旧統一教会問題 被害者救済法が成立 実効性確保が課題

旧統一教会の問題を受けた被害者救済を図るための新たな法律は、国会会期末の12月10日、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。今後は実効性の確保が課題となります。

新たな法律では、法人などが霊感などの知見を使って不安をあおり、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止しています。

また、野党側がマインドコントロールによる寄付の禁止を求めたことを踏まえ、法人などに対し、個人の自由な意思を抑圧し適切な判断が困難な状況に陥らせないようにするなどの配慮義務を課しています。

さらに罰則も設けられ、禁止行為に違反し、行政の勧告や命令に従わなかった場合には、1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑事罰を科すとしています。

今回、事前の協議で野党側の主張も反映させる異例の形で政府の法案がまとめられ、衆議院では野党側に譲歩して修正が加えられました。

そして、国会会期末の土曜日の10日、参議院の特別委員会に続いて本会議で採決が行われ、自民・公明両党や立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

共産党やれいわ新選組などは反対しました。

法律は一部を除いて早ければ年明けにも施行される予定で、今後は相談体制の強化などの取り組みを進め、実効性を確保できるかが課題となります。

一方、本会議では、霊感商法などの悪質商法による契約を取り消せる「取消権」を行使できる期間を10年に延長することを盛り込んだ改正消費者契約法なども成立しました。

被害者救済法の概要

新たな法律では、これまで十分に対応できなかった悪質な寄付を規制しています。

具体的には、法人などが霊感などの知見を使って不安をあおり、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な寄付の勧誘行為を禁止しています。

また、個人に借金させたり、自宅などを売らせたりしてまで資金を調達するよう要求することも禁じています。

そのうえで罰則も設けられ、禁止行為に違反し、行政の勧告や命令に従わなかった場合には1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑事罰を科すとしています。

さらに、野党側が、マインドコントロールによる寄付の禁止を求めたことから、法人などに、個人の自由な意思を抑圧し適切な判断が困難な状況に陥らせることや、個人や家族の生活の維持を困難にすることがないようにするなど、配慮義務の規定が設けられました。

配慮義務規定では、自民党と立憲民主党などの協議を経て「配慮」という文言が「十分に配慮」と修正されたほか、義務を怠った場合は法人名を公表することなどが加えられました。与野党は配慮義務規定の実効性が高まったとしています。

このほか、被害者救済に向けて、不当な勧誘行為に基づく寄付に「取消権」を認めるほか、寄付した本人が取り消しを求めない場合でも扶養されている子どもなどに一定の範囲内で「取消権」を認め、本来受け取れるはずだった養育費などを取り戻せるとしています。

また、施行から2年をめどに、見直しを行う規定も設けられています。当初は3年でしたが、修正の結果、短縮されました。

一方、政府は、法案の規制対象について、法人格のない団体も含めると説明しているほか、集められた寄付金の帰属先を組織の幹部などの個人に変えて規制対象から逃れる行為が起きないよう対応を検討していくと説明しています。

旧統一教会「いったん回答控える」

旧統一教会の被害者救済に向けて、悪質な寄付を規制する新たな法律が成立したことについて、旧統一教会、「世界平和統一家庭連合」の担当者は「他の宗教法人も声明を出されている中であり、いったんは回答は控えさせていただきます。法人としては襟を正して、今後とも変わらず、よりよい教会を目指して改革を進めてまいります」と話しています。

岸田首相「圧倒的多数の合意のもとで成立」

岸田総理大臣は、国会の閉会を受けて記者会見しました。

まず、旧統一教会の被害者と面会したことについて、「胸が苦しくなる、まさに『凄惨(せいさん)』のひと言に尽きるものだった」と振り返りました。

そして、問題の深刻さを心に刻みながら国会に臨んだとした上で、旧統一教会の問題を受けた被害者救済を図るための法律が成立したことについて「被害に苦しむ元信者や家族が直面する困難を前に与党も野党もなく、野党の意見も可能な限り取り入れつつ、圧倒的多数の合意のもとで成立させることができた」と成果を強調しました。

その上で「われわれは新たなスタート地点に立ったばかりだ。被害者がこの制度を利用しやすい環境を早急に整備することに全力を傾ける。関係機関とも密接に連携しながら必要な政府としての支援を迅速に行い、新たな制度をしっかり運用していく」と述べました。

