核兵器禁止条約
発効に期待の声

核兵器の開発、保有、使用を禁じる核兵器禁止条約が来年1月に発効することになったことについて、核兵器廃絶運動に携わってきた人たちの反応です。

ICAN フィン事務局長「核軍縮にとって新たなページ」

核兵器禁止条約が、来年1月に発効することになったことを受け、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長は24日、公式サイトで「核軍縮にとって新たなページが開かれた。長年の活動は、多くの人が不可能だと言ってきたことを成し遂げた。核兵器は禁止された」とコメントしています。

また、NHKの取材に対して、「政府が条約を批准していない国々でも条約に参加すべきだという声は上がっているし、条約はすでに世論の変化に影響を与えている」と述べて、核兵器廃絶の機運がさらに高まることに期待を示しました。

ICAN委員 川崎氏「核兵器の時代を終わらすきっかけに」

ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲国際運営委員は「条約は、原爆の被害や苦しみを二度と繰り返してはいけないという被爆国の思いが形になったものだ。被爆者が高齢になる中、核兵器をなくさなければいけないという声を国際法として残す意味がある」と述べ、唯一の被爆国、日本にとって、大きな意味を持つ条約であると強調しました。

そして、日本政府が条約に参加しない姿勢を示していることについては「大変残念で、被爆者の声を聞いてきた立場からすると本当につらいことだ。政府は条約に参加すると、核抑止力の正当性が失われると主張しているが、被爆国である日本は、核兵器は違法であるという立場に転ずるべきだ。いきなりは難しくても、長期的には条約への参加を目指すということを明確に表現してほしい。核兵器のない世界を目指すと言っている以上、できないはずはない」と述べ、条約の発効後に開かれる締約国会議にオブザーバーとして出席し、条約への参加の姿勢を示すべきだと指摘しました。

そのうえで「人権問題や奴隷制度なども長い時間を経て変えてきた歴史があり、75年前にできた核兵器が未来永ごう残り続けるというのは根拠がない。核兵器禁止条約は核兵器の時代を終わらせて、新たな時代を作り出すきっかけになるものだ。どれだけ多くの国や人々が古い考え方から新しい考え方に移るか、それを遅らせるも早めるのも私たち次第だ」と述べました。

ICAN 共同創設者「すべての国が速やかに加わるべき」

ICANの共同創設者で、オーストラリアの医師のティルマン・ラフさんは、「私たち全員が世界にある核兵器の標的になっており、その脅威は自分に向けられたものとして受け止めるべきだ。今、核保有国は核軍縮ができないだけでなく、さらに危険な核兵器の開発に投資を続け、INF=中距離核ミサイルの全廃条約も破棄されるなど、ほとんどのことは誤った方向に進んでいる。禁止されるより前に、武器が制限されて廃絶されたことはない。核兵器禁止条約は、核廃絶に向けて国際的に合意された唯一の枠組みであり、すべての国が速やかに加わるべきだ」とコメントしています。

サーロー節子さん「75年たってやっと祈りが通じた」

長年、世界各国で自身の被爆体験を語り、核兵器廃絶を訴え続けてきたカナダ在住の広島の被爆者、サーロー節子さんは、「批准が50に達したことを聞いて、喜びで体が震え、ことばが出なかった。これから90日後には核兵器が違法になるということになり、広島で体験した悪夢を思うと、75年たってやっと祈りが通じた気持ちだ。これまで核兵器廃絶の活動をする中で、常に広島で亡くなった人たちと一緒にいるという思いで活動をしてきたが、やっとここまでこぎ着けたという報告をした」と述べました。

そして、「核兵器禁止条約が発効することによって、核兵器廃絶を目指す活動は新しい章に入ると思うが、完全に廃絶できるまで活動を続けなくてはいけないと思っている。核兵器がこの世から完全になくなるときには、私たちはこの世にはいないと思うが、条約の発効は貴重な一歩で、私も命のあるかぎり、活動を続ける覚悟だ。同じ思いを持った人たちが世界中で活動を続けてくれると信じている」と述べました。

さらに、日本政府が条約に参加しない方針を示していることについては「日本は、広島と長崎で唯一、核攻撃の被害を経験した国だ。国どうしの同盟について考える前に、人間として、広島や長崎で大量の殺りくがあったことを考えてほしい。日本政府は、人類に対する責任を考えてほしい」と述べ、条約への参加を求めました。

日本被団協 木戸事務局長「日本批准していないのは恥ずかしい」

日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の事務局長で、5歳の時に長崎で被爆した木戸季市さん(80)は、「発効が決まったことを聞いて、被爆したあの日のことを思い出しました。原爆によって全く予期せぬ被害を受けたあの日、もう二度とこのような事態を起こしてはいけないというのが願いの出発点でした。それなのに日本政府が条約に批准していないことは恥ずかしいし、あるまじきことであり、日本の批准に向けて、これから日本全体で具体的な行動を起こさないといけません。それでもきょう、条約の発効が決まったことで大きく前進したと思いますし、核兵器の終わりの始まりです。最後の力を振り絞って核兵器の廃絶に向けて活動していきたい」と話していました。

広島県被団協 坪井理事長「大いなる一歩」

核兵器禁止条約を批准した国と地域が条約の発効に必要な50に達したことについて、広島の被爆者でつくる広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の坪井直理事長は、「条約の発効によって直ちに核兵器の廃絶が進むわけではないとはいえ核兵器の禁止・廃絶を具体化する大いなる一歩であることは間違いない」としたうえで、「核兵器保有国と核の傘の下にある国々が条約に参加するよう引き続き力を尽くしたい。

とりわけ日本政府には原爆を体験した被爆者が望んでいることを踏まえて条約への参加をぜひ考えてもらいたい」などとコメントしています。

広島県被団協 箕牧理事長代行「大国政治家は批准応じる政策を」

広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長代行は「ニューヨークからの1報をいただき驚きと感動でいっぱいです。大国の政治家には広島や長崎を訪れて核兵器の恐ろしさを肌で感じて批准に応じていただくような政策を考えていただきたいし、これからも諦めることなく声を出し続けていきたい」とコメントしています。

また箕牧智之さんは会見で、「核廃絶を願う被爆者にとって朗報だ。条約に批准した国・地域が50に達したことで核大国や、核の傘の下にいる国々に迫る土壌が出来た」と述べ、期待を示しました。

一方で、日本が条約に参加していないことについて、「被爆国の日本が参加していないのは恥ずかしく、被爆75年の年に日本も仲間に入って欲しい。日本政府も条約を無視する訳にはいかないと思うので、重い腰を上げてせめてオブザーバーとしてでも条約の議論に参加して欲しい」と話しました。

広島の被爆者 阿部静子さん「日本も心を改め 核兵器廃絶へ」

核兵器禁止条約の発効が決まったことについて、半世紀以上にわたって核兵器廃絶を訴えてきた広島の被爆者は期待を寄せるとともに、日本政府など条約に参加していない国々に対して核兵器廃絶に向け立ち上がって欲しいと訴えました。

広島の被爆者で、93歳の阿部静子さんは、18歳のとき、爆心地から1.5キロの場所で被爆しました。阿部さんは後遺症や差別に苦しみながら半世紀以上にわたって、国内外で核兵器廃絶を訴えています。

阿部さんは、「被爆者は小さな力だったが絶えず、たゆまず核兵器のむごさ、恐ろしさを繰り返してはいけないと世界に訴え続けてきた。きょうは、50もの国と地域が賛同してくれた記念すべき日で、ここまで生きていて、叫び続けてきてよかった」と話しました。

一方、核保有国が条約に参加していないことについて阿部さんは、「核を持っている国は、原爆の被害を甘く見ている。現実を見つめて核兵器を使えば広島や長崎以上のことが起こり、人類が滅亡するかもしれないということを考え、是非、反省して、核兵器にすがるのではなく、どんな被害を及ぼすのか考え直してほしい」と訴えました。

そのうえで、条約に参加していない日本政府に対しては、「日本も心を改め、アメリカに気兼ねすることなく人間のために、世界のために、核兵器廃絶に向けて立ち上がり、50の国と地域の輪に入ってリードして欲しい」と話しました。

原水禁 日本国民会議 川野議長「世界に感謝」

原水爆禁止日本国民会議の議長の川野浩一さんはNHKの電話取材に対し、「核兵器禁止条約が発効されることは大変うれしい。被爆者だけでなく国際NGOや世界の国・地域が頑張ってくれたことに感謝したい」と述べました。

