子育ての悩みごとや困りごと、誰かに相談していますか? 困っていても他の人に頼りたくないという人がとても多く、番組にも「相談できない」という声が寄せられています。助けてと言える力「受援力」について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
市川香織(東京情報大学 教授/助産師)

今回のテーマについて

言える悩みと言えない悩みがある

コメント:大日向雅美さん

悩みには、言える悩みと言えない悩みがあります。「荷物を持ってください」は比較的言いやすく、「心の荷物を分けあってください」は、なかなか言えません。「こんなことを頼んだら、親としてだめだと思われる」と考えてしまう。特にママたちには、母性愛のイメージが社会にも自分にもこびりついていて、脱するのが難しいかもしれません。

「受援力」を高めていくことが課題

コメント:市川香織さん

子育ては、みんなができているように感じて、できて当たり前だと考えてしまいがちです。そのためか、「これぐらいで『助けて』と言ってはいけない」と思ってしまうのです。
最近では、「インターネットで調べたらわかる」と思って、妊娠中の両親学級などに行かない人がいます。その場合、専門家や助産師、保健師につながることができず、いざというときに「助けて」を言える先がありません。親がつらいと思うとき、周りに「助けて」と言えて援助を受ける力、「受援力」を高めていくことが課題になっています。


「助けて」と言えない… どうしたらいい?

番組のアンケートに届いた、「悩みを話せない」という声を紹介します。

義父母の子どもへの関わり方にイライラします。でも、義父母のイメージを悪くしたくないので、私の家族や知人には言えません。パパの親戚に話すと私のほうが悪く言われそうで心配です。パパも自分の親のことだと意地になり、ケンカになるので言えません。
(お子さん3人のママ)

夫と教育方針に違いがあってモヤモヤしますが、身近な人には相談できません。家族に心配をかけたくないし、友人の間で悪いうわさになるのも避けたいです。自治体は今後もつきあいがあるので、「あそこの夫婦はうまくいっていない」と思われたくありません。誰でも気軽に匿名で相談できるところがほしいです。
(お子さん2歳4か月のママ)

―― このように「助けて」と言えないとき、どうしたらいいでしょうか?

匿名の電話相談などもある

回答:市川香織さん

対面での相談は、ハードルが高いかもしれませんね。でも、とにかく一度、自分の気持ちを表に出すことが大事です。電話相談の中には、匿名で受けるところも多くあります。例えば、日本助産師会では、各都道府県に匿名の電話相談窓口を設けています。そういったところにアプローチしてみましょう。また、LINEでの相談などもはじまっています。自分に合った相談先を見つけておくといいですね。

言いやすい悩みから相談してみる

回答:大日向雅美さん

地域に相談場所が増えてきてよかったと思います。でも、相談に行けないこともありますよね。大きな悩みの根本がパートナーであったり、それぞれの親であったりすると、イライラすることがあるけど守りたい存在でもある。だから、最初から全てを相談するのではなく、差し障りのない軽い荷物から降ろしてみましょう。言いやすい悩みから相談して、「この人なら大丈夫」と思えたら、段階的に相談する内容を深めていくのがいいかもしれません。


ここで、一歩踏み出して悩みを打ち明けたことで、状況が好転したママの体験談を紹介します。

4人の子どもを育てています。パパは在宅勤務が多く、一緒に子どもの世話をしてくれます。上の子たちもよく手伝ってくれます。母は助産師で、困ったときに専門的なアドバイスをくれて、とても助かっています。

実は、4人目の産後3か月後くらいから、ふとしたことで涙が止まらなくなり、毎日がとてもつらく感じるようになりました。心配したパパが助産師の母に相談して「一度、専門家のカウンセリングを受けてみては?」と勧めてくれました。でも、自分を否定されたような気持ちになり、自分のことでお金を払うのもハードルが高いと感じて、最初は抵抗していました。その後、母からさらに勧められて、しぶしぶ自治体の支援センターに相談したところ、無料のカウンセリングを知り、半信半疑で利用してみたんです。

実際にカウンセリングを受けてみると、子どもを預けられて、カウンセラーとじっくり話し合えて、遠慮なく自分と向き合えて、私にとって大切な時間になりました。ハンカチがぐしょぐしょになるくらい、いろんな感情を吐き出して、この先どうすればいいのか気持ちを整理できた気がして、とても安心したんです。その後、2回カウンセリングを受けて、だいぶ心が軽くなりました。パパは、カウンセリングを勧めるとき、私がどんな反応をするのか怖かったけど、きっと専門家の声を受け入れてくれると思っていたそうです。
(お子さん4人のママ)

