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【解説】静岡 袴田巌さん再審・第3回 検察の主張は?重要な争点も

  • 2023年11月30日

57年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で11月20日に3回目の審理が行われました。今回は有罪の決め手とされた血に染まった「5点の衣類」について、検察の主張と立証が行われました。主張のポイントについて詳しく解説します。

「5点の衣類」とは

まずは、過去の裁判で重要な争点となった「5点の衣類」についておさらいします。

1966年6月、今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で、会社の従業員だった袴田さんはこの年の8月に逮捕されました。当初、検察は袴田さんがパジャマを着て犯行に及んだと主張して、裁判を進めていました。

ところが、事件の発生から1年2か月後に、現場近くのみそタンクから血の付いた5点の衣類が見つかります。

このため検察は「袴田さんがこの衣類を着用して犯行に及び、タンクの中に隠した」と主張を変更。裁判の途中で犯行時の着衣についての主張が変わる、異例の事態が起きました。
これに対し、袴田さんは当時、「血染めの着衣は絶対に僕のものではない」と訴えていました。

はけないズボン、しかし・・・

さらに、当時の裁判では、タンクから見つかったズボンの装着実験が3回にわたって行われましたが、袴田さんはサイズが合わず、はくことができませんでした。しかし、疑念が持たれたこの衣類が有罪の決め手となり、1980年に袴田さんの死刑が確定しました。
それから40年あまりが経過したことし3月、東京高等裁判所は捜査機関が衣類をねつ造した疑いに言及し、袴田さんの再審を認めました。

そして10月27日に行われた再審の初公判で、弁護団は「捜査機関は有罪判決を得られるか不安になり、大がかりな証拠のねつ造を行わざるをえなくなった」と主張していました。

3回目審理での検察の立証の様子(廷内スケッチ)

過去の裁判で重要な争点となった「5点の衣類」。11月20日に行われた3回目の審理で、検察はどのような主張を展開したのでしょうか。

検察主張①「衣類 袴田さんのもの」

まず1つめは、「5点の衣類は袴田さんのものだ」という主張です。検察はこの根拠として、みそ工場の従業員の証言などから、事件の前に袴田さんが着ていた衣類と特徴が合致していること。そして、みそタンクから見つかったズボンの切れ端が、袴田さんの実家のタンスから見つかったことを挙げました。

また、過去の裁判で行われた装着実験で、袴田さんがズボンをはけなかったことについては、袴田さんが事件の前と比べて太っていたことや、みそに漬けたためサイズが縮んだことを理由に挙げました。つまり「体格やサイズが変化したので、はけなくてもおかしくない」と主張したのです。

検察主張②「衣類を犯行時に着用」

続いて、「袴田さんが衣類を犯行時に着用した」という主張です。

この根拠として検察は、白い半袖のシャツの右袖には2つの穴が、ねずみ色のスポーツシャツの右袖には1つの穴が、それぞれ空いていること。そして、袴田さんが逮捕された当時、右腕の上部にけがをしていて、シャツの穴とけがの箇所の位置関係がおおむね整合していることを挙げました。

つまり、袴田さんが2枚のシャツを着た状態でけがをしたと立証しようとしたのです。白い半袖シャツとねずみ色のスポーツシャツで穴の数が一致しない点について、検察は「着衣のよじれなどが原因として考えられる」と説明しています。

検察主張③「ねつ造は不可能」

そして、今回の審理で注目されたのが、「ねつ造は非現実的で実行が不可能だ」という、ねつ造の疑惑への反論です。

この根拠として検察は、みそ工場に忍び込み、従業員らに知られることなく無断でタンクの中に衣類を隠すのは、著しく困難であること。それに、ねつ造行為自体発覚するリスクが高く、捜査機関がそのような危険を冒してまでねつ造したと考えるのは、非現実的であることを主張しました。

今回の検察の主張を改めて整理します。検察は過去の裁判と同様に「衣類は袴田さんのもので、犯行時に着用し事件のあとにみそタンクに隠した」という主張を繰り返しました。そして、証拠のねつ造については「非現実的で、実行は不可能だ」と述べたのです。

姉 ひで子さんと弁護団が会見

審理のあと、袴田さんの姉のひで子さん(90)や弁護団が会見を開きました。
この中でひで子さんは、袴田さんの無実を訴えていた母親や兄の当時の証言を検察が「信用できない」などと主張したことについて、次のように述べました。

袴田さんの姉のひで子さん
うちの母親は、うそを言うような人間じゃないんですよ。(検察の)説明を聞いておりまして、なんかうそを言ってるみたいでね。しょうがないから聞いておりましたが、「あぁ、これではえん罪はなくならないな」と思いました。もう亡くなっておりますが、母親や兄はよく頑張ったと思っています。2人とも頑張ったから、今の再審があるんです。それはとてもうれしく思いました。

検察の主張について、弁護団はどのように受け止めているのでしょうか。

弁護団 事務局長 小川秀世弁護士
誤った事実を前提にした証言をいっぱい並べてきたという印象を受けました。検察官の主張は非常に弱く、”犯行着衣かどうか”ということについての立証が一番不足している。犯行着衣でなければ「ねつ造」しかないので、犯行着衣ではないということを主張していきたい。

証拠がねつ造されたかどうかについて、裁判所がどのような判断を示すか注目されます。

続く審理 次回は弁護団の反論も

次回の審理は12月11日に予定されています。午前中は引き続き検察の立証が行われ、午後から弁護団の反論が行われる見通しです。
また弁護団によりますと、再審請求の審理で最大の争点となった「長期間みそに漬けた血痕に赤みが残るかどうか」という点については、年明け以降の審理で双方が主張を交わす予定だということです。 

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