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静岡 今年最後の審理を解説 袴田さん再審 パジャマをめぐる攻防も

  • 2023年12月26日

57年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、12月20日に5回目の審理が行われました。年内最後となった今回の審理では、検察がこれまでに争点となってきた“5点の衣類”以外にも「袴田さんが犯人であることを示す複数の根拠がある」という主張を展開。弁護団がこれに反論しました。それぞれの主張の内容や、今後の審理の見通しについて詳しく解説します。

パジャマをめぐり双方が攻防

57年前の1966年に今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審では、有罪の決め手とされた「5点の衣類」が袴田さんのものかどうかが、主要な争点になってきました。5回目の審理では、袴田さんのパジャマをめぐって攻防が繰り広げられました。

1966年6月、今の静岡県清水区でみそ製造会社の専務の家が全焼し、焼け跡から4人が遺体で見つかった事件で、工場の従業員だった袴田さんは、4人を殺害して現金を奪い、家に油をまいて火をつけたとして、強盗殺人や放火などの疑いで逮捕されました。当時、新聞では「袴田さんのパジャマに血や油がついていたことが決め手となった」などと報道されました。

袴田さんの裁判は1966年11月から始まりましたが、検察は当初「袴田さんがパジャマを着て犯行に及んだ」と主張していました。ところが、事件の発生から1年2か月後に、現場近くのみそタンクから血の付いた5点の衣類が見つかります。これを受けて検察は「袴田さんがこの衣類を着用して犯行に及び、タンクの中に隠した」と主張を変更しました。裁判の途中で、犯行時の着衣についての検察の主張が変わるという、異例の事態が起きていたのです。

検察“鑑定で血痕と油が検出”

今回の審理で検察は、「当時、静岡県警がパジャマを鑑定した結果、他人の血液型の血痕と、放火に使われたとみられる油が検出された」と説明しました。その上で「袴田さんが犯行後に『5点の衣類』からパジャマに着替えた際に、血が付着したことが考えられる」と主張しました。

弁護団“県警の鑑定信用できない”

これに対し、弁護団は「パジャマには肉眼で見えるような血痕はなく、警察庁の科学警察研究所の鑑定では、血液型や油は検出できなかった。静岡県警の鑑定は信用できない」と反論しました。

法廷でパジャマの実物示す

その上で弁護団は、パジャマの実物を法廷で示しました。裁判所の職員2人が、袋から取り出したパジャマを広げて、裁判官らに見えるように持ち上げました。パジャマは水色のしま模様で、これまでの鑑定で一部の生地は切り取られてなくなっていて、その部分には白い布が継ぎ合わされていました。このとき弁護士が、審理に参加している袴田さんの姉のひで子さんが近くで見てもよいか、裁判長に尋ねました。

裁判長が「近くで見ることができますから、どうぞ前に出てください」と促すと、ひで子さんは台の上に置かれたパジャマの近くまで移動し、顔を近づけてじっくりと見ていました。また、裁判官の1人も、弁護士に促されて近くで確認していました。

袴田さんの姉 ひで子さん

 袴田さんの姉 ひで子さん
パジャマの実物を見るのは初めてなんです。“血染めのパジャマ”と言われたものが、「なんだこんなものか」と思いました。“血染め”ではなかった。やっぱりえん罪だなと思いました。

「くり小刀」めぐり攻防も

5回目の審理では、このほかに、検察が事件の凶器として主張している「くり小刀」についても争われました。検察は、同じ種類の「くり小刀」を販売していた沼津市内の刃物店の店員が、事件のあとの捜査で警察が示した28枚の顔写真の中から、見覚えがある人として袴田さんの写真を選んだと説明しました。その上で、「袴田さんがこの店でくり小刀を購入し、所持していたことがうかがえる」と主張しました。

これに対し弁護団は、刃物店の店員はのちに「本当は写真の中に、見覚えのある人はいなかった」と弁護団に告白したと説明し、「当時の証言には虚偽の疑いが大きく残る」と反論しました。

 当初の計画より結審遅れる見込み

これで年内に予定されていたすべての審理が終わりました。来年のスケジュールについて、裁判所は3月下旬までの7回分の期日を指定しています。来年からは、再審請求の審理で最大の争点になった「長期間みそに漬けた血痕に赤みが残るかどうか」が、改めて争われることになります。この争点をめぐっては、検察と弁護団の双方が専門家の証人尋問を請求しています。

当初の計画で裁判所・検察・弁護団の3者は、証人尋問を来年2月から行い、年度内に検察による論告や弁護団の最終弁論を行って審理を終えたいとしていました。しかし、3者の協議の結果、証人尋問の開始は来年3月にずれ込む見通しとなり、さらに、弁護団の主張が追加されることなどから、すべての審理を終えるのは5月ごろにずれ込む可能性が出ているということです。

早期の判決実現を

判決の言い渡しは、すべての審理を終えてから数か月かかるとみられます。

袴田さんの姉 ひで子さん

来年に向けて、ひで子さんは次のように話しています。

袴田さんの姉 ひで子さん
何年かかろうが、良い年に向かって頑張ってるんですよ。だからことしよりも来年は、もっと素晴らしい年になると思います。巌の変化は、やっぱり年を取りましたね。来年3月に88歳になりますので、なるべく長生きさせたいと思っております。

ひで子さんは来年2月に91歳、そして袴田さんは3月に88歳になります。裁判所・検察・弁護団の3者は、2人にとっての時間の重みを再認識した上で、審理を迅速に進め、早期の判決を実現することが求められます。

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