産後3~4か月の産後うつは多い

コメント:市川香織さん

産後3~4か月ぐらいで産後うつになる方が多くいます。上のお子さんたちもいて、妊娠中もほとんど休めなかったのではないでしょうか。それが後になって、徐々に不調が出てくることもあります。家族がタイムリーにカウンセリングを後押ししてくれたのがとてもよかったですね。

自分と向き合う時間が力になる

コメント:大日向雅美さん

興味深い点が2つありました。1つめはカウンセリングを勧められて、「私はそんな状態だったのか」とショックを受けたこと。これはとてもよくわかります。2つめは、実際にカウンセリングを受けたことです。そこで自分と向き合う時間をもらえて、自分のことを整理してもらえて、自身の力になったわけです。一方で、子育ての真っ最中で悪戦苦闘している親たちが、自分に向き合い、自分を大事にする時間がほとんどないことに胸が痛みました。

―― この方は、産後3~4か月のとき、助産師に体のメンテナンスをしてもらいながら話を聞いてもらうサービスを受けたけど、4か月を過ぎると利用できなくなったそうです。

産後は長期のサポートが必要

コメント:市川香織さん

自治体の問題もあるのかもしれませんが、たしかに期限を定めているところが多いと思います。より長期のサポートが必要なことを私たちも自覚して、自治体にも要望を出していけたらと思いました。


誰にも悩みを話せないとき…

続いて、誰にも相談できなかったけれども、小さな一歩を踏み出してみたという方の体験談を紹介します。

パパの転勤が多く、妊娠7か月のときに引っ越してきました。パパは忙しくて夜勤も多く、一日中子どもとふたりだけで過ごすこともあります。コロナ禍で、なかなか人と会うこともできませんでした。

産後3か月ではじまった自治体の産後ケアを利用してみましたが、しっかりした受け答えはなく、あまり悩みを受け止めてもらえないように感じました。同世代のママ友が欲しくて子育てひろばにも足を運びましたが、深い関係になれませんでした。例えば幼稚園の話題になっても、「あ、地元に帰っちゃうんですよね」と言われて話が続きません。

実家に里帰りするたびに、今の住まいになじめない孤独感や、子育て支援の格差を感じてモヤモヤが増すばかりでした。将来、別の場所に引っ越すと思うと不安でしたが、パパに相談したくてもなかなか言い出せず、子どもとパパの前で泣いてしまうこともありました。

そんな私の心の支えになっているのが育児雑誌です。ふと、雑誌の読者アンケートに投稿してみたところ、その内容が掲載されたのです。「母というものが、こんなにも孤独なものだとは知らなかった」という内容でした。出産してからずっとひとりでやってきたことを、拾ってくれる人がいて、救われた気持ちになりました。イラストレーターや作家など、全く違う観点の方も同じ紙面に載っていて、自分の世界が広がった気がしてうれしかったです。
(お子さん1歳4か月のママ)

「自分はこれでいい」と感じることが力になる

コメント:大日向雅美さん

孤独は、私たちの生きる力を奪うと思います。周りの人が親しくしている中で自分の居場所がないと感じて、どんなにつらかったことかと思います。でも、雑誌への投稿を通して、「自分はここにいていいんだ」「この社会に存在していいんだ」と思えた。「自分はこれでいい」と感じたい自己承認欲求が満たされて、力となっていったわけです。性別や環境を超えた、いろんな方に認めてもらえて、自分の居場所が広がったのではないかと思います。

パートナーとじっくり話すことが大事

コメント:市川香織さん

生まれ育った場所から離れて育児をする「アウェイ育児」の悩みの典型だと思います。頑張っているパパに「自分も苦しい」と言えず、つらさがつのって、子どもの前でも泣いてしまったのでしょう。それは、心がぎりぎりのところまで来ているサインなのです。そんなときは、パートナーとじっくり話すことが大事です。

―― その後ママは、パパに「ちょっと話をしたい」とドライブに誘って、子どもが寝ているときに、「目標や計画がないと、とてもやっていけない」と伝えたそうです。パパは気持ちを汲み取ってくれて、少しずつ夫婦ともに心を開けるようになったといいます。

