ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 静岡浜松天竜区 記録的豪雨1年どう防ぐ?見逃された盛り土

静岡浜松天竜区 記録的豪雨1年どう防ぐ?見逃された盛り土

記録的豪雨1年シリーズ② 土砂崩れ 原因の検証・行政の対応は?
  • 2023年10月02日

『慎重さを欠く』指摘のワケは・・・

土砂崩れが発生した現場(2022年)

去年9月に発生した浜松市天竜区緑恵台の土砂崩れを巡って、8月に浜松市のホームページに公開された第三者委員会の会議録。そこには『慎重さを欠く対応だった』、『浜松市の意識は低かったと評価せざるを得ない』といった厳しい指摘が見られました。当時の浜松市の対応の何が問題だったのか、検証録から振り返ります。

盛り土の総量は約8100立方メートルも

土砂崩れが発生したのは、浜松市天竜区緑恵台の住宅地。近くの斜面が崩れ、住宅3棟が巻き込まれ3人がけがをしました。

専門家を交えた市の検証によって崩れた土砂3400立方メートルの大部分が宅地が造成されたあとに造られた盛り土だったことが判明。崩れていない部分もあわせると盛り土の総量はおよそ8100立方メートルと分析されました。現場では土地の所有者の依頼を受けて、複数の業者が土砂などを搬入していたとみられています。2014年以降、市に土砂の搬入や不法投棄に関する相談が複数あったにもかかわらず、安全対策は施されず、土砂崩れが起きました。

市は原因の検証に加え、行政の対応に問題がなかったかどうかについても、専門家による検証を進め、8月、最終報告書がまとめられました。

現場の比較画像
盛り土が拡大していることがわかる

「盛り土総点検」にも含まれず

報告書のポイントをまとめました。
▼相談を受けた市は、土地の所有者に事情を聴くなどするのみだった。
▼2015年に「今の状態であれば、多少の豪雨でも崩れる危険性は低い」と判断した。
▼土地所有者にさらなる搬入をしないよう口頭で指導し、それ以上の調査を行わなかった。
▼おととし熱海市で土石流が発生した後も対応が変わらなかった。

こうした行政の対応について、報告書では法令違反はなかったとしながらも『慎重さを欠く対応だった』、『浜松市の意識は低かったと評価せざるを得ない』、『関係各部署の情報共有・連絡は不十分』と結論づけました。

さらに今回崩れた盛り土は、熱海の土石流を受けて行われた「盛り土総点検」の対象に含まれていませんでした。住民の相談を記録し、静岡県を含め密に情報を共有していれば、対象に含まれていた余地はあるとしています。

 

熱海市伊豆山地区の土石流(2021年7月)

一方で、報告書では、「調査などにあたった各職員が必ずしも土砂災害や地盤工学の知識をもっているわけではなく危険性に疑いを持たなかったとしてもやむを得ない」とするなど市の事情をある程度くんだ部分もあります。

被災住民「なんでこういうことに」

自宅が全壊し、自身を含む家族3人がけがをした佐藤聖徳さんです。同じ場所で住宅の再建を進めていて、来年2月の完成を予定しているということです。

佐藤聖徳さん

まとめられた報告書については検証は不十分だと感じているといいます。

「早く早く、生活を元に戻したくて全速力でやって来て1年が経った。復興に向けた歩みは進んでいるが、なかなか気持ちの中の復旧復興というのは難しいのかなと日々感じている。報告書では『法律上は落ち度はなかった』という結論を1つ出しているが、住んでいて被災して直接家がなくなってしまった私たちにとっては果たしてそれが理解できる、納得できる答えなのかどうかというのは大変怪しい。何かしてほしい補償をしてほしいとかじゃなく何でこういうことになったのかわかりたいし理解したい。もう全部説明したのでここで終わりますということではなくて私たちが納得できるまで説明なりコミュニケーションを続けてほしい」

盛り土の見逃し どう防ぐ?

浜松市は9月20日、報告書を踏まえ、情報共有が不十分だった教訓から再発防止に向けた対応方針を発表しました。

▼15の部局で構成する「浜松市盛土等対策協議会」を設置し、この協議会が中心となって県との連携も密にするとしています。
▼また、すべての職員が閲覧できる、情報共有を図るためのシステムを来月にも運用すること。
▼地形データなどを活用して盛り土が疑われる地点を抽出するシステムを2025年度に整備することなどが盛り込まれています。

長田繁喜 副市長

「“これは自分の所管ではない”とかではなく、どこの部署が受けようが市民に寄り添って対応をしっかりする。そういったところを徹底していきたい」

住民の不安を見過ごさないために

新たな対応は発表されましたが、これで終わりでなく、行政としては市民への説明を続けていく必要があると思います。総点検のあとも、県内では土砂の撤去など是正が必要な盛り土が多く残されています。同じような被害を防ぐためにも、浜松市だけでなくすべての自治体には、ふだんから相談への対応や情報共有を徹底していくことが求められます。

  • 永延良太

    浜松支局

    永延良太

    高松局、北九州局を経て
    ことし8月に浜松支局へ
    現在は経済や市政を担当

ページトップに戻る