待ちに待った赤ちゃんとの対面。これから始まる育児を元気に楽しみたい! と張り切っていたけど、立ちくらみやめまいがあって体がしんどい、気持ちの波が激しくて涙がわけもなく出てきてしまう… 体も心もうまくコントロールできない!
今回は、そんな産後ママの「体の悩みや疑問」にスッキリお答えします。
※すくすく子育て「産後の体と心~体編~」より
笠井靖代(日本赤十字社医療センター 産婦人科医)
岩佐寛子(東京都助産師会 助産師)
産後の体に起こる不調、その原因は?
出産後まもなく、体に不調を感じるようになりました。すごくだるく、倦怠感、疲労感が強くて、立ちくらみやめまいがあったりします。普通の生活も、ままならない感じです。産後2~3か月のころからは、髪の毛が抜けるようになって、ひどいときにはごそっと抜けてしまう。気づかないうちに床に髪の毛がたくさん落ちていて、すごくびっくりしました。7か月ぐらいで、少し楽になったかなと思うようになりました。
産後のいろいろな体の不調が、どうして起きるのか、具体的にわかりやすく教えていただけたら、もっと症状とうまく付き合えると思います。
(8か月の男の子をもつママより)
産後、めまいがすごく出てしまって、まぶたや首など体の柔らかいところに、赤い湿疹ができたり。産後の症状は、いつまで耐えなくてはいけないのか、知りたいです。
(1歳2か月の男の子をもつママより)
産後は女性ホルモンが急激に低下して、さまざまな不調が起こる
回答:笠井靖代さん
妊娠中は、胎盤から女性ホルモン(エストロゲン)がたくさん分泌されています。そのことで、赤ちゃんを育てるために、都合のいい体になります。
妊娠前の女性ホルモンの分泌量を1だとすると、妊娠中は10倍から100倍にまで増えます。
出産のとき、赤ちゃんも胎盤も体の外に出ていきます。それまで分泌していた胎盤がなくなるため、女性ホルモンがほとんど0に近い状態まで急激に低下します。ジェットコースターのようだと言われることもあります。
一時的に、卵巣からの女性ホルモンが分泌されていないので、産後には急激なホルモンの変化が起こります。
一方、女性ホルモンは、妊娠・出産だけではなく、いろいろな部分に働いています。
<女性ホルモンの働き>
- 髪や皮膚のみずみずしさの維持
- 骨量の減少を防ぐ
- 骨、筋肉、関節の働きをスムーズにする
- 脳機能(集中力・短期記憶など)の維持、精神を安定させる など
女性ホルモンが短期記憶に影響しているため、物忘れが起こる場合もあります。
体のさまざまな不調が起こって当然の状態なのです。
女性ホルモンが低下している状態は、いつごろ元に戻るのですか?
月経が再開する半年から1年が目安
回答:笠井靖代さん
月経が回復すると、卵巣から女性ホルモンが分泌されるようになり、妊娠前の状態に戻ります。
個人差はありますが、半年から1年ぐらいが目安です。
抜け毛などの症状も、少し時間がたてば、元のように落ち着いてきます。
妊娠中だけではなく、産後も体を気遣うことが大事
回答:岩佐寛子さん
妊娠中は、自分自身もまわりの人も、体をいたわってくれたり気遣ってくれたりします。ですが、産後になると、そうではありません。本当は体調を整えるのが、すごく大変な時期なのに、なかなか伝えることができない。そのため、体も心も疲れてしまいます。
まわりの人に「産後は大変なのだ」とわかっていただいて、ママ自身も自分を気遣うようにしてください。
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出産時の傷、痛みはいつまで続くの?
出産のとき、膣壁が破れて危ない状態になり、全身麻酔をして緊急手術をしました。出産よりも痛みも強かったですし、何より精神的にもつらかった。傷はすでに回復しているのですが、今でも痛みを感じることがあります。同じ姿勢をしていたり、疲れがたまっているときは、痛みが強かったりします。
一番の悩みは、だっこのときに感じる痛みです。育児には、だっこが必要。でも、力を入れたとき、どうしても痛みが強くなります。抱き上げた瞬間、ずっとだっこしていないといけないとき、痛みが強くて、つらいと感じることが多かったです。
出産のときにできた傷の痛みはいつまで続くのでしょうか?
(1歳6か月の男の子をもつママより)
2~3年で痛みを感じなくなる。リラックスタイムやお薬で痛みのコントロールを
回答:笠井靖代さん
会陰切開や帝王切開も同じですが、表面は一旦きれいになっても、内側で突っ張る、傷口が冷えると突っ張る、痛みを感じるという方は、少なくありません。
ただ、2~3年で知らないうちに痛みを忘れていることが多いです。
ぬるいお風呂にゆっくり浸かるなど、リラックスする時間を持ってください。気になるようであれば、痛み止めなどを使いましょう。授乳には差し支えないので、無理をして薬を使わないように考える必要はありません。薬については、産婦人科医に相談してみましょう。
自分のお産を振り返ることも必要
回答:岩佐寛子さん
出産時のつらい体験が影響して、性器部分に痛みが残ったり、子育てがつらいと感じたりする方もいます。ですので、自分のお産を振り返ることも必要だと思います。
お産については語りたくないと言われる方もいます。そんなときに「どうして?」と聞いていくと、「実は…」と涙ながらに話されて、後悔が残っていたりします。そして「話をしてすっきりしました」と。そういうときは「今、何よりも、かわいい子を抱くことができている。そのことに、自信を持っていいんだよ」と話をします。
痛みが完全に無くなるのかどうかは別ですが「少し楽になりました」と言われる方もいます。出産で抑えていたものを、自分で整理することで、前に進んでいけると感じます。
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出産がきっかけで痔(じ)に! 対処法はありますか?
出産がきっかけで痔(じ)になってしまいました。子育てが忙しかったり、何より恥ずかしさもあったりして、相談できずにいます。何か対処法はありますか?
(1歳7か月の男の子をもつママより)
朝起きたら1杯のお水と適度な運動、症状によっては受診を
回答:笠井靖代さん
妊娠・出産・育児、それぞれの場面で、痔や便秘が悪化する要因がたくさんあります。
まず、妊娠中です。子宮の中で赤ちゃんを育てるためには、子宮の筋肉があまり収縮しないほうがいい。収縮すると切迫早産などになってしまうことがあるからです。
そこで、女性ホルモンは、子宮を収縮しにくいように維持しています。子宮の筋肉と腸の筋肉は同じ平滑筋なので、腸の動きが抑制されます。また、おなかが大きくなるので、物理的にも腸の動きが悪くなります。そのため、便秘で困っている方が数多くいらっしゃいます。
次に、出産時です。長くいきむことが痔によくありません。いきむことは、便秘・痔の悪化に影響しています。
そして産後。授乳のため、かなりの水分が母乳の方に分泌されます。そのことで、便が固くなってしまいます。便秘になりやすく、痔が悪化するわけです。
対処法は、朝起きたら1杯のお水を飲んで、少し体を動かすことです。体も動いて、腸も動いて、それから朝食をしっかり食べましょう。
便意を感じたら我慢をしないことも大事です。なるべく朝に排便できるといいですね。
あとは、冷やさないようにする、肛門を清潔に保つことです。
また、次のような症状がある場合は、病院などに相談してください。
<痔の症状 こんなときは肛門科や大腸外科などの受診を!>
- 排便時に出血がある
- 痔が痛む
- 排便時に肛門から痔が飛び出す
- 痔が出たまま戻らない
- 粘液がしみ出して下着を汚す など
最近では、女性が行きやすい、プライバシーに配慮したところもあります。どこに行けばよいのか、お産をした病院で相談してみるのもひとつの方法です。
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慣れない育児による肩こり・腰痛の解消法が知りたい!
初めての育児で慣れていないせいか、体のあちこちで痛みを感じます。例えば、授乳のとき「子どもの目を見てあげなさい」と助産師さんに言われて、子どもの目を見ようと前かがみで無理のある姿勢になってしまい、そのせいか肩のこりを強く感じるようになりました。
離乳食のときにも、赤ちゃんの相手をするときにも、1日に何度もあるおむつ替えも前かがみです。腰への負担も感じています。
前傾姿勢になることが多く、しばらく続くことなので、もう少し楽にできる方法や解消法があれば知りたいです。
(6か月の女の子をもつママより)
赤ちゃんが飲み始めたら姿勢を正して正面を向く
回答:岩佐寛子さん
授乳のとき「お口の含み方がうまくできているか見てね」など言われると、余計に前かがみになってしまいますよね。そうすると、体全体が傾いてしまい、骨盤も背骨も傾いて、全体的な痛みが生じてきます。
赤ちゃんがうまく飲み始めたなと思ったら、少し姿勢を正して、正面を向くようにしてください。これも、ひとつの解消法になります。
また、呼吸に合わせて肩をゆっくり回してみましょう。肩がずいぶんほぐれますよ。
なかなか時間がないとは思いますが、ちょっとした時間をつくって、自分のメンテナンスをしていきましょう。
腸腰筋(ちょうようきん)の緊張をほぐす
回答:岩佐寛子さん
腰痛も前かがみが影響しています。腸腰筋(ちょうようきん)という、背骨と脚の付け根の内側につながっている細長い筋肉があります。腸腰筋は、前かがみだと常に緊張した状態になります。それを少しゆるめてあげましょう。
例えば、椅子に座って、貧乏ゆすりのように脚を上下左右に揺らすと、緊張がほぐれ腰痛が和らぎます。気がついたときに、ほぐすようにしてください。
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おっぱいが頻繁に詰まってしまいます。何かできることはありますか?
おっぱいが頻繁に詰まってしまいます。痛みが強烈で、また詰まってしまったらとおびえる日々です。何かできることはありますか?
(9か月の男の子をもつママより)
飲み残しをケアする
回答:笠井靖代さん
搾乳などをして、飲み残しをきちんとケアしましょう。
私の出産のとき、ベテランの助産師さんから「四つ足動物は、乳腺炎にならない」と言われたことがあります。授乳のとき乳が下を向いていて、重力でおっぱいをあげやすいということですね。
飲み残しを赤ちゃんに吸ってもらうのであれば、下を向いておっぱいをあげてみてください。ベッドなどで、赤ちゃんを寝かせて、飲み残しのしこりの部分が赤ちゃんの下あごにくるようにしてください。
できるだけ飲み残しを解消しておくことが大事です。
早めに助産師に相談を
回答:岩佐寛子さん
疲れがたまっていると、乳腺炎の原因にもなります。
体を冷やさないことも大事です。
温かいハーブティなどを飲んで、リラックスする時間をつくってみましょう。
詰まりを感じたときには、早めに助産師に相談してケアを受けてください。
信頼できる助産師とのつながりがあるといいですね。
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すくすくポイント
産後の体を整える
産後の体を整える、骨盤底を鍛える体操を紹介します。
教えてくれるのは、ヨーガを取り入れて産前産後のママをケアする、助産師の飯島睦子さん(日本マタニティ・ヨーガ協会)。
骨盤底は、しっかり締めていると腰痛の予防にもなる、大事なところです。
大事な臓器を支えている筋肉ですので、しっかり引き締めていきましょう。
コブラのポーズ
まずは、コブラのポーズからやっていきましょう。
<ポーズのやり方>
足を揃えて、うつぶせになります。
※授乳中で胸が痛い場合は、あごの下に手を置いても大丈夫です。
ゆっくり息を吸いながら、上半身を持ち上げていきます。
骨盤底を締めていきます。
お尻の穴をキュッと締めるように力を入れると、骨盤底が締ります。
息を吐きながら、ゆっくりと上半身を下してあごを付けます。
ここで、ひと呼吸です。
次に、足を肩幅に開き、腕を胸のわきに持っていきます。
息を吸いながら上半身を持ち上げます。
ここでも、しっかりと骨盤底を締めましょう。
背中は、気持ちよいと思う程度にそります。
5秒ほどキープしたら、ゆっくりと上体をもどし、1回深呼吸して終了です。
猫のポーズ
続いては、骨盤底だけではなく、お腹の引き締めにも効く猫のポーズです。
<ポーズのやり方>
四つんばいになって、腕と足を肩幅に開きます。
息を吸って、そのあと息を吐きながら背中を丸くしていきます。
おへそを見るようにしてみましょう。
骨盤底を締めて、息を全部吐き出します。
息をできるだけ長く吐くと、お腹の引き締め効果もアップします。
一度息を吸い、今度は、息を吐きながら背中を軽くそらします。
ゆっくり元に戻したら終了です。
これらの体操は、無理がない程度に毎日続けることが大切です。
1度に3回を目安にやってみてください。
産後のトラブルを予防・解消するためには、日ごろから骨盤底を意識して、無理のない運動を心がけましょう。
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです