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静岡 袴田巌さん再審開始決定 扉開いた“市民の疑問”

  • 2023年04月10日

57年前の静岡県一家4人殺害事件で、死刑が確定した袴田巌さんの再審=裁判のやり直しが、先月決まりました。最大の争点となっていたのが、現場近くのみそタンクから見つかった血の付いた「5点の衣類」です。申し立てから40年以上かかってようやく開かれた再審の扉。その裏側には、この衣類についた“血痕”をめぐって一人の市民の疑問からスタートした粘り強い取り組みがありました。

始まりは ある市民の疑問だった

静岡市清水区で学習塾を営む、山崎俊樹さんです。およそ30年前から袴田さんの支援に関わってきました。地元で起きた事件に関心を持ち調べていく中、えん罪の疑いがあると考えた山崎さん。現場にも幾度となく足を運んできました。袴田さんの無実を信じて献身的に支える袴田さんの姉・ひで子さんの姿に心を打たれ、支援を続けてきたといいます。 

袴田巌さん(左下)姉・ひで子さん(左上)山崎俊樹さん(右)

山崎俊樹さん
巌さんの無念と被害者4名の方の無念さについつい共感して、なんとかしなければという思いになりました。ひで子さんが動くから、僕らも動かされるというような気持ちですね。

みそタンクから見つかった5点の衣類

山崎さんが裁判の膨大な証拠に目を通すなかで気になったのが、血の付いた「5点の衣類」の写真です。逮捕から1年以上たって、現場近くのみそのタンクから発見されました。確定した判決で、犯行時に袴田さんが着用したあと隠したとされ、有罪の決め手となりました。 

山崎さんは写真を見て違和感を抱いたといいます。長い間みそに漬かっていたにしてはシャツが白く、血の色も赤すぎると思ったのです。

山崎さん
素朴な疑問ですよ。本当にみそに1年2か月つかるとこんなになるかなという素朴な疑問。

血痕の赤みは残るのか 執念の”みそ漬け実験”

2006年の実験の様子

血痕の色が変わることが証明できれば、袴田さんが犯行時の着衣を隠したという認定を覆せるのではないか。そう考えた山崎さんは、みずから再現実験に乗り出しました。最初の実験は20年以上前。白いシャツをみそにつけることから始め、みその種類や、漬け込む期間を変えながら実験を繰り返しました。現場の状況をいかに忠実に再現するか。 手探りで検証を続け、最終的には現場にあったものと同じ材料と配合で作ったみそに自分や仲間の血をつけた衣類を半年間、漬け込みました。

その結果、血痕は黒く変色。何度やっても、写真のような赤みは残らなかったのです。 

山崎さん
みなさん驚きでした。血液は黒くなって、衣類はみそ色に染まってましたからね。これはもう全然、当時の鑑定書の写真と違うねって。

市民の実験が再審への突破口に

山崎さん(左)と小川秀世弁護士(右)

弁護団の小川秀世弁護士も大きな衝撃を受けました。市民の素朴な疑問から生まれたこの実験結果が、再審に向けた突破口になると感じたといいます。 

弁護団 小川秀世弁護士
本当にすごいなあと思って。新証拠として絶対できるという確信を持った。

2008年 2回目の再審申し立て

2008年、弁護団は山崎さんたちの実験の報告書を「新たな証拠」として、あらためて再審を申し立てます。それからおよそ15年に及んだ審理で、争点は衣類の血痕の色に絞られました。 

検察による実験の結果

検察も、血をつけた布をみそに漬ける実験を行って対抗。去年11月、1年以上にわたる検察の実験結果が出る日を迎え、東京高裁の裁判官が静岡地検に視察に訪れました。そして小川弁護士もその瞬間に立ち会いました。一見して、血痕は黒くなっていたといいます。一方で検察側は、結果について「一部に赤みが見られる」と主張しました。

裁判は市民のためのもの

そして先月、東京高裁はついに再審を決定。山崎さんたちの実験の報告書を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と判断しました。そして、「捜査機関が衣類をタンクに隠した可能性が極めて高い」と指摘し、再審開始を認めました。

山崎さん
やっと、やっと裁判所が認めてくれた。旗が出るまでは心臓バクバクでした。ほっとした。

裁判所の決定文を見る山崎さんと袴田ひで子さん

山崎さんたちの努力で開かれた再審の扉。袴田さんの姉・ひで子さんは山崎さんのことを「ひと言で言えば身内。家族同然です」と話します。事件の発生から57年、裁判所からついに届いた決定文を手にした山崎さんは、これまでの歩みを振り返り、こう話してくれました。

山崎さん
裁判は決して専門家のものではなく、市民の目線で見ることも必要で、決して他人事と思わずに関心をもってほしい。

一刻も早い無罪判決を

袴田さんは今後、静岡地方裁判所で開かれる再審で無罪となる公算が大きくなっています。 今後、裁判所と弁護団、検察による3者協議が開かれ、審理の進め方やスケジュールなどが話し合われます。 弁護団は「一刻も早く袴田さんに無罪判決を聞かせたい」として裁判所に対し、迅速に裁判を進めるよう働きかけていく考えです。

動画はこちらからご覧ください。

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