静岡熱海土石流 最後の行方不明者発見
- 2023年02月14日
熱海市で起きた土石流で、ただ1人行方不明になっていた、太田和子さん(当時80)の遺骨が警察の捜索で見つかりました。
熱海市は土石流によって亡くなったと判断し、これで土石流の犠牲者は災害関連死も含めて28人になりました。
発見を願い続けた家族や関係者の思いを取材しました。
“やっと帰ってきてくれる”
太田和子さんの長男の朋晃さん(57)です。
母親の遺骨がついに見つかり、万感の思いを語りました。
(太田朋晃さん)
「これまでの捜索活動では、期待をしつつも見つからなかったむなしさを感じる日々が続いていました。これでやっと帰ってきてくれるので、ほっとしました。骨1本ではあっても見つけてもらうことができ、これまで一生懸命捜索していただいたことに感謝しています」
行方わからぬ日々 気持ちの整理できず
おととし7月3日。
朋晃さんが和子さんなど家族5人で暮らしていた住宅を、濁流が襲いました。
当時、朋晃さんは仕事で外出していました。ほかの家族は無事でしたが、自宅にいた和子さんの行方がわからなくなりました。
警察は毎月の月命日に、土砂が流れた込んだ伊豆山港で一斉捜索を実施。潜水士が入念に海底を調べるなど、懸命の捜索が続けられてきましたが、手がかりが得られない日々が続いていました。
土石流の発生から1年となった去年7月。
朋晃さんは公表した手記の中で、複雑な心境をつづっていました。
「一瞬の出来事に母を連れ出す事も出来ないままの家の流失、母も家と一緒に流されてしまいました」
「未だに気持ちの整理が出来ていません」
その後、和子さんの免許証やキャッシュカードが入った財布などは発見されました。
しかし朋晃さんは、こうした所持品を目にするのも難しい精神状態が続いていたといいます。
諦めかけた中の連絡 最後の最後に…
こうした中、朋晃さんのもとに警察署から思いがけない連絡がありました。
住宅地から撤去して熱海港の仮置き場に運ばれた土砂を、警察官が重機でふるいにかける作業を行っていたところ、1月18日に長さ15センチほどの骨を発見。
DNA鑑定の結果、和子さんの腕の骨の一部であることが確認されたのです。
朋晃さんは、連絡を受けたときの心境を次のように明かしました。
(太田朋晃さん)
「熱海署の担当の方から連絡をもらった時はなんで呼ばれるのかわからなかったので、行ってみて、最後の最後にやっと出てきたという話を聞いて、本当によかったなと思いました。『そろそろ仮置き場の土もなくなる』と聞いていたので、そこから見つかるとは思いもしなかったです」
“これからは前を向いて”
土石流の発生から1年7か月あまり。
朋晃さんはようやく、気持ちを落ち着けられると感じています。
(太田朋晃さん)
「いままで正直、気持ちが宙ぶらりんの状態で、なかなか前を向くことができませんでしたが、これからは少しずつ前を向いて進んでいけるのではないかと思っています。今回の土石流で、すでに他界していた父の位はいも流されてしまったので、母の分と一緒に用意して、仲良く2人で並べてあげたいです」
関係者からも安どの声
太田和子さんの遺骨が発見されたことを受け、関係者からも安どの声が聞かれました。
伊豆山地区の漁師、金子友一さん(57)は土石流の発生当初、ボランティアで和子さんの捜索活動に当たっていました。
(金子友一さん)
「漁の網を引き揚げた際などにも、何か手がかりがないかとたえず気にかけていました。
これで1つ、区切りがついたと思うのでよかったです」
土石流で自宅が全壊する被害を受けた太田滋さん(66)は、以前、和子さんが夫と一緒に営んでいた理髪店を利用していたといいます。毎月の月命日にあわせて被災現場で犠牲者を悼むとともに、和子さんの発見を願い続けてきました。
(太田滋さん)
「見つかってくれてよかったです。ご家族としても、少しでも前に進むきっかけになってほしいです。警察や土木関係の人たちが積み重ねてきた努力に、1人の知人として感謝したいです」
県警察本部によりますと、土石流の被害を受けて現場で捜索活動などの対応に当たった警察官や警察職員は、他の都道府県からの応援も含めて、のべ2万4000人にのぼるということです。