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静岡 袴田さんのやり直し裁判 検察・弁護団 双方新たな証拠提出

  • 2024年02月22日

58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、2月15日に9回目の審理が行われました。争点となっている血の付いた衣類をめぐり、検察と弁護団の双方が新たな証拠を提出し、主張を交わしました。詳しく解説します。

再審の最大争点“5点の衣類”

現在行われている再審で最大の争点となっているのが、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかった“血の付いた「5点の衣類」が袴田さんのものかどうか”という点です。

2月15日に行われた審理では、再審請求の審理でも争われた「長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残るかどうか」という点をめぐり、検察と弁護団の双方が新たな証拠を提出して主張を交わしました。

再審請求の審理では弁護側に軍配

この点について、再審請求の審理では、去年3月に東京高等裁判所が弁護団の主張を認めて、再審を認める決定を出しています。

当時の弁護団の主張は「1年以上みそに漬かっていたら血痕は黒く変色するはずで、赤みがあるのは袴田さんが逮捕された後、発見される直前に誰かが入れたものだからだ」というものです。
そして主張を裏付けるために、法医学の専門家に鑑定を依頼し「血液がみその成分にさらされると黒く変色する化学反応が進み、1年2か月後に赤みが残ることはない」とする鑑定書を提出していました。

東京高裁は再審開始決定で「弁護側の専門家の鑑定結果は十分信用することができる」として、赤みは失われるはずだと判断しています。
そして「5点の衣類」について「事件から相当な時間がたった後、袴田さん以外の第三者がみそタンクに隠した可能性が否定できず、袴田さんを犯人と認定することはできない」と結論づけたのです。

再審9回目 検察の主張は?

検察の主張の様子(廷内スケッチ)

今回の審理で検察は、再審での新たな証拠として準備した、法医学者7人による「共同鑑定書」を提出しました。これは専門家らが去年5月から6月にかけて、あわせて3回、オンラインでの検討会を行い作成されたものです。新たな実験は行っておらず、文献やそれぞれの知見をもとにまとめられたといいます。

共同鑑定書ではまず、東京高裁の決定について「裁判官の科学リテラシーの欠如が露呈されたものと受け止めざるをえない」と批判しています。そして、弁護側の専門家の見解に対し、「みそタンクの中の酸素の濃度について全く検討されていないのは致命的な問題だ」と主張しました。

具体的には、みその仕込みの段階で原料に含まれる空気を抜く工程があることや、発酵の過程でみそに含まれる酸素が消費されることを挙げ、「当時、タンクの底の部分には酸素がほとんどなかった可能性が高い」としています。

これにより、血痕が酸化して黒くなる化学反応が妨げられるとして「1年以上みそに漬けた血痕に赤みが残っていた可能性は否定できない」と結論づけています。つまり検察は、「長期間みそに漬けた血痕に赤みが残る可能性は認められる」と主張したのです。

弁護団の反論は?

弁護団の主張の様子(廷内スケッチ)

これに対し弁護団は、再審請求の審理でも鑑定を依頼した、法医学の専門家2人による意見書を新たに提出しました。この意見書では、検察側の「共同鑑定書」に対し「血痕に赤みが残る可能性があるのではないかと疑問を呈するものに過ぎず、科学的な反論になっていない」と批判しています。

その上で、「5点の衣類」が見つかった、みそタンクをめぐる当時の経緯を振り返ります。

事件が発生したのは1966年の6月30日です。「5点の衣類」が見つかったみそタンクには、7月20日に仕込みの原材料が約4トン投入され、その後8月3日にも追加で約4トン投入されたことがわかっています。そして衣類は、翌年の8月31日にタンクの底の部分から見つかりました。こうした経緯から、検察が主張する「犯人」は、原材料が投入されるまでの間にタンクの中に衣類を入れたと考えられます。

これをふまえ、弁護側の専門家の意見書では、みそタンクについて「(事件発生から原材料が投入されるまでの)少なくとも20日間は十分な空気にさらされていて、酸素がほとんどなかったとはいえない」とし、共同鑑定書には前提条件に重大な誤りがあると反論したのです。

加えて、「血液の赤みの原因であるヘモグロビンが酸化して赤みを失う化学反応が進行するために必要な酸素は極めて微量で足りる。みその原材料などに含まれる酸素だけでも酸化は進み、赤みは失われる」とも主張しました。

“巌さんの無実は揺るがない”

また検察は今回の審理で、3年前からおととしにかけて独自に行った、血痕をみそに漬ける実験結果の写真をモニターで示し、「一部で赤みが観察された」と再審請求の審理での主張を繰り返しました。

検察の実験結果

審理の後の会見で、袴田さんの姉のひで子さんと弁護団は次のように述べました。

袴田ひで子さん

袴田さんの姉  ひで子さん
わざわざ赤くして写しているように思った。検察側の都合があって主張していると思うが、弁護士が的確に反論してくれて小気味よかった。

 

間光洋弁護士

間光洋弁護士
検察は「赤みが残っている」と強弁していたが、あれを見てどれだけの人が赤みが残っていると思うか、共感できたかですね。証拠に語らせるのではなく、事実をねじ曲げて主張しているとみなさん受け取っていただけたのではないか。この程度の主張であれば、もう巌さんの無実は揺るがないと思っています。

また、検察が提出した法医学者7人による「共同鑑定書」については次のように述べました。

笹森学弁護士

笹森学弁護士
赤みが残る可能性があると、抽象的な可能性を述べたものに過ぎない。実験もせずに可能性だけを指摘しても反論にならない。弁護側の専門家が行った鑑定の信用性を覆すような証拠価値はない。

次回専門家の尋問 審理ヤマ場に

裁判所は、3月25日から27日にかけて3日間連続で、検察側の専門家2人と弁護側の専門家3人の証人尋問を行うことを決定しました。これらの専門家は、双方の鑑定や意見書の作成などに携わった人たちです。

3月25日には検察側の専門家、26日には弁護側の専門家の尋問がそれぞれ行われます。最終日の27日には、5人の専門家が一堂に会して質問を受ける、「対質」(たいしつ)と呼ばれる尋問が行われる予定です。
去年10月から始まった再審はヤマ場を迎えることになります。双方の専門家の見解を、裁判所がどのように評価するのか注目されます。

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