環境を変えると、話を聞いてもらいやすい

コメント:大日向雅美さん

まず、パパに話せたことがすばらしいと思います。パパが変わるかどうかではなく、自分が言えたことに自信を持ってください。
また、ドライブに誘ったことは上手なセッティングですね。リビングなど、日々の延長の中で話すと、「また愚痴か」と思われて気持ちが届かないかもしれない。場所を変え、環境を変えることで、パパも素直に聞けたのではないかと思います。


「助けて」と言える力を身につけるために

最後に、ある工夫で「助けて」と言える力を少しずつ身につけたという体験談を紹介します。

4歳と5か月の子を育てています。1年ほど前に、パパの転勤で引っ越してきました。知り合いがいない中での子育てですが、この「助けてくれる人マップ」が私に元気をくれます。

自分の周りを囲むように、親、きょうだい、友人、自治体の相談先や食事の宅配サービスまで、ありとあらゆる「助けてくれる人」を書き込んでいます。何かあったときには、なかなか思い出すことができませんが、ノートを見ると「私を助けてくれる人がいる」と気づけます。

この「助けてくれる人マップ」は、最初の出産のときの苦しい体験から、編み出したものなんです。切迫流産、切迫早産があり、妊娠中はとても不安でした。里帰りで出産して、実家で過ごしていた間も、両親が働いているため、日中は子どもと2人きり。母乳もなかなか出ず、睡眠不足で倒れる寸前でした。いよいよ自宅に帰る直前になって、育児の大変さをパパに伝えると、「大変だったら、もうちょっとそっちにいていいよ」と言われたんです。2人の子なのに、私だけが育てている、私だけに責任があるような気がして、心が壊れかけました。

絶望的な気持ちの中、ふと誰が自分を助けてくれるのかノートに書き出してみました。「自分の周りにはこれだけの人がいるから大丈夫」と自分に言い聞かせていました。それから、自分の感じている思いをノートにつづるようになったんです。

再びつらい気持ちになったときに、自分を中心にして、助けてくれる人から矢印を書いてみたら、みんなが私にパワーをくれるように思えました。地元を遠く離れた今、もっとたくさんの助けが必要だと感じています。その思いが、今の「助けてくれる人マップ」に進化したと思います。
(お子さん2人のママ)

頼れる人が少ないと、頼れなくなったときに自分も壊れてしまう

コメント:大日向雅美さん

すばらしいですよね。たくさんの助けてくれる人が広がっています。助けてくれる人が、1~2人だと、その人に頼れないときは全て自分が背負うことになり、やがて自分も壊れてしまいます。この人がだめでも、次の人がいることが大事なのです。

「助けて」と言うときには今の自分を見つめることが原点に

コメント:大日向雅美さん

「助けてくれる人マップ」を作ることが、自分を見つめるチャンスになったことも、すばらしいと思います。自分から発信することが大事で、「助けて」と言うときには、今の自分を見つめることが原点になることを改めて教えていただきました。

助けてくれる人や支援先を「見える化」

コメント:市川香織さん

このケースも、「アウェイ育児」の典型だと思います。つらい状況だったことでしょう。その中で、支援の場所がどれだけあって、支援してくれる人がどれだけいるのか、「見える化」したことがとてもいいですね。書くものがあればできるので、ぜひみなさんも「助けてくれる人マップ」を作ってもらいたいと思いました。


専門家からのメッセージ

受ける「受援力」と授ける「授援力」を大事に

大日向雅美さん

受援力は大事なことです。でも、私たちは、本当に苦しいときは言えないことも多いと知っておかなければいけません。助けてと言えなくても、「声を上げられない私はダメなのか」と落ち込まないでください。難しいことだから、すぐに言えなくてもいいのです。
受援力は「受ける」という字を書きます。一方で、授ける側の「授援力」を根本から見直さなくてはいけないと反省しました。言葉にできない悩みや、本当のところとは違う言葉になってしまう人も多いと思います。まず、そこを原点にして、受ける「受援力」と授ける「授援力」、この2つを大事にしていきたいと思います。

悩みの裏に、本質的な悩みが潜んでいることも。まずは悩みを言葉に

市川香織さん

私は助産師で、いろんな方の悩みを聞いてきました。すると、悩みの言葉の裏に、夫婦関係や家族とのいざこざ、個人の本質的な悩みが潜んでいることがよくあるのです。ですので、まずは何でもいいので、悩みを言葉にしてみることが大事だと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです