子どもに感情をぶつけたくない。でも、思わず感情的になって、自己嫌悪に陥ってしまうことはありませんか? 番組が募集したアンケートによると、ママ・パパたちの感情が爆発してしまうきっかけは、やめてほしいことを繰り返される、きょうだいの育児、時間に余裕がない、さらには、寝ない、食べない、イヤイヤだといいます。
感情をぶつけてしまったあと、子どもにどう関わればいいのか、専門家とじっくり考えます。

子どもに感情をぶつけてしまったら※すくすく子育て「子どもに感情をぶつけてしまったら?」より

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
田中恭子(国立成育医療研究センター こころの診療部/小児科医)

今回のテーマについて

古坂大魔王さん(MC)

イライラするのはよくないとわかっているんです。わかってはいるけど、どうしても言葉に出てしまうことがあります。

鈴木あきえさん(MC)

よくないとわかっていても、仕事や家事、やらなければならないことなどで追い込まれていると、余計に感情があふれてしまうと思います。


イライラすると、ついきつく当たってしまう。穏やかに子育てするには?

ママは土日出勤が多く、そんなときは私が子ども2人の面倒をみています。ふだんは楽しく過ごしていますが、きょうだいげんかのときなど、つい子どもにどなってしまいます。家事などで余裕がないときにぐずられると感情的になってしまうのです。
感情をぶつけてしまったあとは、とても落ち込みます。私が怒りっぽいのかもしれませんが、毎日が反省と後悔です。
(お子さん4歳・2歳7か月のパパ)

共働きで朝はとにかく忙しく、思わず感情的になってしまうことがあります。例えば、保育園の時間ぎりぎりになって、子どもたちが「服を着るのがイヤ」「行きたくない」と泣き出したりすると、「行かなきゃいけないでしょ!」とどなってしまいます。
感情的になるのは朝だけではありません。例えば、私の体調が悪いときに、ほうっておかれたおもちゃを踏んでしまって、「痛い!片づけてって言ったでしょ!」と怒ることもあります。ずっと我慢しているものが、何かの拍子にあふれてしまいます。
(お子さん4歳・1歳11か月のママ)

このように、「穏やかな気持ちで子育てしたいのに、つい感情的になってしまう」という声が届いています。感情的にならないように子育てをするには、どうしたらいいのでしょうか?

怒ることは自然なこと。罪悪感を持たなくていい

回答:大日向雅美さん

人間にとって感情は、とても自然で大切なものです。喜怒哀楽は、どれひとつとして無駄なものはありません。怒ることも自然なことで、とても大切なメッセージではないかと思います。「あなた無理をしているよ」「これ以上無理をすると、だめになってしまうかもしれないよ」というシグナルなんですね。
だから、感情的になること、感情をぶつけること自体に罪悪感を持たずに、自然なことだと考えて、自分を否定しないでください。

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感情的になったあとは見直すチャンス

回答:大日向雅美さん

とはいえ、怒ってしまうと心を痛めますね。そのときは、「どうして怒ってしまったのだろう」と考えるかもしれません。でも、例えばブロックを踏んで怒ってしまうのは当然で、自然なことだと思います。
一方で、「これは怒らないでもよかったかな」のように、シグナルをもらったら少し整理してみましょう。自分の日々を見直すチャンスをもらえたと思えたらいいですよね。感情は豊かに持とうと思ってください。

できていることに目を向ける

回答:田中恭子さん

ぜひ、親として「できていること」に目を向けてください。忙しい中、一生懸命に子どもたちと遊んだり、食事をつくったり、たくさんあるはずです。できないことばかり目について、つい忘れがちなことかもしれません。当たり前のようにできていることに目を向け、親として自信を持って子育てしてほしいと思います。

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感情をぶつけることで、子どもへの影響はある?

どんなふうに感情をぶつけているか

ママ・パパたちは、どのように感情をぶつけてしまうのでしょうか?

アンケートによると「大声でどなってしまう」がもっとも多く、続いて「物にあたる」「『もう知らない!勝手にしなさい!』など、冷たい態度をとる」という声が寄せられました。
また、SNSには、子どもの存在を否定するような言葉を使ってしまうという書き込みもみられました。さらには、子どもに体罰を与えたという書き込みもあります。

子どもにきつく当たるSNSの書き込み

  • 「テメェ ころすぞ」と思わず叫んでしまった
  • 朝の支度をやろうとしない子どもにイライラ。「このクソガキが!」とどなり散らして泣かせてしまった。
  • 離乳食を口から出されて怒りが爆発。子どもが座っている椅子を思いっきりけってしまった。
  • 言うことを聞いてくれないからおしりをたたくことを繰り返してしまう。

みなさんは、こうした親たちの声をどう受け止めますか?

