1人1000円取られる税金
なのに活用されない!?

再来年・2024年度から1人1000円が徴収されることになる新しい税を知っていますか?
その名は「森林環境税」。国内の森林整備などを目的に、住民税に上乗せされる形で納税者から直接徴収されます。先行して別の財源から自治体に交付金が配分される制度が始まっていますが、その使いみちを取材すると、およそ半分が眠ったまま有効に使われていない実態がわかってきました。森林大国・日本で何が起きているのでしょうか。
(伊藤憲哉)

森林だらけなのに使われていない?

三重県南部に位置する度会町。
町の面積のおよそ85%、1万1400ヘクタールを森林が占めます。

高齢化の進行で林業に従事する人が減少し、手つかずのままの森林も少なくありません。

国民からの「森林環境税」の納税が始まるまでは、先行する形で国庫から交付金が配分されていて、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進などの費用に充てるのが目的です。

この町に2021年度までの3年間で配分された交付金は6300万円あまり。しかし、その9割近くの5500万円あまりが活用されないまま「基金」として積み立てられているのです。

なぜ配分された金が有効に活用されていないのか。

担当課の「産業振興課農林係」を訪ねてみると…。


対応してくれた弓場翔太さんはこの部署に来て1年目。
20代の弓場さんと40代の職員の2人だけで町内の農業と林業、両方の振興に関わる仕事を兼務しています。

マンパワーが足らず、具体的な使いみちを決められないままになっているのが活用できていない理由の1つだといいます。
町内の手つかずの森林を整備するために、新しい税金は必要だと思います。しかし、専門の担当職員がおらず国などから具体的な活用方法が示されてこなかったのでどのように使えばいいのかわからなかった

森林環境税とは

「森林環境税」は2015年にフランスで開かれたCOP21で採択された「パリ協定」の枠組みのもと、温室効果ガスの排出削減目標の達成や災害の防止などを達成するため、2019年に法律が成立しました。

2024年度からは国税として、国内に住所がある人から1人1000円、住民税に上乗せする形で「森林環境税」が徴収されます。納税者を約6200万人とすると、税収は1年で620億円に上るといわれています。その税収は全額が「森林環境譲与税」として全国すべての都道府県や市町村に配分されます。納税開始までは2019年度から、先行する形で国庫から交付金として配分が始まっています。

日本は、国土面積の約7割を森林が占め、世界の先進国の中でも有数の森林大国。木材価格の低迷や、所有者や境界がわからない森林の増加、林業就業者の不足などが深刻な課題となっています。こうした中での新しい税の導入について国は「森林を守ることは、国土の保全や水源の保護など国民に広く恩恵を与えるものだ」と説明しています。

しかし、国のまとめによると、制度が始まった2019年度からの3年間で、全国の市町村に配分されたのは約840億円。その47%にあたる395億円が活用されていませんでした。多くは、先に紹介した三重県度会町と同様に基金に積み立てられたということです。

森林整備の政策に詳しい東京経済大学の佐藤一光准教授は、配分された譲与税が、国が想定する用途に十分活用されてないケースが多いと指摘します。

使いみちがないのに税金を取っているとも考えられ問題だ。譲与税によって、国内産の木材の需要が高まる効果が出ているかというと、今のところうまく使えてない事例が多い。『植林』や、人工林を伐採した跡地に再び苗木を植える『再造林』にあまり使われていない。使い方を見直していかないといけない

有効に活用されている市町村も

一方、取材を進めると、森林の面積が大きい市町村の中には工夫して活用を行っている自治体も確かにありました。

まず、全国トップの静岡県浜松市
昨年度までの3年間に6億6000万円あまりが交付され、その9割にあたる5億9700万円あまりを活用しました。

最大の使用目的は、林道の整備。また、高齢化で減少する林業の担い手確保のため、防護ズボンや安全靴、ヘルメットなど、作業で必要な物品の購入を市が支援するために活用しています。

2位の和歌山県田辺市
1億500万円あまりが初めて交付された2019年度は、9割近くを積み立てていましたが、市は事業を進めるために臨時の職員を雇用。今年度は、小学校の建設で市内の木材をふんだんに使用し、これまで積み立てていた7400万円を使用したということです。

3位の静岡市
これまで3年間に交付された5億3100万円あまりの全額を使用。林道の整備などに加え、ビデオ通話を使って市内の小学生にチェーンソーの使い方を実演するなど教育目的の事業にも活用しています。

3つの市いずれも林業専門の部署があり、それぞれの担当者は「森林環境譲与税は必要だ」という認識を示していました。田辺市のように、当初は積み立てていたものの、対策をとって現在は事業に活用している自治体も全国的に見られます。

税金の配分基準は

こうした先進事例にならえば、ほかの自治体でも有効な使いかたができそうですが、なぜ全国的に見ると、半分しか使われていないのか。

その一因として指摘されているのがこの税金の配分方法です。

森林環境譲与税の各自治体への配分は、「私有林や人工林の面積」に応じた配分が50%、人口に応じた配分が30%、林業従事者数に応じた配分が20%となっています。森林がなくても、人口が多い自治体には多額の譲与税が配分されます。そうすると例えば、一見森林とは縁遠そうな都市部の自治体にも多額の税金が配られることになります。

“森ゼロ”の渋谷区にも?

私有林や人工林の面積がゼロ東京・渋谷区では、昨年度までの3年間で4600万円あまりが交付されていますが、全額を基金として積み立てています。


担当するのは区役所の「財政課」。
そもそも渋谷区には、林業や農業の担当係はありません。今後の使いみちを尋ねて返ってきたのは…。
(担当者)
都市部なので、林業に対する考えが及んでないというか、よくわかりません。特定の事業に使う想定はありません

今後、公共施設の新築やリニューアルの際に、木材を利用していきたいと思っているものの、具体的な予定はなく、今年度も全額積み立てる予定だということです。

今後の税のあり方は

東京23区でも、世田谷区では「里山自然学校」などの事業に活用しているほか、配分額が全国で最も多い横浜市では、小中学校の教室などの内装に国産木材を活用する費用として使う動きもありますが、都市部を中心に、有効に活用できていない自治体はほかにも多くあります。

取材の中で、三重県内のとある市の幹部は「森林がないところにも配分するのは、どうなんでしょうね、疑問ですよね」と記者に不満を漏らしました。

東京経済大学の佐藤准教授は、「人口基準があるため都市部に多く配分されていて、それが使われていないことが批判されているわけです。今後、森林環境譲与税の配分基準については見直しの議論は出てくると思う」と話していました。

林野庁は、この現状について「徐々に使用金額が伸びてきていて、森林整備などで税が本格的に有効活用されてきている」と説明しています。さらに配分基準の見直しについては、「法律では、各自治体の取り組みや施策の効果を検証し、必要な場合は見直しを検討するとされている。都市部であまり活用されていないという議論があり、来年度の税制改正要望を提出しており、林野庁としては今後の議論を見守りたい」としています。

私たちの1000円、眠らせないために…

三重県では各市町村に、小中学校などの公共施設の木造化、林業担当の職員の雇用など幅広い使いみちを紹介するなど、税の有効活用に向けて、都道府県単位で地域を支援する動きも出てきています。

国は、各自治体に対して、インターネットなどを使って使いみちを公表するよう求めていて、自分が住む自治体の使用状況はホームページで確認することができます。

森林整備の目的を定めて一人一人から1000円が直接徴収されるまであと少し。
私たちの1000円を眠らせたままにしないよう、納税する私たちが制度のあり方を検証し、適切に使用されているかチェックしていく必要があると感じました。

津局 記者
伊藤 憲哉
2019年入局。得意の英語・中国語を駆使し、サッカージュニアユース全国大会出場の健脚で、地方行政から国際ニュースまで幅広く取材。