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【解説】静岡 袴田さんのやり直し裁判 「5点の衣類」が法廷に そのねらいは?

  • 2023年12月21日

57年前、静岡県でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、12月11日、4回目の審理が行われ、弁護団は、確定した判決で有罪の決め手とされた証拠の衣類の実物を法廷で示し、「ねつ造された以外にありえない」などと主張しました。詳しく解説します。

争点 “衣類"は袴田さんのものか

1966年6月に今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件で、会社の従業員だった袴田巌さんはこの年の8月に逮捕されました。事件の発生から1年2か月後、袴田さんの裁判が進んでいる途中で、現場近くのみそタンクから血の付いた“5点の衣類"が見つかります。裁判では、この衣類が袴田さんのものだと判断され、1980年に死刑が確定しました。

再審の審理で最大の争点となっているのは、有罪の決め手とされた“5点の衣類"です。再審の中で検察は改めて、「衣類は袴田さんのもので、犯行時に着用し、事件のあとにみそタンクに隠した」という主張を展開しています。

弁護団「ねつ造以外ありえない」

4回目の審理で、“5点の衣類"について弁護団がどう反論したのか、ポイントをみていきます。

廷内スケッチ

まず弁護団は「衣類の生地の色からみてねつ造以外ありえない」と主張しました。

弁護団はカラー写真を根拠に「発見された衣類のうちステテコや半袖シャツはみその色に染まっておらず、生地の色である白に近い状態だった」とした上で、「衣類は1年2か月間もみそに漬かっていたのではなく発見される直前にタンクに入れられた」と主張しました。

弁護団が根拠としたカラー写真

ズボンとステテコ 異なる血痕

さらに弁護団は「血痕の付着状況からみてねつ造以外ありえない」とも主張しました。

過去の判決で、衣類についた血痕は、犯行時に着用して返り血を浴びたと判断されています。これについて弁護団は、「ステテコには太ももから下の部分にかけて、多くの血痕がついているのに対し、対応するズボンの裏生地には、はっきりした血痕の付着が認められない」と述べました。

ステテコの上からズボンをはいているはずなのに、ステテコとズボンでは血痕の付き方が異なっているという主張です。

シャツの裏側に被害者の返り血?

また、白い半袖シャツの背中の裏側には、広い範囲に血が付いているとして、「下着の裏側に直接、被害者の血が付着することはありえず、ねつ造を裏付けるきわめて重要な証拠だ」と主張しました。

再審請求の約30年後に証拠開示

弁護団が主張の根拠にした“5点の衣類”の鮮明なカラー写真ですが、これらの写真は、袴田さんが最初に再審を申し立ててから約30年後の2010年になって、ようやく検察から開示されたという経緯があります。

これについて弁護団は次のように話しています。

弁護団 小川秀世事務局長
今回の主張はカラー写真が開示されたことによって、初めて言えるものだ。1年2か月もみそに漬かったものでないこと、そして犯行着衣として血が付いたものではないことがはっきりして、“5点の衣類”がねつ造証拠であることが強く推認される。

衣類の実物を法廷に ねらいは? 

そして今回の審理で注目された動きがあります。弁護団が、“5点の衣類"のうち、ズボンとステテコの実物を法廷で示したのです。半世紀以上前に起きた事件の証拠の実物が、時を超えて法廷に現れました。

過去の裁判では、ズボンの装着実験が行われましたが、袴田さんはサイズが合わず、はくことができませんでした。

弁護団はこのことをふまえ、「ズボンは細身でサイズが小さいこと」、それに「ステテコは太もも付近のサイズがズボンよりも大きく2つを重ねてはくのは難しいこと」を、実物を見せて説明しようとしました。

法廷では異例の対応も

衣類の実物が示されるにあたり、まず裁判長は「においに敏感な方は退席してかまいません」と述べ、ふだんは閉められている法廷の扉が開けられて、扇風機も回される異例の対応となりました。
手袋をつけた裁判所の職員が袋からズボンを取り出して台の上に広げたあと、その上にステテコを重ねて広げました。

廷内スケッチ:ズボンの上に重ねられたステテコ

このスケッチを見ると、ステテコは茶色く、カラー写真とずいぶん色が違うように見えますが、長い時間の経過によって、付着した血痕もわからないほど全体が茶色に変わっていました。弁護団は持ち上げて示すよう求めましたが、「破損のおそれがある」として認められませんでした。

傍聴席の前から2列目で取材した記者は、ズボンの上にステテコが重ねられたこともあり、見ただけではサイズの違いははっきりとわからなかった一方、ズボン自体は太ももから下の部分が細身に見えたといいます。また、袋から取り出された際、ほのかにみそのにおいを感じたということです。

廷内スケッチ:裁判長(中央)と裁判官

法廷では裁判長が何度か立ち上がり、身を乗り出すようにして見ていました。また裁判官の1人は、弁護団に促されて近くまで来て確認していました。

今回の弁護団の立証について検察はどのように考えているのでしょうか。静岡地方検察庁の奥田洋平次席検事は取材に対し、以下のように述べました。

静岡地方検察庁 奥田洋平次席検事
あそこまで衣類の状態が変わっていると、正確な事実認定を読み取るのは難しく、誤った事実を読み取ってしまう可能性すらある。

姉 ひで子さんと弁護団が会見

審理の後、袴田さんの姉のひで子さんと弁護団は記者会見に臨みました。

袴田ひで子さん
(衣類の実物は)きょう初めて見ましたね。まあ古いものですから、あのようになっているのかと思いました。私は弁護士さんを信用しておりますので、びくともしていません。検察が何を言おうとも、勝つしかないと思っています。

弁護団  小川秀世事務局長
ズボンが細くてはけないということをはっきりと認識していただきたかったのと、ステテコの上からズボンをはくことは考えられないということを明らかにしたかった。重要な証拠なので裁判所や傍聴している人たちに一目見てほしかった。

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