子どもが、こだわりが強くてかんしゃくが抑えられなかったり、ことばがなかなか出てこなかったり、繊細で臆病すぎたり。「もしかして、発達に問題があるの?」と気になってしまう…。でも、気になる子どもの行動には、必ずその子なりの理由があります。どんな特性の子どもでも生き生きと育つ関わり方について、専門家と一緒に考えます。
星山麻木(明星大学教育学部 教授/特別支援教育)
今回のテーマについて
―― 子どもの気になる行動や困った行動には、必ず理由があるのでしょうか?
脳の機能の違い(特性)を理解すると、子どものよいところが見えてくる
こだわりが強くかんしゃくが抑えられない、いい声かけは?
息子(3歳9か月)のかんしゃくに困っています。周りの子どもだと言えば収まるようなことでもヒートアップします。ある日、お風呂の時間にゲームをしたくて大泣きしたときには、部屋を出て暗い階段の下でふてくされていることもありました。お兄ちゃん・お姉ちゃんとカルタをすると、自分の好きな札が取れないと怒り出します。そんな息子に、お兄ちゃん・お姉ちゃんはやさしく「がんばろう」と声をかけてくれます。
気持ちの切り替えが苦手で、こだわりが強く、幼稚園でもいちばんになれないとかんしゃくを起こすようです。給食のときに「眠いから寝る」と1人で寝てしまうなど、周りに合わせることがほとんどありません。先生たちはつきっきりになって、なだめてくれています。かんしゃくが抑えられないとき、何かいい声かけはありますか?
(お子さん3人のパパ・ママ)
「嫌だ」と気持ちを言えていることはすばらしい
回答:星山麻木さん
子どもが自分で「嫌だ」という気持ちを言えていることは、すばらしいことです。
また、お子さんが階段のところに行ったように、心を落ち着かせるために離れた場所へ行くことを「回避行動」といいます。自分で心を落ち着けようとして、一生懸命に頑張っていることの表れなのです。
―― ママやきょうだいの対応はどう思いますか?
子どもの気持ちを尊重して、寄り添うのはよい対応
回答:星山麻木さん
すばらしいと思います。無理に連れてきたり、叱ったりせずに、お子さんの気持ちを尊重して気持ちに寄り添い、とてもいい対応だと思います。
―― どうしてこのような行動をとってしまうのでしょうか?
切り替えが悪いように見えるのは、頑張ろうとしているから
回答:星山麻木さん
お子さんは、とても頑張り屋で、正義感が強いのだと思います。「自分はこうやりたい」と、しっかり決まっているのでしょう。でも、それができないとショックが大きいのです。大人から見ると、切り替えが悪いように見られがちですが、お子さんなりに頑張ろうとしている証拠だと思います。
―― 幼稚園で寝てしまったのにも理由があるのでしょうか?
100%の力を出して頑張るので疲れやすいのかも
回答:星山麻木さん
おそらく、頑張り過ぎるため、とても疲れやすいタイプだと思います。周りの子が70%ほどの力ですることも、100%で頑張るのでしょうね。その分疲れてしまうわけです。自分で切り替えるために布団に潜るのは、きっとお子さんなりの工夫だと思います。
―― どのように子どもと関わっていけばいいでしょうか?
「セーフ・パーソン」「セーフ・スペース」「セーフ・グッズ」が必要
回答:星山麻木さん
大切なことが3つあります。まずは「セーフ・パーソン」です。家族のように、安心できる人のことです。子どもをわかってあげる、寄り添いがとても大事です。
次に「セーフ・スペース」、ひとりになって気持ちを落ち着けられる安心できる場所です。誰も入ってこない、ちょっと狭いところを見つけてみてください。もしそのような場所がなかったら、作ったほうが安心できるでしょう。
3番目が「セーフ・グッズ」、持ったり触ったりしていると安心できる物です。これは子ども自身のお守りのようなものです。自分のお気に入りのぬいぐるみやスライムなどがあるといいですね。
「セーフ・スペース」は、家の中以外にもあるといいですね。例えば、園と相談して、園の中にもちょっとした片隅にそのような場所があるといいと思います。
―― 子どもがヒートアップしているとき、本人が落ち着くまで見守っていていいのか、それとも声をかけたほうがいいでしょうか?
