静岡県磐田市 記録的豪雨1年 堤防決壊の敷地川教訓をどう生かす
- 2023年10月02日
2022年9月の台風15号。「記録的短時間大雨情報」が相次いで発表され、静岡県に甚大な被害をもたらしました。この大雨から1年。 雨は人々の生活にどのような影響を残し、何を変えたのか。 シリーズでお伝えします。この回は「堤防が決壊した磐田市の敷地川」。 敷地川はさらに1年とたたずして同じ場所が決壊する被害に見舞われました。被災者の思いを取材しました。
災害が生活を変えた
敷地川の近くに住む伊藤賢さんは、堤防が決壊したあとの周囲の変化を感じるといいます。
草取りをしていてもいままで見たことのない草が生えていたりだとか、変なところに「しそ」が急に群生しだしたりとか(伊藤賢さん)
伊藤さんの家の倉庫の壁はめくれ上がるように剥がれています。
生け垣には、泥やゴミが挟まったままです。
2022年9月 堤防が決壊
去年9月の大雨で浸水したこの一帯。23日の夜のはじめ頃から猛烈な雨が降り始めたといいます。伊藤さんは浜松市内で車が水没し、家に帰ることができませんでした。
この大雨で敷地川が増水し堤防が決壊。周囲に水が流れ出し、川のそばにある伊藤さんの自宅まで達しました。
伊藤さんが自宅に戻れたのは翌日の昼。すでに水はひいていましたが、床上1点5メートルまで浸水したことが分かったといいます。家に残っていた両親と息子は2階に避難して無事でした。
しかし、冷蔵庫や洗濯機などの家電をはじめ、1階で暮らしていた両親のベッドなどが水びたしになり使えなくなっていました。
適切な言葉か分からないですけど、“人生詰んだ”と思いました。元の生活に戻るためには 何が必要で何をしたらいいのかって。この泥っていうのが誰がどうやってとるのか。自分でやっても畳一枚分ぐらい泥をかくのが精一杯で・・・(伊藤賢さん)
2023年6月 再び堤防が決壊
別の場所に避難して家を修理し、12月から再び家族5人で暮らし始めましたが…。その半年後のことし6月、再び台風による被害に見舞われます。 堤防の同じ場所が再び決壊し、床上1点2メートルまで水に浸かりました。
家族は前回の経験をもとにあらかじめ別の地域に避難していましたが、新しく張り替えた床のカーベットは使えなくなり冷蔵庫や洗濯機も再び壊れてしまいました。
片付いたなと思ったところで振り出しに戻されちゃったっていうのがすごくありました。また同じ作業があるな・・・とか。色々手配しなくちゃいけないのがあるなとか・・・(伊藤賢さん)
家には2回にわたる浸水の影響が残っています。 壁が水を吸ってもろくなっているのか、手をつくと穴が開いてしまいました。泥は掻き出したものの湿気がとりきれず、床下を扇風機で乾かし続けています。
いま、伊藤さんを悩ませているのはカビです。 浸水して乾きにくい場所に発生してしまいました。“もう1階は安全ではない” そう考えた伊藤さんは、1階で暮らしていた両親に別の場所に引っ越してもらい、持ち運べるものは2階に持って上がりました。 再び堤防が決壊した際に被害を免れるためです。
2度の被災が変えたのは
決壊した現場では大型の土のうが積み上げられ鉄板が埋め込まれるなど仮の復旧工事が終わりました。 今月11日からは本格的な改良工事が始まっています。
さらに、早めの避難につなげようという取り組みも。 本格的な工事が終わるまでは安心はできないという住民の声を受けて県は現場を含む敷地川の5つの被災か所に河川の監視カメラを取り付けました。地元住民がリアルタイムの状況を見ることができます。
伊藤さんは雨が降ると何度もこのカメラの映像を確認しています。 あらかじめ家族や近所の人たちと避難する水位の基準を決めて連絡を取り合っているといいます。
土のうの2つ目までいったら避難しようと、家族や地域のみんなでそんな話をしています。映像見ながら みんなでそろそろやばいんじゃないかって(伊藤賢さん)
伊藤さんは、2回にわたる被災を通じてあらかじめ避難計画をたて、早めに行動することが大切だと改めて感じたといいます。
みんなに笑われてもいいから、逃げろって言われたら逃げちゃえっていうのは、言いたいと思っています(伊藤賢さん)
記者が詳しく解説
一帯の土砂は取り除かれ落ち着いているように見えましたが伊藤さんが「人生が詰んだ」と感じるほどのつらい思いをして、まだそれを思い出にできていないと話していたその言葉が、災害がいまだ被災した人たちの心に大きな爪痕を残していると感じました。 伊藤さんは安心して暮らしたいとして引っ越すことを決めたそうです。(記者 牧本真由美)
1年もたたずに同じ場所がなぜ決壊した?
敷地川は静岡県が管理する河川です。県は台風15号の被害のあとに、大型の土のうを積むなど仮の復旧工事を行いました。 そして、2025年までに改良工事を行う予定でした。しかし、その前に前回を上回る雨量の台風2号が来てしまい、仮の堤防が崩れたとしています。
いまは、より重い土のうを設置して、鉄板を2重に埋め込むなど堤防の強度を上げています。 まだ応急的な状態です。
本格的な改良工事は、今月11日から始まりました。2年後までにおよそ2キロに渡って川幅の一部を広げたり堤防を強化したりするということです。
2度の災害から得た教訓
県は、敷地川で起きたことを教訓に県内全域の防災にもつなげようと取り組みを始めています。 そのひとつが新たな河川カメラの設置です。 要望があるすべての自治体に2台から3台設置する方針です。 実証実験として袋井市と富士市にすでに設置されていて、自治体や住民が主体的に設置場所を決めるのが特徴です。
地元の自治会では、カメラの設置は、早い時間帯の避難につながると感じているといいます。
住民がよく知っている危険な場所の様子が分かれば災害を身近に感じるし、自ら判断することもできるので、早い避難につながると思います(袋井市三川自治会連合会長 鈴木省吾さん)
ほかにも、災害の応急復旧に使われるコンクリートブロックがあらかじめ準備されることになりました。敷地川の2度目の復旧工事で、大型の土のうが流れ出ないようにするため川底にコンクリートのブロックが敷き詰められた。通常は発注してから準備までに数週間から何か月もかかるそうです。県は、こうしたブロックを災害時にすぐに使えるように県内の4か所の拠点に用意しておく方針を固めたということです。
敷地川の2度の被災は、これまで通りの対策では防げない想定外のことが起きうるということを改めて突きつけたと思います。 これを教訓にいまそれぞれの地域で行っている防災対策をどうすればより強固にできるのか。 改めて見直して欲しいと思います。