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静岡 大井川鉄道 昭和レトロな無人駅で写真展 【動画】

台風被害で鉄道不通の区間 1日も早いにぎわいの復活を願って
  • 2023年11月30日

静岡県中部、南アルプスを源流とする大井川。川沿いに走っているのが大井川鉄道です。大井川本線と井川線の2つの路線があり、このうち大井川本線は日本でも数少ない蒸気機関車(SL)を日常的に走らせている路線です。ほかにも子どもに人気のキャラクターとのコラボレーション、全国の鉄道でかつて活躍した車両が今なお現役で走っている、そして沿線の美しい景色など、多くの魅力で鉄道ファンや子どもたちの人気を集めている鉄道でもあります。
去年9月の台風15号に伴う大雨で線路への土砂流入など大きな被害が発生、大井川本線では1年が過ぎた今も全線復旧の見通しは立っていません。
地元の誇りである鉄道が全線復旧し、乗客のにぎわいが戻る日を願って、不通区間にある無人駅で写真展が行われています。この写真展に込められた思いを取材しました。

【動画】2023年11月24日放送

全線復旧願う写真展 昭和の雰囲気を残す駅で

静岡県の山あいの町・川根本町にひっそりとたたずむ大井川本線の田野口駅です。台風15号の被害により鉄道の不通が続く区間にあります。懐かしさを感じるホームに、築90年以上の趣のある木造の駅舎。
木枠の窓や室内にはだるまストーブが置かれるなど昭和のレトロな雰囲気を感じられる温かみのある無人駅です。

山あいの小さな無人駅
秋色に染まるホーム
郷愁を誘う駅事務室

鉄道の全線復旧を願い、待合室を利用して地元の人や県外のファンらが企画した写真展が11月から年末まで行われています。ことしの春に続いて2回目で、今回は紅葉の時期にあわせて「井川線と紅葉」をテーマにしたものを中心に58点の写真が飾られています。

山間部を走る井川線と紅葉の写真が中心

 

(撮影:鈴木優さん)

台風15号による被害 爪痕大きく

去年(2022年)9月の台風15号に伴う大雨がもたらした、大井川鉄道沿線の大きな被害。倒木や土砂流入などにより、大井川本線と井川線で合わせて46か所が被害を受けました。

土砂が線路に流れ込んだ被害箇所

被害の発生から1年以上がたち、より山奥を走る井川線は全線復旧しました。しかし、平野部の起点・金谷駅から井川線への乗り換え駅である千頭駅までを結ぶ大井川本線は、下の図の赤い線川根温泉笹間渡駅から千頭駅までおよそ20キロの区間でいまだ復旧のめどがたっていません。不通区間にある田野口駅は列車の発着がない駅となってしまい、訪れる人も少なくなりました。

大井川本線は金谷駅~千頭駅間を走る
井川線は千頭駅~井川駅間を走る

 

写真展を企画「田野口駅 花の会」駅のにぎわい戻る日を待つ

写真展を企画した地元の有志や田野口駅のファンのグループ「田野口駅 花の会」です。花の会は、普段は駅舎・トイレなどの清掃や草木の手入れなどをボランティアで行っています。地元の数人に加え、静岡市や浜松市、県外では岐阜県や大阪府などからも田野口駅のためにと、月に一度の活動に集まっています。いつ人が駅に訪れても気持ちよく過ごせるように、手入れを欠かしません。

駅周辺での活動の様子
「田野口駅 花の会」 のみなさん

大井川鉄道を撮り続けて45年

会のメンバーの坂下孝広さん(56歳)は川根本町で生まれ育ち、小学6年生のときから45年に渡って地元の大井川鉄道を撮り続けています。坂下さんは大井川鉄道沿線の美しい景色や移り変わりを写真に収めてきました。展示されている坂下さんの写真についてお話を聞きました。

田野口駅 花の会 坂下孝広さん

 

雨上がりの葉と井川線 撮影:坂下孝広さん

(田野口駅 花の会 坂下孝広さん)
「この写真は雨上がりに撮影に行きました。雨にぬれてつややかな葉と井川線が交わる瞬間を狙いました」

 

