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【海の異変】ウニ研究の海から ウニと海藻が消えた 静岡 下田

海水温も影響か?筑波大学下田臨海実験センター 磯焼け被害はウニ研究にも影響
  • 2023年11月22日

「いつかはそうなるのではないかと心配していましたが、ついに来てしまったかと、焦り、残念さ、仕方なさが入り混じった思いです」。そう語るのは25年にわたってウニを研究対象としてきた筑波大学の谷口俊介准教授です。この10年、伊豆半島の各地で海藻が消えてしまう「磯焼け」被害の拡大が報告されていましたが、ついにことし、谷口准教授がフィールドとしている下田市の実験センター前の海からも海藻が消えてしまいました。そして海藻をエサとする、研究対象のウニも……。

海の異変を取材しました。

「例を見ぬほど見事な海中林」
下田臨海実験センター

下田市にある筑波大学の臨海実験センターは下田市の市街地から丘をひとつ隔てた場所にあります。小さな湾に面し、海へのアクセスがよく、海の研究をするには最適な立地です。

 

筑波大学 下田臨海実験センター

歴史は古く、筑波大学の前身の東京文理科大学の附属臨海実験所として1933年(昭和8年)に発足。特に海藻などの藻類(そうるい)の研究などで多くの成果をおさめてきました。センターの環境を紹介するある資料には「伊豆半島では 400 種余の海藻が知られているが、下田周辺に発達した褐藻(かっそう)アラメ・カジメの海中林は他に例がみられないほど見事である」という記述がありました。

ウニ研究25年 谷口俊介准教授

その豊かな海藻に育まれていた生物のひとつのが、ウニです。ウニはちぎれた海藻をエサに成長し、私たちの味覚を楽しませてくれるほか、漁業者の大切な収入源として全国の海で保護されています。
食べ物として人気のウニ。一方でウニは研究生物としても古くから注目されてきました。

ウニの研究者 谷口俊介准教授

筑波大学の准教授、谷口俊介さんはカナダやアメリカでの研究を含め、25年にわたってウニを研究している第一線のウニ研究者です。1ミリに満たないウニの卵を受精させ、その卵から体がどうできあがるのかをつぶさに観察し、さまざまな実験を繰り返しています。

ウニの幼生をチェックする谷口さん

「外見は全く違いますが、実は人とウニは共通の祖先から比較的最近枝分かれした、進化的に兄弟姉妹にあたるグループ同士なんです。そのためウニとヒトには体のつくりやそこで働く遺伝子に多くの共通性があります。昔から生物学、特に発生学の対象として多くの研究者がウニを研究してきました」。(谷口准教授)

受精後1時間半のバフンウニの卵(谷口准教授提供)

谷口さんによると、まだまだ解明されていないことも多く、実験や観察を通してウニだけではなく、ヒトを含む多くの生きものの、生命の謎を解き明かそうとしています。

初めて購入したエサの昆布 
20キロ 5万円

常に実験に用いられるように施設内にはあちこちでさまざまなウニが飼育されています。

バフンウニ
トゲの長いガンガゼ

実験に用いるウニの状態は大丈夫か、時折手にとって確認します。水質の悪化や栄養不足などにより具合が悪くなると、ウニはトゲが抜け落ちてしまうそうです。
谷口さんがウニを見るにはわけがあります。ことしからウニにやるエサが変わってしまったのです。

飼育施設の部屋の一角に、干した昆布が置いてありました。

乾燥昆布を触る谷口さん

「これがことし初めて購入したウニのエサです。20キロで5万円しました」。(谷口准教授)

昆布を数センチに切ってウニに与えます

実は、臨海実験センターではこれまでウニのエサを購入したことがありませんでした。センター前の浜には常に打ち上げられた海藻(アラメ・カジメ)があり、ウニにはその海藻をやればよく、谷口さんがここで研究を始めた15年前から、エサに事欠くことはなかったのです。

海藻とウニがこつ然と姿を消した

センター前の鍋田浜

エサの海藻を取っていたというセンター前の浜に出てみました。
粒の小さな白い砂浜で、ゴミもなくきれいな浜が広がっていました。
波打ち際に黒い筋のようなものがありました。

海藻かと思いましたが、朽ちた草や木片、木の葉でした。
ここに昆布のような幅の広い海藻が大量に打ちあがっていたとは想像もできません。
海藻がなくなったことで、谷口さんの研究しているウニも消えてしまいました。

さまざまなウニの標本を手にする谷口准教授

「研究に用いるためのウニもいなくなりました。これまでは、われわれ研究者や学生、センターの職員が年に2〜3回、トータルで数百の単位でウニを採取していたのですが、今は他の研究機関から必要に応じて送ってもらっています。研究をおこなっていく上で材料がないことは致命的であることは間違いないので、とにかく焦っていますし、残念な気持ちでいっぱいです」。(谷口准教授)

エサもなくなり、ウニもいなくなった海。研究に大きな支障が出ているようです。
海の中は一体どうなってしまったのでしょうか?

海の変化をみてきた研究者

臨海実験センターには実際に海に潜って調査をする研究者もいます。
和田茂樹助教は、物質の循環、特に炭素が生きものにどう吸収されて循環しているか研究しています。海藻は炭素を二酸化炭素という形で吸収して成長し、海藻は別の生きものに食べられることで炭素が移動、その生きものが死ぬなどして、炭素は地球上で循環しています。
和田助教は調査の一環で海に潜って海藻を見てきました。

寒冷地で潜るための潜水服・ドライスーツを持つ和田助教

「2015年から2019年頃にかけて、まず浅いところに生えていた海草のアマモがなくなりはじめました。まだその頃はカジメやアラメといった海藻はびっしり生えていたのですが、2020年頃に急になくなりはじめ、ついにことし(2023年)は全くなくなってしまいました」。(和田助教)

海底の変化は一目瞭然

海の中の写真を見せてもらいました。

こちらは動画から切り出した以前の海中の写真です。海底が見えないほど昆布の仲間、アラメと思われる海藻が茂っています。このような海底がずっと続いていたそうです。

センター前の以前の海中のようす

そしてこちらは現在のようす。

現在のセンター前の海中のようす

昆布のような長い海藻はすっかり消えてしまい、海底にはところどころに丸い石が見えています。ウニはこのような石や岩の隙間に取り切れないほどいたそうですが、全くいません。そもそも、海藻をかき分けなれば海底は見えなかったそうです。

「毎年この時期(11~12月)になり、水温が20度を下回ると、漁業者がワカメの養殖用のロープを入れていたんです。しかしこのところ12月に入っても20度を下回らず、養殖にも影響が出ているようです」。(和田助教)

海藻が育たなくなってしまった海。どうしてこのような変化が起きてしまったのでしょうか?

温暖化の影響か?

気象庁によりますと、日本近海のこの夏の平均海面水温は平年より1度高く、統計を取り始めた1982年以降、去年の0.8度を上回り、過去最も高くなりました。

専門家によりますと、海は大気のおよそ1000倍の熱を蓄えられ、海水の1度の変化は生物の生態系に大きな影響を及ぼすとされています。

磯焼けは温暖化の影響なのでしょうか?

潜って調査している海と和田茂樹助教

「目の前の海で起きていることが温暖化の影響と断言するのは難しいのですが、大きな要因の1つではないかと考えています。この海は環境省のモニタリングの重点海域に指定されていて、海底には‟永久方形枠”という枠がボルトで固定され、定点観測されています。黒潮の流れ方も含めて、まずはこの海がどう変化しているのか、さまざまな環境を計測、記録することが大事だと思います」。(和田助教)

磯焼けは魚が海藻を食べることによる食害も指摘されています。地元の漁業者などによりますと、海藻を食べるアイゴは昔からいたものの、近年、同じ海藻を食べるブダイを多く見るそうです。

海の異変は地球環境の変化なのか

実は伊豆半島の磯焼けは昔から知られ、「磯焼け」という言葉そのものも伊豆半島が発祥といわれています。暖かい海水の流れている黒潮の影響で海藻が散発的になくなっていたそうです。磯焼けが発生すると、ウニと同じように海藻をエサとするアワビなどの漁業にも大きな影響を与えるため、静岡県も昔からさまざまな対策をとってきました。

しかし、近年の変化は少しようすが違ってきていると言われています。

谷口准教授

「散発的な現象だった磯焼けが、東伊豆や西伊豆で徐々に範囲が広がってきたのを見聞きしてました。いつかはここ、伊豆半島南部もそうなるのではないかと心配していましたが、ついに来てしまったかと、焦り、残念さ、仕方なさが入り混じった思いです」。

自然の営みをすぐに止めることや、変えることができないじくじたる思いが伝わってきます。

谷口さんは、ウニや海藻がいなくなった原因は地球規模で起きている変化によるもの(黒潮の蛇行や、人の関与が疑われている温暖化)だと推測しています。その上で、大きな地球の環境を考える上で、身近な環境の推移を注意深く見ることが大切ではないかと考えています。

「環境の状態が元に戻ればまた海藻やウニが戻ってくるのではと淡い期待をしていますが、本当に戻るのか、また、そのように戻ることが地球にとって良いことなのか、悪いことなのかなどはまだまだ謎が多いです。焦りつつも、自然の推移を見つめ続けたいと思います」。(谷口准教授)

「見事な海中林」があった海を見る谷口准教授と和田助教

90年にわたり、豊かな海を前に数々の研究が行われてきた筑波大学下田臨海実験センター。目の前の海のあまりの変化に自然科学の研究者も大きな戸惑いを感じていました。

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  • 田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか・ひろゆき)

    大学で海洋生物を学んでNHKアナウンサーに。「しず海ひろば」で静岡の海の話題を発信中。今回、取材を通して学生時代にウニの受精の実験をしたのを思い出しました。細胞分裂が始まるのを見て、命の尊さや生命の神秘に触れた気がしました。

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