叱るとすぐに泣いてしまう、伝わっていないように思えるなど、子どもの叱り方は難しいですよね。そんな子どもの叱り方について、とことん考えます。

専門家:
坂上裕子(青山学院大学 教授/発達心理学)
玉井邦夫(大正大学 心理社会学部 臨床心理学科 教授/臨床心理学)

どんなときに叱ればいいの? 伝わりやすい叱り方は?

1歳の息子はできることが増えてきて、今は物を投げることが大好きです。ただ、図書館で絵本を投げて遊んでしまうこともあります。そのたびに「なんで投げるの? ポイしちゃいやよ」といった声かけをします。生活のルールを教えていくためにも、ちゃんと叱ったほうがいいと思うのですが、この時期の子どもの場合、どんなときに、どう叱ればいいのか悩みます。見守るところと叱るところの線引きはあるのでしょうか。
(1歳4か月 男の子のママ)

「叱る」とは、自分や周りを守るために必要な行動の規範を教えること

回答:坂上裕子さん

親としては、どうしたものか迷ってしまいますよね。多くの方は、叱ることは「コラ!」のように言い聞かせるイメージを持っていると思います。では、そもそも叱ることとは、どういう行為なのか。それは、子ども自身や周りの人を守れるようになるために必要な、行動の規範を教えることがいちばんの基本だと思います。

1歳のころは、叱るより危険な行為を止める

回答:坂上裕子さん

1歳のころは、「なんで投げるの?」と言っても、まだことばの意味を理解して行動することが難しいでしょう。自分や周りを守るという意味では、叱るよりも危険な行為を止めることを考えてください。例えば、自分がケガをしたり、誰かを傷つけたり、ものが壊れるような行為です。この時期は、それぐらいの線引きで十分だと思います。

子どもの発達段階と伝わりやすい叱り方の目安

子どもは何歳でどれくらいのことがわかるようになるのでしょうか。その段階ごとで伝わりやすい叱り方があります。
※何がいつごろわかるのかという時期は、子どもによって違いがあります

10か月以降

10か月を過ぎると、パパやママの表情や身ぶりに、何か意味があるようだとわかってきます。でも、叱られる理由まではわからないので、表情や雰囲気などで「いけない」ということを伝えます。

1歳後半以降

1歳後半以降は、頭の中でイメージする力が育ってきます。「コップが倒れて水がこぼれた」など、目の前で起こった出来事について、物事のつながりがわかってきます。
叱るときは、「そのとき・その場で・そのつど」がポイントです。短くわかりやすいことばを使って、何がいけないのか、どうしてほしいかを伝えます。

2歳後半以降

2歳後半以降、生活や遊びの中には必要なルールがあることを知り、自分の中に取り入れていきます。また、自分の気持ちに気づくのもこのころからです。
叱るときは、子どもの気持ちを聞きつつ、親の気持ちや生活の中のルールを、わかりやすいことばで具体的に伝えます。

4歳半〜6歳以降

早くて4歳半のころから、相手の立場になって考える力が育ってきます。さらに、時間の感覚がついてくると、自分の行動を振り返ることができるようになります。
叱るときは、ダメというだけでなく、「してほしいこと」「してはいけないこと」の理由を、具体的に説明したり、子どもと一緒に考えたりするようにしましょう。

ことば・表情・雰囲気が基本になる

回答:坂上裕子さん

子どもに何かを伝えるときは、ことばだけでは難しいことも多いでしょう。ことばと一緒に、表情や雰囲気をセットで伝えることが、どの年齢でも基本になると思います。

あらかじめ叱らないで済む環境を作ることも大切

回答:玉井邦夫さん

線引きの基準は、それぞれの家庭によって異なります。子どもに何をされると困るのかは、その生活の状況によるので、一概に言えないのです。ただ、困ることの中には、させないように対策できることもあります。例えば、開けられて困るものには鍵をつける、触られて困るものはしまっておくなど、あらかじめ叱らないで済む環境を作ることも大切です。その上で、何を叱るのかを考えていきましょう。


困った行動をやめさせたい。どんなことばで叱ればいい?