1989年の奥大井湖上駅周辺(撮影:坂下孝広さん)
現在の奥大井湖上駅周辺

(田野口駅 花の会 坂下孝広さん)
「1989年秋の奥大井湖上駅周辺の写真です。まだ現在の井川線が建設工事の終盤の頃で、写真右側を井川線の旧線を列車が走っています。橋の下の水量など今とは景色が変わっているので、その点もみなさんに見てもらえたらうれしいです」 


【田野口駅の歩み】
田野口駅は1931年(昭和6年)に開業しました。
当時は大井川流域の木材を運ぶ列車が発着したり、地域の人たちの通勤・通学などに幅広く利用され、駅長が住み込みで業務に当たっていたそうです。昭和30年代には列車に乗りきれないほどの人の利用があったということです。
しかし、1970年代には無人駅となり、窓口は封鎖され、駅長が寝泊まりしていた部屋は倉庫となりました。2005年には、昭和時代の雰囲気を残す駅舎を生かそうと開業当時の姿に修復・復元され、映画やドラマのロケ地としても活用されています。
駅には地元の利用者だけでなく、その魅力にひきつけられた鉄道愛好家や観光客が訪れ、蒸気機関車と田野口駅を撮影したり、歴史ある駅舎の中で昔にタイムスリップしたような時間を味わってきました。

開業当時(昭和6年)の田野口駅(提供:大井川鐵道)
昭和20年代の田野口駅(提供:大井川鐵道)
窓口に置かれた乗車券箱と黒電話

全線復旧願う 元鉄道技術者の思い

大井川鉄道一筋で50年勤め上げた鈴木優さん

「田野口駅 花の会」のメンバーに、大井川本線の全線復旧を強く願う男性がいます。
鈴木優さん、77歳です。鈴木さんは入社から65歳で定年退職するまで、50年に渡って大井川鉄道で働いてきました。入社後は技術部門の職人として、バスの点検・整備などを主に行っていましたが、40歳の頃に鉄道部門に移り、蒸気機関車や列車などの点検・整備などを担当するようになりました。
鈴木さんは、大井川鉄道が2001年から行った蒸気機関車【C11形190号機】を復活させる一大プロジェクトに技術責任者として携わりました。およそ2年半に及ぶ改修を経て、【C11形190号機】を復活させ、【C11形190号機】は大井川鉄道を代表する蒸気機関車になりました。

当時を振り返る鈴木さん
田野口駅とC11形190号機(提供:大井川鐵道)

(田野口駅 花の会 鈴木優さん)
「熟練の職人から若い子らまでみんなが190に命を吹き込むためにひとつになって作業してくれました。初めて火を入れる時は、無事に動いてくれっと心から願いました。動き始めたときは、復活に携わってくれた人みんなのおかげでここまで来たんだなと感慨深かったです」

「台風の被害までは自宅からも走るSLを眺めることができていましたが、いまは不通区間になっていてSLの姿や汽笛の音が感じられずに寂しい思いがあります。地元の鉄道利用者のためにも、観光で来てくださる方のためにも1日でも1時間でも早い大井川本線の全線復旧を願っています」

鈴木さんは一刻も早い復旧を願う

未来へ、この景色を残していく

築92年を迎えた駅舎をこれからも残していくために、「田野口駅 花の会」はことしの10月から駅舎の壁に防腐剤を塗る作業を始めました。現在は駅舎の半分ほどまで塗り上げていて、来年3月ごろまでには残りの半分も塗り終えたいとのことです。
未来にこの景色を残していくため、守り続けられる田野口駅。駅を愛する花の会の人たちは、鉄道が戻ってくる日を心待ちにしています。

提供:田野口駅 花の会
提供:田野口駅 花の会
  • 箱﨑将史

    静岡放送局・カメラマン

    箱﨑将史

    2012年入局。徳島→釧路→東京と経て、2023年8月静岡に赴任。ことしはラグビーワールドカップフランス大会を2か月に渡って現地取材。

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