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静岡 袴田さん再審 取り調べテープ再生で「自白を強要」主張

  • 2024年01月26日

静岡地方裁判所で開かれている袴田巌さんの再審=やり直しの裁判。1月16日から2日間連続で、6回目と7回目の審理が行われ、弁護団は①確定した判決で有罪の決め手とされた「5点の衣類」はねつ造されたもので、②袴田さんは自白を強要された、という主張を展開しました。詳しく解説します。

"5点の衣類"とは?

1966年に今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で、袴田さんは強盗殺人などの罪に問われ、死刑が確定しました。

5点の衣類

再審で審理の中心になっているのは、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、有罪の決め手とされた「5点の衣類」です。検察は「衣類は袴田さんのもので犯行時に着用し、事件後にみそタンクに隠したと認められる」と主張しています。

「5点の衣類」についての検察の主張

その根拠の1つとして検察は、「5点の衣類」の発見を受けて警察が袴田さんの実家を捜索した結果、みそタンクに入れられていたズボンの切れ端にあたる布がタンスから見つかったことを挙げています。

「5点の衣類」についての検察の主張

弁護団「捜索は偽装された」

1月16日の審理で弁護団は、「捜索にあたった警察官らは、たまたま発見した布を一目見ただけで『5点の衣類』のズボンの切れ端だと断定して報告書を作成している」として、「あらかじめズボンの切れ端だということを知っていたとしか考えられず、捜索は偽装されたものだ」と主張しました。発見された経緯が不自然だと指摘したのです。

「5点の衣類」についての弁護団の主張

その上で、ズボンの切れ端の実物を法廷で示しました。半世紀以上前の証拠を保存するため、切れ端の布はアクリル板に挟んだ状態で法廷のモニターに映し出されました。

弁護団がズボンの切れ端の実物を示す

弁護団「血痕の赤みは“決着済み”」

また「5点の衣類」をめぐっては、"長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残るかどうか"が、去年まで東京高等裁判所で行われていた再審請求の審理で最大の争点になっていました。東京高裁は去年3月、「5点の衣類」が捜査機関によってねつ造された疑いに言及した上で、袴田さんの再審を認める決定を出しました。

このとき検察は最高裁判所への不服申し立てを行わず、決定は確定しました。ところが、去年7月に検察は再審で袴田さんの有罪を求める立証を行うことを決め、赤みの争点についても再び争われることになったのです。

こうした経緯から、1月17日の審理で弁護団は「長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残るかどうかは“決着のついた争点”だ」と主張しました。そして、血痕を付けた衣類を長期間みそに漬ける実験を何度も行った結果、いずれも赤みは失われたとして「『5点の衣類』はねつ造されたもので、袴田さんは無罪だ」と訴えました。

審理のあとの会見で弁護団は次のように話しています。

弁護団 間光洋 弁護士
(長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残るかどうかは)終わった話なのにもう一回やっているんですよ。もう決着のついた議論なんです。それを長々とやっていて、こんなに裁判が長期化しているという理不尽は許せません。本当に怒りを禁じ得ないと思っています。

 "自白を強要" 音声を根拠に主張

また17日の審理で弁護団は、取り調べの録音テープの音声を根拠に「袴田さんは自白を強要された」と主張しました。

袴田さんが逮捕されたのは、1966年の8月18日です。容疑を否認する袴田さんに対し、連日、長時間の取り調べが行われました。そして、逮捕から19日後の9月6日に、袴田さんは自白したとされています。
弁護団によりますと、袴田さんへの取り調べは1日12時間前後行われ、あわせて430時間に及んだということです。

取り調べの様子を記録した録音テープ

今回の審理で弁護団は、過去に検察から証拠開示された47時間分の録音テープを分析し、その一部を法廷で再生して、自白に至るまでの経緯を説明しました。
このうち、8月18日に任意同行されたあとの取り調べで、袴田さんはみずからの潔白を主張していました。

8月18日 取り調べの音声
警察官「袴田、お前さんの良心にほんとに聞いて、な、いいか。ひとつお前の行為っちゅうのを反省してもらいたいだ」
袴田さん「それじゃまるで俺がやったっていうことにしかならないじゃん。犯人じゃないもの。(ほかに)誰かいるよ」

袴田さんが否認を続ける中、8月29日には警察の幹部などが集まり、検討会が開かれました。

当時の静岡県警の捜査記録によると、この会議では、「取調官は確固たる信念を持って犯人は袴田以外にはないということを、強く袴田に印象づけることにつとめる」ことを確認したとされています。

会議後の9月4日の取り調べでは、袴田さんが用を足したいと申し出たのに対し、トイレに行かせず、取調室の中で用を足させる様子が記録されていました。

9月4日 取り調べの音声
袴田さん「すいません。小便行きたいですけどね」
警察官「小便は行きゃええがさ。やるからな。小便行くから。な。その間にイエスかノーか、話ししてみなさい。袴田、本当の気持ちを言ってみなさい」

そして、自白したとされる前日の9月5日。録音テープには警察官が袴田さんを一方的に犯人だと決めつけて、強い口調で迫る様子が記録されていました。

9月5日 取り調べの音声
警察官「おまえが犯人だということははっきりしてる。な。おまえは犯人だ。4人を殺した犯人だ。犯人に間違いない。その犯人が、その犯人がだぞ、ええか?どうして俺はそうなっちゃったということをだな、話をしなさい」
警察官「お前は殺人犯だな、その罪は深いぞ、深い。自分が犯した殺人という罪。これに対して、本当に心から謝る、本当の心から謝罪するだ」

弁護団はこうした状況をふまえ、「袴田さんは身体的・精神的に限界の状態で自白させられ、事件とは関係ないのに犯人に仕立てられた」と主張しました。

 

ひで子さん「こんなひどい目に」

袴田さんの姉のひで子さんと弁護団は、録音テープの音声について次のように述べました。

袴田さんの姉 ひで子さん
刑事の調べ方をまざまざと感じて、こんなひどい目にあっていたのかと改めて思いました。

弁護団 白山聖浩 弁護士
袴田さんが任意同行された後の取り調べでは、まだお元気で自分で反論をきちんとする状況にあったのが、徐々に徐々に力を失っていく様子がはっきりわかりました。自分が同じように取り調べを受け続けたらと思うと、本当に胸が苦しくなりました。袴田さんがみずからストーリーを話しているわけではなく、警察官がストーリーを作っていく様子からも、録音テープは袴田さんが犯人ではないことを示す証拠になっていると思います。

弁護団長  西嶋勝彦さん 死去

弁護団長  西嶋勝彦さん

袴田さんの再審をめぐっては、間質性肺炎を患っていた弁護団長の西嶋勝彦さんが1月7日に82歳で亡くなりました。1月16日、ひで子さんと弁護団の小川秀世事務局長が、西嶋さんへの思いを語りました。

小川秀世弁護士とひで子さん

袴田さんの姉 ひで子さん
西嶋先生には「長い間ご苦労さまでした、本当にありがとう」という思いです。病気を押して、無理して裁判所に来ていらっしゃました。もう半年長く生きていたら、巌の無罪を聞けていたのではないかと思うと残念です。

弁護団事務局長 小川秀世弁護士
みんなが西嶋先生の思いを身にまとい、非常にいい主張と立証ができたと思っています。私が担当した主張は、最後にアドバイスをもらったところだったので、思いを込めて弁論しました。

西嶋さんが年始に袴田さんの支援者に送った年賀状には、再審にかける西嶋さんの強い思いが記されていました。

西嶋さんから袴田さんの支援者宛ての年賀状
「袴田巌さんをもうすぐ死刑台から取り戻す」
「春が来る 袴田姉弟 雪冤(せつえん)だ」

西嶋さんの訃報について、静岡地方検察庁の奥田洋平次席検事は次のようにコメントしました。

静岡地方検察庁 奥田洋平次席検事
目指す結論はわれわれとは真逆ですが、何らかの判断が区切りとして示される直前にお亡くなりになられたことは非常に無念だろうと察します。心からお悔やみ申し上げます。

今後の審理 攻防はさらに続く

次回以降の審理は2月14日と15日に2日連続で行われます。
15日の審理で検察は、弁護団が「決着済み」と主張する"血痕の赤み"の争点について、「みそに漬けられた血痕に赤みが残っていた可能性は否定できない」と反論する見通しです。
また、この争点をめぐり、3月25日から27日までの3日間で、検察と弁護団の双方が請求する専門家の証人尋問が行われる方針で、激しい攻防が繰り広げられるものとみられます。

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