コメント:鈴木あきえさん(MC)

みなさん、言いたくて言っているわけではありませんよね。言ってやろうという人はほとんどいないと思います。

コメント:お子さん4歳・1歳11か月のママ

子どもが熱を出してしまった、コロナ禍で外出できない、子どもを見ていてトイレに行けない、食事をする時間がない。私もそうやってイライラして、子どもに冷たい態度をとってしまったり、当たってしまったりすることがあります。本当に他人事ではないと思います。

コメント:お子さん4歳・2歳7か月のパパ

例えば洗濯物がたまっているなど、そんな要因がたくさんあって、こんな言葉が出てくるのだろうと思います。

コメント:古坂大魔王さん(MC)

きっと「余裕があれば」ということが多いと思いますが、余裕のある育児ができている人がどれぐらいいるのだろうと考えてしまいます。余裕も時間もないですよね。

これでいいと思っているわけではない。つらいからこそ書き込んでしまう

コメント:大日向雅美さん

SNSの言葉は非常に激しいですよね。年配の方や、子育て中でない方が見ると、「いまどきの親は何てひどいのか」と思ってしまうかもしれません。でも、決して書き込んでいいと思って書いているわけではないと思います。言葉がとげのように、深く心に刺さってしまって、惨めになってしまう。こんな言葉を書かないといけない自分を見て、本当につらいと思います。書き込んだ方は、これでいいだなんて思っていない。だから書く、つらいから書くのだと思います。

体罰や暴言が、子どもの発達に影響を与えると聞いたことがありますが、いかがですか?

発達期の子どもは、環境による影響を受けやすい

回答:田中恭子さん

最近の研究では、発達期である子どもたちは、環境による影響を受けやすいといわれてきています。体罰だけでなく、子どもに対しての暴言や、子どもの前で両親が激しくけんかするなども影響を与えると考えられています。

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例えば、一度でも感情的な言葉を言ってしまったら影響が出てしまうのでしょうか?

繰り返さないことが大切

回答:田中恭子さん

回数や頻度などは、まだ研究段階だと思います。まずは、繰り返さないことがとても大事です。繰り返さないためには、「少し言い過ぎたな」「ひどい言葉を使ったな」と気づくこと、そして「一貫性のあるしつけ」を心掛けることが大切です。


一貫性のあるしつけとは、どういうものですか?

子どもの行動に対しての関わり方をむやみに変えない

回答:田中恭子さん

親も人間なので、例えば機嫌のいい・わるいで、子どもが同じ行動をしても違う関わり方をしてしまう場合があります。同じことをしても、褒めるときと褒めないときがある、叱るときと叱らないときがある。でも、できるだけ同じ態度で関わるほうがよいといわれています。
例えば、何気ないことでいいので、お手伝いをしたら「ありがとう。パパもママも助かったよ」とたくさん褒めてあげる。自分を傷つけたり、他人を傷つけるような行動は、「それはだめ」だと止める。そういった一貫した関わりができるといいですね。
ただ、100%の一貫性は難しいものです。私自身も、「つい怒ってしまった」という日々の連続でした。外来で相談を受けたときは「25%ぐらいでいいですよ」と伝えています。その程度を目安に心掛けてみてはどうかと思います。


暴言をやめられない場合どうしたらいい?

例えば、暴言をやめられないような場合は、どのように向き合えばいいでしょうか?

心の専門家や地域の保健師に相談を

回答:田中恭子さん

例えば、自分ができていないことに集中してしまい、自分自身を責めてしまう。つい涙が出てきて、やる気もなくなる。日常生活が、なかなかうまくいかない。そんな悩みがある場合は、心の不具合が起きているかもしれません。そういったときは、ひとりで抱え込まずに、心の専門家や地域の保健師などに相談することをおすすめします。

おもな相談先や支援機関

  • 子ども家庭支援センター
  • 子育て世代包括支援センター
  • 産科・小児科など かかりつけのクリニック
  • 助産院
  • 各都道府県の助産師会の無料電話相談 など

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親が怒ったとき、子どもはどう感じているの?

ママ・パパが怒ったとき、子どもはどう感じているのでしょうか?
今回、保育施設の協力で、子どもたちの本音を聞き出してもらいました。

ママ・パパに怒られたときの子どもの本音とは

まず、子どもたちに「親に怒られる?」と聞くと、ほとんどの子から「怒る」と声があがりました。怒られたときのことを聞いていきます。

―― どういうふうに怒られるの?

「うちのママはすごく怖い!」
「世界中の子どもが全員泣いちゃうぐらい」
「お父さんの怒り方は大胆!」
「ここにきている全員が泣いちゃうよ」

―― どんなことで怒られているの?

「ちょっと遅く起きたから、『もうこんな時間!』、それからごはん食べるの遅くて、『早く早く』って怒られた」

―― だいたい、親は遅いと怒るんだね。じゃあ、強く怒られたとき、みんなはどうするの?

「泣く……」
「早くしている。自分では早くしていると思っているのに、『もっと早く』って言われる」
「怒られると、しゃべりたくなくなるから、だまってお地蔵さんみたいに固まってる」

さらに、大人をよく見ているこんな意見もありました。

「ママは怒ったことをよく忘れてる」
「ぼくのお母さんも忘れてしまうよ」

ぼくのお母さんも忘れてしまうよ

―― 知らないうちに仲直りになってる?

「ごめんなさいって反省する」

―― そうすると優しくなる?

「機嫌がなおるまではね」


今回、話を聞いた子どもたちのほとんどが、毎日のように親に怒られていると答えました。
一方で、自分が親から嫌われているとは、まったく考えていないようです。「お父さんお母さんは、私やぼくのことを大好だと思う?」と聞くと、みんなが「はーい」と答えました。

親に好かれていると思うかという問いに「はーい」と答える子どもたちの様子


子どもは怒られたことだけでなく、親の全部を見てくれている

コメント:大日向雅美さん

私たち大人は「点」で考えてしまいます。例えば「あのとき、こんなことを言ってしまった」などです。でも、子どもたちは「点」でも「線」でもなく、「面」でものを見てくれます。怒っている姿だけでなく、ぎゅっと抱きしめてくれるときも、落ち込んでいるときも、一緒に楽しんで遊んでいるときも、全部見てくれているのです。その意味では、子どもは侮れないけど、信じていい存在で、すごい力を持っていると思います。

コメント:古坂大魔王さん(MC)

信じていい存在、たしかにそうですね。

コメント:鈴木あきえさん(MC)

どうしても感情的になってしまったことだけが心に深く刺さりますが、そうではないところ、本当に楽しい時間も多いですよね。

「権利の主体」としての子どもの意見を聞くことが大切

コメント:田中恭子さん

子どもは、子どもなりにたくさんのことを考えて、意見を持っていることがよくわかりますね。私たち大人は、つい先回りして、子どもの行動をコントロールしようとしがちですが、子どもの意見をしっかり聞く必要があると思います。子どもを、私とは違う意思のある「権利の主体」として考えて、尊敬の思いを持つことも大事かもしれません。


子どもに感情的になってしまった後、どうしたらいい?

毎日子どもを叱って、泣かれて、強い罪悪感があります。そのあと、どうして自分が怒ってしまったのかを考えて、「仕事に遅刻しそうで、ママ焦ってしまって、つい怒ってしまってごめんね」のように声をかけています。叱って、叱り過ぎて謝る。その繰り返しで大丈夫なのか、影響はないのか心配です。どのように関わればいいのでしょうか。
(お子さん4歳・1歳11か月のママ)

言い過ぎたと思ったら、まずは謝ることが大切

回答:田中恭子さん

まず、「つい言い過ぎた」「こんな言葉を使って申し訳なかった」と思ったときは、一度「さっきはごめんね」と謝ることが、とても大事なプロセスになります。そのときに「さっきはイライラしていて怒り過ぎたね。あなたのせいじゃないよ」のように言っておきましょう。

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つらいときには、つらいと言ってもいい

回答:田中恭子さん

私は、感情を抑圧して常に笑顔でいる親は、いい親ではないと思っています。病院の外来で思春期の子どもたちと接していると、つらいときなどに、なかなか親に言えず、気持ちを奥に押し込めていることがあります。私たちは人間なので、親でもつらいときには「つらい」と言ってもいいのです。子どもにそんな姿を見せることで、子どもも自分がつらいときに言ってもいいと思えることにつながります。子どもたちは、それを学んでいくのではないかと思います。

コメント:鈴木あきえさん(MC)

たしかに親子関係ではなく友達の関係だとしたら、「今、つらいんだ」と言えると思います。でも、子ども相手だと、私も言わないように我慢して、少しずつたまって爆発してしまうことがあると思いました。親でも「つらい」と言ってもいいのですね。

看護師だったのですが、そのときは、自分は明るくて、患者の方にも「笑顔を見ると元気になれるよ」と言われて、そんな自分を大事にしていました。でも、子育てでは感情の振れ幅が大きく、怒ってばかりで、自信がなくなるときもあります。
(お子さん4歳・1歳11か月のママ)

怒ってしまう自分をおおらかに認めてあげて

回答:大日向雅美さん

看護師のときは患者の方に怒ることはなく、優しく笑顔でいてくれたんですね。そんな自分を大事にしていた。そして、子育てを通して違う自分を発見できたのではないでしょうか。聞き分けのない子どもに大きな声をあげてしまうような、そんな自分を解き放っているのかもしれません。人間の自然な部分の扉を開けて、ようやく人間宣言できて、ますます大きな人となっていく過程だと思います。それはすてきなことだと思います。泣いたり、ときには怒ったり、そんな自分をおおらかに認めてあげましょう。


コメント:鈴木あきえさん(MC)

私も怒ってしまう自分が嫌で、「もうやめよう、変えよう」と思ってもできない。そんな負のループを繰り返していました。でも今回の話を聞いて、「怒ってしまうときもある。じゃあどうする?」という考え方だけでも、心が楽になれるように思えました。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです