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【海の異変】 2023年夏 伊豆のサンゴが初めて白化! 静岡 沼津

東海大学海洋学部サンゴ研究 夏の伊豆 サンゴ白化現象を初観測 沼津市平沢 
  • 2023年12月12日

「サンゴの産卵を卒業研究のテーマにしようと準備していたのですが、そのサンゴが白化(はっか)してしまったんです」。そう言うのは東海大学海洋学部4年生の長嶺輝生さんです。研究の目的は果たすことができなくなってしまいましたが、事前に準備していた調査が功を奏し、伊豆半島のサンゴの白化を克明に記録することができました。
指導教員の中村雅子准教授によりますと、伊豆半島のサンゴが夏に白化するのは初めて。伊豆のサンゴを継続して観察する必要性を訴えています。

世界的に貴重な日本のサンゴ

西表島の多彩なサンゴ群落 東海大学中村研究室提供

「サンゴ」とひと口に言っても、体がやわらかいものから深い海に生息するものまでさまざまな種類がありますが、多くの人が「サンゴ」と聞いてイメージするのは、やはり写真のような南の温かい海の中で、樹木のような複雑で硬い骨格を持つ生きものではないでしょうか?形を見ると植物にも見えますが、れっきとした動物です。表面をよく観察すると小さなイソギンチャクのような形をしたものが見えます。イソギンチャクやクラゲの仲間、「刺胞動物(しほうどうぶつ)」に分類されています。

実は南の島だけでなく、伊豆半島にもそのような硬い骨格を持つサンゴが点在していて、地球規模で見ると伊豆半島から千葉県の房総半島は生息域の北限にあたります。日本は亜熱帯から温帯域に広くサンゴが分布し、南半球のオーストラリアとともに世界のサンゴ研究者からも注目される地域なんです。

卒業研究は静岡のサンゴの
産卵と分布だったはずが……

東海大学海洋学部水産学科の長嶺輝生さん

静岡市清水区三保にある東海大学海洋学部4年生の長嶺輝生さんは、高校時代にまだ生態に謎の多いサンゴにおもしろさを感じ、海洋学部に進学した一人です。卒業論文のテーマに選んだのは、伊豆半島のサンゴの産卵と分布。事前にダイビングのライセンスも取得し、初めてのフィールドでの研究を楽しみにしていました。

場所は、東海大学がおよそ30年観察を続けている沼津市内浦湾です。
このうち平沢はダイビングポイントにもなっていて、安全に調査できることから、この地点で研究することになりました。地元のガイドダイバーによりますと、サンゴに生息するカニや、サンゴ周辺を泳ぐチョウチョウウオは多くのダイバーに人気だということです。

沼津市平沢の海岸にて 青いウェットスーツが長嶺さん

「7月下旬から毎日のように海に潜り、サンゴにタグを付けて種類を記録したり、卵の成熟具合を調べたりしていました。バンドルコレクターという卵を取る装置をサンゴに取り付けたりして、いよいよ産卵を観察するぞと期待していた時に、サンゴが白化してしまったんです」。(長嶺さん)

白くなってしまったサンゴ

一目瞭然でした。
こちらは白化する前、7月24日に記録のために撮影したエンタクミドリイシというサンゴです。

白化前のエンタクミドリイシ(東海大学中村研究室提供)

こちらは9月15日に撮影した同じサンゴです。

白化したエンタクミドリイシ (東海大学中村研究室提供)

表面の色が抜け、白くなっています。

そもそも白化とは、褐虫藻(かっちゅうそう)という植物プランクトンが失われ、サンゴの白い骨格が透けて見えてしまう現象です。褐虫藻はサンゴと共生関係にあり、サンゴは褐虫藻から栄養を受けて育つので、白化が長引くとサンゴは死んでしまいます。

卒業研究でサンゴに向き合う長嶺さん

長嶺さんは、沼津市平沢沖でミドリイシ属に含まれるサンゴ5種、「ミドリイシ」「エダミドリイシ」「エンタクミドリイシ」「クシハダミドリイシ」「二ホンミドリイシ」を観察。それぞれにタグを付け、卵の成熟具合を観察していましたが、その多くが白くなってしまったのです。

産卵を観察するという目的を果たせなくなった長嶺さんは残念に思ったそうです。
ところが卒業研究の指導教員の中村雅子准教授はこれを貴重な機会と捉えました。伊豆半島では夏にサンゴが白化した記録がなかったからです。

夏のサンゴの白化は
伊豆半島で初観測

東海大学海洋学部の中村雅子准教授はサンゴの保存に向けた研究をおこなっています。中村准教授によりますと、伊豆半島のサンゴが夏に白化するのは極めて異例だということです。

サンゴの標本を持つ中村雅子准教授

「そもそもサンゴはあたたかい海に分布する生きもので、地球規模で見ると伊豆半島付近は北限域にあたります。実は過去にも伊豆のサンゴが白化した記録はあるのですが、それは真冬の寒気による低水温が原因と考えられています。
産卵のためにサンゴにタグを付けて観察していたので、5種類のミドリイシ属の群体、1つ1つの白化の経過を追えるのは逆に強みになると思いました」。(中村准教授)

この夏のサンゴの白化は伊豆半島各地で起きていました。
駿河湾に面した伊豆半島の西岸は、南部から北部まで所々でサンゴの群落がみられます。近年、海水温の上昇とともに、伊豆半島のサンゴの数や分布は広がっていると考えられ、研究者からも注目されています。
この夏、地元ダイバーらによって南伊豆町から西伊豆町、沼津市など広い範囲で白化現象が報告されていましたが、白化前の状態を正確に記録したものはなく、貴重なデータを収集することができました。

夏の高水温を記録

長嶺さんらは、サンゴの産卵を調べるために水温も計測していました。サンゴは海水の温度が25度から29度が適した生きものであることがわかっています。この夏、設置していた水温計を見ると、沼津市平沢では明らかに29度を超え、これまで平沢で観測した中で最も高い水温を記録していました。
30度を超えた日も7月に2日、8月に10日、9月に入っても3日ありました。

黄色が今年の水温の推移(9月まで)

日本近海のこの夏の平均海面水温は平年より1度高く、統計を取り始めた1982年以降、去年(2022年)の0.8度を上回り、過去最も高くなりました。
沼津市平沢でも同等か、それ以上の海水温の上昇があったようです。
中村准教授は温帯域のサンゴの生育にとって厳しい29度以上の水温が長期にわたって続き、サンゴにとって暑すぎる海水が白化を引き起こしたと考えています。

環境の変化を
つぶさに観測する必要性

長嶺さんら研究グループは、先月下旬、仙台で行われたサンゴ礁学会で伊豆のサンゴの白化についてパネル発表しました。

サンゴ礁学会で伊豆の白化について発表する長嶺さん

近年の海水温の上昇によって、研究者の間では、沖縄では大規模な白化が起きる頻度があがっていることが知られていましたが、長嶺さんの取った北限地域のサンゴの白化データは、多くの研究者から驚きをもって受け止められました。

長嶺さんは、今、大学院に進学して伊豆半島のサンゴを継続して研究したいと考えています。

サンゴは大丈夫なのか?

褐虫藻がいなくなり、成長に必要な栄養を得られなくなったサンゴは大丈夫なのでしょうか?
中村准教授によりますと、白化の期間が短ければ再び褐虫藻がサンゴに戻ってくることも多く、沼津市平沢のサンゴは現在回復の途中にあるとのことです。
その上で、この場所でサンゴを観測し続ける意義を次のように言います。

「海の生きものだけでなく、チョウや樹木なども含めて生物の分布の北限域というのは、環境の変化に敏感に応答することが認められます。特にサンゴは動けない生きものなので、ピンポイントでの環境指標になり得る生きものです。平沢のサンゴの種類や生残、成長、繁殖などをきちんと観察、発信することは環境の変化を記録する上でとても大切なことだと思っています」。(中村准教授)

取材を終えて

この夏、日本周辺の平均海面水温は観測史上最も高くなりました。12月に入っても北海道や東北地方ではサケやスルメイカの深刻な不漁が報告され、漁業者の生活を直撃しています。
そして静岡県でも海藻やウニ、サンゴに異変が見られ、海の生きものを研究する研究者でさえも経験のない変化を目の当たりにし、驚きを隠しきれませんでした。
ことし静岡県の海で起きていたことが一時的なものなのか、長い時間軸で象徴的な出来事になるなのかはまだわかりません。しかし、ドバイで行われたCOP28でも、IPCC=気候変動に関する政府間パネルの報告でも、世界各地で大気や地上、海で急速な変化が起こっていることが報告され、世界がどう協力して温室効果ガスの削減に取り組むかが緊急の課題になっています。
海に山に豊かな自然に囲まれている静岡県ですが、取材を通して、これまで以上に身近な自然の変化に気づく感度を高める大切さを思い知らされました。

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  • 田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    大学で海洋生物を学んでNHKアナウンサーに。「しず海ひろば」で静岡の海の話題を発信中。サンゴの生態は不思議で、サンゴの関連の取材するたびに、生きものが他の生きものや環境と複雑な関係を持ちながら生きていることに色々と考えさせられます。

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