自民 茂木幹事長「実効性のある法律にできた」

自民党の茂木幹事長は、記者団に対し「野党に協力を呼びかけ、ぎりぎりの調整で最終日に成立となった。幹事長レベルでの協議も重ね、できるかぎり野党の意見も反映したものになったと考えており、現行の法体系上、最大限の措置を盛り込んだ実効性のある法律にできた。被害の救済に向け、これからも全力で取り組みを進めていきたい」と述べました。

立民 泉代表「国民のために仕事できた」

立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「法案の影も形もないところからのスタートだったが、国会に被害者や弁護士を招いて問題点を明らかにすることで大きな力をつけ、国民のために仕事をすることができた。被害者の声が実際に伝わって法律の成立に至り、国民が『困っていれば国会で課題を解決してくれる』と実感できたのではないか」と述べました。

維新 馬場代表「被害が繰り返されないための抑止力に」

日本維新の会の馬場代表は、記者会見で「われわれがアクションを起こさなければ、来年の通常国会で議論することになっていたのではないか。理想に少しでも近い法案を練り上げたので、今、この瞬間も犠牲になっている可能性がある国民の役に立てればと思うし、今後、被害が繰り返されないための抑止力になると確信している」と述べました。

公明 山口代表「立法府ならではの合意形成」

公明党の山口代表は、記者団に対し「与野党の知恵や議論の成果を生かし、幅広い合意を作って成立させた努力は、立法府ならではの合意形成のあり方だった。今後、法律の運用で実効性を確保していき、必要であれば、次の見直しの機会も生かすことが大切だ」と述べました。

そのうえで、「NPO法人や宗教法人など、幅広い寄付をもとに活動している健全な団体が萎縮することがない配慮し、健全な寄付文化を育てていくことも重要だ」と指摘しました。

共産 小池書記局長「被害者救済にはあまりに不十分」

共産党の小池書記局長は、記者団に対し「被害者救済にはあまりに不十分で、これでは高額な寄付は規制できない。法律の成立で終わりにはできず見直して、実効性のある被害救済制度をつくるべきだ。旧統一教会への解散命令を直ちに裁判所に請求することを政府に求めたいし、自民党と教会の深刻な癒着のうみを出し切らないといけない」と述べました。

国民 玉木代表「『対決より解決』という姿勢そのもの」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し「与野党が胸襟を開いて法案をつくっていくことは、まさにわれわれの『対決より解決』という姿勢そのものだ。今回の旧統一教会の問題に限らず、与野党がよく議論し合って議会の場で結論を出し、一致点や合意点を見いだしていけるよう国民民主党が先導していきたい」と述べました。

「宗教2世」ら被害訴える人たちは

旧統一教会の問題を受けた被害者救済を図るための新たな法律は、国会会期末の10日、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。「宗教2世」など被害を訴える人たちは、新たな法律の成立を前進だと受け止める一方で、法律の実効性を検証することや残された問題について議論を続けることを求めました。

宗教2世の女性「あくまでこれがスタート 問題は残っている」

旧統一教会の被害者救済に向けた新たな法律が成立したことについて、「小川さゆり」の名前で被害を訴えている2世の元信者の女性は「長い間、見過ごされてきた問題について、私たちはこれまで、未来に被害を残したくない、自分と同じ気持ちをする人をこの先生みたくないという思いで訴えてきました。先送りにされることを危惧していたので、この臨時国会で成立したことは大きな一歩だと思います。被害者の声を聞いていただき、心から感謝したいです」と話しました。

一方、「あくまでこれがスタートです。今回の法律に実効性があるのかしっかり検証してほしいし、早い時期に見直しも行ってほしい。宗教2世の信教の自由や人権が侵害されている問題は残っているので、そうした課題についての議論も続けてほしいです」と訴えました。