最近、長女の叱り方で悩んでいます。弟が産まれてから、パパやママの気を引こうとして、弟にクッションを投げたり、困った行動が増えました。そのつど「ダメ!」と言って、厳しく伝えているつもりですが、同じことを繰り返します。困った行動をやめさせるには、どんなことばで叱ればいいのでしょうか。
(2歳10か月 女の子・2か月 男の子のママ)

困った行動は、叱るのではなく他の行動をさせる

回答:玉井邦夫さん

お子さんの困った行動は、親を求めている気持ちの裏返しかもしれません。その場合は、叱っても逆効果になります。
子どもの困った行動への対処は、その行動を「やめなさい」と叱るだけではなく、他の行動をさせるほうがいいという考えもあります。例えば、下の子をみているときに上の子が困った行動をしたら、「さみしかったね。今度は〇〇を手伝ってね」と言ってあげるほうがいいでしょう。

ことばや手本で「してほしい行動」を示す

回答:坂上裕子さん

子どもは、叱られて行動を止めることができても、「ダメ」と言われただけでは、どうすればよいのかわかりません。「ダメ」に続けて、大人がことばや手本で「してほしい行動」を示してあげることで、その後の行動がとりやすくなります。

例えば、「走っちゃだめ」には「歩こうね」。「うるさくしない」には「ひそひそ声でお話しようね」。「散らかさない」には、「ここにしまおうね」と言いながら、親も手本となって一緒に片づける。これを繰り返していくことが大切です。

子どもがお店で何でも触ってしまうのですが、「ダメだよ」と言っても本人は触りたいようで。そこで自分の手をグーにして、「手をグーにしようね」と付け加えています。

子どもは見たものをまねしたくなる

回答:坂上裕子さん

とても上手な対応だと思います。子どもは、まだことばを聞いただけで動くことが難しいのですが、見たものをまねしたくなる性質があります。そういった部分を利用していくと、口うるさく言わなくても通じることがあるかもしれません。


みなさんの「叱るときに気をつけていること」

みなさんは、どんな叱り方をしているのでしょうか。番組アンケートで「叱るときに気をつけていること」を聞きました。

自分が言われて嫌な悪口は言わない。「もう知らん!」はよく言ってしまいますが。
(4歳2か月 男の子のママ)

「また、やった」と言わず、なるべく過去を引っ張らない。父親は大きな声を出さない。
(2歳7か月 双子の男女のママ)

カッとなりやすいので気をつけている。行き過ぎた場合、夫婦のどちらかが子どもをフォローする。
(3歳1か月 女の子・7か月 男の子のママ)

叱ったあと「おわり」と言って普通に過ごす。いたずら程度のいけないことをしたときは、「怒るよ!もう怒ってるけど」と言うと子どもも笑う。
(3歳9か月 男の子のママ)

気をつけていることは、それぞれにあるんですね。中には「極力叱らない」「叱ったことはない」という回答もありました。


厳しく叱られていないと、打たれ弱くなる?

息子は「ダメ」ということばを聞くと、不機嫌になり手が付けられなくなります。そのため、頭ごなしに厳しくせず、諭すような声かけをしています。例えば、おもちゃを投げてしまったときは、「投げちゃダメ」ではなく、「もの投げたら危ないからやめようね」のように言っています。
ですが、今の叱り方が子どものためになっているのか心配です。私自身、怒られ慣れてなく、打たれ弱いなと思っています。多少厳しく叱って慣れさせておくことが必要でしょうか。
(3歳 男の子のママ)

叱り方は十分。いったん離れて落ち着かせる

回答:玉井邦夫さん

叱り方は十分だと思います。ただ、ひとつ付け加えるとすれば、言い方の問題ではなく、叱った後に早くその場から一緒に離れてあげたほうがいいと思います。叱られる対象になるような行動をやらせたまま「ダメ」と言っても、あまり効果がありません。うまくいかないことがあって泣いてしまったのだから、いったん離れて落ち着かせたほうがよいでしょう。

どうして叱るのかを考えて

回答:玉井邦夫さん

親として、どんなに叱られても平気でいられる子になって欲しいわけではないはずです。叱らなくてもいい子になってほしいのではないでしょうか。その意味では、叱られ強くなるようにと考えるのは、本末転倒になるのではないかと感じます。

大人がきぜんとした態度で行動の規範を伝えることも大事

回答:坂上裕子さん

厳しく叱ることと、メリハリをつけて叱ることは違います。例えば、子ども自身もわかっているけどやめることができない、そんなときは、大人から「ここでおしまいね」「これはいけません」とはっきり言われたほうが、気持ちの切り替えができる場合もあります。大人がきぜんとした態度で、行動の規範を伝えることも大事です。

叱られ過ぎることで、よくない影響はありますか?

自分で判断するための行動規範がつくれない場合も

回答:坂上裕子さん

子どもは、叱られた後に「何でだろう」と考えることで、同じ過ちをしないようになります。親も、自分で考えて、自分で判断して行動できるようになってほしいはずです。ずっと叱っていると、もう考えなくなってしまい、逆効果になることがあります。


叱っているのに子どもが聞いてくれない!

休む暇もなく2人の子どもたちの世話をしていて、つい叱り過ぎてしまうことが悩みです。最初は冷静なのですが、息子が聞かないそぶりを見せるので、その態度にイライラしてしまいます。例えば、私の顔を叩いてきたときに、「痛いよ。ごめんなさいは?」と言っても聞こうとしません。ちゃんと謝ることを教えたいので何度も言うのですが、叩いた顔をさすってくれるぐらいで、謝っても気がないような謝り方です。叱っているのに子どもが聞いてくれないときは、どうしたらいいでしょう。
(3歳 男の子・1歳4か月 女の子のママ)

どうにかしたい気持ちの裏返しで、ふざけたような謝り方になる

回答:坂上裕子さん

お子さんがママの顔をさするのは、修復行動といわれるものです。自分が傷つけたり、壊したり、破ってしまったことを修復しようとするもので、罪悪感からくる行動です。お母さんが好き、楽しい雰囲気を守りたい、何とかしなきゃ、と思ったのではないでしょうか。そんな気持ちの裏返しで、ふざけた謝り方になっているのかもしれません。

子どもの発達段階に比べて、親の要求水準が高い場合も

回答:坂上裕子さん

親は伝えているつもりだけど、子どもがわかっていないこともあります。うなずいているだけで、本当はわかっていないような状態です。
以前、「子どもに『カーテンを閉めて』と言っても閉めてくれない」という話を聞いたことがあります。このケースでは、そもそも子どもが「カーテンを閉める」ことの意味をわかっていなかったようで、そのことで叱ることはなくなったそうです。このように、子どもの発達段階に比べて、親の要求水準が高い場合もあります。
「カーテンを閉める」ことがわかっていたとしても、力を加減してカーテンをうまく引っ張ることができない場合もあります。実際に閉める動作ができるかどうかは、体の発達も関係します。わからないことや、できないことを要求してはいないか考えることも大切です。

発達段階を見極めながら、その子に伝わる叱り方を

回答:坂上裕子さん

大人の感覚では、「1度言えばわかる。ちゃんと伝えているからわかるはず」と思ってしまいがちです。でも、子どもがどの程度のことがわかっていて、どの程度のことができるのか、親も試行錯誤するしかありません。発達段階を見極めながら、その子に伝わる叱り方を探していきましょう。

子どもと一緒に取り組むことが大事

回答:玉井邦夫さん

このケースでは「ごめんなさい」を求めるより、「たたくなら一緒に遊べない」と伝えるほうがよいでしょう。「ごめんなさい」という言葉は、そこで話を終わらせる呪文ではなく、悪いと思ったら、どういう行動をとればいいのか考えさせるための入口です。子どもと一緒にどう取り組めるかが大事になります。

親以外の大人との出会いや社会経験を経て育っていく

回答:玉井邦夫さん

親としては、「ごめんなさい」と言わせないと、謝れない子になるのではないかと不安になることもあるでしょう。
でも、子どもが社会的な常識を身につけていくまでに、このような経験を何回するだろうと想像してみてください。今しか教えるチャンスがない、ということはないはずです。それだけ、お父さんお母さんが子どもの育ちに対して、漠然とした不安を持っているのだと思います。
子どもたちは、これから親以外の大人にもたくさん出会っていきます。社会的な場面も経験していくことでしょう。これからの子どもの育ちをある程度信頼して、子ども自身の経験に委ねていくことも大事だと思います。


罰を与える・脅す、といった叱り方は効果があるの?

怖い感情が先立ち、その行動がなぜ悪いのかに注意が向かない

回答:坂上裕子さん

「怖いから今はやめておこう」のように、短期的な効果はあります。ですが、怖い感情が先立って、どうしたら逃げられるのか、どうしたら避けられるのかを考えてしまいます。叱られた行動がなぜ悪いのか、大事な部分に注意が向かなくなってしまうのです。罰や脅しは、子どもでなくても理不尽で受け入れ難いものですよね。

「叱る」は信頼関係あってこそ。ふだんの関わりを大切に

回答:坂上裕子さん

親から子どもへの働きかけは、叱ることだけではありません。日常生活の中には、一緒においしいものを食べたり、遊んで楽しんだり、子どもが不安なときは「大丈夫だよ」と言って抱きしめてあげたり、いろいろなことがあります。叱ることは、それまでの信頼関係があるからできることです。大人でも、信頼していない人の言うことを聞こうとは思いませんよね。叱るという行為だけにとらわれるのではなく、ふだんの関わりを大切にしましょう。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです