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関東大震災100年 “津波避難伝える作文集”

100年前の子どもたちが書いた作文集 これからの防災の教訓に
  • 2023年09月26日

ことし9月1日で関東大震災から100年
静岡県内でも死者・行方不明者は400人を超え、 伊東市や熱海市では津波によって被害を受けました。100年前の教訓をどのように伝えていくかが課題となる中、津波の犠牲者を出さなかった、ある地区の当時の小学生が書いた作文が注目されています。

100年前の子どもたちが書いた作文には

海沿いに住宅地が広がる、伊東市の宇佐美地区。 
100年前の関東大震災で伊東市内には4メートルを超える津波が押し寄せ、100人以上が亡くなりました。
宇佐美地区では津波で多くの建物に被害が出た一方、 犠牲者はひとりも出ませんでした。

 

「大正大震災記」。 
関東大震災を経験した、当時の宇佐美小学校の児童700人余りが書いた作文がまとめられています。

 

「『そらつなみだ』 『にげろにげろ』 というものがありますので、 む中になってにげました」「私どもが逃げるときはもう家は流れだしました」

津波から避難した体験がつづられた貴重な資料。
震災100年に合わせて、ことし伊東市の文化財に指定されました。

避難のきっかけは「周りへの呼びかけ」

この作文集を使って、 震災の教訓を後世に伝えようと活動している人がいます。
中田剛充さん。中田さんは、作文を分析し研究しようと3年前に、大学院に入学しました。
分析の結果、子どもたちの9割近くが地震発生で避難。そのうち8割が「津波でさらに高いところへ避難」し、津波避難のきっかけの7割余りが「周りの人の呼びかけ」だったことがわかりました。

(中田剛充さん)過去の災害をいかす、ということ。自分たちの過去にはこういうことがあったと、受け継いでもらいたい

7月。中田さんは、今の宇佐美小学校の子どもたちに授業を行いました。
 

(中田剛充さん)宇佐美村は、犠牲者がゼロ。 宇佐美に地震がなかったわけではありません。津波が押し寄せなかったわけではありません。流された家はたくさんあります。 いったいどうしてでしょう?

関東大震災で宇佐美の人たちがなぜ助かったのか。当時の行動を一緒に考えます。 

(中田剛充さん)「なぜ阿原田へ逃げたのか分かる人?」
(児童)「八幡より阿原田の方が海から遠いから」「高い地形だから」。

さらに、周りへの呼びかけの大切さも伝えます。 

(中田剛充さん)自分が助かるのは大切なこと。それと同時に、地域の人たち、 周りの人たちとみんな一緒に助かることも大切

100年前と同様の災害が、 いま起きたら。 
地域全体の命を守るため、「自分ごと」として考えてほしいと訴えました。 

 

世紀を超えて 受け継ぐ先人たちのメッセージ

中田さんの授業を受けて、 関東大震災に強い関心を持ったという児童がいました。
6年生の鈴木千恵子さんです。 
伊東市で生まれ育ちましたが、これまで関東大震災のことは知らなかったといいます。 

(鈴木千恵子さん) 関東大震災は 中田さんの話を聞いて、初めて知りました。 
自分自身の身も津波などが来たときにしっかり守れたらと思いました。

 夏休みを使って、地域の防災について研究しようと決めた鈴木さん。
 中田さんにさらに話を聞くことにしました。

地震が起きた場合は土砂災害の危険もあるため、津波のハザードマップだけでなくて、土砂災害・洪水のハザードマップも見ておく必要があることなど、いざというときに備えて 「自分の住む地域を知ること」 が必要だとアドバイスを受けました。

さらに中田さんは、関東大震災より200年ほど前に発生した元禄地震の津波被害、過去の災害を地域で語り継いでいたことが、 関東大震災での迅速な避難につながったのではないかとも話しました。

(鈴木千恵子さん)どうすれば地震から自分の命も、自分以外のほかの人たちもどうやったら救えるのか、もっとしっかり調べていきたいなと思いました

 

震災を「自分ごと」 として、浸水想定区域や避難施設などを調べた鈴木さん。 
地域の災害リスクや対策を知ることの大切さを実感し、今後は自分自身もそれを伝えていきたいと考えるようになりました。

(鈴木千恵子さん) 私たちより年下の子たちや、大人でも関東大震災のことを知らない人はたくさんいると思うので、どんどん伝えていきたいと思いました

(中田剛充さん) ありがたいこと。子どもたちがわが事というように受けとってくれて、さらに助けようという思いまで広がってきている。先人の伝えを皆でくみとっていく、ということが今後の100年につながるのではないか。

 

  • 大窪愛

    静岡放送局キャスター

    大窪愛

    浜松市出身。防災フェロー、防災士。「たっぷり静岡」の防災コーナー「みんなで防災」を担当しています。

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