旧統一教会に対しては「被害者の訴えを認めないと思うが、国が被害者を救済するための法律をつくったことをしっかりと受けとめてほしい」と話しました。

さらに、小川さんは「今後も多くの方にこの問題に関心をもってもらい、政府には被害者の声に耳を傾けて頂きたいです」と話しました。

元妻が信者の男性「宗教は人を救うべきもの 引き続き議論を」

元妻が旧統一教会の信者で、多額の献金で家庭が崩壊したと訴えている橋田達夫さんは、参議院本会議を傍聴しました。

このあと記者会見し「宗教は人を救うべきもので、家庭を崩壊させ、苦しめるものであってはならない。全国にたくさん苦しんでいる人がいるのを見ると胸が張り裂けそうになる。旧統一教会の信者や家族を救える法律になるよう、国民の皆さんにもっと力を貸してもらいたい。法律の成立に関わった官僚や議員に感謝しているが、国会で引き続き議論してもらいたい」と述べました。

元信者らを支援の弁護士「取り残された問題多い 今後も検討を」

旧統一教会の被害者救済に向けた新たな法律が成立したことについて、元信者らを支援している「全国霊感商法対策弁護士連絡会」事務局長の川井康雄 弁護士は、「かなりの短期間で法案をまとめ、『配慮義務』とはいえ、寄付の勧誘について、自由な意思を抑圧して適切な判断が困難な状態に陥ることがないようにするなどと法律に盛り込まれたことは前進で、抑止力になる点もあるかもしれない」と話しました。

一方、「配慮義務か禁止行為かの差は大きく、禁止行為とならなかったことは、非常に不十分で残念に思う。マインドコントロールと言われている寄付についてどこまで規制するか、今後も検討を続け、具体的な方策をとってほしい」と述べました。

また、「信者の家族や2世の被害救済という点では、取り残された問題が多い。今後も被害者の声を丁寧に聞き、子どもが親の寄付を取り戻す仕組みなど、さらに必要な支援についても少しでも早く検討してほしい」と話しています。

有識者検討会 座長「不断の見直しを」

旧統一教会の問題を受けた悪質な寄付を規制する新たな法案などが成立したことについて、法制化などを提言した消費者庁の有識者検討会で座長を務めた東京大学の河上正二名誉教授は「検討会でとりまとめた意見をくみ取って、法律に反映させようと努力してくれたが、ギリギリ60点くらいだ。新たなルールがうまく機能して被害者救済につながるか検証する必要がある。見直しを検討するとした2年を待たずに不断の見直しを進めてもらいたい」と話していました。

また、「被害者が新しい法律を理解できないと被害の訴えが出てくることが期待できない。法律で定めた要件の意味を国民に分かりやすく伝えることが必要で、基準が分かりにくい部分は明らかにして、実効性のあるものにしてもらいたい」と指摘しました。

さらに、文部科学省が宗教法人法に基づく「質問権」を行使したことなども踏まえて、「問題となった法人に対して、宗教法人法を使って業務の改善命令や停止命令を行っていくことなどの検討も必要だ。今後は、宗教法人法の見直しも含めて議論していかないといけない」などと話し、被害者の救済のために、より広い法整備の議論を進めていく必要性を指摘していました。

専門家「救済の場面に生かされること期待」

旧統一教会の問題を受けた悪質な寄付を規制する新たな法案などが成立したことについて、国民生活センター理事長などを歴任した一橋大学の松本恒雄名誉教授は、「満足できない点もあるが、寄付や献金に関する行政の規制ができたことは意義がある。配慮義務もあいまいな規定ではあるが、配慮義務違反の情報が集まれば行政側も動かざる得なくなり、勧告などが出ることで裁判や紛争解決などの救済の場面に生かされることも期待される」と述べました。

そのうえで、「救済にもつながる好循環を生み出すには、要となる消費者庁が新しい仕組みを使いこなせるかどうかにかかっている。相談を受け付ける全国の消費生活センターなど地方への財政支援をはじめ、消費者庁が情報を分析して対応できるしっかりとした態勢を整えることが重要だ」と指摘しました。

また、新しい法律によって、従来の寄付文化が抑制されるのではないかと懸念の声が上がっていることから、「一般企業が行っているような資金の透明性確保の観点から宗教法人が寄付金の使いみちを明らかにするなど情報を積極的に開示することで信頼される団体にこそ寄付が集まっていくことが望ましい」などと話し、問題となる法人については、税制優遇措置を停止することなども議論していく必要があると指摘しました。