脱炭素社会へ政府が基本方針 原子力政策の方向性は大転換

政府は、2050年の脱炭素社会の実現とエネルギーの安定供給のため、原子力発電の最大限の活用と二酸化炭素の排出量に応じて企業などがコストを負担するカーボンプライシングの導入などを盛り込んだ今後の基本方針をまとめました。実質的に上限の60年を超える原発の長期運転を認めることや、これまで想定してこなかった次世代型の原子炉の開発・建設に取り組むといった内容が盛り込まれ、11年前の原発事故のあと政府が示してきた原子力政策の方向性は、大きく転換することになります。

政府は12月22日、脱炭素化に向けた戦略を決める「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」を総理大臣官邸で開き、岸田総理大臣や西村経済産業大臣、それに経団連の十倉会長などが出席しました。

会議では、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてエネルギーの安定供給への対応と脱炭素社会の実現を両立させるための政府の基本方針が了承されました。

新たな基本方針では、安全最優先で原発の再稼働を進めるとした上で、廃炉となる原発の建て替えを念頭に次世代型の原子炉の開発と建設を進めるほか、最長で60年と定められている原発の運転期間については審査などで停止した期間を除外し、実質的に上限を超えて運転できるようにするなど、最大限活用する方針を打ち出しています。

また、カーボンプライシングについては、企業などが排出量を削減した分を市場で売買できるようにする排出量取引を2026年度から本格稼働させるほか、2028年度から化石燃料を輸入する電力会社や石油元売り会社などに「賦課金」として一定の負担を求める制度を導入することにしています。

さらに、取引市場の運営や賦課金の徴収などを担う「GX経済移行推進機構」を新たに創設します。

政府は脱炭素社会の実現に向けた民間投資を後押しするため、新たな国債、「GX経済移行債」を今後10年間で20兆円程度発行することにしていて、機構が集めた資金は、その償還にあてられます。

政府はこの方針について今後、閣議決定し、来年の通常国会で関連する法案の提出を目指すことにしています。

原子力政策の方向性は大きく転換 ポイントは

政府が決定した基本方針には、実質的に上限の60年を超える原発の長期運転を認めることや、これまで想定してこなかった次世代型の原子炉の開発・建設に取り組むといった内容が盛り込まれ、11年前の原発事故のあと政府が示してきた原子力政策の方向性は、大きく転換することになります。

今回の基本方針では、現在ある原発について、安全最優先で再稼働を進めることに加えて、最長60年と法律で定められている運転期間から、原子力規制委員会の審査などで原発が停止した期間を除外し、その分の追加的な延長を認めて実質的に60年を超えた運転ができるようするとしています。

また、政府は原発事故のあとことしの夏まで、原発の新設や増設、建て替えを「想定していない」と繰り返し説明してきましたが、今回、新しい安全対策などの技術を反映した次世代型の原子炉の開発・建設について「まずは廃炉となった原発の建て替えを対象に具体化を進める」としました。

これは「将来にわたって持続的に原子力を活用するため」だとしています。

いっぽう、原発事故のあとに政府が閣議決定してきた「エネルギー基本計画」では、将来的に原発への依存度を可能な限り低減していく方向性が示されていました。

これについて経済産業省は、「2030年の電源構成に占める原子力の割合を20から22%程度にする目標に変わりはなく、原発事故の前の30%前後と比べれば、依存度を減らすことになる」などとして、エネルギー基本計画と今回の基本方針は矛盾しないと説明しています。