富士山のトイレが足りなくなる?登山者・維持管理費増加の懸念
- 2023年06月29日
ことし世界文化遺産登録から10年となった富士山。環境保全が迫られる中、世界遺産の登録にあたっては山小屋などはトイレを環境にやさしいものに変えています。しかし、その維持管理費の負担は大きく、ことしはトイレ不足も懸念されています。どういうことなんでしょうか。
かつては激しい汚染 改善へ
富士山ではかつて、登山ルートにトイレが少なく、あっても地表に垂れ流す方式だったため、斜面にたまったティッシュペーパーが「白い川」と呼ばれる状態になり、環境への悪影響が指摘されました。
これを受けて静岡県は1998年に「富士山トイレ研究会」を立ち上げ、汚物を垂れ流さない技術について実験を重ねました。そして採用された新たな方式のトイレを2002年度から3年にわたり、静岡県側の山小屋など24か所に整備しました。県によりますと、コロナ禍で登山者が減った去年の利用回数は合わせておよそ19万回、およそ56トンの汚物が山肌を汚すことなく処理されたということです。
“環境型トイレ” 微生物の力で汚物を分解
新たに設けられたトイレは、汚物の処理に主に微生物の力を使います。代表的なものが「バイオ式」と「水浄化循環式(通称=かき殻トイレ)」と呼ばれるものです。「バイオ式」では「おがくず」の中に、「かき殻トイレ」はかきの殻に微生物がいます。「バイオ式」は水を持って行くことができない主に7合目より標高の高い場所に、水を循環させる「かき殻トイレ」は主に5合目から6合目を中心に設置され、いずれも微生物が汚物を分解します。
このほか、汚物を灯油バーナーの炎で燃やす「焼却式」もあります。
静岡県側のトイレの内訳は、「バイオ式」が15か所、「かき殻式」が7か所、「焼却式」は3か所となっています。(複数の方式を使用する山小屋もある)
かさむ維持費 苦境に立つ山小屋
トイレの維持にはどの程度の費用がかかるのでしょうか。小山町の須走口5合目にある山小屋では「かき殻式」のトイレを設置しています。山小屋によりますと、年間の維持費は300万円。内訳は、微生物が生きていけるよう空気を送り込むポンプを動かす燃料代、それにトイレットペーパーや掃除を行う人の人件費などです。山小屋では、利用者に1回あたり200円を支払ってもらっています。1シーズンで集まる料金はおよそ60万円。維持費が大幅に上回ってしまうということです。県は登山者などに任意で支払ってもらっている「富士山保全協力金」。いわゆる“入山料”の一部を山小屋のトイレの新設や補修に充てていますが、「維持管理」は対象となっていません。
登山者大幅増の見込み 処理能力超えのおそれも
ことしは、コロナ制限の緩和や世界遺産登録10年など節目の年になることから大幅に登山者が増えると想定されています。懸念されるのが、トイレの処理能力を上回る人の利用。この山小屋のトイレは1日あたりの処理可能人数が200人程度となっています。しかしこれを超えると、処理能力が限界に達し、し尿を分解しきれなくなるということです。しかし、利用者を制限した場合、さらに影響が広がるおそれがあります。トイレを我慢したまま登山を始めた人が、登山道の脇などで用を足し、再び環境の悪化につながる可能性があるのです。
山小屋の経営者は「これまでも登山道の脇で多数の汚物が見つかり、処理してきた。ことしは回収しなければならない汚物がさらに増えるおそれがある」と危惧しています。「ことし多くの人が来たら、バイオトイレは飽和状態になる。断ることはできませんが、壊れるまで使い続けるわけにも行かないんです」と苦しい胸の内を明かします。
“登山前の利用や携帯トイレ持参を”
懸念が広がる山小屋のトイレ。静岡県自然保護課は、現状のトイレの状況について、「特定の日に登山者が集中すると、トイレを含む環境に負荷がかかる。日を分散した登山の形態にすることも必要」としています。しかしまだ具体的な対策はとられていません。県などはまず、ホームページで、登山前にトイレを済ませたり、携帯トイレを持参したりするなどの対応を呼びかけています。