大井川鉄道 全線復旧に向け「公的支援」は NHK静岡 三上弥アナ
- 2023年02月03日
三上弥 NHK「現場のことば」第38回

令和4年の台風15号接近に伴う記録的な大雨による被害の影響が、まだ続いています。
NHKニュースでは、令和4年12月16日に、大井川鉄道の大井川本線が、静岡県島田市内の一部の区間で運転を再開したという情報をお伝えしました。しかし、全線復旧には至っていません。島田市にある家山(いえやま)駅から川根本町(かわねほんちょう)の千頭(せんず)駅まで「全線復旧」できるかが、今後の課題です。
静岡県による「公的支援」は得られるのか。国や地元の市・町はどう対応するのか。
「川根路(かわねじ)」と呼ばれている地域の鉄道の早期復旧が求められています。
島田市内17キロ余の区間 金谷-家山

大井川本線の金谷駅と家山駅の間が運転再開した日、金谷(かなや)駅に向かう始発電車を取材するため家山駅に行きました。令和4年12月16日(金)の早朝です。

氷点下の冷え込み
大井川本線は、令和4年9月の台風15号による記録的な大雨の影響で線路に土砂が流れ込むなどして運行ができなくなりました。
バスによる代行輸送が続けられてきて、運転再開は84日ぶりです。
家山駅は、バスと鉄道の乗り継ぎ駅になっています。
平日の朝に利用しているのは、島田市内の高校に向かう生徒や職場に向かう人たちが中心です。

運転を再開したのは、島田市にある金谷駅と家山駅の17キロ余りの区間です。
家山駅では、令和4年12月16日午前6時半すぎ、金谷駅に向かう上りの一番列車がホームに到着し、通学や通勤で利用する人たちが次々と乗り込みました。

川根本町からバスと鉄道を乗り継いで通学している高校3年生の話です。
「ほかの車がいないことによる時間の正確性がありがたいです。一刻も早く鉄道を通してほしいというのはありますが、安全に作業していただけたらと思います」

令和4年12月16日 日の出 直後
復旧後最初の金谷行きの電車は、定刻よりやや遅れて、午前6時50分すぎに出発しました。
家山-千頭22㎞余 復旧のめどたたず
一方、家山駅と川根本町の千頭(せんず)駅までの22キロ余りの区間は、復旧のめどが立っていません。家山・千頭間は、引き続きバスによる代行輸送が行われています。
つまり、大井川本線では、復旧していない区間のほうがまだ長いというのが実情です。
こちらの地図をご覧ください。

▼青い線が復旧した区間、▼赤い線がまだ復旧していない「家山と千頭の区間」です。
川根本町や島田市の山あいの地域を中心とした「川根路(かわねじ)」と呼ばれる地域の鉄道が、まだ復旧していません。
鉄道会社 自力による復旧「困難」
大井川鉄道によりますと、この区間で被害を受けたのは13か所。調査はしたものの、復旧に向けての工事はまだ行われていません。復旧にかかる費用が多額にのぼり、鉄道会社が自力、つまり、自己資金だけで進めるのは難しいためです。

このため、鉄道会社は、静岡県や川根本町などの担当部署に対し、いわば「お願いベース」で公的資金による支援を受けられないか、相談しています。
今回の取材では、川根本町から通学する高校生にも会いました。
大井川鉄道には、蒸気機関車の運行に象徴される観光事業だけでなく、地域公共交通の事業者という側面もあります。いわゆる「川根路」の公共交通機関を確保するという観点からも、行政などによる公的支援が不可欠です。
静岡県に 「支援」要望
年が明けて、令和5年1月18日(水)、大井川鉄道が動きました。
自力での復旧は困難だとして、社長が静岡県に対して支援を要望したのです。
県は、令和4年度内、つまり令和5年3月31日までに、沿線の関係者が意見交換を行うための場を設ける考えを示しました。

要望書によると、今も運休が続く区間は運転再開のめどが立たず、自力での復旧は困難だとしたうえで、コロナ禍で利用客も減っているため、持続可能な地域の公共交通のあり方について議論する協議会の設置を求めています。

「地域住民や全国の方から全線の復旧を求める声があるが、自力での復旧は難しい状況になっている。支援をいただきたい」

「支援がどうなるか、いまの時点では何とも言えないが、いち早く話し合いをする場は必ず設ける」
静岡県の森副知事は、令和4年度内には、沿線の関係者が意見交換を行うための場を設ける考えを示しました。
地域の公共交通機関をどう考えるか
現時点で、全国的にも知られているSLの走行映像を見て、大井川鉄道が台風15号による記録的な大雨の被害から復旧したと捉(とら)えるのは誤りです。お伝えしてきたように、「大井川本線では、復旧していない区間のほうがまだ長い」ということを忘れてはなりません。
静岡県の大井川沿線住民の通勤・通学をはじめとした生活、観光や産業、雇用などを考えた場合、この鉄道の存続は欠かせません。川根路は茶の産地でもあります。
道路とは異なり、鉄道は原則、事業者が負担して復旧工事を進めます。東日本大震災や台風、大雨などの自然災害で被害を受けたあと、なかなか復旧しない鉄道が各地にあるのは、枠組みとしてこうした事情があるからです。

静岡県の「川根路」に欠かせない鉄道路線の復旧はどうなるのか。
協議会を経て、支援を求める民間鉄道事業者に対して県がどのような対応をとるか、さらに、国や沿線の地元自治体がどのように対応するかが、今後のポイントです。

家山駅から千頭駅方向をのぞむ
静岡県による「公的支援」は? 国や地元の市・町の対応は?
現場のことば 日本語ワンポイント
放送メディアでは、音声表現が必須です。「84日ぶり」の84をどう読むのが自然でしょうか。
毎月の暦に登場する4日・14日・24日は「よっか」・「じゅうよっか」・「にじゅうよっか」と迷わずに読めます。1日~31日は慣れも含めて、多くの人は自然に言えるはずです。
暦には出てこない32日以降は、「基準になる数字の読み方+にち」と読むのが自然と考えます。
たとえば「34日」は「さんじゅうよんにち」、「124日」は「ひゃくにじゅうよんにち」という感じです。「・・・・・・よっか」と読むのが間違いだとか、絶対ダメというわけではないものの、どちらが自然かという基本スタンスは知っておいて損がありません。
「84日ぶり」は「はちじゅうよんにちぶり」と読むのが自然ということになります。
NHKアナウンサー 三上 弥