川野さんは、4年前から長崎県内で核兵器禁止条約に関する署名活動を行っている『ヒバクシャ国際署名をすすめる長崎県民の会』の立ち上げに関わりました。

川野さんは「署名活動の立ち上げで中心になった被爆者5人のうち私を除く4人がすでに亡くなってしまった。日本政府には世界の先頭に立って核兵器廃絶に向けて世界を引っ張ってほしい」と話しました。

長崎県民の会 田中共同代表「唯一の被爆国として道筋を示して」

被爆者で、世界各国に核兵器禁止条約への批准を求める署名活動を行ってきた『ヒバクシャ国際署名をすすめる長崎県民の会』の田中重光共同代表は「大変うれしく、本当に感激しています。署名活動を立ち上げた中心メンバーの5人のうち、4人はすでに亡くなって悲しいですが、先輩方が声を上げ続けてきた成果です。思いをこれからも引き継いでいきたい」と話していました。

そして、「引き続き日本政府には条約の批准・署名を求めていきたい。核兵器を禁止する新しいルールが作られる中でどうすれば核兵器をなくすことができるのか、唯一の被爆国としてしっかりと道筋を示してほしい」と話していました。

長崎県民の会 朝長共同代表「先輩方の長年の核廃絶運動の成果」

世界各国に核兵器禁止条約への批准を求める署名活動を行ってきた『ヒバクシャ国際署名をすすめる長崎県民の会』の朝長万左男共同代表はNHKの電話取材に対し、「条約が発効されることは、被爆者の先輩方の長年の核廃絶運動の成果だと思います」と述べました。

そのうえで、「日本は条約が発効されたあと、締約国会議に出席して、核兵器廃絶への明確な道筋を示してほしい」と話していました。

広島市長「核兵器廃絶への重要な一里塚」

広島市の松井市長は記者団に対し、「核兵器廃絶に向けてのとても重要な一里塚だ。核抑止力に頼ることそのものを根底から考え直させる条約が出来たと思う」と評価しました。

そのうえで松井市長は、「核兵器禁止条約の理念を実現するための議論がこれから始まるので、日本政府は締約国会議にオブザーバーとして出席し議論に参加するなど、これまで主張してきた『橋渡し』を本当に行い、条約を実効性あるものにするための役割を果たしてほしい」と述べ、10月にも、長崎市の田上市長とともに上京し政府に直接、こうした考えを伝える意向を示しました。

広島県知事「核兵器廃絶推進の責務がある」

広島県の湯崎知事は記者団に対し、「これを機に核兵器国や核の傘の下にある国を含めたより多くの国の署名・批准につながるよう、核兵器廃絶に向けた国際的な機運が改めて高まることを期待している。日本政府としても賛同し世界で唯一の戦争被爆国という立場で、核兵器廃絶を推進していく責務がある」と述べました。

そして、被爆地・広島が今後、担うべき役割については、「核兵器の非人道性、核兵器を使用された場合の現実はどうなるのかを広く伝えていくというのが非常に重要だ。最終的には核兵器に依存しない安全保障のアプローチを進めていかなければならない」と話しました。

長崎市長「日本 せめて締約国会議にはオブザーバーとして」

長崎市の田上富久市長は、「被爆者の方々の一人一人の地道な努力が実を結んだ結果で、条約が発効されることはとても感慨深い」と述べました。

そのうえで、「日本政府には引き続き、批准、署名を求め、難しいということであればせめて締約国会議にはオブザーバーとして参加してほしい。唯一の被爆国として核兵器がもたらす惨禍をいちばんよく知っている日本が中心の役割を果たすことが自然な流れだと思うので、核兵器廃絶に向けてリーダーシップを発揮してほしい」と話していました。

長崎県知事「唯一の戦争被爆国という立場から主導的な役割を」

長崎県の中村法道知事は、「被爆者をはじめとする皆様方が署名活動に取り組んできた、そのご尽力に心から敬意を表します。条約には核兵器保有国が署名、批准をしておらず、核兵器保有国と非保有国との間の溝が深まると懸念もされています。日本政府は、両者の溝を埋めるために、積極的にリーダーシップを発揮していくとの姿勢を示されているところであり、唯一の戦争被爆国としての立場から、主導的な役割を果たしあらゆる努力を尽くされることを改めてお願いします」とコメントを発表しました。