富士山 世界文化遺産10年 登録活動に携わった写真家の思い
- 2023年07月26日
2013年に富士山が世界文化遺産に登録されてから、ことし(2023年)で10年。
登録に向けて活動が行われていた2000年代以降、自身の作品を通じて機運を盛り上げようと力を尽くしてきたプロの富士山写真家がいます。登録を目指していたころからこれまでを振り返り、写真家が抱く思いを聞きました。
こん身の99作を追求する プロの富士山写真家
咲き誇る桜と雪をいただく富士山。
壮大な雲のもと、遠景の富士山。
浮世絵のような世界観で見る人の心を揺さぶる写真の数々です。
この写真を撮影したのは写真家のロッキー田中さんです。49歳のときサラリーマンを辞めて独立し、富士山写真を専門とするプロとして30年近く活動してきました。
写真家としてロッキーさんがテーマに掲げてきたのは、こん身の作品99作を世に出すこと。一連の作品を「ときめきの富士」と名付けて発表を続けてきました.。
ロッキー田中さん
「光と、富士山と私。この大きな一直線の流れというのを生かしていくと、空が壮大な彩りになります。また、葛飾北斎さんの『冨嶽三十六景』を研究しまして、その情感ですよね。富士山があって人々の暮らしがある。そのうれしさ、そして美しい景色になっていく、その情感を再現するような、気持ちでいます」
世界文化遺産登録活動への協力 自身の展示会でも
ロッキーさんは、富士山の世界文化遺産登録実現を目指して活動していたNPO「富士山を世界遺産にする国民会議」に、自身の作品を通じて協力しています。NPOが2005年に制作したパンフレットには作品が大きく使用されました。
そのころNHKがロッキーさんを取材した映像が残っています。当時、ロッキーさんは世界文化遺産への登録に少しでもつながればと、全国で行っていた写真の展示会や講演会のたびに、美しい富士山を大切にしようと来場者に呼びかけていました。
そして2013年、富士山の世界文化遺産登録が決定。
ロッキー田中さん
「うれしかったですね。いろんな人から言われたんですね、『ロッキーさんがんばったね』と、よく言われました。富士山はきちんと守っていかなきゃいけないんだよ、たぐいまれなる美しさがあるんだよ、ということをみんなが共感してくれて、それが結実したという感じでとてもうれしかったですね」
“美しい富士山を守ろう”作品を通じて訴え続けていく
いっぽうでロッキーさんは、ユネスコから指摘を受けている環境保全のことも気にかけています。世界文化遺産登録後、展示会や講演で話す際に自作のボードを使うようになりました。
ロッキー田中さん
「これは私がいろんなお話会で使っているものなのですが、5合目の混雑、登山道の安全化、頂上の混雑などについて書いています」
写真家である自分にできることは、作品にひかれて会いに来てくれる人たちに富士山が直面する課題を知り、考えるきっかけにしてもらうことだといいます。
私たちが取材に訪れた日(6月中旬)、ロッキーさんは富士山の撮影へ向かいました。行き先は夕方の神奈川県・箱根で、この時期、この時刻にねらい目の場所だそうです。
ロッキーさんは長年、ファインダー越しに富士山を見つめる中で自然の変化を感じています。
ロッキー田中さん
「全部同じような感じで季節が過ぎていくものですから、空に雲が伸びることがなくなってしまって全部下側にたまってしまいます。でもいつか、天気の変わり目にいい条件に会えることを
信じてやってきます」
この日、私たちと別れたあとも、ロッキーさんは朝までこの場所で富士山と向き合い続けていました。
ロッキー田中さん
「究極の美しさを通じて人々に、美しさを大事にしていこう守っていこう、感謝の気持ち、それが広がっていけばいいと思っています。せっかく世界遺産になったのにまた危機遺産になって世界遺産から落ちたというところがいくつもありますから、富士山を未来永劫に守っていくためにはみなさんに(直面する課題を)認識していただいてと思っています」