ヒートアップしているときは声をかけずそのまま発散させて
回答:星山麻木さん
基本的に、子どもがヒートアップしているときは、声をかけないほうがいいですね。子ども自身が発散したいので、そのままにしてあげましょう。子どもの気持ちが収まってくると、少しトーンが下がるなど、合図のようなものがあると思います。そのときに、抱きしめてあげたり、声をかけたりするといいでしょう。
娘(3歳9か月)はかんしゃくがひどく、こだわりの強さもあり、手を焼いています。かんしゃくを起こすと、私を叩いたり、蹴ったり、髪を引っ張ったりしてきます。
例えば食事、カレーや親子丼はごはんにかけられないので別皿です。触れるものにもこだわりがあります。幼稚園で、手を洗ったときに拭くのはタオルでないとだめで、ペーパータオルだと手を洗いません。鼻水を拭くのはウェットティッシュでないといけません。でも、幼稚園ではかんしゃくを起こしていないようです。
(お子さん3歳9か月のママ)
感覚の過敏性は、3~8歳ぐらいがいちばん強い
回答:星山麻木さん
皮膚にふれるところ、触覚が敏感だという話がありましたが、食べるのも同じです。例えば、のどを通るときの触感も敏感なのでしょう。これは生まれつきの「特性」です。感覚の過敏性は、3~8歳ぐらいがいちばん強く、自然に大丈夫になっていきます。どうにかしようと立ち向かったり、焦ったりしないでいいと思います。
こだわりが強いのは確かめて記憶しているから
回答:星山麻木さん
お子さんは、ひとつずつ自分で確かめて、「これなら大丈夫」と記憶しているのだと思います。食べ物も自分なりに確かめたくて、いろんな味が混ざるのが嫌なのかもしれません。
―― 園では何ごともなく、家でだけかんしゃくを起こすのはどうしてでしょうか?
園で頑張っているストレスが家で安心して爆発するのかも
回答:星山麻木さん
おそらく園では、園の先生や規則やみんなのしていることに合わせたくて、とても頑張って、ストレスをためているのかもしれません。ある意味、家では安心して爆発しているわけです。園の先生と相談して、園で頑張り過ぎていたら家ではリラックスなど、そのバランスについて考えてみましょう。
苦手なものは避けて大丈夫なもののレパートリーを増やす
回答:星山麻木さん
例えば、お子さんが嫌がるペーパータオルのように苦手なもの、感覚が敏感なところは避けたほうがいいと思います。それよりも「大丈夫なもの」のレパートリーを増やしていきましょう。
―― 叩いたり、髪を引っ張ったりするとき、どう回避すればいいでしょうか?
悔しい気持ち・残念な気持ちに共感する声かけを
回答:星山麻木さん
「悔しかったね」「できなかったね」と言ってみてください。私たち大人が、共感してくれる相手がいると気持ちが和らぐのと同じです。何回か声かけをしていると、「あぁ、わかってくれるんだ」と感じて、だんだん気持ちが収まってきます。
予想できるように先に説明しておく
回答:星山麻木さん
お子さんはとても繊細だから、自分の思っていたことと違うときにショックを受けるのだと思います。そういうときは、必ず先に予想できるようにしてあげると、少しずつ収まると思います。例えば、見通しがつくように、絵や図を見せたり説明したりしてみましょう。
とても記憶力があると思うので、心の準備に時間がかかるタイプだと思います。その分ショックも深いわけです。それが大人にはかんしゃくに見えるのでしょう。予防してあげるほうがいいですね。
繊細で臆病すぎる… 大丈夫?
息子はとても繊細で怖がりです。大きな乗り物を嫌がって大泣きするし、動く犬のオモチャにも驚いて「怖い」と言って逃げてしまいます。こんなに臆病で大丈夫なのでしょうか?
(お子さん2歳9か月のご家族)
嫌がることは避けて、自然な遊びなど楽しいことを経験させる
回答:星山麻木さん
視覚の情報は、一人ひとり違います。お子さんは、視覚的に敏感で、怖いものがたくさんあるのでしょう。「怖い」と言えるのはいいことだと思います。
まずは、嫌がることは避けて、本人が楽しいことを考えましょう。例えば、泥遊びのような自然の遊びは、いろいろな感覚が同時に入ってきます。遊んでいると、楽しさが勝って嫌なことを忘れることがあるかもしれません。
感覚の繊細さや鈍感さは、みんな違います。子どもが自分で言えない場合は、セーフ・パーソンが観察しながら、子どもが「これ怖いんだ」と言ったら、「怖いんだね」と応えて、守って避けるようにしてください。年齢が上がると、できることが増えてくると思います。あまり心配し過ぎないほうがいいでしょう。
ことばがゆっくりな子に、どう関わっていけばいい?
息子(2歳3か月)のことばがなかなか出ないことが気になっています。同じぐらいの子どもたちを見ると、会話になっていたり、意思疎通できていたりしますが、うちの子はまだ意思疎通ができていません。
例えば、大好きなテレビ番組で気になるものが出ると、指をさして声を出し、私のほうを見ます。大好きな機関車のおもちゃで遊ぶと声を出し、何か言っているように聞こえますが意味のあることばにはなりません。
1歳半健診ではことばが1個も出ませんでした。私も「言ってもわからないかな」と思って、あまり説明せずにいろいろ先回りしてやっているかもしれません。テレビがつけっぱなしで会話が少ないのではないかと思うところもあります。ことばがゆっくりな子どもには、どんなふうに関わっていけばいいでしょうか?
(お子さん2歳3か月のママ)
子どもの伝えようという気持ちを育てることが大事
回答:星山麻木さん
映像を見ると、お子さんが指さしをしたり、ママのほうを見たりし、子どもからの発信はあると思います。言葉の数や、物の名前がわかるかどうかを気にしがちですが、それよりも子どもが伝えようとしている気持ちを育てることが、コミュニケーションでは大事です。言葉でなくても、ジェスチャーや表情などを使って、たくさんコミュニケーションをたのしんでみてください。
―― 意思疎通が難しいと感じるときは、どうしたらいいでしょう?
視覚・聴覚など子どもの感覚の強いところに働きかける
回答:星山麻木さん
子どもの強いところに働きかけてみてください。例えば視覚情報に強ければ、1日の生活の流れを写真やマークなどのカードで示して、カードで伝わるように工夫するわけです。子どもからも発信できるようにしてみましょう。例えば、並べたカードから子どもが指をさして、「ここに行きたいんだ」とわかるのも立派なコミュニケーションです。いろいろと試してみるとよいでしょう。
感情はジェスチャーで一緒に表現する
回答:星山麻木さん
うれしい、残念、困ったといった感情は、できるだけジェスチャーを使って、一緒に表現してみてください。言葉も同じです。例えば、子どもが「残念」「大丈夫」といった様子を見せたら、シンプルに言葉にして、一緒に表現していると、子どもは「この気持ちはこの言葉で言うんだ」とだんだんわかってくると思います。
子どもの特性と、発達障害はどう違うの?
「気になる子どもの行動は、その子の特性による」という話がありましたが、いわゆる「発達障害」と何か違うのですか?
脳の機能の違い(特性)はグラデーションで誰にでもある
回答:星山麻木さん
最近では「発達障害」という言い方を「神経発達症」に変えていこうという話があります。脳神経系は、人によって違い、発達のしかたもひとそれぞれです。どこからどこまでが発達障害なのか、はっきり区別できるわけではありません。脳の機能の違い(特性)は、明確な区切りはなく、グラデーションのような連続したものなのです。誰にでも一部あると考えたほうが、子育てをしている人たちには対応方法もわかりやすく、安心なのではないかと思います。
―― 専門の医療機関に相談して診断を受けることには、どんな意味があると思いますか?
専門機関は親のセーフ・パーソンで、安心につながる
回答:星山麻木さん
いちばんは保護者の安心だと思います。検査や相談ができる医療機関の主治医や専門家は、親にとってのセーフ・パーソンです。子どもが小さいうちから出会っておくことが大事です。もし、将来いろいろな福祉サービスを利用することがあったら、きちんと分かっていると役立つかもしれません。
―― なかなか診断がつかない場合は、どうしたらいいでしょう?
地域の専門機関と一緒に、子どもが生きやすくなる工夫を考える
回答:星山麻木さん
今、「診断がついていないけど、自分の子どもがみんなと同じことができなくて心配」という人のほうが多いです。子どもが困っているのであれば、どう工夫すれば生きやすくしていけるのか一緒に考えていきましょう。いちばん大事なのは、親の安心感ではないかと思います。そのためにも、地域のいろいろな専門機関とつながるのが重要かもしれません。
パパと子どもの関係が気になる… 親子でぶつかるのは特性のせい?
私がいないところで、娘とパパがぶつかってばかりいて悩んでいます。娘がかんしゃくを起こしてパパを叩いたり、髪の毛を引っ張ったりすることが1~2年ほど続いていました。私や幼稚園の友だちにはしないんです。
パパと娘の関係をよくしたくて、専門家にも相談しました。子どもだけでなく、関わる親のほうにも特性や原因があるのでしょうか?
(お子さん4歳11か月のママ)
特性はみんな違う。親自身の特性も理解して
回答:星山麻木さん
よく「子どもをどう理解して、どう変えようか」が話題になりますが、親自身にもさまざまな特性があります。そして、親子の組み合わせや、友だちや先生などとの関係があり、いろいろなところでぶつかり合ったり共感したりします。特性が違う人たちが、理解という形でつながるのがいちばんですが、自分の特性を理解することで人生が豊かになるかもしれません。
特性同士の相性もあります。何が悪いというわけではありませんが、理解がしやすくなると思います。
特性を理解する方法 どの色がどれくらい当てはまるか考える
解説:星山麻木さん
脳の機能の違い・特性を理解する方法として、特性を7色の虹に例えて、どの色がどれくらいあてはまるかを考えるワークを提案しています。
「レッド」は、何でも一番がいい完璧が好きな正義の味方。頑張り屋で、うまくいかないとイライラ、予定の変更は苦手です。
「オレンジ」は、心優しいあわてんぼう。空想が好きで、人を喜ばせたい。自分のことは後回しで、忘れ物が多い。整理整頓が苦手。
「イエロー」は、すばやく動く人情家。好奇心が旺盛で、みんなと盛り上がりたい、じっとしていられないタイプ。待つのが苦手。
「グリーン」は、繊細なきちんとさん。とっても真面目で、集中力バツグンな反面、SOSを出すのが苦手。感覚が敏感。
「アクア」は、アートなど特別な才能を持つ孤高の天才型で、大勢の中にいることや気持ちを伝えるのが苦手。記憶力は抜群。
「ブルー」は、ゆっくりのおおらかさん。おだやかで優しいけれど、てきぱき動くこと、うまく話すことは得意じゃない。
「パープル」は、甘えん坊のさみしがりや。大事にされないと不安で、人を傷つけてしまう。自分の気持ちに素直。
みなさんはどんな特性が含まれていますか?
この7つの特性が自分にどれくらい含まれているか、MCの2人に色を塗ってもらいました。
鈴木あきえさんは「素早くきちんと完璧にやりたい忘れん坊」だと自分を分析しました。
古坂大魔王さんは「何でも一番がいい」「整理整頓が苦手で忘れっぽい」「人を喜ばせたい」「穏やかな部分もある」と、自己分析しました。
色のバランスは人それぞれです。さまざまな特性が、誰にでも含まれています。
合理的配慮で、お互いの良いところを生かし合っていく
「みんな違って、みんなすばらしい」と本当に思える自分がいる一方で、親としての自分は「他の子と比べると遅いな」「うちだけ周りに迷惑かけているんじゃないか」という気持ちにもなります。なかなかお互いさまと思えないことがあります。どうしたらいいでしょうか?
鈴木あきえさん(MC)
「ソーシャル・インクルージョン」を体験できる場所が必要
回答:星山麻木さん
それは、日本の教育と関係があると思います。私たちは「同じであることは正しいこと」と教えられました。例えば、同じ年齢の人たちが、同じ学年で、同じ教科書で、同じことをやるのが当たり前になっています。
これから、多様な子どもたちがいることを受け入れていくためには、実際にいろいろな年齢や職業の人たちがいることを体験できるような場所も必要になってくるのではないでしょうか。そういった考え方を、「ソーシャル・インクルージョン」といいます。
ソーシャル・インクルージョンの実践例
東京・国立市に「ソーシャル・インクルージョン」を実践している施設があります。
館長の細田直哉さんによると、子どもから高齢者までのあらゆる人が訪れることができる施設で、ひとことで言えば「自分たちが欲しい未来を自分たちの手でつくる場所」だといいます。
子育てひろばや児童館など、親子が安心して過ごせる場所です。
そんな育児支援施設としての機能に加えて、ホールやスタジオ、多目的ルームなど、あらゆる世代の人が自由に利用できる機能も備えています。そのたたずまいは、まるで1つの大きな家のようで、さまざまなイベントを通じて、世代を超えた人々の交流も自然に広がっています。
同じ年齢の関わりだけだと、どうしても違いや遅れなどを比べてしまいがちですが、異なる年齢や立場の人がいつもそばにいれば、その違いを通じて学び合い、育ち合うことができます。
多様な人との関わりの中で、お互いの特性を認め合い、支え合うソーシャル・インクルージョン。このような場所が増えていくと、子育てももっとしやすくなりそうですね。
お互いの強みでつながり、多様なコミュニティを作っていく
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです