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【解説】静岡 袴田巌さん再審・第2回 弁護団の主張は?

  • 2023年11月17日

57年前に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審。11月10日に静岡地方裁判所で行われた2回目の審理で、弁護団は、「今回の事件は単独犯による犯行ではなく、外部の複数犯によるものだ」と主張しました。検察と弁護側、双方の主張を詳しく解説します。

事件の内容と裁判の経緯

1966年6月、今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務の家が全焼し、焼け跡から一家4人が遺体で見つかりました。

この事件でみそ工場の従業員だった袴田さんは、4人を殺害して現金を奪い、家に油をまいて火をつけたとして、強盗殺人や放火などの疑いで逮捕され、死刑判決を受けました。

しかし、ことし3月に東京高等裁判所は、有罪の決め手となった証拠の衣類をめぐって捜査機関によるねつ造の疑いに言及したうえで再審を認める決定を出し、静岡地方裁判所でやり直しの裁判が開かれることになりました。

初公判  検察の主張は

10月27日に行われた再審の初公判で、検察は袴田さんの有罪を求める立証を行いました。

この中で検察は「犯人はみそ工場の関係者であることが強く推定され、当時、従業員の寮に住んでいた袴田さんは、犯人の事件当時の行動を取ることが可能だった」と主張しました。

その根拠として、事件現場から木工や手芸で使われる「くり小刀」の刃の部分が見つかったことや、工場の従業員の雨がっぱが見つかり、ポケットに「くり小刀」のさやの部分が入っていたことを挙げました。

初公判での検察の主張
犯人はみそ工場から雨がっぱを持ち出して現場を訪れ、事件の凶器として「くり小刀」が使われた。事件当日の夜に従業員寮の部屋に1人でいた袴田さんは、犯人の事件当時の行動を取ることが可能だった。

2回目の審理  弁護団の主張は

そして11月10日、静岡地方裁判所で2回目の審理が行われ、弁護側が反論しました。

冒頭で弁護団は(今回の事件は)検察が想定するようなみそ工場関係者の単独犯による犯行ではなく、外部の者、それも複数犯によるものだ」と主張。雨がっぱについては、「雨が降っていない中、夜中に侵入しようとする者が重くてゴワゴワと音がする雨がっぱを着る理由がない」と述べました。
そして「くり小刀」については、検察の「凶器として使われた」という主張に対し、以下のように反論しました。

弁護団の主張
法医学者らの鑑定によれば、被害者の遺体には「くり小刀」ではつけることができない傷がある。現場では日常的に使われている包丁が一本も見つかっておらず、犯人が凶器として使い、持ち去ったとも考えられる。

「くり小刀」の刃部分 実物が法廷に

さらに弁護団はこうした主張を裏付けようと、確定した判決で凶器として認定された、実物の「くり小刀」の刃の部分を法廷で示しました。刃の部分は、刃渡りがおよそ12センチ。透明なケースに入れられていて、全体が茶色くさびている様子がみられました。

この実物は、法廷のモニターにも映し出され、袴田さんの姉のひで子さん(90)が真剣な表情で見入っていました。

こうした証拠は、裁判員裁判で検察が有罪を立証する際に法廷で示すこともあります。今回、弁護側は写真では伝わらない刃渡りの短さなどを伝えるのに、実際に裁判官に見てもらうのが効果的だと考え、実物の証拠を示したといいます。

【審理後の会見にて】弁護団  角替清美弁護士
写真だと大きさの感覚とかもわからないですよね。「あの(刃渡りの短い)くり小刀で4人殺しますか」という、そこを見てもらいたいんです。あれをみれば凶器じゃないですよね、ふつうにみれば。こちらは自信をもって出しました。

検察と弁護団 真っ向から対立

弁護団はあわせて7点の実物の証拠を法廷で示しました。このうちの1つがこのゴム草履です。これは過去の裁判で「袴田さんが事件当時履いていた」と検察が主張したものです。弁護団は「警察の捜査では、草履には血と油のいずれも付着していなかったが、これについては何も書類を作らなかった」と述べました。
さらに、弁護団は袴田さんが逮捕されたあとに行われた取り調べの録音テープの音声を法廷で再生するなどして、袴田さんが犯人とはいえないことを主張しました。

重要な争点について、双方の主張を表でまとめました。弁護団は最後に、「意味のある証拠は何もなく、袴田さんが検察が主張するような行動をとっていないことは明らかだ」と訴えました。

姉 ひで子さんが会見

10日の審理後、袴田さんの姉のひで子さんと弁護団は、静岡市内で会見を開きました。

袴田さんの姉 ひで子さん
きょうはとてもよかった。弁護士さんが捜査資料を一生懸命読み込んでくれていることがわかって、力強さを感じ、感謝感激でした。(法廷で取り調べの録音テープが再生されて)最初からえん罪だと思っていましたが、取り調べでひどい目に遭わされていると感じていました。

次回の争点と判決の見通し

今後の審理では当面、検察の主張と弁護側の主張が交互に続きますが、11月20日に行われる3回目では、検察側の主張や立証が予定されています。

この中で、ことし3月に東京高等裁判所が再審を認めた決定の中でねつ造の疑いにまで言及した証拠の「5点の衣類」についての主張が行われます。

検察は、「袴田さんのもので、犯行時に着用して事件後にみそタンクに隠した」という主張を改めて展開するとみられます。

年内には残り3回の審理が行われることが決まっていて、年明け以降は、来年3月下旬までに7回の日程の案が示されています。当初の計画では来年2月から検察と弁護団の双方が請求する専門家の証人尋問が行われる予定でしたが、3者の協議の結果、3月にずれ込む見通しになりました。
判決の時期について弁護団は、「4月以降に検察の論告と弁護団の最終弁論が行われてすべての審理が終わり、判決は夏前後になるのではないか」という見方を示しています。

袴田さんは87歳、姉のひで子さんは90歳といずれも高齢です。審理を迅速に進め、早期の判決が求められます。

検察が被害者の年齢を訂正

初公判の冒頭陳述で検察は、事件の被害者であるみそ製造会社の専務の年齢を「当時42歳」と説明していましたが、2回目の審理では「正しくは当時41歳だった」と述べて訂正しました。

これについて静岡地方検察庁の奥田洋平次席検事は、「事件当時は亡くなった人であっても、起訴された時点での年齢を起訴状に記載するという運用があったため、専務の年齢は『当42年』と起訴状に記されていた。冒頭陳述ではこの記載に引きずられて、『当時42歳』と述べたが、明らかな間違いだった」と説明しています。

  • 平田未有優

    記者

    平田未有優

    2019年入局
    福岡局を経て、2022年から静岡局にて事件・司法担当

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