボについての発信を続け、温泉地・別府の新たな魅力を伝えていきたいと話していました。 大分の生活で切っても切り離せない温泉。                                                  それは人間だけでなく、小さな巻き貝にとっても、とても大事なものだったのです。  

執筆者 中野 碧(記者)
2022年12月12日 (月)